ワールドカップは海の向こうの中国でも大人気。今回中国はグループリーグへの参加ができなかったが、それでも街の各所で巨大スクリーンが設置されたり、レストランやカフェで大型テレビで映像を流したりしていて、多くの人々がワールドカップに釘付けとなっていた。
中国のインターネットにおいても、ワールドカップ人気に便乗したサイトや広告やブログなどが数多く現われた。その中には記録的なものや、事件でニュースになったものもあり、振り返ってみれば中国のインターネットの縮図を垣間見た気がした。今回は、そんなワールドカップにまつわる中国のインターネット関連ニュースをご紹介しよう。
● ポータルサイトの広告収益は大幅増
ワールドカップにより中国の商用サイト、特に著名な新浪網、捜狐、TOM在線、QQは巨大な広告利益を得たようだ。中国3大ポータルサイトのひとつである新浪網によると、新浪網のワールドカップ特設サイトの広告収入は7,000万元(10億5,000万円弱)で、このサイトへのアクセスは、中国のブロガーのブログ記事が大きく貢献したという。新浪網の運営するブログサービスにおいて25万のブロガーによる110万の記事と、新浪網以外が運営するブログサービスで投稿された230万のブログ記事からの誘導によって、4,000万ページビューを記録した。
ただし、これらのページビューが読者の意思でアクセスされた結果かと言うと、中国でワールドカップ開催期間インターネットを利用していた筆者としては、疑問を感じざるをえない。
というのも、中国の各ポータルサイトを訪れたときに、特設サイトがポップアップ広告として開くばかりか、ISPと広告企業が手を組んでいるからか、どのサイトにアクセスしても、同時に(新浪網に限らず)ワールドカップ関連のサイトが開いてしまうこともよくあったのだ。
日本のWebデザインに慣れている筆者としては、中国のポータルサイトはただでさえ広告が多くうっとうしいと感じるのに、さらにワールドカップの広告攻勢がかかって、かなりゲンナリした。
ともあれ、結果としては中国風の広告掲載手法によって、ワールドカップは中国の商用サイトにとって一大ビジネスに変わったのは間違いない。
● ワールドカップネタで有名となったブロガー
日本には「ブログの女王」として有名になった真鍋かをりがいるが、中国にもブロガーとして知られた有名人がいる。女優の徐静蕾だ。彼女のブログ「老徐」(←リンク先は中国語サイトなので注意)は1,000万ヒットを越え、最もヒット数の多いブログとなっている。
ワールドカップを機に、徐静蕾とともに中国トップブロガーになった一般人が現われた。董路というスポーツ記者と、彼の3人の友人が始めたワールドカップを主な題材にしたブログ「董路的BLOG」(←中国語サイト)が徐静蕾のブログと同様、ヒット数が1,000万を越えたのだ。
スポーツ記者というプロフェッショナルによる分析、皮肉を交えた中国人読者にウケのいい文章と画像、文章はもちろん映像をも交えた解説、ときどき行なわれる読者プレゼントや、髪型変更などプロフィール写真の変更が中国人読者を引き寄せている。中国人に人気のブログって何? 中国人にウケるセンスとは? そういったことに興味が湧いたら、彼のブログを参考にするといいだろう。
以上、ワールドカップ人気に便乗した中国のインターネット業界のいいニュースを紹介したが、一方で悪いニュースもある。
● 海賊版のワールドカップ映像が横行
中国唯一のワールドカップのネット上と携帯コンテンツ上での放送権を持つ「上海東方寛頻伝播公司」が、中国国内の40以上のサイトに対し、同社のワールドカップの映像コンテンツを無断で再利用したとして、近く提訴するという。
40以上の商用サイトが海賊版を流したことについて、ワールドカップは中国人には非常に魅力的なコンテンツで、各商用サイトにとっては大きな収入源となるため、モラルを反してまで利益のために海賊版を配布したという見方が強い。
実際ワールドカップグループリーグ開始2日目の6月10日には、上海東方寛頻伝播公司のワールドカップ動画コンテンツに僅か数時間で数億クリックを達成し、トラフィック量が倍増した。
商用サイトが提訴されるであろうその一方で、中国のP2Pを利用したコンテンツベンダー数社も同社の動画コンテンツを無断で利用し配信しているとして、上海東方寛頻伝播公司はこれら数社に警告したという。
● 地下インターネット賭博サイトが次々に登場
ワールドカップ開催時に、ワールドカップの各試合結果について予想しお金を賭ける非合法な地下サイトが多く登場した。2年後の北京オリンピック時にも同様にギャンブル目的のサイト急増が予想されるが、これを現状全てを取り締まることはできていないようだ。
広東省の香港と隣り合う深セン市だけを見ても、ワールドカップ開催時に15件の非合法サイトが取り締まられた。このとき押収された金額は26万元(390万円弱)にも及んだ。四川省の成都市で摘発された地下サイト運営企業は、ワールドカップ期間に10億元(150億円弱)稼いだという。
農村から出てきた大学生が多く被害にあったそうだ。口コミで地下サイトの存在を知り、試しに何度かやってみたところ数万元という、農村感覚では天文学的数字のお金を手にし、それを機に寮にPCを導入し引きこもり、結果お金をすっからかんにした挙句、大学にも通っていなかったので退学処分を受け、郷里の親元に戻る人が結構いたとか。
2年後のオリンピックに北京市内の環境向上や人々のモラル向上とは異なり、直接日本人など外国人が現地で触れるわけではない中国国内の問題ではあるが、大きなスポーツイベント開催時の地下サイトの爆発的な増加に、増加に対して全てを摘発できず当局は頭を抱えているようだ。
賭博サイトのサーバーの一部は海外に置かれているため、中国の法律で海外のサーバーを止めることができないのが、全てを取り締まれない一因なのだそうだ。ならば中国当局が海外のサイトを遮断するように、それら非合法サイトを遮断して中国から見れないような仕組みにすればいいとは思うのだが、はてさて。
● 調査データで見る北京市のサッカーファンとインターネット
さて、最後にCNNIC(中国ネットワークインフォメーションセンター)が7月13日に発表した「ワールドカップにおけるサッカーファンのインターネット仕様行為研究報告」(←中国語)を紹介しよう。北京市に在住する1,000人強をサンプルとしており、北京市のサッカーファンのワールドカップとインターネットの関係を紹介している。
なお、調査結果を見るにあたって、北京市は中国で最も所得が高い地域のひとつでありインターネット普及が進んでいる(全人口の4人に1人の428万人)地域であること、中国全体ではネットユーザーはほとんど若者で中年層以上は非ネットユーザーが多いこと、の2つを念頭に置いたほうがいいだろう。
調査によれば、サッカーファン全体では、ワールドカップの情報源はテレビが最も多く100%に近い人々が利用しており、テレビの後に新聞、インターネットが続く。インターネット利用者に限定すれば、4人に3人以上がインターネットをワールドカップの情報源としている。
ワールドカップ情報を知るためにどのようにインターネットを利用しているかについては、ニュースサイトの閲覧(93.1%)が最も多く、以下ニュースサイトへの感想などの投稿(48.4%)、BBS(41.5%)、テキストベースのライブサイトの閲覧(40.2%)、ライブ映像の視聴(34.9%)、ブログ(27.1%)となった。
ワールドカップの情報源としてよく訪れたサイトは新浪(73.8%)、捜狐(54.8%)に回答が集中した。FIFAワールドカップの公式サイトを回答した人は全体の1.0%であった。
● 2年後の北京が本番
以上、ワールドカップとインターネットにまつわる5つのニュースをご紹介してきた。
ブロードバンドがごく最近、数年間で花開いた中国では、大きなスポーツイベントに便乗するサービスは初めてのものが多かったかと思う。今回のワールドカップの経験を踏まえた上で、2年後の北京オリンピックでは、それに便乗するインターネットサービスはどう改善する(もしくは改悪してしまう)のだろうか、楽しみに待ちたいと思う。
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関連記事:中国検索サイトの雄「百度」と、百度で知る中国の人気検索キーワード
http://internet.watch.impress.co.jp/static/others/travel/050929/index.htm
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( 山谷剛史 )
2006/07/19 11:12
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