アダルトサイトや出会い系サイト、有害コンテンツから「子供を守る」という側面で必要性が訴えられているWebフィルタリングソフト/サービスだが、インターネット上には大人にとっても望ましくないコンテンツもある。また、ワンクリック詐欺やウイルス配布サイトなどの被害は子供に限ったことではない。そんな中、今後、シニア層がインターネットを活用する機会が増えてくれば、これらの被害が増加することも懸念される。
敬老の日を控え、両親あるいは祖父母へのプレゼントを考えている読者の方もいることと思うが、より安心してインターネットを使える環境を用意してあげるのも手だろう。今回は、その1つの方法としてフィルタリングを取り上げる。大人、とりわけシニアにおけるフィルタリングの有用性について、ネットスターの高橋大洋氏に話を伺った。
● フィルタリングの対象は、アダルトや出会い系だけではない
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ネットスター営業マーケティング本部マーケティング部長の高橋大洋氏。「ぜひ大人の方もフィルタリングを活用して欲しい」という
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ネットスターは、フィルタリング技術の開発や、フィルタリング用URLデータベースの構築を手がけている会社だ。同社の技術やデータベースは、市販のフィルタリングソフトや、ISPあるいは携帯電話キャリアが提供しているフィルタリングサービスなどにOEM提供されている。
同社が構築しているフィルタリング用URLデータベースの登録件数は、現在6,000万件を超えており、毎月100万件以上が追加されているという。特に日本向けのサービスに重点を置いているため、その7割程度が日本語および日本人向けのサイトだ。これにより、9割以上の精度で望ましくないサイトをブロックできるとしている。
フィルタリングの守備範囲としては、アダルトサイトや出会い系サイトなどが思い浮かぶが、ネットスターのデータベースにおける分類は、70種類以上のカテゴリーに及ぶ。例えば、詐欺や殺人などの違法行為に関する情報を提供しているサイトは「違法と思われる行為」、麻薬などの情報は「違法と思われる薬物」といった具合だ。このほか、「自殺・家出」「性行為」「ヌード画像」「出会い・異性紹介」「ギャンブル」といったカテゴリーが並ぶ。これらを、必要に応じてブロックするかどうか、フィルタリングポリシーを設定できるようになっている。
ただし、この70以上のカテゴリーの中には「転職・就職」「観光情報・旅行商品」「通信販売一般」など、一般的には害がなさそうなカテゴリーも含まれている。これは、企業において就業中の利用が望ましくないサイトとしてブロックする必要であるためだ。このほかにも学校での利用もふまえながら、「最大公約数」となるカテゴリーを準備しているという。
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ネットスターでは、ブロードバンドルータでフィルタリングできるサービス「インターネット悪質サイトブロックサービス for BBルータ」も展開している。ルータの管理画面からサービスの申し込みと設定が可能
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「インターネット悪質サイトブロックサービス for BBルータ」に対応したコレガ製無線LANルータ「CG-WLBARGNL」。このほかNECアクセステクニカでも対応製品を発売しており、8月現在、2社合わせて9機種/17モデルで対応。今後の発売機種でもすべて対応予定だという
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● 大人のネット利用でブロックすべきサイトとは
それでは、子供と違って、それなりに判断能力があるであろう大人が家庭でフィルタリングを使う場合、どういったサイトをブロックする必要があるのだろうか。高橋氏によれば、70以上のカテゴリーのうち、じつはそれほと多くはないという。
具体的には、同社の供給する一部製品において用意している“大人向け”のフィルタリングポリシーで、推奨セットとして含まれるカテゴリーは、まず「グロテスク」と「不正コード配布」が挙げられる。
「グロテスク」とは、死体や排便、気持ちの悪いものに関する画像や文章を扱ったサイトだ。こういったコンテンツを好む人がいる一方で、もちろん苦手な人もいる。高橋氏によれば、人を驚かすことが目的で、海外のニュースサイトなどから事故の写真だけを選んで転載しているようなサイトもかなりあるのだという。「元のニュース記事で文脈に沿って読んでいけば驚くような写真ではないが、そこだけ切り取って貼ってあると、見る側は心の準備ができていない。見てしまうと心に傷が残ってしまうようなサイトもかなりある」。
「不正コード配布」は、ウイルスやスパイウェア、一部ワンクリックウェアなどをダウンロードさせるサイトだ。クリックするとダウンロードされる場合もあれば、セキュリティパッチを当てていないと、ページを閲覧しただけでダウンロードされる場合もある。
このカテゴリーについては、ウイルス対策ソフトの範疇だと思われるかもしれない。また、ネットスターでも「フィルタリングでウイルスを防げると言うつもりはない」という。しかし、高橋氏は「いつもウイルスをばらまいているサイトは確かに存在しており、そのサイトでは手を変え品を変え新しいウイルスを配布している。フィルタリングでそのサイトへのアクセスをブロックしてしまうことが有効なこともある」と説明する。
● アダルトや出会い系、大人にとっては問題なさそうだが……
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ワンクリック詐欺サイトの例。会員登録したとして料金の支払いを促す、おなじみのパターン
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登録完了画面には、問い合わせ窓口の連絡先も提示するのが常套手段。不思議に思ったユーザーが問い合わせてくる心理を逆手にとり、さらに個人情報を聞き出すのが狙いだ
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このほか、大人向けのフィルタリングポリシーの推奨セットには、アダルトや出会い系、「違法と思われる行為」なども含まれている。大人だったらブロックする必要がないようにも思えるが、ウイルスをばらまいているサイトでなくとも、何かしら悪さをするサイトというのは、アダルトや出会い系、あるいは違法なアングラ系サイトに多いという事実があるためだ。「人より儲けてやろうとか、ちょっとエッチなページを見に行った時など、心が弱ったところに付け込まれるということ」。
一方、「違法と思われる行為」は、殺人や強姦などの違法行為に関する情報が含まれるが、そのようなコンテンツを見に行こうとは思わないというかもしれない。しかし、このカテゴリーに最近多く登録されているのが、詐欺サイトとフィッシングサイトだ。
詐欺サイトにもさまざまな種類があるが、高橋氏によれば、インターネット上で詐欺を働くといっても、最後までインターネット上で成立することはほとんどないという。例えば「ワンクリック詐欺」と言われる詐欺は、警察では「架空請求」として分類される。要は「会員登録したのだから、料金を払え」と請求するもので、そのための“お膳立て”をインターネットで行なっているだけだ。
では、どういうお膳立てで騙そうとするのかを知ることが重要だが、ワンクリック詐欺のネタとしては、相変わらずアダルト関連に終始しているという。2年ほど前に「株式投資のお得な秘密情報をお知らせします」というものがあったらしいが、それも架空請求というよりは、ワンクリックウェアをインストールして、「アンインストールしたければ、お金を払え」というものだった。それ以来、アダルト以外にもワンクリック詐欺が広がっていく可能性があるとしてネットスターでも注視していたが、ほとんど現われてないという。
芸能人のスキャンダルやゴシップにからめたようなワンクリック詐欺の入口も登場したが、女性タレントや女優が脱いだといったものや、昔のお宝画像や盗撮など、結局はアダルト関連。「アダルトに関心のあるシニアの方は要注意」だというが、いずれにせよ、大人にとってアダルトサイトなどのフィルタリングは、コンテンツ自体というよりも、詐欺の被害を防ぐという意味で重要というわけだ。
これに対して、いちばん怖いと思われるのが、ユーザーのID情報を盗むフィッシングだ。「子供と違って、シニアの方はお金を持っている方が多いと思われる。フィッシングにひっかかってしまうと、架空請求どころではなく、口座を操作されてしまう」。
なお、フィッシングサイトについては、アダルトサイトなどとは異なり、ユーザーが自発的にサイトを探していて辿り着くということは少ない。迷惑メール経由で誘導されることがほとんどだとしており、高橋氏は、フィルタリングと並んで迷惑メール対策の必要性も訴えた。
● 大人が使うフィルタリングソフト、選択のポイントは?
さて、フィルタリングと一概にいっても、実際に導入するにあたっては、いくつか注意すべき点がある。
まず、インターネットに接続している経路のどの段階でフィルタリングを行なうかという点だ。例えば、ネットスターが供給しているフィルタリングソフト/サービスの場合、大きく分けて、1)ISPのネットワーク側でフィルタリングするもの、2)ユーザー宅のブロードバンドルータでフィルタリングするもの、2)クライアントPCにインストールしたソフトでフィルタリングするもの──という3つのタイプがある。
このうちクライアントPCタイプでは、フィルタリングソフトとして広く販売されている製品のほか、ISPが会員向けに月額料金制などでダウンロード提供しているようなソフトもある。さらには、フィルタリング専用ではないが、セキュリティ統合ソフトやOSの付属機能として搭載しているものなど、無償・有償含めて種類が多い。
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フィルタリングソフト/サービスの種類(ネットスターの説明資料より)
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どのタイプを導入するか検討する際に気になるのは、やはりフィルタリングの性能だが、高橋氏によれば、「同じフィルタリングデータベースを使っているソフト/サービスであれば、クライアントPCタイプの有償ソフトであっても、ISPが無償提供するサービスも、ブロックできるサイトは基本的に変わらない」。
むしろ、大人にとって有用性に影響するのは、設定の自由度だという。例えば、ISPのネットワーク側でフィルタリングするサービスでは、1つのフィルタリングポリシーを全ユーザー共通で設定されている場合が多いようだという。また、ユーザーが個々にポリシーを設定できるクライアントPC型であっても、その製品が想定してるユーザー層に基づいて、ブロックするカテゴリーが限定されていたり、あるいはカテゴリーごとの設定が細かく行なえない製品もある。
例えば、詐欺サイトとアダルトサイトが同一のカテゴリーとして分類されているような場合、「詐欺はブロックしたいけど、アダルトは見たい」というような設定ができない。導入を検討しているフィルタリングソフト/サービスが、どういうカテゴリー分けになっているかは確認の必要があるとしている。
なお、セキュリティ統合ソフトやOSに付属のフィルタリング機能では、ワールドワイドで提供されているフィルタリングデータベースを使用しているものが多いという。また、特にワンクリック詐欺サイトなどは日本特有であるため、高橋氏は「不正コード配布などのウイルス系サイトには有効だが、コンテンツ系サイトへの対応は難しいのではないか」と指摘している。
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コレガ製ブロードバンドルータに提供している「インターネット悪質サイトブロックサービス for BBルータ」では、カテゴリーごとのフィルタリングを設定可能だ
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ブロードバンドルータに接続する端末ごとにフィルタリングのレベル設定も行なえる
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● フィルタリングは、ウイルス対策の次に必要
不正コードの被害やワンクリック詐欺、フィッシング詐欺の被害を防ぐという観点で、大人にとっても有用なフィルタリングだが、最後に、シニアが導入する意義について考えてみよう。
まず、ワンクリック詐欺だが、これは「ソーシャルエンジニアリング的な手法で騙そうとする手口。いわば、人間対人間の対決」。そういう観点からすれば、シニアの方は社会的経験が豊富だ。「危険なサイトを知らずにクリックしてしまうことについては、子供に比べてあまり心配しなくていい。不審に思った時点で踏みとどまれるし、周りの人にも相談できる」。この点に関連して高橋氏は、多大な被害をもたらしている「振り込め詐欺」とは“スピード感”が違うとも表現する。また、不正コードの配布サイトについても、脆弱性を突いて自動的にダウンロードするタイプでなければ「子供ではないので、怪しいかどうか判断できるのではないか」という。
一方で、フィッシング詐欺については、アクセスした銀行のサイトのURLが正規のものかどうか確認するといった知識的な対策は、シニアには難しいのが現実だという。「そもそも細かい字は見づらいし、ちょっとした画面の違いに気づく能力は若い人より劣ってしまうかもしれない」。
また、「シニアの方は、インターネットの利用や技術面に関しては、あまり自信のない方が多いのではないか」とも指摘する。例えば、Windows Updateの通知を装ったフィッシングメールなど、技術的な側面で騙そうとしてくる手口に対して「自分で知識を付けて身を守りなさい」というのは無理がある。そういうものに対して防御するには、何かしらのテクノロジー的な支援が必要になるとして、高橋氏は「フィルタリングは、ウイルス対策の次に必要なものだろう」と述べている。
関連情報
■URL
ネットスター
http://www.netstar-inc.com/
フィルタリング情報ページ(インターネット協会)
http://www.iajapan.org/rating/
日本語フィルタリングソフト/サービス一覧(インターネット協会)
http://www.iajapan.org/rating/nihongo.html
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( 永沢 茂 )
2007/09/10 11:08
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