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“規模縮小”した「Internet Week 2007」の狙いとは

プログラム委員長の江崎浩教授に聞く

 「Internet Week 2007」が11月19日から22日まで、秋葉原コンベンションホールで開催される。キャッチフレーズは“東京でディープに語る4日間”。Internet Weekというと、会場としてパシフィコ横浜を思い浮かべる方も多いと思うが、今年は東京・秋葉原に変更。また、従来と比べると会期が短縮されるとともに、開催プログラムも縮小しており、参加者見込み数も約1,500人(2006年の実績は4,000人)と発表されている。

 インターネット技術者向けのイベントとして歴史あるInternet Weekが今回、会場も開催スタイルも大きく変えてきたのはなぜなのか? その狙いと期待を、Internet Week 2007のプログラム委員長を務める東京大学大学院・情報理工学系研究科教授の江崎浩氏に聞いた。


Internet Weekはドラスティックに変わる

東京大学大学院・情報理工学系研究科教授の江崎浩氏。「Internet Week 2007」のプログラム委員長を務める
──今回、Internet Weekの規模がずいぶんと縮小されたように見えます。

江崎氏:今回のスタイルの変更にあたっては、大きく2つの声を聞くところから始めました。「チュートリアルは本当に必要なのか」と「Internet Week本来の役割を果たせているか」です。

 前者については、企業などが開催するチュートリアルや書籍が充実してきたといった背景から、Internet Weekとしてはこの分野を他に渡してもよいとしました。一方で、後者の「Internet Week本来の役割」については、「インターネットが抱える問題を、その場にステークホルダーが集まって議論することで解決に向けて導きたい」という方向性を打ち出すことにしています。

 もともとInternet Weekというのは、情報通信サービス全般に関して、特に実際にオペレーションをやっている方々の間で情報を共有し、方向性を議論するということをしてきたわけです。IPアドレスの管理をどうするのか、プロトコルをどうするのか、経路情報をどうするのかといった、ビジネスに直接は結び付かないけれども、実際に運用やサービスをする上で必要な情報を共有していくということです。

 ただ、最近のインターネットを取り巻く環境は昔と変わってきていて、パケットをちゃんとやりとりするというISP寄りの話だけでは済まず、Yahoo!やGoogle、mixiやSecond Lifeといったアプリケーション寄りのインターネットというものをみんなで考えないといけなくなってきています。また、インターネットが成功したおかげで、経営とか、大きなビジネスとしての側面を無視するわけにもいかなくなりました。政府レベルでの影響も大きくなってきています。

 そのように状況が変わりつつある中で、でも実際にはそうした問題を含めた議論がうまくいっているとは言えない面があります。そこで、Internet Weekをデザインし直し、こうした議論の場にしようと考えました。ドラスティックに変えるのにもいいチャンスだな、と。

 昨年まで大きな規模で開催できたのは、それぞれのプログラムの独立性が高かったからです。しかし、そのやり方では、専門性は高くても横断的な議論はしにくくなりがちです。そこで、並行していくつものプログラムを行なうのではなく、テーマを絞り込んで密な形の議論ができるようにコンパクトな形を目指しました。小さくなったのではなく、小さくしたのです。今回のキーワードの“ディープ”は、インターネットにかかわる幅広い分野の人々が、あるテーマに対して集中して議論することをイメージしたものです。いろいろな価値観や意見を持つ人たちが集まって、隣を見ながら自分たちがやることを考えていく──そういう場にしたいと考えています。


──具体的には、どのように変えるのでしょう?

江崎氏:基本的には、チュートリアルのように講義を行なって、最後に会場からちょっとだけ質問を受け付けるという形はやめたいと考えています。淡々と誰かの意見を聞くのではなく、やはり議論が欲しいですよね。

 聞く側にしても、「こういう問題を抱えているんだけど、何か良い解決策はないか」とか、「これからの世の中はどういった方向に進んでいくんだろうか」といった話などを期待して来ると思うんです。予定されたストーリーだけで枠が埋まっていると、聞く側とのギャップがあった場合にそれを上手に埋めることができません。会場にいる方からの意見も出て、それによって議論が活性化するという形が1つの理想です。

 議論を活発にするため、セッションの中に、意図的に他のコミュニティの方々も招待します。担当のプログラム委員は大変だったと思いますが(笑)。価値観や利益が違う人を集めれば、自然と議論が起きやすくなります。また、こちらとしても上手にしゃべっていただける方をお呼びする形にしています。例えば、2日目に行なうカンファレンス「インターネットと著作権~みんなのための著作権制度~」では、IT・音楽ジャーナリストの津田大介さんをお呼びしていますし、慶應義塾大学の金正勲准教授も少し違った視点から話をしてくれるはずです。

──単に昔に帰るのではなく、テーマを絞った上で、さらに他の分野の人にも話し合いに参加して欲しいということですね。

江崎氏:そうです。昔は平和な時代だったので、ルータなどをまともに動かしていればよかった。だから、技術的な話だけで十分でした。しかし、現在ではそうはいきません。今まではISPなどネットワークの運用をしている人たちが主体でしたが、これからは、業界で“上物”と言われているGyaOやSecond Lifeといったコンテンツレイヤの人たちや、JASRACといった権利者側の人たちにもぜひ参加していただきたいと思っています。


意見形成の結果を「声明」として出すのが理想

──今までに無いようなテーマに切り込んだものがあれば教えてください。例えば、3日目のカンファレンス「事業者がやってよいこと悪いことを考えよう」などは刺激的なタイトルです。

江崎氏:昔と比べるまでもなく、今ではISPの業態自体が変わっており、カバーしなければいけない範囲も変わってきています。例えば、今やISPはスパムメールや帯域の問題、特定のアプリケーションに対する扱いなど、それはもう、いろいろなことを考えなくてはいけくなっているわけです。このセッションでは、特に法的な面を含めてこの点を考え、事業者は何を、どこまでしてよいのかという点で議論していきたいと考えています。

──「インターネットと著作権~みんなのための著作権制度~」はどうでしょう? 法律をテーマとしたセッションは従来もありましたが。

江崎氏:以前の切り口は、どちらかというとお勉強的な側面が強かったと思います。しかし、現場が知りたいのは法律そのものではなくて、デジタルコンテンツを扱うという問題をどう捉えればよいかです。

 現在の著作権などの法制度は、インターネットによる配信のような形を想定していません。そのため、コンテンツを配信したいと思っても著作権等の問題でできないということが珍しくないのです。これでは、面白いサービスを提供しようと思ってもそこがハードルになってしまっています。

 別な見方をすると、GoogleやYouTubeにはどんどんコンテンツが集まる。それがなぜ日本でできないのか? 現場が判断できないからうまくいかないのか、それとも規制が厳しすぎるのか?といった問題でもあるわけです。これを、ネットワークサービスを提供する側としての視点を含め、どうしたらみんなのためになるのか、ということを議論していきたいと考えています。

──議論することが目的なのでしょうか。

江崎氏:議論することに大きな意味があると思います。また、すぐには無理かと思いますが、ある問題に対して情報共有と意見形成を参加者の方々を含めて行ない、その結果を何らかのステートメント(声明書)として出せるようになるところまで持っていければ素晴らしいですね。

 僕は政府の委員会などに出ていますが、そこに出てくる人たちの多くは現場を知りません。そのため、いざその段になると経営のための前提とか一般論で話が進められてしまうんですね。しかし、現場はそれでは困る。例えば、帯域は簡単かつ自由に制御できるわけではありません。アクセスが集中するイベントの時などでは、常に裏で技術者が張り付いているということもあるわけです。「設定して、はい終わり」ということでは済まないということを知らないと、結論が明後日の方向を向いてしまうかもしれません。

 本当なら、現場がどうなっているかを把握した上で政策が議論できるようにならないといけないし、また、そうなるようにしていかなければいけないのですが、今は中立的にそうした意見を上げる場というのがほとんど無いのです。今回はそこまでいくのは難しいかもしれませんが、現場がどうなっているかを正確に議論し、そこで得たものを情報発信し、政策に反映されるぐらいの成果を生み出せるようにしていければと考えています。


IPv4アドレスの枯渇問題をISP以外の人にも知って欲しい

今年のお勧めのセッションについて質問すると、「見所というと、それはもう『全部』です(笑)」
──最近になって再びIPv4アドレスの枯渇問題が叫ばれるようになりました。

江崎氏:IPv4アドレスの枯渇問題は、実はシリアスな問題です。以前にもこの問題を提起したことがありますが、その時とは状況が違います。10年前にはIPv4アドレスの在庫が50%ぐらいあったのが、今は20%ぐらいしか無いわけです。倉庫をイメージしていただくといいと思いますが、20%ぐらいの在庫というのは本当に少ないと感じると思います。

 現状の予測では、IPv4アドレスの枯渇が2011年。緩く見て2013年ですから、本当に後がない。よく経済学者の方などが「使っていないアドレスを返せばまだ持つ」というようなことをおっしゃいますが、おそらく、それは非現実的です。

 社名は言えませんが、世界中にネットワークを張っている企業があります。そこでIPアドレス返還のために企業ネットワークのアドレスの付け替えをしようと見積もったところ、とんでもない金額になることがわかりました。そうなると、わざわざ高いコストを払ってまで返そうとは考えませんよね。そういった理由などで、IPアドレスの返還が進むとは思いません。

 ちなみに、今、IPアドレスの消費が増えているのは、実はヨーロッパです。なぜかといえば、ブロードバンド化が進行しているからです。日本の事例で見ると、昔、ダイヤルアップが主だった頃は、10のユーザーに対して1つのIPドレスを用意すればよかった。通信料が高いため、みんなすぐ接続を切るわけです。しかし、ブロードバンド化が進み、IP電話の普及が始まった現在では、1接続あたり1.1というIPアドレスを消費しています。

 今、ヨーロッパではインターネットの普及率が60%程度、ブロードバンド普及率が20%程度ですから、これから日本のようにブロードバンド化が進むに従ってIPアドレスの消費が急激に進むと考えています。

──IPv4アドレスの枯渇問題の話は、どういった層に聞いてもらいたいのでしょうか。関心のある人は、まだまだ限定的なのでは?

江崎氏:実は、ISPの多くはすでにIPv6に対応する準備が済んでいます。問題なのは、企業のネットワークでしょう。例えば、「INTERNET Watch」のサーバーはIPv6で動いていますか? 動いていないと思います。

 IPv4アドレスの新規割り当てが、いずれできなくなるのは確実です。将来、新しいシステムを作ることを考えている場合には、新しいIPv4アドレスがもらえなくなった時の対処も考えておく必要があります。当然、その上で動くソフトウェアなども同様です。システム開発などは時間がかかりますから、できるだけ早く準備を始めなくてはいけません。

 その意味では、企業ネットワークのIT屋さんやSIerさん、コンテンツデリバリーを考えている方々に、特に参加していただきたいと考えています。JPNICとして、アドレスがいつ無くなるかという正確な情報は出せると思いますので、ぜひ、2日目に開催するワークショップ「IPv4アドレス在庫枯渇問題を見通す」に足をお運びください。


インターネットについてより広範囲な議論が必要、幅広い参加を期待

──最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

江崎氏:社会基盤の1つとなったインターネットは、今や社会的な要請を無視して前に進むことはできません。複雑、かつ高度化する要請に対して、我々はどのように対処すればいいのか? そういった課題を数多く抱えた今、より広範囲な議論が必要になっています。

 議論に参加していただける方がたくさん来ていただけると嬉しいですが、聞くだけの方でも歓迎します。ここでの議論を持ち帰って、他の人たちにその内容を伝えていただけるだけでも幅は広がります。

──ありがとうございました。


関連情報

URL
  Internet Week 2007
  http://internetweek.jp/

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( 聞き手:遠山 孝 )
2007/11/06 13:02

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