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“ビートルズ世代”がターゲット~朝日新聞「どらく」について聞く


どらく
http://doraku.asahi.com/
 総務省が5月25日に発表した平成18年「通信利用動向調査」の結果によれば、60代以上のインターネットの利用率が前年に比べ、軒並み伸びている。また、パソコンを使って、毎日少なくとも1回は利用していると回答した率は60~64歳で47.4%、65歳以上で41.6%にも上った。

 従来、中高年はインターネットやパソコン利用に積極的ではないというイメージだったが、何事にもアクティブと言われる団塊の世代が定年にさしかかったことで、中高年の利用が伸びていることが数字でも確認された形だ。

 この団塊の世代をメインターゲットにして、朝日新聞社が2006年6月に開設したサイトが「どらく」だ。特定層、とくに中高年層にターゲットとしたサイトとしては、1年で大きな伸びを見せた。

 開設当初300万/月ほどだったページビューは1年後の2007年6月には466万/月となり、シニア向け情報サイトでは最大となった。その後も順調にアクセス数を伸ばし、2007年10月には654万ページビューと、開設から1年経過後にさらに大きな伸びを見せている。

 団塊世代が持つ資産が注目され、団塊世代向けのビジネスも増える中、中高年層を狙ったインターネットビジネスやサイトは数多いが、企画倒れに終わる例も少なくない。中高年層「どらく」が支持された理由はどこにあるのか、「どらく」編集長の大西弘美氏にお話を伺った。


60代以上の利用が伸びている

朝日新聞社「どらく」編集長 大西弘美氏。朝日新聞の社会部や整理部を経て現職
――「どらく」を立ち上げたきっかけを教えてください。

 新聞購読者の、年齢層は近年高くなっています。弊社も例外ではありません。いわゆる“団塊の世代”が中心になります。デジタル媒体でも年々、読者の年齢が上がっています。団塊世代は、一昨年あたりから“マス”として非常に注目されています。退職金や年金などの資産運用の面が注目されがちですが、それだけではなく、何事にも積極的な傾向があると言われています。

 インターネットの利用層の中でも、60代が増えてきています。それまでテレビや紙媒体しか使っていなかった世代が、仕事ではなく、個人的にインターネットを活用するようになってきている。

 弊社では、ザッピング的に拾い読むことができる団塊の世代に向けた従来のニュースサイトとは異なる、じっくり読める雑誌的なコンテンツを提供したい、と考えたんですね。その結果、弊社の購読層に近くこれからのインターネット利用が大いに期待できるのが団塊の世代だった、というわけです。そういう意味で、「どらく」の創刊は、編集的にも広告的にも必然であったといえますね。


――「どらく」のキャッチには、「ビートルズ世代」とありますが。

 団塊の世代と言われますが、そう言われる方々は、自分たちが望んでそう名乗ったわけではないのですよね。“団塊の世代”と言ってしまったら、敬遠されると思うんです。そこで、何か代わりになるいい表現はないかと悩んでいたところ、浮かんだのが、その世代によく聴かれ、時代の象徴的な存在でもある「ビートルズ」だったんです。ビートルズの曲は今の若い方でも聴かれますし、年齢層を決め付けない、ということで採用となりました。

 実際開始してみて、55歳から59歳までの方が全体の17%、50歳前半が16%、40歳後半の方が15%となっていて、思っていたよりも40代の方もご利用いただいています。男女比は7対3くらいで、これはasahi.com本体と同様に男性読者が多い傾向があります。インターネットの普及などによって、これまで利用していなかった人が使い始めていることから、60代以上の利用が伸びていますね。


――実際開始してみて、手応えや読者の反響はいかがでしょうか。

 おかげさまで2006年6月にオープンしてから順調にアクセスが伸びまして、2007年10月現在で月間600万強のページビューを達成しました。asahi.comから「どらく」にアクセスされる方も多いのですが、検索エンジンからのアクセスも伸びています。「どらく」とは異なるキーワードからもアクセスされているようです。これは、ターゲットがぴったり合った成果だと考えています。

 各記事ページの一番下には簡単なアンケートが入っています。これにより、常に読者の声が直接届く仕組みになっているのですが、あえてご意見くださる方だからか、わりと好意的なご意見が多いですね。また、海外在住の方にもご覧いただいているようで、実際現地ではこうだ、といった情報をお寄せいただくこともあり、とても参考になっています。


毛利 衛氏や中嶋 悟氏が登場するインタビューが「どらく」の顔

あえて縦書きを採用したインタビュー記事は、「どらく」の看板コンテンツ。上画面は、ウルトラ警備隊の紅一点、アンヌ隊員を演じたひし美ゆり子さん
――最も人気があるのはどのコンテンツでしょうか。

 最も人気があるのは「ひと インタビュー」です。このインタビュー記事が「どらく」の顔、看板コンテンツになっています。インタビューさせていただく方は、こだわりを持った生き方をしている方ということをポイントに取材のお願いをしています。媒体の性質上、お話を伺う方は比較的年配の方が多くなるのですが、若い方でも、自分なりの生き方を持っている方というコンセプトで決めています。

 インタビューの他、「極める」の中の「大人のお稽古」も人気があります。調べたところ、「大人になってから始めるバレエ」や「海辺で習うフラダンス」は女性読者に人気だとわかりました。先にお話したように、男性読者の多いサイトなのですが、女性の方にも読まれているとわかってうれしかったですね。

 また、健康コンテンツでは年齢的なものもあるのか、「お腹」と「腰痛」が人気キーワードのようです(笑)。あとは「わき腹」。意外と腕や足ではないんですよ(笑)。気になる部分はみんな一緒ということでしょうか。


雑誌的に読める、こだわりのある誌面づくり

――コンテンツ制作にあたって、特に意識されていることはありますか。

 asahi.comの(アサヒ・コム)場合は、ニュースが中心のため、表示を速く、軽くというのが前提にあり、あまり作り込んだデザインにはしていません。一方、「どらく」はこだわったエンターテインメント系コンテンツという位置づけで、なおかつ中高年の方々が対象ですので、雑誌的に読んでいただきたいと考えました。

 そこで、IT関連にありがちなカタカナ用語を減らす、1ページ最大1,200字程度を目安にする、各ページには文字サイズの変更ボタンや、記事の印刷ボタンを設置するなど、落ち着いて、じっくり読んでもらえるよう気を配っています。

 写真についても、質の高い写真を、できるだけきれいに、サイズも大きく、数も多めにご覧いただけるようにしています。写真があるのとないのでは反応も違いますし、インタビューでも、写真の表情によってアクセスにも差が出るほどで、写真の重要性は高いですね。

 また、当然ですが、アクセシビリティやユニバーサルデザインについても意識しており、音声ブラウザを使った検証も行なっております。ただし、わたしどもは商用媒体ですので広告が入ることもありまして、100%の対応は難しい面もあります。これについては、引き続き技術動向などを見つつ、研究していくつもりです。

――インタビュー記事では縦書きを採用されていますね。

 インタビューは活字媒体的な表現にしたいと考えたため、このコーナーだけFlashを用いてあえて縦書きにしてみました。ニュース記事の場合は取材によって時々刻々と新しい事実が明らかになり、流動的です。新事実判明を受けて加筆するなど、手直しが入ることも多々あるのですが、インタビュー記事は一度作り込んだららほとんど変更することもありませんので。

 賛否両論あるとは思いますが、幸い、今のところは好意的なご意見が寄せられています。ただしそれが読者すべてに当てはまるとは考えておりませんので、HTML版も用意しています。

 また、「便利な機能」という設定がありますが、これは紙を読むときに行う、なぞる、しおりを入れる、といった動作を再現できるようにしてみたものです。適宜活用していただければうれしいです。


紙のページを扱うようなギミックを再現した「便利な機能」 女性読者に人気という「大人のお稽古」。ページ右上には、文字サイズの変更ボタンがついている

――そういえば、「どらく」にはいわゆる貼り付けのバナー広告などが見あたりませんが。

 そこは非常に気を遣っている点です。商用サイトですから、広告がないわけではありませんが、単にバナー広告を“貼る”だけではなく、読み物として、情報として見ていただけるよう意識しています。バナー広告を載せて、ページビューがどれくらい獲得できるとか、インプレッション数がどう、という視点では考えていないんですね。正直なところ、数だけ必要なら、大手ポータルさんなどが圧倒的に有利ですし。

 「どらく」の読者は滞在時間が長く、記事をじっくり読まれる方が多いことがわかっています。ですから、その視界を妨げるような動きも好まれません。あくまでもコンテンツを見てもらうことを重要視していますので、手はかかりますが、違和感のないスマートな見せ方を心がけています。

 ただし、朝日新聞社が運営しているという責任もありますから、きちんと広告であることがわかるような線引きはします。幸い、広告を出稿してくださるクライアント様も「どらく」という媒体をご理解いただいているようです。


人気の高い「あの有名人のお宝カメラ」。懐かしい銀塩カメラが多数登場する 見ごたえのある綺麗な写真が多数公開されているのも特徴。プリント版のプレゼント企画を実施したところ、かなりの反響があったという

今後は「旅」にフォーカスしたコンテンツを

「今後は夫婦で気軽にでかけられる国内スポットなどをご紹介していきたいと考えています。」(大西編集長)
――荒俣 宏氏や松任谷正隆氏など、編集委員の方々の顔ぶれが非常に豪華ですね。

 どらく編集委員の方々は、いずれもビートルズ世代の読者が興味をもつであろう分野のスペシャリストです。それぞれの視点から、この世代に向けて月に1度、通信という形で情報を発信していただいております。実は「どらく」ではすでに2回、リアルでイベントを行なっておりまして、そういった際には講演をお願いしたりもしています。

 お名前だけというわけではなくて、コンテンツに関しても、実際にアドバイスを頂戴しています。松任谷正隆さんからは「エンターテインメントのコーナーには演劇と映画だけでなく音楽に関する話もあった方がいい」とご指摘をいただいたこともありまして、そうしたご意見をもとに見直したりもしています。

――今後どのような点に力を注がれる予定でしょうか。

 特に編集方針は変えずにいく予定です。新たな試みとしては、「旅」にフォーカスしたコンテンツを提供していけたらと考えています。

 これまでは海外旅行の話題が中心でしたので、今後は国内で身近な場所、足を運びやすいところ、夫婦で出かけられる国内のスポットなどをご紹介していきたいです。

 また、まだ思案中ではありますが、「どらく」がお勧めするこだわりの商品のご提案なども考えています。実は50代の男性がオンラインショッピングで積極的に買い物を始めていることが調査などでわかっています。こうした世代に向けて、値段ではない部分に価値を求められる、こだわりの品をご紹介できたらいいですね。読者の方々のご意見もぜひ伺いたいと思っています。

――ありがとうございました。


関連情報

URL
  どらく
  http://doraku.asahi.com/


( すずまり )
2007/12/13 15:24

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