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「fg」トップページ
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フィギュアなど“立体物”の写真を投稿・共有するコミュニティサイト「fg」が11月初めにオープンし、3カ月を待たずに1万人近くの登録会員を集める人気を呼んでいる。同サイトを運営するエンタースフィアの代表取締役・岡本基氏に話を聞いた。
岡本氏は、同人誌の展示・販売イベント「コミックマーケット(コミケ)」に対して、フィギュアのイベント「ワンダーフェスティバル(ワンフェス)」があるように、イラストの投稿コミュニティサイト「pixiv」に対して、フィギュア写真の「fg」を開始したと説明する。pixivは2008年末で50万会員を突破するまでに急成長し、イラスト人口の大きさと同市場の可能性を示したが、「fg」が扱うフィギュアとはどのような分野なのだろうか?
● 立体物なら何でもOKの写真投稿コミュニティ
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1作品につき10枚まで写真を掲載可能。サムネールをマウスオーバーするだけで拡大写真が切り替わる
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「写真メモ」を書き込んである写真の上にマウスオーバーすると、そのメモに対応する部分にフレームが表示される
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「fg」という名称は「figure garage」「figure garden」を略して付けたものだが、扱うのはフィギュアの写真にとどまらない。具体的には、プラモデル、ドール、ぬいぐるみ、鉄道模型など、「ゆるい感じで“立体物”にした」(岡本氏)。雪だるまでもOKだという。同サイトのFAQでも、以下のように回答している。
「fgは広く立体物を愛する人達のコミュニティです。『像』であれば、仏像でも何でもオーケーです(ただし撮影許可のある施設に限ります)。」
これら立体物の写真をユーザーが撮影し、投稿するという点で、「fg」は画像投稿サイトの一種とも言えるが、立体物のための2つの機能を備えているのが特徴だ。
まず、1つの作品につき10枚まで複数写真を投稿できるようにした。これは、さまざまな角度から撮影した写真を見せるためで、サムネールをマウスオーバーするだけで拡大画像が切り替わる。これにより、2次元の写真でも立体物のように鑑賞できるよう工夫しており、他の画像共有サイトとの差別化ポイントとなっている。
もう1つの機能が、写真の上にコメントを張り付けられる「写真メモ」機能だ。岡本氏よれば、これはAmazon.comのレビューやFlickrで公開されている写真をヒントに開発したもの。それらに掲載されているフィギュアなどの写真には、「この角度から見たこの部分のラインが……」といった細かいコメントが書き込まれていたという。「そうしたユーザーの熱意をぶつけてもらるようにしたら、きっと盛り上げるのではないか」として、「fg」を開始するにあたっての必須機能として「写真メモ」を加えた。
もちろん、通常の画像共有サイトのように、タグ機能や評価機能、閲覧数や評価などによるランキングもある。しかし、立体物、複数写真、写真メモという3点こそが「他の写真共有サイトにはない基本コンセプト」と言える。
● 市販フィギュアを買ってきて撮影・投稿するのも可
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登録会員のプロフィールでは、性別や血液型、都道府県、生年月日、職業(いずれも公開範囲を設定可能)などのほか、アカウントの種類を「モデラー」「一般」から選択する
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「fg」に写真を投稿したり、閲覧するには、無料の会員登録を行う必要があるが、その際、「モデラー会員登録」「一般会員登録」の2種類から選択するようになっている。
モデラー会員は、オリジナルのフィギュアを原型から製作している人や、購入したフィギュアを改造している人を想定している。一方、一般会員は、閲覧だけの人や、自分でフィギュアを製作・改造することはしないが、市販のフィギュアを撮影して投稿する人が対象だ。
すなわち、自分で製作・改造した作品を撮影して投稿するだけでなく、購入してきたフィギュアを、いろいろな場所に並べたり、さまざまなポーズをとらせて撮影し、その写真を作品として投稿することも可能なのだ。もちろん、撮影禁止の商品や、他人の作品を自分の作品だとして投稿することはNGだが、「立体物を愛するすべての人が楽しめる場を作ることを目指している」という。
写真の投稿に関しては、今のところモデラー会員と一般会員で機能面での差は設けておらず、検索機能においてモデラーから探せるようにするなどの区別を設けている程度だ。「ユーザーの自意識のために差を付けたのが大きい。写真の投稿は一般からも広く受け付けるが、モデラーを一段上げることで、クリエイターとして優遇される雰囲気を作りたかった」。
● 世の中には「改造フィギュア」層が意外に多かった?
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写真のアップロード画面。1作品につき10枚まで登録でき、公開範囲やカテゴリーもあわせて設定する。なお、アカウントの種類が「一般」会員の場合は、選択できるカテゴリーが「購入品その他」「イベントレポート」「レビュー」に限られる
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会員登録が2種類ということもあり、「fg」ではサービス開始当初、モデラー会員が投稿した写真を「自作フィギュア」、一般会員の写真を「購入品その他」といいう2カテゴリーに分けることを想定していた。しかし、サービスを提供し始めてすぐに、フルスクラッチで原型から自作している人と、改造を行う人では意識が全く違うことに気付いたという。
そこで運営6日めには早くも、「自作フィギュア」と「改造フィギュア」を細分化。さらに22日めには、改造についても、自分で小物を作ったり色を塗り直したりするのと、市販のキットやパーツを買ってきて組み立てたり追加するのでは、やはりこれも意識が異なるということで、「組立キット」も分割した。
その結果、カテゴリー分けは、上記の「自作フィギュア」「改造フィギュア」「組立キット」と、購入した無改造のものを対象とした「購入品その他」の4種類になり、それぞれランキングも分けた。これにより、製作意識において全く異なるという4つのユーザー層の作品が、同一ランキング上で比較されてしまうことがないよう配慮した。
会員構成は、「自作フィギュア」が25%、「改造フィギュア」と「組立キット」が合わせて46~47%、残りが「購入品その他」となっている。「自作フィギュア」「改造フィギュア」「組立キット」を合計すると7割以上になり、これは当初想定していたよりも多いという。「世の中に、これだけ自分の手を動かす人がいるとは思っていなかった」。このうち「自作フィギュア」については、全体の4分の1程度だろうとの予想は当たったが、意外だったのは「改造フィギュア」が多いことだったという。
その理由として岡本氏は、「武装神姫」や「Pinky:st.(ピンキーストリート)」といったシリーズを挙げる。岡本氏によれば、これらのフィギュア商品では改造やパーツの自作については版元側で容認しているという。「版権的にOKな領域を用意することで、マーケットが拡大した」。PCゲームの世界でも、海外では、ユーザーがシナリオを作る「MOD」と呼ばれる改造が認められるかどうかでそのタイトルの盛り上がりが変わってくるとし、フィギュア市場でも、こうしたユーザーが参加できる余地を作ることの重要性を指摘した。
なお、「fg」全体の会員数については、ワンフェスの来場者数規模がコミケの10分の1程度であることから、その比率を「fg」にも当てはめ、「pixiv」の10分の1程度を見込んでいるとした。岡本氏は、「『pixiv』では150万会員を目標としていると聞いている。『fg』では10万~15万は行くと見ており、今後1年間で伸びるのではないか」とコメントした。
● 「製作中」の作品を公開することが、作者のモチベーションに
「fg」を公開してから追加することになったカテゴリーが、このほかにもいくつかある。その1つめが「製作中の作品」だ。
「fg」では当初、製作中の写真は会員のプロフィールページには掲載できたものの、作品として投稿・公開できるのは完成品のみだった。しかし、2次元のイラストでは作風によっては数分で完成する作品もあるのに対して、立体物となると造形に非常に時間がかかる。完成品のみ認めるとなると、1人の会員が投稿・公開できる作品数も限られてくる。
これを製作中であっても作品として投稿・公開できるようにすれば、作者にとってその都度ユーザーからコメントをもらうことができ、場合によっては数カ月にも及ぶというフィギュア製作のモチベーション維持にもつながる。原型師から要望の多かったというこのカテゴリーは1月中旬になって追加され、わずか5日間で100作品も投稿されたという。
このほか、「レビュー」「イベントレポート」というカテゴリーも追加した。まず、「レビュー」とは、製作用のツールや材料などの使用レポートを対象とするもの。これは、ある塗料についてレビューした投稿がランキングで上位に入ってきたことから、独立したカテゴリーを用意することにしたものだ。
実際にフィギュアに塗装して撮影しているため立体物には違いないが、やはり通常の作品とは意味合いが異なる。とはいえ、フィギュアを製作しているユーザーにとっては関心の高い情報ということで、どうしてもランキングは上がってしまう。そこで「レビュー」カテゴリーを分け、自作・改造作品と塗料などのツールの投稿が同列のランキングに混在しないよう配慮した。
「イベントレポート」は、「ワンフェス」「HOBBY COMPLEX(ホビコン)」などフィギュアの展示・販売イベントなどで撮影してきた写真を投稿するカテゴリーだ。これも会員自身の作品とは異なるということで、ランキング集計の対象外として分類している。
● 匿名で情報交換できる「タグ掲示板」を実装
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タグ掲示板
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「fg」にとってカテゴリー分けは、ランキングを分離することで、意識の異なる会員同士の衝突を回避するという意味あいも大きい。その結果、それぞれが各カテゴリーのランキングで評価されるようになれば、作品製作や写真投稿のモチベーションが上がる。
その一方で岡本氏は、ランキングの弊害についても認識しているという。岡本氏によれば、動画投稿サイトやイラスト投稿サイトでは「好きだから描く、好きだから製作するのが原点のはず」だが、注目されたいたいがために人気のあるキャラクターをモチーフにするという、ランクインのための“攻略法”が出てくると指摘する。「そこをどう回避していくか。ランキングだけではないモチベーションの多様化が必要」とした。
多様化の1つとして可能性を期待しているのが、Web 2.0の象徴とも言える“タグ”の活用だ。「fg」では、カテゴリーを増やすだけでなく、タグによる多様化を進めていく方針だ。タグを導線として機能させるだけでなく、「タグの下にコミュニティが作れるかどうかが重要」という。
岡本氏によると、Web 1.0のCGMの代表である「2ちゃんねる」では、板=カテゴリーであり、それぞれ住人がいるというわかりやすいコミュニティを形成している。そこで「fg」では、タグの下に掲示板を設置する「タグ掲示板」という機能を実装した。「ニコニコ動画」の「ニコニコ大百科」が、キーワードの下にユーザーらで辞書を作れることを示したのをヒントに、タグの下に掲示板を設置できないかとして開発した。
「タグ掲示板」では、「fg」のニックネームが表示されない匿名投稿も可能だ。「特に自分の作品について意見を求めるというのではなく、『こんなのあるけど、どう?』と気楽に情報交換したい場合もあるはず。ベタベタしたくない、しかし情報は交換したい」という利用を想定して、「2ちゃんねる」風の匿名性のあるデザインをあえて採用した。特にクリエイターはナイーブな人も多いことから、情報交換における匿名性のバランスが重要だとしている。
ただし現時点では、ユーザーはタグ掲示板の活用方法がまだピンと来ていないらしい。岡本氏は「Web 2.0が必ずしもWeb 1.0より優れているとは思わない。Web 1.0の知恵を利用していくのが次のテーマ」とした。
● あみぐるみ、鉄道模型、3DCGなど特化した姉妹サイトも検討
岡本氏は「fg」の構想段階で、知人の原型師から「フィギュアはエロが大事である」と力説されたことも明らかにした。「フィギュアの衣服を脱がしたり、縄で縛るといった改造を施す“魔改造”というジャンルが確立している」のだという。そこで「fg」では、こうした性的なジャンルを扱う「R18」コーナーも設け、そのリンクをあえて目立つようにしている。
一方、最近ではフィギュア商品も「Pinky:st.」など女性にも受け入れられるかわいい商品が増えてきたため、「fg」の登録会員は男性が多いものの、女性も増えているという。また、フィギュア以外でも、女性が好む立体物としては、あみぐるみ(編み物で作ったぬいぐるみ)やドールなどの市場が確立している。
ところが「R18」があるということで、「fg」は女性にとって入りにくいサイトとなっているようだ。エンタースフィアでは、「R18」のない姉妹サイトの立ち上げも検討している。
このほか、男性向けでも、鉄道模型をターゲットにした姉妹サイトも考えられるという。鉄道模型も「fg」の守備範囲ではあるが、主な購買層が中高年ということで、フィギュアをメインとしている現行の「fg」には入りにくいとの判断だ。
さらには、リアルな立体物だけでなく、「3DCGの投稿コミュニティサイトも春ごろまでには開設したい」と述べた。岡本氏によると、イラスト投稿サイトなどのCGMサイトに対しては、デジタルプリントアウトの可能性について企業が興味を持っているのだという。3Dアイテムやアバターなどに対して立体出力の需要はあるとしており、将来的には3Dプリンタとの連携も探りたいとしている。
これらの姉妹サイトは、データベースやコアのシステムは統一し、同一アカウントでユーザー属性に応じてサイトを切り替えてログインできるようにしていく考えだ。「立体物とはいえ、ニュートラルではない、特化したサイト分け」を目指す。
● コミュニティサイトとオンラインゲームの境界線はなくなる
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「fg」を運営するエンタースフィアの代表取締役・岡本基氏
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「fg」を運営するエンタースフィアは、元任天堂のスタッフら3人が2008年5月に立ち上げたベンチャーだ。岡本氏も、任天堂情報開発本部において「ピクミン」「はじめてのWii」「WiiFit」などの企画やディレクションを担当した、いわば“ゲーム屋”だ。エンタースフィアでは、「名刺代わりに始めた『fg』のほうが有名になってしまった」と岡本氏は笑う。しかし、“ゲーム屋”だからこそ見えてくる、コミュニティサイトの課題などもあるようだ。
岡本氏によると、これまでのSNSは「場は提供するが、楽しませる意識がなかった。あくまでもツールやスペースを提供するというスタンスだった」という。これに対して「pixiv」や「ウェブカレ」といった特化型SNSでは、「運営者側の意識がオンラインゲーム寄りになっている」と指摘する。すなわち、「運営者側が仕掛けるクエスト(企画)が、ユーザーへの刺激になる。イベント意識の高さが特徴」。
また、「YouTube」や「ニコニコ動画」でもエンターテインメントとして楽しませるノウハウを運営者側が身に付けているとし、「高コスト化や、ユーザーがコアな層に限られることで硬直化しているオンラインゲーム業界の脅威になるのではないか」という。
一方で、オンラインゲーム寄りの運営意識が、コミュニティサイトにおける広告以外の収入に結び付くとも指摘する。その例として「モバゲータウン」で提供している「釣りゲータウン」などを挙げ、PC用のオンラインゲームと比べるとかなりシンプルなサービスだが、ユーザー同士のコミュニケーションによるモチベーションがアイテム販売などを後押しできるとした。
このほか、「Nicotto Town」のように「オンラインゲームは.exe(実行ファイル)から離れていく。Flashベースの敷居の低いものにシフトしていく」とも指摘。また、「こくばん.in」でもアイテムショップ等のオンラインゲーム的な要素要素を取り入れていることや、「ウェブカレ」の例も挙げ、「今後、Webのサービスとオンラインゲームの境界線はなくなる」とした。
岡本氏は、2月5日に開催されるオンラインゲーム/コミュニティサービスに関するカンファレンス「OGC 2009」でも講演する。“ゲーム屋”から見た現在のコミュニティサイトやオンラインゲームの潮流について語るほか、「fg」の利用者層の分析データも報告する予定だ。
関連情報
■URL
fg
http://www.fg-site.net/
エンタースフィア
http://www.entersphere.co.jp/
OGC 2009
http://www.bba.or.jp/ogc/2009/
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( 永沢 茂 )
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