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日本オンラインドラッグ協会(JODA)理事長を務めるケンコーコム後藤玄利社長。2月24日から始まった厚生省の「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」の委員も務める
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改正薬事法問題が世間を騒がせている。
現在問題となっているのは国会審議を経た薬事法改正の話ではない。薬事法改正にともなって、厚生労働省が2月6日に公布した「薬事法施行規則等の一部を改正する省令」(以下省令)だ。
この省令では、ネット販売を含む通信販売で扱えるのはリスクの低い医薬品(ビタミン剤やうがい薬など)のみに限定されることなどを定めている。省令のため、賛成派反対派などの登場人物が見えにくく、また医薬品販売という専門業界の話のため、一般人には問題点がわかりにくくなっている。
しかし、このまま省令が改正薬事法と共に6月1日に施行されれば、ビタミン剤やうがい薬など一部の商品を除き、ネット通販で医薬品が購入できなくなる。そうなれば、ネット通販を利用する全ユーザーの生活に影響が及ぶことになるだろう。
そこで、「改正薬事法における医薬品ネット販売規制問題」とは何か、ケンコーコム代表取締役であり日本オンラインドラッグ協会(JODA)理事長を務める後藤玄利氏にお聞きした。
● ネット販売については一切触れていない改正薬事法
元々は、2006年に改正薬事法が成立したところから話が始まる。最初の薬事法は1960年にでき、今回が約50年ぶりの大改正だった。改正薬事法は、2009年6月に完全施行される。ただし、そもそも改正薬事法自体には、ネット販売禁止などについては一切触れられていない。
今回問題になっているのは、今年、2009年2月6日に厚生労働省から公布された「薬事法施行規則等の一部を改正する省令」だ。この省令により、現在はインターネットで購入できている一般医薬品のうち7割近くが購入できなくなるという。
当然、消費者が影響を被ることは必至だ。薬局などが近隣にない、あるいは身体に不自由があるなどの理由で医薬品購入をネット販売に頼っている利用者にとっては直接日常生活に影響する問題だ。
省令案に対して厚生労働省は2008年9月17日から10月16日までパブリックコメントを募集。医薬品のネット販売等通信販売について寄せられた意見2353件のうち約97%、2303件が反対意見だったという。
楽天やYahoo!がこの省令案を不服として、一般用医薬品の通信販売継続を求める署名を集めたところ、2月17日までに約50万件が集まった。これらの声を受けて、舛添要一厚生労働大臣は、問題を議論するため「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」を開催する意向を明らかにした。
今回とくに問題とされているのが、国民にとって大切な問題であるにも関わらず、法改正作業の段階ではなく、その後の省令において、禁止事項が盛り込まれたという経緯だ。パブリックコメントも97%が反対であるのに、パブリックコメントを募集した厚生労働省がこれだけ多くの反対意見を押し切って規制強化の省令を出しているというのは理解しにくい。
すでに省令は公布されたものの、今後、あらためて省令内容が見直される可能性はあるのだろうか。
● 改正薬事法と省令で変わる医薬品販売法
今回の薬事法改正で、一般用医薬品の販売方法は大きく変わる。たとえば、風邪薬や胃腸薬などの一般用医薬品(大衆薬)は、薬剤師等の専門家がいれば、コンビニエンスストアなどでも販売できるようになる。これまでは薬剤師がいなければ医薬品の販売ができなかったが、需要増加に伴い、施行以降は、薬剤師よりも資格取得が簡単な「登録販売者」でも専門家として医薬品を販売できることになる。
また、医薬品は副作用などのリスクによって第1類、第2類、第3類に分別された。第1類は特にリスクが高いものとされ、H2ブロッカー胃腸薬や、発毛剤などが該当。第2類はリスクが比較的高いもので、多くの風邪薬、頭痛薬、痔薬、妊娠検査薬、漢方薬などがこれに当たる。第3類はリスクが比較的低いもので、ビタミン剤や消毒薬、うがい薬などが相当する。
改正薬事法の根幹には、「医薬品には副作用があるにもかかわらず、店頭における専門家不在問題など、しっかりとした情報提供がなされぬまま販売されてきた。それを是正するため、専門家がお客に対して正しい飲み方などの情報提供をすべし」という考え方がある。
ところが、「正しい情報提供や指導には“対面”であることが必要」ということになってしまった。そのためネットを含めた通信販売では“対面”ではないから危険、したがって第3類以外の医薬品を売ってはいけないという省令につながってしまったようだ(後藤氏)」という。
省令により、第1類と第2類の医薬品のネットを含めた通信販売が禁止されることになったが、禁止対象となる医薬品は、現在ネットで購入できる一般医薬品のうち約7割にも上る。
「省令がそのまま施行されれば、ネット通販で購入できるのはビタミン剤やうがい薬くらいになってしまいます。すでにご利用いただいている方には、大きな不便を強いることになる。医薬品は安全に販売されるべきなのはもちろんです。しかし、そのためには対面でなければならないというのは論理の飛躍があるのではないか。通信販売では安全を確保できないとは明確にされていない」と後藤氏は指摘する。
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厚生労働省がサイトで公開している改正薬事法に関する一般向けリーフレットの一部。リスクによって医薬品を3つに分類する
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同じリーフレットの一部。販売にあたっては必ず対面で専門家が説明する体制に。すでに普及しているネット通販はまったく考慮されていない
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● ネットがわからない人たちばかりの検討会
では、どういう経緯でこのような省令が出たのだろうか。実は省令はいきなり出たのではなく、その前に「医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会」が開かれていた。検討会のメンバーはドラッグストアチェーン、薬剤師、配置薬販売、薬害被害者団体、消費者団体、薬剤師系の学者などで、ネット企業や通販に関する団体などはまったく参加していなかった。
この検討会メンバーからは、「ネットが危険なのは言うまでもない。そんな危険なところで医薬品を売らせてはいけない」というような意見が上がったという。「検討会メンバーはインターネットをあまりよく知らず、最初から誤解と偏見があったのではないか」と後藤氏は指摘する。
ネットが危ないというのは、「ネット経由で違法ドラッグなどが売られているから」などが理由として挙げられたというのだが、後藤氏は、これに関しても「確かに違法ドラッグ販売は問題だ。しかし、今回の規制は違法販売に網をかけるものではない。もともと違法と知りながら違法ドラッグを販売している人たちを今回の省令で規制することはできず、まったくの別問題」とする。
後藤氏は検討会の見解に対し「あまりに偏見に満ちているのでは」との申し入れも行なったが、取り上げてもらえなかったという。「検討会の開始前から、自分も検討会に入れてほしいと、厚生労働省に対し再三要望を出したが、断られてしまった」。代わりに、検討会において1回だけ、12分間のヒアリングの機会を設けるという話になった。
ヒアリングでは、「検討会の委員に対し、インターネットで、どのように医薬品を販売しているのか説明するように」との指示があった。後藤氏がプレゼンした結果、「そのような取り組みをしている店舗があることは、わかった。しかし、依然ネットには未承認薬などがあふれているので危険である」との結論になったという。
● 規制で"健康難民"が生まれかねない
今回の規制で、消費者にはどのようなデメリットが考えられるのだろうか。「店舗が遠い、身体に不自由がある、共働きなどで買い物の時間がないなど、店舗に行きにくい人が買いにくくなるのはもちろんです。ネットで医薬品を購入することで健康を維持している方は非常に多いのです。そういう方たちが健康難民になってしまう」と後藤氏は危惧する。
店舗が遠いといった事情のほか、実店舗ではスペースの制限があるため扱える医薬品はどうしても限られる。自分にあった常用薬が、店頭から消えてしまうことは珍しくない。似たような医薬品はあるものの、自分に合う、ずっと使ってきた医薬品がやはりいいという場合はネットで入手している人も多い。それも、今後できなくなってしまうというわけだ。
実際、厚生労働省に対して寄せられたパブリックコメントを閲覧したところ、「対面だと買うのが恥ずかしい薬が買いにくくなる」とか、「店頭に行くと店の人が勧めるものを断りにくい」、「店頭では瞬時に買うか否か判断しなければならないが、ネットの方がじっくり比較検討して、納得できるものを買える」という意見が多数あったという。
(明日の後編につづく)
■URL
薬事法施行規則等の一部を改正する省令の概要(厚生労働省、PDF)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/ippanyou/pdf/gaiyou.pdf
一般用医薬品販売制度ホームページ(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/ippanyou/index.html
医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会報告書(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/s0704-14.html
NPO法人日本オンラインドラッグ協会
http://www.online-drug.jp/
ケンコーコム
http://www.kenko.com/
( 取材・執筆:高橋暁子 )
2009/02/25 10:44
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