山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

人気ジャンルのライブ動画アプリ、違法配信で強制終了、「低俗な内容」が原因 ほか~2017年4月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にも分かりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

電子マネーのシェアサイクルサービス争奪戦が勃発

 阿里巴巴(アリババ)の電子マネー「支付宝(アリペイ)」を運営する「バ蟻金服(アントフィナンシャル、バは虫へんに馬)」は、中国で一気に認知度が上がっている乗り捨て可能なシェアサイクルサービス6社と提携し、「支付宝」アプリから提携したシェアサイクルが利用できるようになった。

シェアサイクルの投入地点(駐輪場ではない)

 従来はシェアサイクル各社の利用には、各社アプリのインストール、登録、起動のステップが必要だったが、この提携により、各社アプリのインストールが不要となり、ユーザーとしては手間が省けるようになった。一方で支付宝は、さまざまなシェアサイクルが支付宝だけで利用できることにより、オフラインでのポータル(入り口)を強化したことになる。また、支付宝は、問題なきネット利用によりユーザーの信用スコアがあがる「芝麻信用」を使い、芝麻信用のスコアが一定以上であれば、各シェアサイクルサービスの初回利用に必要だったデポジット金を不要にした。

 提携したシェアサイクルは、黄色の車体が目印の「ofo」や青と黄色の「永安行」など6社。支付宝アプリだけで50都市600万台が利用可能となった。この数はシェアサイクルの半数以上に相当。シェアサイクルは日々増産され、その数を増やしているため、現状ではさらに対応台数は多い。

 中国で最もよく見るシェアサイクルの代名詞的な「Mobike」は支付宝ではなく、支付宝のライバルである騰訊(テンセント)の電子マネー「微信支付(ウィーチャットペイ)」に対応している。つまり、テンセントが先んじて業界最大手の「Mobike」を自陣に入れている。

オレンジの「Mobike」と黄色の「Ofo」が競る

 そのテンセントは今年、「微信」アプリを起動して、著名なスマホ向けアプリのサービス利用と支払いが専用アプリなしで利用できる「小程序(小プログラム)」をリリースした。ライバルのアリババは、支付宝を促進させるブランド「口碑」で支付宝の支払いにPOS機能を付けた店舗向けサービスを追加したり、支付宝で同様に、支付宝アプリ内で提携した他のアプリの機能を内包することを5月に発表している。

 オフラインの街中で、アリババの支付宝とテンセントの微信支付によるポータルの争いが起きている。

「口碑」
一部のファストフード店では「口碑」のロゴが見られる

キャッシュレス化を目指す「無現金聯盟」設立

 4月18日、アリババ本社の位置する浙江省杭州で、電子決済によるキャッシュレス化を目指した「無現金聯盟」が設立された。国際連合環境計画(UNEP)と「支付宝」のアントフィナンシャルが理事となり、聯盟参加企業の電子決済の割合と商業データの効率を高め、二酸化炭素排出削減を目指す。

 参加する中国企業はアントフィナンシャルのほか、スーパーの「カルフール中国」、コンビニの「上海ローソン」、シェア自転車の「ofo」、深センの電脳街のビル「華強電子世界」、フードデリバリー「eleme」、北京首都国際空港ほか、書店チェーン、食堂チェーンなど。ほかにもフィンランド観光局や、フィンランドのモバイル決済サービス「ePassi」、オーストラリアのモバイル決済サービス「Paybang」などが加入する。アントフィナンシャルは今後2年間で60億元(1000億円弱)をかけて、聯盟会員企業の無現金化を進める。

 先の3月の政治イベント「全人代」でも、全人代の代表の1人が無現金化を進めたいと発言するなど政治の場でも無現金化の話が出るようになった。一方で、「微信支付」のテンセントや、クレジットカード/デビットカード/NFCでの支払いを推進する銀聯(Unionpay)が聯盟に参加していないなど、各企業の都合で進めているようにも見える。

QRコードによる支払いは身近な存在

百度、AIチップ「DuerOS」で音声認識方面のAI強化をアピール

 この数年、百度(バイドゥ)、アリババ、テンセントの頭文字をとった「BAT」という言葉は中国のインターネットトップ企業の代名詞であったが、最近ではアリババとテンセントの二強状態が鮮明となり、バイドゥが置いていかれた感がある。そんなバイドゥは、4月に深センで開催されたネットリーダーの会議で、同社が最も注力する領域について、モバイルインターネットからAIへと変えたとアピール。年内には商用化させると予告した。

 バイドゥはARMなどとともに人工知能向けチップ「DuerOS」を発表。音声対話に強く、音声でスケジュール管理や、天気情報、音楽、レストラン、質問などの各種検索や、レストランや映画の予約などが可能だという。

 バイドゥは会議の中で「中国はICチップを毎年2000億ドル規模で輸入していて、中でも人工知能に使うチップが最大となっている」とし、国産化をアピール。また、人工知能のプラットフォームを構築し、現在、PC大手のレノボ、家電大手のハイアール、美的(Midia)などがDuerOS内蔵製品を検討しているとした。

シェアサイクル「ofo」、大量生産で世界展開を目指す

 4月19日、中国の二大シェアサイクルサービスの1つで、黄色い車体が目印の「ofo」が、中国最大の自転車OEMメーカー「富士達」と提携を発表した。今後、富士達は数十の生産ラインを活用し、ofoに年1000万台以上の自転車を供給する。昨年の世界の自転車生産台数は8000万台だったので、単純計算で8分の1がofoとなる。

 さらに両社はグローバルR&Dセンターを作ることで同意したと発表。今後は安全、運搬、修理のしやすさ、防盗、スマート化などを強化し、中国国内だけでなく海外展開をも見据えて研究開発を行っていく。海外の50以上の国・地域での自転車関連の習慣を考えながら展開していく予定だ。

 また、ofoは、中国政府交通運輸部科学研究院と共同で、北京、上海、広州、西安、杭州など20の都市の普及実態に関する「2017年第1四半期シェア自転車レポート」を発表。

 同レポートによると、1995年から2016年の間に自動車保有台数は1040万台から1億9000万台へと増えたのに対し、自転車保有台数は6億7000万台から3億3000万台へと半減したが、2016年のシェアサイクル登場以降、ラストワンマイルの移動ニーズと市民の運動志向により急激に普及したという。30歳以下が55%、30~45歳が35%を占めた。第1四半期間の1人平均の乗車による消耗熱量は6840キロカロリーで、1.8キログラムの脂肪燃焼に相当するという。また、20都市の第1四半期の3カ月間での総走行距離は地球1万4794周分とのこと。

人気ジャンルのライブ動画アプリ、違法配信で強制終了、「低俗な内容」が原因

 若い女性の実況動画などが人気ジャンルとなっているライブ動画だが、18の配信アプリが4月2日、中国政府の部署「国家網信方(中共中央網絡安全和信息化領導小組)」により強制終了となった。昨年11月に発表された、ライブ動画に関する規定「インターネットライブ動画サービス管理規定(互聯網直播服務管理規定)」後の初めてのプラットフォーム強制停止となった。違法な「低俗な内容」を配信したのが原因だとしている。

 ニュースで挙がっている低俗な内容の具体例としては、軍服や警察の服の着用での配信や、ポルノコンテンツの配信を挙げ、「青少年育成や悪影響を与え、ネットユーザーの苦情は多く、社会主義核心価値観に背いた」としている。

 11月に規定を発表後、12月には違法性のあるネット配信者1879人をブラックリスト化され、該当者のアカウント再発行禁止措置をとっている。

ネット医療の意欲的サービス、各地で立ち上げ

 北京で、手術後のケアサービスを行うネットサービス「栄益互聯網医院」がスタートした。主治医に手術後の状況の連絡や、再診の予約ができるプラットフォームで、300人を超す外科が登録している。患者に優しいだけでなく、医者の立場からも時間調整が容易になり効率化できるとしている。このサービスは中国全土に対応しているという。

 広州では、中国初となる救急車などを呼ぶための救急アプリを発表。単にタップして救急車などを呼ぶだけでなく、警察や消防に画像や動画などを送り状況の送信機能や、知人への緊急情報転送機能などを備える。

 中国では昨年より、インターネットと医療の融合したサービスが登場している。

Apple、「微信支付」のグループでの投げ銭機能を禁止に

 Appleの意向により、同社製品向けの「微信(WeChat)」のオウンドメディア機能「公衆号」における、読者からオーナーへの投げ銭機能とスタンプ機能の一部を停止したと、テンセントが発表した。中国においてiPhoneのシェアは減少しているが、最も人気のアプリの機能が一部利用できなくなることにより、中国産Androidスマートフォンへの消費者の移行が加速する可能性がある。

アリババ、文化力を付ける私立小学校を開校

 アリババが今年2月、10億元を超す出資で立ち上げた私立学校「雲谷学校」に小学1年生と中学1年生合わせて60人の生徒が入学する。中国で今が旬のアリババが私立学校を開校することはネットで話題となった。入試テストでは最高得点を期待するわけではなく、学生の文化的素質に期待をかけているという。詰め込み教育よりも、中国でおざなりな音楽・美術・体育などの教科を必修にし、モラル向上や対社会ストレス能力の向上を目指す。

 アリババCEOの馬雲(ジャック・マー)氏は、学校のスタートに伴い「今後30年で世界はハイテクと知識により高速な発展を遂げる。だからこそ『文化』が大事となる。子どもたちには、多くの体験をし、さまざまな体験をし、社会環境や社会貢献を学び、クリエイティブな力を養ってほしい。未来のデータ時代は、人類とロボットが競争するが、クリエイティブについてはロボットは苦手な分野となるだろう」とコメントし、学校の方針を示している。

山谷 剛史

中国アジアITライター。現在中国滞在中。連載多数。著書に「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。