山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

Googleの一部サービス、中国で再開へ ほか~2017年3月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にも分かりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

Googleの一部サービス、中国で再開へ

 中国で「Google 翻訳」のサービスが再開された。検閲を嫌って中国とケンカ別れしたGoogleのサービスが同国で利用可能となるのはこれまでになかった。

復活した「Google 翻訳」

 この背景を紹介するような記事を「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」が3月13日に掲載した。記事によると、Google 翻訳だけでなく、学術論文の検索サービス「Google Scholar」もまた中国で再度利用できるようになるかもしれない。サービス再開を中国政府が考慮しているという。

 中国で3月に開催された政治イベント「全人代」の教科文衛委員会主任委員の柳斌杰氏が、Google ScholarをはじめとしたGoogleの政治・ニュース以外のサービスの実施を考慮に入れているとし、柳氏によれば、2014年より中国政府とGoogleの交流が開始されたとしている。Googleの持ち株会社であるAlphabetのエリック・シュミット氏もまた、以前より中国政府とコンタクトを取っているとし、中国企業に同社サイトによる国際的広告枠を販売したいと語っていた。

 このほか、米国の科学サイト「The Information」は2月、中国を代表するポータルサイトの1つ「網易(NetEase)」に接触し、両社提携によるGoogle Playの中国市場での復帰を打診したと伝えている。

シェアサイクルが終わりの見えないユーザー獲得合戦、無料提供+付加価値が焦点に

 乗り捨て可能なシェアサイクルで人気を集めている、オレンジ色の自転車が目印の「Mobike」や黄色の自転車が目印の「Ofo」などが、シェア獲得のため無料でのサービス提供を条件下で行い始めた。

路上で当たり前のようにシェアサイクルを見るようになった

 MobikeとOfoは2月より利用費無料キャンペーンを平日日中などの条件で開始、3月に入り全日全時間での無料キャンペーンを実施し、終わりの見えないユーザー獲得合戦となっている。近年、中国のベンチャー企業のとりあえずのゴールを第三者からの投資とし、どんな手を打ってでもとにかく利用者を増やそうとする風潮にあり、シェアサイクルでもなりふり構わないユーザー獲得合戦が行われているわけだ。

 さらに3月末にはMobikeが騰訊(Tencent)と提携。Mobikeのアプリを通さず、同社の微信(WeChat)の電子マネー支払機能(WeChatPay)で利用できるようになった。利便性でMobikeは一歩先に行ったが、今後、Mobikeと騰訊のライバル会社同士が同様の提携を行うことが予想される。

 一方でライバルのOfoは3月中旬、信用ポイントサービスの「芝麻信用」に加入した。中国では詐欺が多く信用がネットサービスでの焦点の1つとなっていることから、正しく利用すれば利用者の信用ポイントが上がる芝麻信用を活用して、信用面で差別化を進める。また、同月初めにはシェア自転車サービスの「永安行」も芝麻信用の採用を発表した。

 中国自転車協会によると、30を超える都市で200万台のシェアサイクルが投入され、2017年には2000万台近いシェアサイクルが投入されると予想されている。上海では暫定的に新台投入禁止を発表した。

阿里巴巴と騰訊、インドEC大手に投資

 阿里巴巴(Alibaba)が、インドの電子マネー大手のPaytmに1億7700万ドルの融資を行ったと報じられた。阿里巴巴のインド投資はこれが初めてではなく、2015年にもインドEC大手のSnapdealに2億ドルの投資を行っている。

 また、騰訊(Tencent)は、SnapdealとともにEC大手であるFlipkartに出資したと報じられた。インドのEC大手は、それら2社にAmazonを加えた3社となり、つまりは阿里巴巴と騰訊とAmazonのシェア争いがインドで起きていると伝える中国メディアもある。インドのインターネットユーザー数は、インターネット団体「IAMAI」によれば年内にも4億5000万人になるという。

paytm

微信(WeChat)のユーザー数が、18年目のQQを超す

 中国を代表するネット企業の1社である騰訊(Tencent)が発表した2016年度の決算報告によると、同社のインスタントメッセンジャー(IM)「微信(WeChat)」の月間アクティブユーザー数は前年比28%増の8億8900万となり、同じく同社のIMであるQQのアクティブユーザー数8億6800万を超えた。18年目を迎えるQQ初めて王者陥落となった。

 微信とQQは異なるチームが開発しており、同じ企業でありながらライバル関係にある。QQは微信が普及して以降はビジネス向けIMというポジションと暗になっていたが、最近では、一般と異なる個性を出したいという1990年以降に生まれた若い世代に利用されるようになっているため、今のところはQQのブームが過ぎ、落ちていくというわけではなさそうだ。

 決算報告によると、その他のサービスではブログ「QQ空間」の月間アクティブユーザーは微減の6億3800万。年間の総売上高は前年比48%増の1519億3800万元、営業利益は38%増の561億1700万元。

個人情報50億件が内部流出、エンジニアとして入社→信用アップ→個人情報収集→退職を繰り返す

 公安部は3月7日、50億件もの個人情報を不正に取得したとして、容疑者96人を逮捕した。各ネットサービスのアカウントとパスワード、身分証番号、電話番号、住所などが含まれており、業界も交通・物流・医療・社交・銀行など多岐にわたる。

 原因として内部流出を挙げている。容疑者が企業でネットワーク系エンジニアとして働き、社内で信用を得て社内サーバーにアクセスできる権限を得た後に社内の個人情報を収集していた。入社→信用アップ→個人情報収集→退職を繰り返し、個人情報を集めていたという。その中にはECサイト大手「京東(JD)」などのサイトも含まれている。

中国AIの先駆け「百度」のAIトップが退職

 「全人代」での新興産業発展計画についての発表で、昨年以前から挙がっていたICや5Gなどに加え、人工知能(AI)が挙がった。政府の後ろ盾も加え、ますますAI業界は盛んになりそうだ。

 百度は、中国でのAI事業を他の中国企業よりも早く「百度大脳」という名で参入しているが、そのトップである呉恩達氏が離職を発表した。同氏は2014年5月より百度大脳でトップとなり、音声認識、画像認識、自動運転などの研究を進めていた。同氏は今後もAI関連に従事するとしているが、トップの離脱に伴う同社のAI事業への影響は大きい。同氏離職の原因については、2月に百度が医療事業部の撤退を発表し、AIについても先が暗いと察したからといった分析をするメディアもある。

 百度は、昨年11月に開催された中国のインターネット業界の一大イベント「世界インターネット大会」において、「モバイルインターネットで時代はすでに終わった」とコメント。AIに集中し、BATと呼ばれる中国ネット3大企業の阿里巴巴(Alibaba)や騰訊(Tencent)に近年付けられた差を埋める算段だった。現状、百度大脳事業の縮小の話は聞かず、米国シリコンバレーに150人の研究者を抱える、同社第2の研究センター建設を発表している。

消費者権利デーで、日本の越境ECなどに影響

 3月15日は世界消費者権利デーで、中国ではその日、権威的なメディア「中国中央電視台(CCTV)」などが、特定の商品やサービスをターゲットに問題提起を行う番組を放送する。非常に影響力がある番組であり、かつ何をターゲットにするかは放送まで分からないため、日本の中国担当者もこの日は放送を見守る。

 今年は日本の食品がターゲットとなった。本社所在地が東京などの「核の影響を受けている」と中国側が判定する地域から輸入販売されていることを指摘。ただし、中国が認定する「核汚染地域」に本社があるとしても工場がその場所にあるとは限らず、また、輸入をチェックする中国側の検疫局も原産地証明で問題ないことを後日発表し、どうにもCCTVの勇み足により日本の食品などへ風評被害を与えた結果となった。とはいえ、CCTVの番組の影響力の大きさから中国の越境ECサイトから日本の食品のほとんどが消え、越境EC関連業者が厳しい状況に立たされた。

 この日はまた、トラブルに遭遇する機会がまだ目立つネットショッピングや、阿里巴巴系の電子マネー「支付宝(Alipay)」や百度の顔認証での認証の甘さもやり玉に挙がった。ネットショッピングについては3月15日より、商品到達から7日間は無条件返品可能な法令を施行した。

3月15日の特別番組で叩かれた日本食品

山谷 剛史

中国アジアITライター。現在中国滞在中。連載多数。著書に「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。