山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

Google、中国から撤退 ほか

2010年3月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

Google、中国から撤退

Googleが中国撤退を発表する前日、北京市内で撮影したGoogleのラッピングバス

 3月22日、中国撤退を示唆していたGoogleが撤退を発表した。営業や開発拠点を中国に残しつつ、サービスは香港のサーバーから継続することになった。本誌ニュース記事でもお伝えしている(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20100323_356270.html)ので、参照していただきたい。

 撤退発表当日の中国国内でのニュース報道は、「ビジネスを政治問題にすり替える悪質な手法に憤慨」という政府発表を踏襲する、淡々としたものばかりだった。また、中国のニュースサイトでは通常、ニュース記事最下部にコメント欄が設けられているが、このニュースではコメント欄を設けるニュースサイトは少なかった。Googleに関する掲示板も投稿が規制された。

 中国におけるGoogleユーザーは、北京や上海のネット先進都市の利用者で、インターネット利用歴の長いヘビーユーザーが多いが、そうした人々でさえ、メディアの情報を受動的に受けるしかなかった。

 もっとも、少数ではあるが、中国からは通常アクセスできないtwitterで、超ヘビーユーザーがGoogle撤退の真意について活発に論議していた。このあたりのことは、3月24日に本連載の特別版としてお伝えしたのでご参照いただきたい(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/m_china/20100324_356413.html)。また、日が経つにつれメディアの報道も掘り下げた記事が増え、中には若干ながら、フィルタリングが原因で中国市場から撤退したというGoogle側の意見を明記した中国メディアも登場している。

 いずれにしろ、注目を浴びたGoogle中国は、撤退翌日の23日、アクセス数が初めて百度を上回った(StatCounter調べ)。また、今回の一件で、超ヘビーユーザーの討論の場となったTwitterだが、Twitterの開発者であるJack Dorsey氏は「中国市場への進出は時間の問題」とコメント。Googleが中国から撤退する一方で、中国進出をほのめかしている。

 なお、Googleの中国市場向けのサービス提供は、香港サーバーに切り替えて以後も続いているが、「中国の広告主を放置した」とGoogleを非難するメディア報道は絶えない。また、3月23日にはGoogleサーチエンジンを採用する準大手ポータルサイトの「TOM」が、「中国の法律法規を守るため」という理由で同サイトのGoogle検索サービスを停止するなどの動きも出ている。

撤退発表時、Googleの(谷歌)撤退を大きく扱った国務院のページGoogle香港(簡体字)による「Google中国撤退」のニュース検索結果

3兆7500億円のオンライン通販市場に、楽天に続きYahoo!も参入

 中国のリサーチ会社「北京正望咨詢有限公司(China IntelliConsulting)」が3月に発表した調査結果によれば、2009年に1億3000万人がオンラインショッピングサイトで商品を購入し、その購入額は2670億元(約3兆7500億円)だという。また同月14日、オンラインショッピングで人気の決済サービス「支付宝(Alipay)」は、同サービス利用者が3億人を突破したことを発表した。

 サイト別では個人対個人取引(C2C)サイトの淘宝網(TAOBAO)が年間2000億元(約2兆8000億円)超の取引額があり、断トツでトップシェアとなっているが、Yahoo!Japanとこの淘宝網が提携関係を結ぶことが、4月1日、日中双方のメディアで報じられた。ちなみに、ヤフー日本法人の親会社であるソフトバンクは、「淘宝網」を包括するアリババグループの大株主でもある。

 一方、今年1月には日本の楽天株式会社が、「百度(Baidu)」と提携している。百度は検索サイトとして知られているが、オンラインショッピングサイト(C2Cと企業対個人:B2C)事業も展開している。日中間で取引が急激に増えることは考えづらいが、海を跨いで「ヤフー・淘宝網連合」対「楽天・百度連合」の図式ができあがったことになる。

Yahoo!と組んだ「淘宝網」のサイト百度の運営するオンラインショッピングサイト

ポルノ画像や動画をダウンロードし逮捕、罰金42000円

 四川省宜賓市の男性が、526ファイル(約80MB)のポルノ画像と、39ファイル(約7GB)のポルノ動画をダウンロードしたことで逮捕され、3000元(約4万2000円)の罰金刑と警告を受けた。

 男性は当初、人気のチャットソフトQQを普通に合法的に利用していたという。しかし、男性が参加するチャットグループの1人が動画ファイルをアップロードし、その動画を男性がダウンロードした現場を、宜賓市の2人1組で動くネット警察が発見した。その後、ネット警察は半月ほど男性を監視し、男性が断続的にダウンロードを行うことから逮捕に踏み切ったとされる。

 別のポルノコンテンツ配信事件に関する記事では、「30人以上のチャットグループに向けてポルノコンテンツのファイルをアップロードしたら違法」「ポルノ的な動画ファイルを40回以上送ったら違法で、最高で2年の実刑判決」などの法解釈を紹介している。

チャットソフトQQの同時オンライン利用数が1億を突破

QQの同時オンライン利用者数が1億を突破したという記事

 PCには必ずインストールされているといっても過言ではないチャットソフト「QQ」の同時オンライン数がはじめて1億を突破した。

 多くの中国メディアがこの1億突破のニュースを報道し、多くのインターネット利用者がお祝いのコメントを書いた。書き込みの中には「1億突破は喜ばしいが、実際インスタントメッセンジャーで使っているユーザーはどれほどいるだろう。職場でも家庭でもそのアカウントでオンラインゲームをやっている人は嫌というほど見かけるが」というコメントも。

 ちなみに2009年末の段階で、インターネット利用者は3億8400万、QQのアカウント数は9億9000万、うちアクティブアカウント数は5億2290万。なお、参考までにSkypeの同時オンライン数を挙げておくと、こちらは2000万に満たない状態だ。

セキュリティソフトの導入率は95.6%、海賊版利用率は19.6%

セキュリティソフトの入手方法(CNNIC調査)

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は30日、中国のインターネット利用者のセキュリティソフトのインストール実態を調査した「2009年中国網民網絡信息安全状況系列報告」を発表した。

 それによれば、95.6%のインターネット利用者が何かしらのセキュリティソフトを導入しているという。同調査で、使用しているOSは?という質問に対し、「Windows」という回答が76.3%、「Linux」という回答が0.9%に対し、「わからない」という回答が22.4%もいるが、それに対しほとんどの利用者がセキュリティソフトが入っていると回答したのは、ウイルスの存在があることを誰もが知っているからだろうか。

 海賊版セキュリティソフトの利用率は19.6%と低いが、無料のセキュリティソフトの利用率が31.6%であること、有料版のセキュリティソフトも市場で容易に安価に入手が可能であること、また海賊版セキュリティソフトは更新ができないことが認知されていることが理由として挙げられる。

中国政府がネットカフェ取締りで論議。ゲームベンダーは「待った」

両会の特集ページ

 ネットカフェの国有化が中国の国会のような機関「両会」で討論された。それに先立ち2月に、中国人民政治協商会議(政協)の委員がネットカフェの国有化を提案したが、その後インターネット依存症の研究家も「ネットカフェの9割が非法なものだ。ネットカフェをなくすことは、中華民族の最高の利益となる」とフォロー。決定こそしないが、政府内にネットカフェ閉鎖の意思もあることをちらつかせる結果となった。

 こうした動きに対し、インターネット利用者の多くが反対しているが、加えて大手オンラインゲームベンダーの「巨人網絡」のCEOである史玉柱氏もまた両会の動きに対し「ネットカフェ撤廃の考えは極端。インターネットカフェは問題を抱えているが、無くすのではなく別の方法で解決すべき」という反対のコメントを発表した。

動画共有サイト間で版権絡みの訴訟。版権価格は以前の10倍に

動画共有サイト「優酷網(YOUKU)」と「土豆網(TUDOU)」が海賊版は一新を行っていると提訴した「酷6網」のサイト

 中国のリサーチ会社「易観国際(Analysys International)」が3月22日に発表した「中国網絡視頻市場年度綜合報告2010」によれば、2009年1年間の中国動画サイト市場規模は、前年比95.4%増の8億4400万元(約120億円)となった。

 動画サイト市場では、「優酷網(YOUKU)」と「土豆網(TUDOU)」のシェアが特に高いが、この2社は2月に提携を結んだことを発表した。

 今回の訴訟は、これら2社に続く大手サイト「酷6網」が、「優酷網」と「土豆網」は海賊版配信を行っているとして提訴したもの。「酷6網」が自社で版権を持つ「映画6タイトルが無許可で配信された」とし、50万元(約700万円)の損害賠償を請求した。これに対し、「土豆網」は「『酷6網』は40タイトル以上の映画を無許可に配信している」と逆訴訟を起こした。優酷網も「100タイトル近い動画コンテンツを無許可で配信している」と逆訴訟の構えだ。

 政府の方針もあり、中国国内の動画コンテンツの正規版化が推進される中で、版権の価格は値上がりしている。ある中国メディアは、「2009年末の動画コンテンツ配信権の価格は、対前年同期比で10倍にもなった。テレビドラマ1回分の配信が今や10万元(約140万円)を超えるようになった」と紹介している。


関連情報

2010/4/8 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。