俺たちのIoT

第16回

スマートリモコンで「外付けIoT」、すぐにはIoT化が難しい生活家電をIoT化

2017年7月に一般販売予定の「Nature Remo」

 IoTは非常に魅力的かつ生活を便利にする技術ですが、さまざまな理由でまだまだIoT化が難しい製品も世の中には多く存在します。今回は、現状ではIoT化がすぐには難しい製品をIoT化する、“外付けIoT”とも言うべき製品を紹介します。

 本連載の第8回で説明したとおり、通信機能やセンサーなどを搭載するIoT機器には、それを動かすための電源が必須です。ということは、もともと電源が必須である電化製品は、実はIoTと非常に相性がいい、と考えることもできます。

 家庭内において冷蔵庫や洗濯機を置く場所には、必ずコンセントが用意されており、電源に困ることはありません。他の機器とつながるための通信機能は別途必要になるものの、電源をどのように取るか心配する必要がないというのはIoTにおいて大きなメリットです。

 「家電」の名が示す通り、多くの家電は家の中など屋内で使われるため、IoTの重要な要素である「つながる」ための通信機能も搭載が容易です。屋外へ持ち出す製品であればLTEなどのモバイル通信も必要になりますが、宅内であれば無線LANやBluetoothが搭載されていれば十分です。また、掃除機など家の中で移動しながら使う製品もありますが、ほとんどの家電は設置場所から動かすことも少ないため、電波環境も安定させやすいというメリットがあります。

生活家電・白物家電のIoT化が難しい理由とは

 しかしながら、家電の分野ではまだまだインターネット連携した製品や、スマートフォン連携した製品はさほど多くありません。テレビやレコーダーといった情報家電の製品ではネット対応した製品が多く存在するものの、洗濯機や冷蔵庫、エアコンといった生活家電では、IoT要素を持った製品の数は非常に限られています。

 生活家電におけるIoTの課題の1つは、利用期間の長さにあります。一般的に生活家電の買い換え期間は10年程度と言われており、長期間にわたって利用することが想定された製品です。白物家電の最新機種はIoTに限らずさまざまな最新機能を搭載していますが、一度購入してから10年は使い続ける製品を、最新機能が載ったからといってすぐに買い換えることは難しいでしょう。これはIoTに限らず、高額かつ長期間の利用を想定している家電ならではの課題と言えます。

 また、エアコンのように買い換えそのものが難しいケースもあります。賃貸のマンションやアパートなどはエアコンが最初から設置されていることが多く、新しい製品に交換するにも工事費などの費用がかかることから、最初から設定済みの製品を使うケースが多数です。自分で好きな製品を選択できる他の家電よりもさらに導入のハードルは高いと言えるでしょう。

 テレビやレコーダーといった情報家電、黒物家電といったジャンルの製品は、嗜好性も高く、動画配信サービスの普及などもあってネット連携、スマホ連携といった製品が増えている一方、生活家電、白物家電といったジャンルの製品は、価格の高さや製品寿命の長さといった理由から、IoT対応の製品はコンセプト段階のものが多いのが実情です。

学習リモコンがIoT化することで、生活家電もIoT化

 こうした課題の中で、完全なIoT化ではないものの、家電と連携することでIoT要素を取り入れることができる「外付けIoT」とも言うべき製品があります。その1つが、学習リモコンをIoT化した「スマートリモコン」と呼ばれるジャンルの製品です。

スマートリモコンの先駆け的存在「iRemocon」

 学習リモコンとは、その名の通りリモコン機能を学習できる製品です。家庭内にはテレビやレコーダー、エアコン、照明などさまざまなリモコンが存在しますが、学習リモコンは複数のリモコンの機能を学習し、1つのリモコンで兼用することで、宅内のリモコンを1つに集約することができます。

 学習リモコン自体は以前から存在する製品ですが、最近では無線LAN機能やBluetoothなどを搭載し、スマートフォンと連携できる製品が主流です。これまでの学習リモコンは「家の中のリモコンの数を減らす」ことが主たる目的でしたが、学習リモコンがIoT化することで、さらに別の使い方ができるようになりました。

 スマートリモコンの先駆け的存在とも言えるのが、株式会社グラモの「iRemocon」です。赤外線通信に加えて無線LAN機能を搭載しており、自宅内の好きなところはもちろん、外出先からもリモコンを操作できるため、自宅の最寄り駅についたらエアコンの電源を入れておき、家に着いたら最適な温度になっている、というリモート利用が可能になりました。

「iRemocon Wi-Fi」機能紹介動画

 さらにスマートフォンと連携することで、スマートフォンを活用したさらなる便利な機能も実現しました。スマートフォンのGPSを利用して最寄り駅などの場所を指定し、「駅に着いたら自動的にエアコンがオンになる」という連携に加えて、スマートフォンのマイクを利用して音声でリモコンを操作することもできます。

 iRemoconのほかにも、株式会社リンクジャパンの「eRemote」「eRemote mini」、クラウドファンディングを通じて製品化、2017年7月に一般販売予定の「Nature Remo」といったスマートリモコンも開発されています。

「eRemote」

スマートリモコンのネックは赤外線?

 便利なスマートリモコンですが、課題もあります。1つはリモコン操作には赤外線を利用しているため、エアコンなどの操作したい製品へ正しく信号を送ることができる位置にリモコンを設置する必要があります。そのため、宅内に操作したい機器が複数ある場合は、赤外線送信部の位置によってはうまくコントロールできない場合もあります。

 また、スマートリモコンを含む学習リモコンはすべてのリモコンに対応しているわけではありません。国内の主要メーカー製品はほぼサポートされていることが多いものの、一部機種によっては対応していない可能性もあります。購入の際はどの製品に対応しているかを事前に調べることをお勧めします。

 価格や利用年数の問題もあり、すぐにはIoT化が難しい生活家電において、家電そのものではなく別の機器を組み合わせることでIoT化を実現する製品は、特に耐久年数の長い家電においては、さまざまな可能性が残されていると言えそうです。

甲斐 祐樹

Impress Watch記者からフリーランスを経て現在はハードウェアスタートアップの株式会社Cerevoに勤務。広報・マーケティングを担当する傍ら、フリーランスライターとしても活動中。個人ブログは「カイ士伝」