清水理史の「イニシャルB」
11ac対応やスマホからのリモート起動に対応 スリムなWiMAX 2+モバイルルーター「NAD11」
(2014/6/23 06:00)
NECアクセステクニカ製のWiMAX 2+対応モバイルルーター「Wi-Fi WALKER WiMAX 2+ NAD11」が発売された。スリムなボディも大きな特徴だが、NECアクセステクニカらしい数々の工夫が詰め込まれた製品だ。その実力を検証してみた。
NAD11の○と×
結論から言えば、今回登場した「NAD11」は、不満な点もいくつかあるが、トータルの満足度は高い製品と言えそうだ。
個人的に数日ほど実際に使ってみたが、「○」なポイントとしては、以下のような点が挙げられる。
・スリムで持ち運びに便利
・スマホからリモートでスリープ/解除可能
・初期設定や設定変更がカンタン
・クレードルで充電が楽
一方、「×」というほどでもないが、気になったポイントとしては、以下のような点があった。
・連続通信時間がライバルに劣る
・標準設定では使えない機能がいくつかある
敷居の低さと懐の深さを併せ持つという点では、実にNECアクセステクニカ製らしい製品で、スリムなボディや初期設定のしやすさなど、初心者ユーザーでも安心して使える優しさを備えながら、11ac対応やリモート起動といった中上級者向け機能をしっかりと搭載しているあたりは、さすが、と感心させられた。
サイズや連続通信時間など、モバイルルーターに何を求めるかは、ユーザー次第と言えるが、さまざまなユーザーのニーズに応えることができるオールマイティな製品と言えるだろう。
最小限のボタンで本体設定を可能に
それでは、さっそく製品を見ていこう。本体は、前述の通り、スリムであることが大きな特徴だ。本体サイズは、高さ109x幅65x奥行き8.2mmとなっており、いわゆる厚さは8.2mmと細身になっている。
イメージとしては、薄型の名刺入れといった印象で、シャツの胸ポケットに入れてもまったく気にならないサイズは持ち運びにとても便利だ。
デザインもシンプルな仕上げになっており、表面には「Wi-Fi WALKER WiMAX 2+」というロゴが薄く彫り込まれている程度で、文字らしい文字がほとんど見当たらないばかりか、ボタンも側面に小さな電源ボタンと設定用ボタンがあるだけで非常にすっきりとしている。
前面のディスプレイを点灯すると、モバイルルーターであることを再確認させられるが、消灯しているときは通信機器っぽさをほとんど感じさせないデザインとなっている。
筆者のような男性目線では物足りない印象もあるが、女性目線では高く評価されるのではないかと予想される。
前面のディスプレイは、小型ながら情報量は豊富で、電波の強度を示すアンテナ、接続モードがWiMAXかWiMAX 2+なのかを示すアイコン、無線LANで接続中のクライアントの数、バッテリー残量を示す電池のアイコンと%形式の数値が表示される。
感心したのは、このディスプレイで情報を選択しながらの本体設定が可能な点だ。側面の「SET」ボタンを押すと、「端末情報」、「無線LAN情報」、「機能設定」などの漢字表示のメニューが切り替わり、「SET」ボタンの長押しで項目決定、「電源」ボタンでキャンセルと、ボタンを使った操作が可能となっている。
これにより、通信モードをハイスピードモード(WiMAX 2+/WiMAX自動切り替え)からノーリミットモード(WiMAXのみ)に切り替えたり、無線LANの2.4GHz/5GHzを切り替えることなどができる。
個人的には、クライアント接続時のボタン設定(らくらく無線スタート/WPS)の設定まで、メニューからの操作になってしまったのが残念だが、このボタンの数と液晶サイズで、本体設定を実現したこと自体は高く評価したいポイントだ。
ただし、初期設定に関しては、ボタン設定以外にQRコードでの設定がサポートされており、付属のシートをスマートフォンのカメラで読み取ることで設定が可能になっている。
本製品は、背面のカバーが取り外せるようになっているので、この裏側にでもQRコードを貼り付けておくというのも1つの解決方法だろう。
このほか、オプションでの取扱となるが、専用のクレードルが発売されており、ここに立てかけることでカンタンに充電できるようになっている。クレードルには有線LANのポートも搭載されており、自宅のPCなどを有線LANで接続することも可能だが、単純に充電が楽にできるだけでも一緒に購入する価値があると言えそうだ。
実用的なエリア展開になったWiMAX 2+
実際の使用感だが、そもそもWiMAX 2+がかなり実用的になったことに感心した。
サービス開始直後は、「一体、どこに行けばWiMAX 2+でつながるのか?」と探し回る必要があったが、現在ではかなりエリアが拡大し、主要都市を中心にWiMAX 2+での接続が可能になった。
東京都内であれば、ほぼWiMAX 2+でつながると言える状況で、WiMAX 2+/WiMAXの自動切り替えとなるハイスピードモードで利用していると、WiMAXで接続される機会の方が少ない印象だ。
速度も優秀だ。以下は、いくつかのポイントで速度を計測した結果だが、もっとも速いポイントで下り40Mbps以上で通信できている。表には掲載していないが、筆者宅も比較的WiMAX 2+の電波が届きやすいようで、屋内のどの場所からでも平均して30Mbps以上で通信できるようになっている。
場所 | 屋内/屋外 | 下り | 上り |
秋葉原 | 屋外 | 17.67 | 7.53 |
屋内 | 4.31 | 1.04 | |
渋谷区 | 屋外 | 18.11 | 7.59 |
世田谷区 | 屋外 | 42.82 | 7.55 |
調布市 | 屋内 | 1.27 | 0.76 |
- GALAXY S5を使用
- RBB Speedtestにて計測
ただし、地下とビル内は、やはり苦手なようで、上記表の秋葉原の屋内(UDX Theater)、および調布市の屋内(大型スーパーの内部)では、WiMAX 2+ではなく、WiMAXでの接続となり、速度も若干低い値となった。
また、筆者が試した限りでは、秋葉原の地下(UDXビルの駐車場)では、WiMAX 2+/WiMAXのどちらも接続不可で、圏外になってしまった。地下や地方では、場合によっては思ったような通信ができないこともあるので、事前にエリアをきちんと確認しておくといいだろう。
ほぼカタログ通りの実稼働時間
続いて、バッテリー駆動時間を検証してみた。PINGとHTTP GETを定期的に繰り返すバッチファイルを用意し、バッテリーが切れるまで連続で通信させてみたところ、17:11の開始から0:09まで、合計6時間58分の連続通信を確認できた。カタログスペックの値が420分(7時間)なので、ほぼカタログ値通りといったところだ。
NAD11(NECアクセステクニカ) | HWD14(ファーウェイ) | |
サイズ | 高さ109x幅65x奥行き8.2mm | 高さ100×幅62×奥行き15.5mm |
質 | 81g | 140g |
連続通信(WiMAX2) | 420分 | 9時間(540分) |
連続通信(WiMAX) | 630分 | 9時間30分(570分) |
連続通信(LTE) | ― | 9時間10分(550分) |
連続待受け(休止) | 500時間(リモート起動なし) | 950時間 |
バッテリー容量 | 2100mAh | 3000mAh |
無線LAN | IEEE802.11ac/n/a/g/b | IEEE802.11n/g/b |
対応ネットワーク | WiMAX 2+/WiMAX | WiMAX 2+/WiMAX/au 4G LTE |
- 無線LANの5GHzは標準では無効。IEEE802.11ac時の最大速度は433Mbps
ちなみに、同じテストをファーウェイのHWD14で実行したところ9:17~20:51まで、合計11時間34分の稼働を確認できた。バッテリー容量が異なる(NAD11は2100mAh、HWD14は3000mAh)ため、当然と言えば当然なのだが、NAD11はスマートフォンなどをつなぎっぱなしで朝から持ち歩くと、午後には残量が半分以下となり、帰宅までバッテリーが持つかどうか、少々心許なくなってしまう。
ただし、これは運用で回避可能だ。標準では無効になっているが、本体設定で「省電力切り替え機能」を「休止状態」に変更し、「リモート起動」を「使用する」に設定する。
すると、スマートフォンのアプリを利用して、Bluetooth経由で本体を休止モードに移行させたり、リモートから起動することが可能となっている。実際に試してみたところ、休止状態への移行が操作から約9秒ほど、休止状態から起動までで10秒ほど、通信可能になるまで25秒ほどであった。
後述する5GHz帯を利用している場合は、この時間が長くなる場合があるが、スマートフォンからの操作でかなりスピーディにリモート起動させることができる。
このため、使うときに電源オン、使い終わったら電源オフとこまめに切り替えることで、バッテリーの消費を抑えることができる。こうした使い方をすれば、バッテリー駆動時間に不満を感じることもないだろう。
11acの利用シーンは限定的
最後に、IEEE802.11acについて触れておこう。本製品は、モバイルルーターとして初めてIEEE802.11acに対応しており、シングルストリームの最大433Mbpsで通信することが可能となっている。
ただし、工場出荷時では5GHz帯は無効になっており、有効にするには設定画面、もしくはボタンを使った本体設定で5GHz帯を有効にする必要がある。
これではじめてIEEE802.11acで接続可能になるが、残念ながら、大きな制約がある。WAN側にWiMAX/WiMAX 2+を利用し、5GHz帯の無線LANアクセスポイントとして動作させる場合、利用できる帯域は5.2GHz帯(W52)となる。この周波数帯は屋外での利用が電波法で禁じられているため、屋外で使う場合は5GHz帯を無効にしておく必要があるわけだ。
唯一、例外として認められるのは、5.6GHz帯(W56)を利用した無線LANをWAN側として利用する場合だ。この場合、NAD11も5.6GHzの無線LANアクセスポイントとして動作するため、屋外でも利用することができる。
とは言え、公衆無線LANがW56を利用しているかどうかをいちいち確認するのは現実的とは言えない。このため、実際は自宅の無線LANに接続する場合など、状況がかなり限られてしまう。
実際には、ほぼ5GHz帯を利用することはないため、必然的にクライアントをIEEE802.11acでつなぐ機会もほぼないと言えるだろう。
利便性と安定性は文句ナシ
以上、NECアクセステクニカ製のWiMAX 2+対応モバイルルーター「Wi-Fi WALKER NAD11」を実際に使ってみたが、IEEE802.11ac対応があまり意味がないことを除けば、全体的な完成度はかなり高い製品と言える。
特に、リモートからの起動はとても便利で、鞄の中に入れたまま、いちいち取り出さなくても必要に応じてオン/オフできるのは快適だった。
前述したように、WiMAX 2+のエリアも拡大し、主要都市であれば移動中の通信手段として現実的な選択肢と言えるようになってきたので、タブレット端末などの通信手段として検討してみる価値はあると言えそうだ。