第102回:再開された無線LAN倶楽部のVoIPトライアル
Wi-Fiに050番号の時代は来るのか?



 NTTブロードバンドプラットフォーム(NTT-BP)が展開する無線LAN倶楽部のVoIPトライアルが、5月10日から再開された。以前にのトライアルから、端末に割り当てる電話番号や内部的な仕組みが変更されている。トライアルがどのように変化したのかを再検証しつつ、同社に詳しい話を伺った。





IP電話として使うための障壁

NTT-BP代表取締役社長の小林忠男氏

サービス開発部長の眞部利裕氏

 IP電話が着実に普及しつつある中、苦戦を強いられている事業者がある。無線LAN倶楽部でVoIPトライアルを展開しているNTT-BPだ。同社は、以前に本コラムでレポートした通り、公衆無線LANで利用可能なVoIP端末のトライアルを実施していたが、さまざまな規制から、今回新しい形態でトライアルを再開することになった。

 これまでNTT-BPが展開していたVoIPトライアルの概要はこうだ。携帯電話型の専用端末、もしくはPDAやPC(ソフトウェアを利用)に「03」から始まる一般電話と同じ番号を割り当てることで、無線LAN倶楽部のエリアからユーザー同士、一般加入電話や携帯電話との通話を実現する。いわば、VoIP版の携帯電話、もしくはモバイル版のIP電話といったイメージだ。

 個人的に使ってみた印象としては、端末の完成度や利用可能なエリアなどさまざまな問題を抱えてはいたことは否めないが、試みとしては非常に面白いものだと感じた。同社ビジネス企画部の菊嶋氏によれば、同社のトライアルサービスは好評で、申込者もかなりの数に及んだという。

 しかしながら、NTT-BPでは試験サービスの方向修正を余儀なくされてしまった。問題は端末に割り当てられる番号だ。公衆無線LANでどこにいても利用できるIP電話となると、03番号を利用した発着信には問題が生じる。もちろん、同社代表取締役社長の小林氏が言うように、「理想としては050番号を使うこと」だろうが、これには音声品質基準の問題がある。

 音声品質基準の問題というのは、単純に音質の善し悪しというレベルのものではない。前回もレポートしたように、同社のVoIPトライアルの音声品質は決して悪くなく、むしろ良い方だと感じられた。では、何がネックになっているのかというと、基準自体が存在しないことなのだ。

 「050番号を使うには、音声品質基準をクリアしなければならないが、現状の基準は有線を前提としたもので、無線には適用できない(サービス開発部長の眞部氏)」。ただし、無線での050番号利用そのものが否定されている訳ではなく、無線で050番号を利用するための基準作りは「現在総務省やTTCで進められていると聞いている(眞部氏)」という。





内線番号方式でサービスを再開

 このような状況の中、同社が新しいトライアルサービスで出したひとつの解答が、内線番号を使うという方式だ。

 具体的な方式はこうだ。まず、端末には4桁の番号を割り当てる。この番号をダイヤルすれば、端末同士で音声通話ができるようになる。一般加入電話などとの通話についても、発信については何ら問題ない。端末から相手の電話番号をダイヤルすれば、同社のゲートウェイを介して、一般加入電話などに接続される(ただし、現状は必ず番号非通知に設定される)。

 問題は一般加入電話からの着信だ。内線番号を使う以上、一般加入電話などから内線番号をダイヤルしても電話が通じることはない。このため、特殊なダイヤル方法を用いている。

 一般加入電話などから無線LAN端末に電話をかけるときは、まず「0120」から始まる番号にダイヤルする。すると、トーン信号が聞こえてくるので、ここで前述した内線番号をダイヤルする。これで、端末に接続され、通話が可能になるというわけだ。まさに、代表番号に電話をかけてから内線で呼び出すというイメージだ。


一般加入電話から無線LAN端末に通話する際の手順。代表番号に電話をかけるとトーン信号が聞こえるので、そこで端末の内線番号をダイヤルして呼び出す

 実際、端末をお借りして、この方式での通話をテストしてみたが、無線LAN端末を使っている側としては、何の不自由も感じない。電話のかけ方は番号をダイヤルするだけで、かかってきた電話にも普通に出られる。一方、無線LAN端末に対して電話をかける側は少々面倒だ。前述したように代表番号と内線番号の両方をダイヤルしなければならないからだ。


一般加入電話からの着信したときの無線LAN端末。電話のかけ方が複雑なうえ、エリア内でないと着信しないので、基本的には発信用として使うのが現実的

 ただし、音質などは、従来通り極めてクリアで、特に問題を感じなかった。主に発信に利用するというのであれば、かなり使い勝手は良さそうだ。





端末を充実させ、エリアも拡大

 このサービスには、端末の機能が貧弱という欠点もあったが、これに関しては、どうやら解決される見込みがありそうだ。「SIPの違いなどがあり、まだ開発中(眞部氏)」とのことだが、日立電線の無線LAN対応携帯電話端末「WIP-5000」による通話デモも見せてもらうことができた。

 現状の無線LAN端末は、表記が英語で、通話以外に簡単な電話帳の登録ができる程度だが、WIP-5000では日本語表示に加え、インスタントメッセージの送受信やプレゼンス機能(通話相手のログオン/ログオフの状態確認)なども利用できる。開発が完了次第、無線LAN倶楽部のVoIPトライアルで利用する予定(眞部氏)だということなので、こちらにも大きな期待が持てる。


日立電線製のIP電話端末「WIP-5000」

 また、対応エリアに関しても、順次拡大予定だ。5月13日にNTTドコモと東京メトロが全駅で公衆無線LANサービスを提供予定との発表があったが、NTT-BPもこの共同設備を利用して、東京メトロへのエリア拡大を計画している。

 これが実現すれば、VoIPトライアルの使い勝手が向上することは確実だ。現状は、まだサービス内容や端末などに未完成な部分は多いが、無線での050番号利用のための基準作り、新端末の登場、エリアの拡大など、VoIPトライアルの未来は明るいと言って良さそうだ。

 もちろん、これらが順調に展開されたとしても、今度は強力なライバルとの戦いが待ち受けている。巨大な携帯電話市場とどのように対抗し、どのように共存を図るのか、現在試験が行なわれているTD-CDMAによる音声通話などが登場した際に、どのように差別化を図るのかなど課題は多い。このあたりは、今後の展開が注目されるところだ。


関連情報

2004/5/25 10:59


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。