第101回:PDAをワイヤレスで楽しむ
SDIO、メモリースティックIO対応の無線LANカード
Pocket PCやCLIEといったPDA向けに、SDIO、メモリースティックIO対応の無線LANカードが登場しはじめた。主要な3製品をお借りすることができたので、早速レビューしてみよう。
●いまひとつ盛り上がりに欠けるPDA市場
ここ1~2年の動向を見る限り、PDA市場はすっかり活気を失ってしまった印象だ。ひところ頻繁に発表されていた新製品はほとんど登場しなくなってきたし、身の回りで実際に利用している人もほとんど見かけなくなってしまった。自らを省みても、ここ1年ほどPDAを持ち歩いた記憶がなく、棚の上に置き去りのまま放置されている。
確かに、外出先でメモや予定を書き込んだり、メールやWebを見られるのは便利だが、もはや、この役目はPDAではなくなりつつあるのかもしれない。高機能化する携帯電話と小型化や省電力化が進むノートPCの板挟みで、苦しんでいるというのが、今のPDAの状況だろう。
そんな中、PDAの救世主となり得る可能性がある機器が登場してきた。SDIOやメモリースティックIOに対応したIEEE 802.11b準拠の無線LANカードだ。これにより、オフィスや家庭、ホットスポットなどでの通信環境をさらに充実させることが可能となった。果たして、PDA市場を活性化する起爆剤となり得るのだろうか? 今回は、そのあたりを検証してみることにしよう。
●小型で持ち運びに便利
今回用意したのは、SDIOに対応したシーエフ・カンパニー(米Socket Communications製)の「WL6204-512」とシイガイズの「SD-Link11b」、メモリースティックIOに対応したハギワラシスコムの「HNT-MSW1」の合計3製品だ。SDIO対応の前2者がPocket PC向けの製品で、ハギワラシスコムがPalm OS 5を搭載したソニーのCLIE向け製品となっている。
左からハギワラシスコムの「HNT-MSW1」、シイガイズの「SD-Link11b」、シーエフ・カンパニー「WL6204-512」。サイズはかなり小さい |
まずは、第一印象だが、さすがに「小さい」。メモリースティックIO対応の「HNT-MSW1」はアンテナ部分が張り出しているために見た目はそれほど小さくもないが、SDIO対応の2製品は本当に小さい。PCカードタイプの無線LANカードはもちろん、CFタイプの無線LANカードと比べてもサイズは約半分程度で、厚みもかなりの薄さだ。よくもまあ、こんな小さなサイズに無線LANモジュールとアンテナ部分を収められたものだと感心してしまうほどだ。
ここまで小さいと、まず便利なのが持ち運びだ。もちろん、常時、PDAに装着したままで使っても構わないが、通常はメモリカードとの併用やバッテリーの節約のため、必要な時にスロットに装着して、使わない時は外しておくというスタイルになる。このような場合でも、持ち運びの邪魔にならないし、手軽にどこかに収納しておけるのは実に便利だ。故障などの原因になりそうなので現実的ではないが、極端な話、財布のポケットに入れて持ち運ぶこともできそうだ。
東芝Genio e400に装着した「WL6204-512」。PDA本体に装着しても邪魔にならない | ソニーCLIE PEG-TJ37に装着した「HNT-MSW1」。本体側のMSスロットが左側にあるため、少しはみ出すような格好になってしまう |
●セットアップは簡単、設定は製品次第
Pcoket PC側の設定をサッと呼び出せるSD-Link11b。家庭での利用に向いている印象 |
セットアップに関しても、さほど難しくはない。Pocket PCの場合もCLIEの場合も、基本的には、あらかじめケーブルでPCにPDA本体を接続しておき、PCからドライバーを転送するだけとなっている。あとは、本体に無線LANカードを装着すれば自動的に認識される。
設定に関しては、製品によって若干の違いがあった。まず、シイガイズのSD-Link11bだが、これは画面右下に表示されるアンテナマークのアイコンをクリックすることで、設定が可能になるというスタイルだ。設定を1タップでさっと呼び出せ、接続するアクセスポイントの優先順位なども設定できるため、手軽に使えるのがメリットだろう。
ただし、セキュリティ機能でサポートされているのはWEPのみで(画面にWPAの項目は存在するが設定はできない)、IEEE 802.1Xには対応していない。家庭で利用するには十分だが、企業で利用するには、ここがネックになる可能性もある。
一方、シーエフ・カンパニーの「WL6204-512」だが、これは画面右下のアイコンではステータスの表示しかできず、設定はPocket PCの「接続」で「詳細設定」にある「ネットワークカード」で行なうスタイル。設定画面はWindows XPのワイヤレスネットワークに似た馴染みのあるものとなっているが、階層が深く、設定画面までたどり着くのが面倒な印象だ。
ただし、シイガイズの製品と異なり、こちらはIEEE 802.1Xに対応しており、企業ネットワークでの利用も考慮されているのが特徴だ。個人ユースならシイガイズの製品、企業ユースならシーエフ・カンパニーの製品といったところになりそうだ。
Windowsのワイヤレスネットワークに似た設定画面の「WL6204-512」 | IEEE 802.1Xにも対応しており、企業ネットワークでも利用可能 |
最後のハギワラシスコムの「HNT-MSW1」は、「MS WLANユーティリティ」というアプリケーションを利用しての設定となる。Pocket PCやWindowsのインターフェイスに慣れた身から見ると、多少、クセがある設定画面と感じられたが、丁寧に解説してあるマニュアルを参照すれば、設定にはさほど困らなかった。この製品もIEEE 802.1Xには対応していないが、個人で使うのであれば、必要十分な機能と言っていいだろう。
●実際の使い心地は?
さて、実際の無線LANの用途だが、これは大きく分けて2通りが考えられる。ひとつはブラウザやメールソフトを利用した一般的な通信、そしてもうひとつがPCとの同期だ。
まずは、ブラウザやメールソフトを利用した一般的な通信だが、これは期待ほどの速度が得られなかった。Webブラウジングは、アクセスしてからページがすべて表示されるまでにかなりの時間がかかる。印象としては、PHSなどで通信している場合とさほど差がないと思えた(PocketPCの場合。CLIEはブラウザが添付されていなかったため未検証)。
FTPなどによる速度テストは、残念ながらPDA向けのソフトウェアを見つけることができなかったため、速度が出ない理由は推察するしかないのだが、おそらくは本体、もしくはブラウザの処理能力が大きく関係しているのだろう。確かに無線LANの利用によって、家の中などで、気軽にWebブラウジングを楽しめるようになるメリットは大きい。ヒマつぶしにWebを見るという程度なら、これでもかまわないかもしれないが、仕事で調べ物をしたいなどといった場合には、あまり向いているとは言えないだろう。
一方、PCとの同期については、かなり快適だ。Pocket PC、CLIEともに、PDA側からシンクロナイズを実行すれば、ワイヤレスでPCに接続されて素早く同期が完了する。試しに、ケーブルで接続した場合と同期にかかる速度を比較してみたが、ほとんど差はなかった。
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ただし、実質的な使い方を考えた場合、わざわざ無線LANで同期させるメリットがどこまであるかという疑問もある。同期させることだけが目的であれば、クレードルなどを利用した方が、快適かもしれない(クレードルに設置すれば自動的に同期される)。この機能にどこまで実用性を見いだせるかは、ユーザーの使い方次第といった印象だ。
なお、CLIEの場合は無線LANの動作が独特でなかなか興味深い。無線LANカードが装着されていても、明示的に接続操作をしない限りアクセスポイントには接続されないのだ。接続ボタンをタップしたり、HotSyncやメールソフトを起動すると、はじめて無線LANカードのLEDが光り、通信が始まる仕様になっている。
詳細な仕様が不明なため、これはあくまでも予測に過ぎないが、もしかすると接続していない間は電力をかなり押さえている仕様になっているのかもしれない。Pocket PC用の製品でも省電力の設定は可能だが、実際の動作を見る限り、ネットワークに接続していない状態でも無線LANは常にアクティブになっているように見える(待機電力自体は10mA程度と少ないが……)。こういった点はモバイルユーザーにはありがたい仕様だろう。
●投資に見合う効果はあるか?
以上、SDIOとメモリースティックIOの無線LANカード3製品を検証してみたが、確かにPDAをワイヤレスで利用できるメリットはあるものの、個人的にはブラウザの速度などが気になるため、残念ながら、積極的に欲しいとは思えない。
価格もそれほど安くはない。シー・エフカンパニーの「WL6204-512」が15,540円(同社直販サイト)、シイガイズの「SD-Link11b」が12,600円(同社直販サイト)、ハギワラシスコムの「HNT-MSW1」が18,500円(標準価格)と、1万円を超える投資が必要になる。社内LANに接続して仕事に使うというような目的であれば、この投資は高くはないと思われるが、実際に買うかどうかは、PDAへの依存度次第といったところだろう。
関連情報
2004/5/18 11:11
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