第331回:ウィルコム「どこでもWi-Fi」
W-SIM搭載のモバイル無線LANルータ
ウィルコムの「どこでもWi-Fi」は、インターネット接続にPHS通信モジュール「W-SIM」、電源に三洋電機の「eneloop(エネループ)」を採用したモバイル型の無線LANルータだ。その通信速度やバッテリの持ちなどを検証した。
●携帯型ゲーム機もオンラインの時代に
どこでもWi-Fi |
想定以上の反響により、当初の2月19日から3月5日へと発売日が延期(関連記事)されたウィルコムの「どこでもWi-Fi」。製品としては、持ち運び可能な無線LANルータとなる。
同様の製品は、イー・モバイルの回線を利用する製品がすでに発売されているが、本製品は回線に「W-SIM」、電源に「eneloop」を利用し、頭金4800円+月額料金1980円で利用し放題になる点(W-VALUE SELECTの場合)など、個性的な機能+サービスで高く注目されている製品だ。
その用途は、主にゲーム機が想定されており、ニンテンドーDSやPSPなどから無線LANで「どこでもWi-Fi」に接続。内蔵するW-SIMによるインターネット接続を利用するという使い方となっている。
例えば、ニンテンドーDSの「マリオカートDS」や「どうぶつの森」などが通信機能に対応している。このようなゲームの対戦機能、通信機能を外出先でも手軽に利用できるのが、今回の「どこでもWi-Fi」というわけだ。
●無線LANは11b/gに対応。AOSSによる設定もサポート
eneloop用の充電器とほぼ同じサイズ |
というわけで早速、本製品を検証していこう。なお、今回のテストに利用した製品は発売前の試作品であり、製品版とは若干設定や動作、性能が異なる可能性がある。また、速度などの値も通信環境によって異なるため、あくまでも参考として考えて欲しい。
まずは外観だが、大きさは70×31×110mm(幅×奥行×高)で、重さは約270g(電池込み)。サイズとしては非常にコンパクトで、電池として採用する「eneloop」の充電器とほぼ同サイズ。カバンにすっぽりと納まるのはもちろん、無理をすればジーンズのポケットにも入れておくことができる。
操作系は極めてシンプルで、本体上部にスライド式の電源スイッチと無線LAN接続用のAOSSボタンが用意されるのみ。LEDも上部に無線、通信、PHS接続、電源の状態を示すものが4つあるだけとなっている。
本体側面 | 背面 |
本体操作はシンプル。一度設定してしまえば以降は電源を入れるだけで利用できる |
無線LANの設定はAOSSで簡単。マルチSSIDには対応していない |
本体部分はバッファローが開発し、無線LAN規格はIEEE 802.11b/gに準拠する。AOSSに対応した機器であれば、機器側で接続設定を開始し、その後、本体のAOSSボタンを長押しするだけで、暗号化設定を含めた無線LAN設定がほんの数十秒で完了する。
もちろん、PCからの接続も可能で、接続後に「http://192.168.11.1(もしくはhttp://buffalo.setup)」にアクセスすれば設定画面を表示できる。
設定画面は、詳細設定が可能なPC用画面に加え、状態確認と接続/切断、ファームのアップデートなど、モバイル用の簡易設定画面の2種類が用意されている。
無線LANはマルチSSIDにこそ対応していないが、暗号化の手動設定が可能なほか、MACアドレスフィルタリングも利用できる。また、ルータ側でもフィルタリングやポートフォワードなどの設定が可能だ。
暗号化については、WPA-PSK(TKIP/AES)、WPA2-PSK(TKIP/AES)、WPA/WPA2 mixed PSK、WEP(128/64bit)をサポートする。ただし、WEPのみをサポートするニンテンドーDSを接続する場合には、WEPを選択せざるを得ない。PHSの最大204kbpsという速度もPCでの利用にはネックだが、WEPの脆弱性が指摘されている以上、PCでの接続には注意が必要だろう。
バッファロー製品と同様の設定画面 | ゲーム機のブラウザなどから簡易設定が可能 |
●RTTの短さに特徴。通信速度は実測70kbps台
とりあえず、手元にあったニンテンドーDSで「マリオカートDS」をプレイしてみたが、オンライン対戦を実に快適に行なうことができた。
マリオカートDSからAOSSで接続 | オンライン対戦でもまったく問題ない |
前述の通り、「どこでもWi-Fi」の通信速度は最大204kbps(無線LANは最大54Mbps)だが、オンラインゲームの場合、サーバー側とやり取りするデータは、ユーザーが入力した操作など、数十~数百バイト程度のごく小さなデータとなる。
このため、最大速度はあまり気にする必要がない。実際、「マリオカートDS」で問題なく通信できた同じ時間帯、同じ場所で、PCを利用して通信速度を計測してみたが下り72kbps、上り74kbps(speed.rbbtoday.comを利用)という結果を得られた。
このレベルの速度であれば屋内外問わず、しかも都市圏であればほとんどの場所で実現できるはずだ。つまり、PHSのエリア内であれば、ほぼ問題なく携帯型ゲーム機のオンラインゲームを楽しめると言えそうだ。
グラフ1:「どこでもWi-Fi」とイー・モバイルの回線速度 |
アダルトサイトや掲示板などにアクセスしようとすると接続がブロックされる |
一方、PCでWebサイトを閲覧するといった用途の場合は、ページが表示されるまでしばらく待つ必要があり、さすがにストレスを感じる。比較のため、イー・モバイル回線を利用して速度を計測してみると、下り1.62Mbps、上り319kbpsで、このくらい出ればPCでのWebサイト閲覧にもほぼストレスなく、利用できると言って良いだろう。
「どこでもWi-Fi」では有害サイトへの接続がネットワーク側でブロックされており、子供の利用に安心という長所があるが、速度的にPCでの利用は実用的とは言えない感じだ。
では、「どこでもWi-Fi」のネックは性能かと言うと、あながちそうとも言えない。最大速度では劣るものの、「どこでもWi-Fi」にはPHS網ならではの「往復遅延時間(RTT:Round Trip Time)」の短さという特徴がある。
具体的にどれくらの違いがあるのかをPingで比較してみたのが以下のグラフだ。通信場所、時間帯、相手先によって結果は変化するが、今回のテストではイー・モバイルの回線に比べて平均して100msほど短い応答が得られた。
今後の登場タイトルなどにもよるが、アクションゲームなどシビアなタイミングを要求されるゲームなどでは、この差が活きてくることがあるかもしれない。
グラフ2:RTTの比較 |
●フル充電状態で約3時間の動作を確認
電池での連続駆動時間の長さもゲームでは気になるところだ。本製品では電源に「eneloop」を4本利用しており、製品に充電器も同梱されている。「eneloop」がフル充電の状態で約2時間50分の利用が可能とされている。
電源には「eneloop」を4本利用する | 充電は「eneloop」用充電器を利用する |
実際に利用した場合に、どれくらい連続駆動が可能なのかをチェックするために、フル充電した「eneloop」を利用し、無線LAN接続したPCからインターネット上のサイトにpingを打ち続けるというテストをしてみた。
午前6時51分にテストを開始したところ、電池切れで「どこでもWi-Fi」が停止してpingの応答不能になったのが午前9時55分。無線LANとW-SIMの同時通信を絶え間なく実施したにも関わらず、実に3時間4分もの連続通信が可能だった。
もちろん、接続するクライアントの台数、通信環境、利用するソフトウェアなどによって駆動時間は変化するが、これなら外出中に時間がかかるRPGなどをプレイするのにも十分だろう。
こまめに電源を切りながら使えば、半日程度は外出先で使える可能性がある上、予備の「eneloop」を1セット持ち歩けば、1日フルに活用することすら夢ではなさそうだ。
なお、付属のACアダプタを利用すると、コンセントからの給電で利用できるが、この際は「どこでもWi-Fi」で「eneloop」の充電はできない。直接充電できない点は非常に残念だが、低年齢層の利用が想定される上、「eneloop」以外の電池を使用する可能性を考慮すると、安全上、致し方ないだろう。
●ゲーム機以外にもiPod touchやEye-Fiとの組み合わせも
このように、PCでの利用にはあまり向いてはいないものの、ゲーム機用としては非常に使い勝手が良い「どこでもWi-Fi」だが、PDAなどの機器との組み合わせにも便利だ。
例えば、無線LANの手動設定は必要になるが、「iPod touch」でも問題もなく接続できた。VoIPアプリ「fring」を利用すれば、Skypeによる通話も可能になる。
また、無線LAN機能を持つSDカード「Eye-Fi」を利用してデジタルカメラとの接続も試してみた。こちらも撮影した写真を意識せずに写真共有サービスにアップロードすることができた。
もちろん、上りが数十kbpsとなるため、大きめのサイズ、高画質設定で撮影した写真は、いつになったらアップロードされるのかと不安になるほど時間がかかるが、撮って、放っておけば、いつのまにかアップロードされているという手軽さを外出先でも手軽に味わえる(デジカメ以外にニンテンドーDSiとの組み合わせも良いかもしれない)。
iPod touchで利用可能となったfring。Skypeの設定をすればどこでもWi-Fi経由で通信が可能 | 写真のサイズによっては時間がかかるがEye-Fiの利用も可能 |
ここまでいろいろな用途に使えるとなると、頭金4800円、月額1980円というのは、決して高くはないかもしれない。この製品の登場が引き金になって、絶対的な通信速度を必要としない機器やソフトウェア、サービスが登場してくれば面白いことになりそうだ。
関連情報
2009/2/24 11:01
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