第332回:いよいよ始まったUQ ComのモバイルWiMAXサービス
気になるサービスエリアや通信速度を検証



 ついにサービスが開始されたモバイルWiMAX。下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsという規格の実力はどれほどのものなのか。今回は新宿、秋葉原、そして屋外、室内でテストを試みた。


他規格を上回る最大速度をうたう「モバイルWiMAX」

UQ WiMAXのUSBアダプタを装着したPC

 ADSLや光ファイバなどの固定回線から、ワイヤレスの世界へと広がることとなったブロードバンドの世界。現在利用する携帯電話との契約を継続してNTTドコモやauを使うか、イー・モバイルのサービスを新たに契約するか、それともUQコミュニケーションズが新たに開始したモバイルWiMAXサービス「UQ WiMAX」を利用してみるか……。果たしてどのサービスを利用しようかと悩んでいる人も少なくないのではないだろうか。

 現状、数Mbpsの通信を可能とするモバイルブロードバンドのサービスは、大きく4つに分けられる。各サービスともに端末の購入方法や割引サービスなどによって、実際はさらに複雑な料金プランに分けられるが、一般的で、かつ比較しやすいサービスを示したのが以下の表だ。


表1:各社の代表的なデータ通信サービス
NTTドコモauイー・モバイルUQ Com
プラン基本契約ベーシックコース*1
定額データプランHIGH-SPEED
フルサポートコース
WINシングル定額
スーパーライトデータUQ Flat
割引契約定額データ割*2新にねん-
契約条件2年契約2年契約2年契約-
速度下り7.2Mbps3.1Mbps7.2Mbps40Mbps
上り384kbps1.8Mbps1.4Mbps10Mbps
プロトコル制限一部ありなしなしなし
月額料金下限4200円3150円1000円4480円
上限6720円6930円4980円
定額外パケット通信料0.0126円/パケット0.0525円/パケット0.042円/パケット-
ISP料金840円(mopera U)945円(au.net*3)不要-
*1:N2502および905iシリーズ以降に発売されるHIGH-SPEED対応の指定機種ならバリューコース(月額3465~5985円)での利用が可能
*2:au携帯電話契約がある場合はWINシングルセット割の利用で下限2835円/上限6615円
*3:申し込み不要。利用月のみの請求。ISP提供サービスによっては固定回線契約のオプションとして無料で利用可能な場合もあり

 最近ではネットブックとの組み合わせで契約者数を伸ばしつつあるイー・モバイルの存在が目立つが、いずれも携帯電話の技術を応用したものとなっており、下り最大3.1~7.2Mbps、上り最大1.4~1.8Mbps程度の通信を、月額5000~7000円前後で利用できるサービスとなっている。

 携帯電話については、NTTドコモとauが電話端末向けのパケット通信定額制サービスの上限(1万3650円)がPC接続時にも適用されるようになった(NTTドコモは2009年4月から)。ただ、これらも速度的には上記サービスと同じになる。


表2:携帯電話向け定額プラン利用サービス
NTTドコモ
(2009年4月より)
au
対象プランパケ・ホーダイ ダブルダブル定額ライト
ダブル定額
パケット割WINミドル
パケット割WINスーパー
上限金額1万3650円1万3650円
パケット通信料0.021円
(PCなどで5985円を超えた場合)
0.084円(ダブル定額ライト)
0.0525円(ダブル定額)
0.02625円(パケット割WINミドル)
0.01575円(パケット割WINスーパー)
ISP必要必要
対応機種上記サービス対応機種
*プロトコル制限なし
W63H/W63CA/W64SH/CA001/H001/P001
/SH001/T001/Walkman Phone/Premier3

 これに対して、2月26日にUQ Comが開始した「UQ WiMAX」は、下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsと、規格上の速度では他のサービスを頭1つリードしている。また、利用料金も月額4480円(料金プランは「UQ Flat」のみ)と定額制で、他と比べて若干安い設定になっており、契約期間の“縛り”もない。

 ADSLに対しての光ファイバがそうだったように、後発サービスが一定シェアを獲得している先発サービスを追従する場合には価格はもちろん、品質で圧倒的な優位性を示す必要がある。この品質をどう捉えるかに関しては後述するが、規格上の速度という側面では、この条件を一部クリアしているというわけだ。


サービスエリアの確認は公式サイトのエリアマップが有用

UQ WiMAXサービスエリア
http://www.uqwimax.jp/service/area/

 それでは、実際に「UQ WiMAX」のサービスについて見ていこう。なお、端末の種類や使い勝手に関しては、ケータイWatchにて詳細なレビューが掲載されているので、そちらを参考にして欲しい(掲載URL)。本コラムでは、実際に外出先で利用した際のエリアと速度を中心に紹介する。

 まずはエリアに関してだが、サービスが開始されたと言っても、現状は「お試し期間(2月26日~6月30日)」と位置づけられている。このため、期間中は登録料2835円と月額料金4480円は発生しない。また、利用可能なエリアは東京23区と神奈川県横浜市、川崎市の一部に限られている。

 では、実際にどこで使えるのかを判断するにはどうすれば良いのかというと、同社が公表しているサービスエリアマップで確認するのがもっとも確実だ。

 このエリアマップ。なかなか正確で、通信“できそうもない”場所を判断するのにとても役立つ。実際にエリアマップを見ると、2009年2月時点のサービスエリアがオレンジ色、9月末までに拡大予定のエリアが黄色で表示されている。サービス提供中のオレンジの中にも、かなりの数で黄色いエリアがあることが確認できる。

 この黄色のエリアの中、もしくはその周辺は要注意だ。現状、端末を持ち込んでも通信できる可能性はかなり低く、万が一、接続できたとしても速度はかなり低い。

 例えば、新宿駅近辺をマップで確認すると、駅の北側から東側にかけてはオレンジ色に塗られている一方で、西側や南側に黄色いエリアがわずかながら存在する。

 以下の画面は、実際に新宿駅南口の前で「UQ WiMAX」を利用したときの状況だ。かろうじてエリア内に入っているようだが、ユーティリティで確認した際のアンテナの本数はわずか1本で、「speed.rbbtoday.com」で計測した実効速度もわずか445kbpsとなっている。


新宿駅近辺。西と南側に黄色い未対応エリアが広がる新宿駅南口での計測結果。電波も弱く、速度も低い

 東京23区でサービス開始となれば、その中心的なエリアである新宿などでは使えて当たり前という感覚を持つかもしれない。しかし、実際にはエリア内でもまだ細かな“穴”があり、そこでの利用はかなり厳しい状況となっている。

 実際、筆者宅も23区外ではあるものの、エリアマップで見るとオレンジのサービス範囲の中に含まれている。しかしながら、新宿の場合と同様に、黄色いエリア外が筆者宅近辺にうっすらと広がっており、マップ通り黄色い部分ではまったくリンクさせることができなかった。

 エリアであっても、実際に通信ができるかどうかは、基地局の設置状況や周辺の環境(高い建物など)に大きく左右される。近くに黄色いエリアがある場合は、現時点で利用が難しい可能性を留意したほうが良いだろう。


エリア内であれば建築物の中でも高速通信を確認

 それでは「UQ WiMAX」の利用は現時点で厳しいものかと言うと、決してそうとも言えない。以下は、マップで確認してもオレンジで塗りつぶされたほぼ中心に位置している秋葉原で計測した結果だ。


秋葉原駅近辺。オレンジのサービスエリアのど真ん中に位置する秋葉原駅前での測定結果。7Mbpsオーバーを計測

同地点でのPingの結果

 駅を出てオフィスビルへと続く見通しの良い歩道橋の上で計測してみたところ、下りで7.3Mbps、上りで811kbpsでの通信が可能だった。

 速度は状況によって変化するため、下りは3~7Mbps、上りは800kbps~1Mbpsの範囲で変動した。しかし、秋葉原地区に関しては非常に電波の状況が良いようで、かなり安定して高い速度での通信が可能だった。

 もちろん、下り40Mbps/上り10Mbpsという規格を考えると物足りないところではあるが、他のモバイルブロードバンドサービスと比較すると、実効速度ではかなり優秀だ。同様に、同じ地点でPingを測定してみたが、サーバーからの応答も100ms台で安定しており、かなり良好であった。


秋葉原のビル1階(UDX)ロビーでの計測結果。建物内でも問題なく通信可能

 特筆すべきは、このように安定して通信できるエリア内であれば、建物の中でも問題なく通信できる点だ。

 右の画面は、JR秋葉原駅前にあるUDXというビルの1階ロビーにて計測した値だ。このロビーはガラス張りで外からの見通しが良いが、下り3.38Mbps、上り900kbpsの速度での通信ができた。同じビルでも、後述する見通しの悪い場所の方が結果が良いが、もしかするとガラスに何らかの加工がなされているなど、建材が影響している可能性も考えられる。

 今度は同じビルのエスカレーターを上り、4階で計測してみた。4階はレストランなどの店舗が入居するエリアで、中から外を見通せる場所は1カ所の入り口のみと電波的な状況はあまり良くない。実際、ユーティリティ上でアンテナは2本しか表示されなかったが、実効速度は下りで6.27Mbps、上りは629kbpsと屋外とさほど遜色のない速度をマークした。

 圧巻は秋葉原のとあるショップ内での計測だ。当日、イベントでの仕事でショップビルの3階で講演をしていたのだが、見える範囲に窓のない締め切られた環境でも下り7.46Mbps、上り124kbpsでの通信が可能だった。このため当日のイベントでは、オマケとして「UQ WiMAX」を利用したWindows Home Serverへのリモートアクセスをデモすることができた。


同ビル4階での測定結果。外からの見通しが悪い場所でも通信可能非常に見通しが悪いビル内でも通信可能。ただし、受信強度は低く、上りが遅くなる傾向が見られた

 つまり、当たり前ではあるのだが、現状の「UQ WiMAX」は、通信可能なエリアから少しでも外れると使用は厳しいが、対応エリアに入っていれば屋内外を問わず通信できる可能性が高いことになる。

 もちろん、屋内の場合、ユーティリティのアンテナの数は少なくなり、どうやら上りが犠牲になる傾向が強いが、下り速度はあまり影響を受けることなく、通常の利用は快適だ。屋内に弱いというモバイルWiMAXの特性があるのは事実だが、現状はそれよりもむしろ電波状況の方が大きく影響すると考えた方が良さそうだ。


料金、速度に加え、エリアの充実もサービス品質の鍵に

 以上、サービスが開始されたばかりの「UQ WiMAX」を実際にテストしてみたが、速度を見る限り、その潜在能力は高そうではあるが、まだまだ実力を発揮できていない状況と言えそうだ。

 公称で下り40Mbps、上り10Mbpsというサービスである以上、実効速度は下り10Mbps、上り2Mbpsは欲しいところである。これくらいの実効速度が得られれば、他のモバイルブロードバンドサービスの規格上の上限速度を上回るため、明確な差異化が図れるからだ。

 しかし、冒頭でも触れたように、現時点で速度=品質というわけではないのは明らかだ。また、こうしたモバイルブロードバンドサービスの品質は、速度に加えて、エリアの広さも非常に大切な点だろう。エリアが広ければ、どこでも安心して使えるうえ、電波状況の改善などにより速度も高くすることができる。

 ここに料金の概念を加えて、「月額料金/実効速度×エリア(人口カバー率)」などで係数を算出すれば、サービスの実力を判断する簡易的な係数としても利用できそうだが、今のところエリアが狭いため、いくら高速な通信が可能で、料金が安価だとしても、使い勝手は悪くなってしまう。

 エリアの広げ方に関しては、首都圏から北海道、東北、中部、関西、九州と主要都市を中心にエリアを拡大する一方で、現状の通信不可能な穴を埋めていくという作業が非常に重要となる。7月までにエリア拡大を予定する東名阪以外のユーザーも早く使いたいと考えるかもしれないが、サービスエリアが中途半端な状態よりも、確実に使える体制が整ってからサービスが開始された方が幸せなので、もうしばらく待った方が良さそうだ。

 なお、本サービスは、事前に募集されたモニターサービスの当選者はもちろんのこと、モニター抽選に外れた人、およびエリア外の人であっても端末を購入(1万2800~1万3800円)すれば、モニターと同様に登録料と月額料金不要でサービスの利用が可能だ。ただ、繰り返しになるが今のところサービスエリアが限られているため、利用可能なエリアをよく確認してから申し込むことをおすすめしたい。


関連情報

2009/3/3 11:04


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。