イベントレポート
第23回東京国際ブックフェア
デジタル出版市場の未来を切り開く挑戦者たち
2016年9月26日 12:00
東京ビッグサイトで9月23日から25日まで「第23回東京国際ブックフェア」が開催された。今年から事業者向けの展示がなくなり、多くのブースが読者向けに本の割引販売を行うイベントとなった。また、昨年まで併催されていた「国際電子出版EXPO」がなくなり、ごく一部のスペースが「電子書籍ゾーン」として残されるにとどまっていた。
そんな中にありながら、電子書籍のブラウザービューアー「BinB」や個人で利用できる電子出版ツール「Romancer」などを提供する株式会社ボイジャーのブースは、さまざまなゲストがステージに登壇し興味深い話を披露、賑わいを見せていた。本稿ではそのトークイベントから、NTTソルマーレ株式会社「コミックシーモア」の加藤公隆氏、株式会社集英社デジタル事業部の岡本正史氏、マンガ家・佐藤秀峰氏のステージをダイジェストでレポートする。
老舗「コミックシーモア」のきめ細かな電子書店運営
「コミックシーモア」は、2004年にサービスを開始した老舗電子書店。34万冊を配信しているが、コミックだけでなく文字モノの比率も増えている。月間800万人が利用し、63.2%が女性、年齢層は20~30代が中心。以前はBL・TL・オトナ向けなどが売れ筋だったが、最近では少年・青年・少女・女性向けのいわゆる「メジャー」なマンガの販売比率が増えてきている。
「コミックシーモア」の特徴は、ケータイ時代から12年間の累計で2000万人に利用されている「お客様の支持」と、毎日更新しお客様を飽きさせない「サイト運営力」と、手軽に読めるブラウザービューアー(ボイジャー「BinB」を採用)や2年前から先行して実施している読み放題サービスなど「変化への対応力」の3つ。
サイト(お店)運営では職人集団が、どこに・何を掲載するか考える「商品陳列」のチーム、メールなど「来店施策」を企画調整実行するチーム、セールやキャンペーンなど「販売施策」を企画調整実行するチーム、サイトのページを「制作構築」するチームに分かれ、なんと月間400本以上のキャンペーンを展開しているという。
また、今後の取り組みとして、会員の裾野拡大と、差別化・独自性の追求の2点を挙げた。特に後者では、深い知識やノウハウを活かし、例えば男女別・年齢別の作品訴求や、個々の趣味嗜好に沿った作品紹介を行っていくことを検討しているそうだ。
URL
- コミックシーモア
- http://www.cmoa.jp/
Twitterと動画で集客する集英社のマンガキャンペーン
集英社デジタル事業部では、アプリとウェブによるコンテンツ配信やプロモーションを担当。ウェブではボイジャーとともに、これまでもさまざまな企画を行ってきた。例えば2013年4月と5月に行った『キングダム』10巻無料試し読みキャンペーンでは、ブラウザービューアー「BinB」を活用している。なお、『キングダム』は2015年に「アメトーク」で紹介されたことにより大ブレイク、現在の紙版発行部数はシリーズ2500万部を突破しているが、デジタル版も520万部とかなりの比率を占めている。
現在は、秋のデジタルマンガキャンペーン「秋マン!!」を開催中で、「集英社マンガネット」のTwitterアカウントで動画広告を投稿している。書店の減少に伴いマンガへ物理的に接触する機会が少なくなってきているので、スマートフォンを通じてできるだけ多くの人にマンガを読んでもらうのが狙いだ。
モバイルの普及に伴い「5秒待てない」人が増えており、Twitterへ試し読みページのURLを流してもなかなか見てもらえない。そこで、タイムライン上ですぐ観られる動画広告を配信することにしたのだという。「秋マン!!」で公開しているすべての作品に、15秒以内でマンガの内容がざっと把握できる動画が用意されている。
ただ、さすがに高クオリティの動画作成には相当な手間とコストがかかってしまうため、専用ソフトを必要とせず簡単に動画作成できるボイジャーの「Power Thumb」を利用したのだという。フィーチャーフォン時代のコマ送りマンガ作成ノウハウを活用しているため、スタッフが「懐かしい」と感じているそうだ。
まだ、「秋マン!!」開始から1週間ほどのログしかとれていないが、スマートフォンからのアクセスが85%と非常に高く、また、Twitterで動画を流している『テラフォーマーズ』1巻のアクセス元はTwitterの比率が高いという。
URL
- 秋マン!!
- http://akiman.jp/
- 「集英社マンガネット」Twitterアカウント
- https://twitter.com/s_manga_net
「マンガ家になってからいまが一番儲かってる」
『海猿』『ブラックジャックによろしく』『特攻の島』などのヒット作で知られるマンガ家・佐藤秀峰氏は、オンラインマンガサイト「漫画onWeb」や電子取次「電書バト」などのサービスも運営している。取次事業を始めたのは、出版社を通じた電子出版だとどうしても作家の取り分が少なくなってしまうからだという。
紙の本とは異なり、電子書籍は値付けが自由。2月に「楽天Kobo」で1冊11円セールを実施したが、1つのストアで売れて話題になると他のストアでも売れ、勝手に値下げをするストアや、値下げ分のロイヤリティを補填してくれるストアもあり、すべてのストアで売上が10倍くらいになったそうだ。
紙の本は、書店の売り場面積が決まっているので、新刊以外はほとんど並べられない。そして、出版点数は90年代の倍くらいになっているため、1冊あたりの販売部数は減少傾向にある。ところが電子書籍は「売り場の面積」を気にする必要なく並べられるため、古い作品でも検索で見つけてもらえる。うまく話題を作り、適切な値段で提供すれば、多くの読者へ届けられるのだという。
従来の紙の出版は、他に手段がないため作家と出版社は切り離せない関係だった。いまでは複数の選択肢があるので、作家にとって出版社は「なくてはならない存在」から「パートナーの1つ」に変わりつつあるのだと佐藤氏。今年は事業の運営が忙しいためマンガを描く量が減ってしまい、デビュー以来初めて単行本が出ていないが、マンガ家になって以来いまが一番儲かっているそうだ。
URL
- 電子書籍は漫画家の希望となるか? | Romancer
- https://romancer.voyager.co.jp/160922_tibf-shuho_sato
- 漫画onWeb
- http://mangaonweb.com/