イベントレポート

Internet Week 2014

“インターネットガバナンス”のもやもや、どう関与していけばいいものやら

 11月後半に秋葉原で開催された「Internet Week 2014」は、インターネットのあり方への関心の高まりを受け、そのテーマを「あらためて“みんなの”インターネットを考えよう」と設定された。インターネットを現場で支える人々にとっての“インターネットガバナンス”とは何か? ここでは、Internet Week 2014における“インターネットガバナンス”にスポットを当てて報告する。

複雑な“インターネットガバナンス”

 インターネットガバナンスは、極論すると「今後のインターネットをどのようにしていくか」という方向性を決めるものである。かつては、インターネットを作ってきた人々による協調が中心にあり、インターネットが安定的に接続され運用されるためにはどうすればよいかといった内容がその主題だった。

 しかし、近年のようにインターネットに関係する人々が増えてくると、単に安定した接続や運用だけでなく、そこにさまざまな思惑が入り込んでくる。ビジネスに関する話題、セキュリティやプライバシーといった身近な議論だけでなく、さまざまな国が自国の利益を優先しようと国連やITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)などの場を使って政治的な駆け引きを行ってくるのはそのためだ。

 2012年12月にアラブ首長国連邦のドバイで行われた世界国際電気通信会議(WCIT-12)において、国によるインターネット管理強化を主張するブラジル、ロシア、中東、中南米、アフリカ、中国などの国々と、情報の自由な流通を主張する日本、米国、欧州との間で対立があったことは記憶に新しい。

 最近では2014年10月20日から11月7日まで韓国の釜山において国際電気通信連合全権委員会議(PP-14)が開催され、今後の活動に影響を与える可能性があるとして注目されていたITU憲章・条約の改正は行われないこととなった。これにより、ITUは現行の憲章・条約の下で引き続き国際電気通信の分野における任務を果たすことになったわけだが、ITUや国のインターネット政策関与のあり方についての議論はずっと続いている。

 また、2014年3月には、米国商務省電気通信情報局(NTIA)がインターネットのドメインネームシステム(DNS)に関して担っていた役割を、グローバルなマルチステークホルダーコミュニティに移管する意向を明らかにしている。NTIAが持っているIANA機能に関する監督権限とは、ルートDNSの管理、IPアドレスやAS番号資源の管理・分配、技術的プロトコル番号の割り当て調整などに対するもので、インターネットにとって非常に重要な部分を占めるものである。そのため、各所でさまざまな議論が交わされている。

 このあたりの詳細については、一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が事務局をしている「日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)」のサイトが詳しいので、ぜひ参照してほしい。また、IGCJ発足の際には弊誌でもレポートを行っている(本記事末に掲載の関連記事を参照)。

 現状では、IANA機能に関する監督権限の行方が技術者にとっての大きな関心事だが、それはインターネットガバナンスにおける1つの面に過ぎない。ガバナンスに関する話題の幅はあまりに広く、議論の場もICANN関連だけにとどまらず、国連やITUなど多岐に渡っていることも複雑さを増す要因となっている。

広さゆえの“もやもや”がぬぐえない

 そのような事情もあり、インターネットガバナンスという言葉から連想される考えや想いは、立ち位置や視点によって大きく異なる。Internet Week 2014で、インターネットガバナンスに関する議論がプログラム上にはっきりと見えたのが、11月21日に行われた「IP Meeting 2014〜あらためて“みんなの”インターネットを考えよう〜」 である。

 「IP Meeting」とは、インターネット黎明期に日本においてネットワークを相互接続する際の技術的課題について議論し、調整するための場だった会合の名前である。当初は、実際にネットワーク接続の実務を行っている人々のための会合だったが、その後、ネットワーク接続の広がりに伴い、新規参入者に向けたネットワーク接続のための情報や最新動向などの情報提供も行うようになった。そのことがInternet Weekを生み出す背景になった(そうしたことから、IP MeetingはInternet Weekを生み出した母体と言ってよい)。

 そのような、インターネットの実運用にかかわる技術者が多く集まるIP Meetingにおける話題として選ばれたのは、「ビジネスの観点から見たインターネットガバナンス」と「パネルディスカッション あらためて“みんなのインターネット”を考える〜震災から3年、東京オリンピック・パラリンピックに向け、みんなで作る未来のインフラ〜」だ。

 ここでは前者の「ビジネスの観点から見たインターネットガバナンス」を中心に扱うことにする。

 このセッションでは、エンジニアが知っておくべき「インターネットの流儀の実ビジネスへのインパクト」や「インターネットの流儀への疑問」という話題が設定されていた。モデレーターの橘俊男氏(ISOC-JP)によると、インターネットの流儀とは、例えばルールなどの策定方法について「投票によらずコンセンサスを形成することでさまざまなことを決めてきた」といった独自のやり方を指すようだ。

 さまざまな利害関係者が平等に参加し、さまざまな意思決定や合意の形成などを行うマルチステークホルダーモデルによる課題解決型のガバナンスは、人々にどのように見えているのだろうか。また、多様な場所で議論される現状や、政治的な駆け引きなどはどう受け取られているのだろうか。そして、その答えとは、どのようなものなのだろう?

 ソニー株式会社の筒井隆司氏からは、インターネットに対して国家のルールが入ってくるとイノベーションが阻害されるかもしれない、各国でバラバラなルールになっていくとデータ流通が円滑にできなくなるのではといった懸念が示され、ルールをどうやって書いていくべきか、静観しているだけでは正しいルール作りは難しいのではないかといった話題が投げかけられた。

 ソネット株式会社の百崎知氏からは、新しい技術や規格の策定、インターネット資源といった技術的な面だけでなく、ネットワーク中立性や脅威への対策といった幅広い話題があることが述べられ、東日本電信電話株式会社の水越一郎氏からは「インターネットガバナンスと言っても響かない」という話が述べられた。

 話題としては、インターネットガバナンスに対する考え方や向き合い方、その労力や影響範囲といったことに関するものが主体だが、個々の内容は話者固有の話であったりもする。むしろ、興味深い点は、発表者として壇上にいる人でさえ「全体がよく分からない」と言っている点であろう。これは、先に述べた、対象となる話題の範囲の広さや、議論の場が多岐に渡っていることが影響していると考えられる。

 それを裏付けるように、筒井氏は、やたらとインターネット関連の会議が多いこと、意見などは会議で別々であること、言いたい人が言っているという印象があることなどを述べ、百崎氏は「どこで誰が何を話し合っているか分からない」、水越氏は「カバー範囲が広すぎて、どれがどれだか」というように、その不明瞭さが問題となっているようだった。

 全体が不明瞭であることの直接的な影響は、「個人的には興味があるが、そこに参加しようとすると、どこで何をやっていて、結果として何が得られるということを会社に説明できない」ということだろう。つまり、仕事の一環としての参加がしづらいということになる。

 現状においてインターネットガバナンスはもやもやしたものであり、ある程度やってきている人でさえその全容を理解することは容易ではないということは明らかだが、では、関心のある人はどのようにすればよいのだろうか。

“インターネットガバナンス”とどのように付き合うか

 橘氏は、インターネットにかかわるのは非常に多面的であるとし、Google、Facebook、Yahoo!などを例に上げながら、エンジニアはIETFや各方面のNOG(Network Operators' Group)といった場所へ行き、技術的な話をしたり、企業所属弁護士がICANNに行き商標などをどう扱うかといった話に参加していることを紹介した。それと同じようなことができるかということが、インターネットガバナンスへの関与度合いを左右することになるのだろう。

 ただし、橘氏が例に挙げたような企業は十分に巨大で、インターネットに関する技術や政策に対してのロビー活動、各方面との交渉や関係するフォーラムに人を送り込むだけの力があることも事実である。日本でもIETFやNOGに技術者を送り込んでいる組織はそれなりにあるが、その際の範囲や規模の大きさという点が差になっている。

 これらの議論から見えてくるものは、インターネットガバナンスは、立ち位置や視点によって異なる課題を扱うものだと考え、関心のある部分、関与可能な部分に絞ってかかわって行くのがいいのかもしれないということだ。ざっと考えても、

  • 安定した接続と運用を実現するためにガバナンスを考える人々(技術者)
  • 自身の利益(国益? ビジネス?)を考える人々
  • 技術だけでは解決できない問題を提起する人々

というように実に多彩である。

 重要なのは、他人事と考えないことだろう。ルールが出来て、それが自分たちにどのような影響を及ぼすのかを念頭に置きつつ、前向きな議論を重ねていくことこそ必要なことではないだろうか。

 余談めくが、例えば「DNS DAY」における株式会社日本レジストリサービス(JPRS)の宇井隆晴氏の発表のように、Internet Week 2014の他のプログラムにおいてもガバナンスに関連する話題は出されていた。宇井氏の発表は、新gTLDの現状レポートのほかに、すでに次回の新gTLD募集の話題が出ていることや、総務省ドメイン名政策委員会が「DNSサーバーの運用」について電気通信事業に該当する可能性を検討しているといった内容である。

 新gTLDが今後どうなっていくか、国内の施策がどうなっていくのかといった話題も十分にガバナンスになりうるのだ。

一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンターの前村昌紀氏
総務省情報通信国際戦略局国際政策課の米子房伸氏

 最後に、今回のInternet Week 2014の期間中に実施された「第4回日本インターネットガバナンス会議」について簡単に取り上げる。

 JPNICの前村昌紀氏による「IANA監督権限の移管に関するアップデート」では、IPアドレスやAS番号といった番号資源については大きな変化は無いが、ドメイン名に関しては「IANA監督権限移管」と「ICANN自身の説明責任」の関連に整理が付けられ、ICG(The IANA Stewardship Transition Coordination Group)への提案提出期限に間に合わせるべく活動を継続しているといったことが伝えられた。

 総務省情報通信国際戦略局国際政策課の米子房伸氏による「ITU全権委員会議(PP-14)の
結果概要について(インターネット関連)」では、10月20日から11月7日まで韓国の釜山で開催された「ITU全権委員会議(PP-14)」の報告が行われた。これについては公開資料を見ていただくのがいいが、インターネット関連の主な論点などを見ると、ITUの場でさまざまな議論や駆け引きが行われていることがよく分かる。

今後の予定

 これらの資料に関しては、すでにJPNICのサイトで公開されているので興味のある方はぜひ参照してほしい。

 繰り返しになるが、重要なのは、他人事と考えないことである。出来ること、出来ないことはもちろんあるが、関心を持って見ていくことが重要であると感じたInternet Week 2014だった。

(高橋 悟)