インタビュー

“おとな世代”だってSNSを活用して交流を楽しんでいる――「趣味人倶楽部」が50代・60代に人気

 「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」をご存じだろうか。株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)が運営するSNSで、クラブツーリズム株式会社との共同事業として2007年12月にスタートした。月間アクセス数は2億6000万PV、月間ユニークユーザー数は約92万人に上る。

 登録会員数は32万人を超え、サービス開始から7年経った現在も日々増加しているという。最大の特徴は、中高年齢層に強く支持されている点だろう。会員の約70%を50代以上が占めるという(40代以上であれば85%)。会員の平均年齢は56歳。女性は50代前半から後半という子育てから手が離れた層、男性は50代後半から60代前半という定年間近の層が中心となっている。

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 趣味人倶楽部の収益モデルは広告と旅行販売だ。50代以上の会員のEC利用率は94%に上る。8割以上の会員が金融資産や不動資産を保有、持ち家率も9割以上であるなど、取引先企業からは「シニア向け媒体としてだけでなく、富裕層向け媒体としても効果が高い」と評価を得ている。

 そんな“おとな世代”に支持されている趣味人倶楽部の利用状況について、中高年齢層の情報リテラシー面などもあわせ、DeNAの増田淳氏(EC事業本部、趣味人倶楽部担当)に話を聞いた。

“おとな世代”に受け入れられた理由

株式会社ディー・エヌ・エーの増田淳氏(EC事業本部、趣味人倶楽部担当)

 DeNAといえば「Mobage(モバゲー)」や横浜DeNAベイスターズの印象が強いが、同社のスタートはオークションサービス「ビッダーズ」(現在の「DeNAショッピング」)であり、趣味人倶楽部の誕生前はMobageやECサイトを中心に若年齢層から30代くらいまでを対象としたサービスを行っていた。

 そんな中で「今後はもっと上の年代に向けたオンラインサービスを提供したい」とサービスを開始したのが趣味人倶楽部だ。DeNA創業者で現取締役(当時は社長)の南場智子氏とクラブツーリズムの代表が話し合い、意見が合致してスタート。クラブツーリズムの旅行情報誌「旅の友」とDeNAの持つオンラインサービスのノウハウを持ち寄って最大化することを目指したという。

 趣味人倶楽部の誕生前の2005年ごろから、団塊の世代が定年退職を迎えるのに合わせ、多数のシニア向けサービスが誕生した。ところが、団塊の世代の多くが仕事を継続したこと、さらには2008年のリーマンショックを受け、そのころに誕生した多くのサービスは消えてしまった。そんな中、趣味人倶楽部が選ばれ、生き残った理由は何なのだろうか?

 「意識したのは、シニア向けという先入観を持たないということ」と増田氏。今の50代以上は昔より若い。“シニア”というと人によって抱くイメージに相違があり、シルバー世代を想像してしまう方もいるのが実情だが、もっとずっと若く、週に2、3日は働いている人も多い。趣味人倶楽部内には、「60代以上嵐ファンクラブ」「50代~90代までの『女性限定コミュ』で~す」といったコミュニティが会員によって設けられているが、寄せられている投稿を見ていると年代が分からなくなるほどだ。

 シニア向けを意識し、文字を大きくしたりページあたりの文字数を少なくしているサイトも多いが、趣味人倶楽部ではあえてそのようなことはしていない。「新聞を読み込んでいる世代なので、文字の大きさよりも読みやすさが大切。会員が日ごろ接している新聞や雑誌とトンマナ(トーン&マナー:全体の雰囲気に合わせること)が逸脱していないかを意識している」。

 サービスを開始した当初は、青いアンダーバーのある文字列がクリックできる(リンクが張られている)もので、イラストや写真は見るものと思い込んでいる人が多かったため、できる限りボタンは使用せずテキストリンクに変えるという工夫をしていたこともある。最近はそのようなこともせず、一般的なサイトと同様の作りにしている。「特別扱いしない方が気持ちよく使ってもらえる」というのが最終的な結論だ。

 サイトに掲載するイメージ画像でも、高齢者の写真は使っていない。トップページ画像に使っていた時期もあるが、会員から「そんな年じゃない」とお叱りのメールが届いて以来、使わなくなったという。「今の50代以上の方々は、実年齢より5~7歳若い印象」。

 来年40歳になるという増田氏は、おとな世代の感覚をつかむために約2カ月に1回の頻度でイベントに同行するなど、会員から意見・要望を聞く機会を設けるようにしている。「最近は、シニア世代に対する報道は自分事にとらえるようになってきた」という増田氏。サイトに関する重要な意志決定をする際の最終判断は「10年後、自分はこのサービスを使うか」だという。

イベントに参加して同じ趣味を持つ仲間との交流を楽しむ会員たち

 「趣味で会う(meet)」から「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」と名付けただけあり、写真や登山、カラオケやテニスなど共通の趣味を持つ会員が集まるイベント(オフ会)では、会員同士が直接会ってそれぞれの趣味を楽しんでいる。毎週どこかに出かけるきっかけを提供したいと考え、さまざまな場を用意しているのだ。

 日帰り旅行などの公式イベントも開催している。取引先と共同で定期的に「遺産相続セミナー」やタブレット教室、試食会なども実施しているが、運営側が何もせずともユーザー主導で月間約2000件のイベントが企画・開催されている。イベントの参加者は月間累計で約1万2000人程度、最盛期には約2万人になるという。

 会員主催のイベントのほかに、趣味人倶楽部が運営する「体験市場」コーナーでは、そば打ち、九谷焼ろくろなどの体験もできる。都心で週末に半日、あるいは3~4時間でできて5000円前後の費用で参加できるものが中心だ。

サイト上では個人情報やりとりNG

 交流の場を提供する一方で、24時間体制で違反行為をチェックしており、見つければ警告・削除も行っている。また、問題がある書き込みの通報機能も用意している。警告・削除されると、対象となった会員は自制するようになるという。「安心して使える雰囲気を大切にしている。『ネットは怖い』などと感じさせることは絶対にしないようにしている」。その結果、会員間のトラブルはほとんど起きず、自分たちで解決したり自浄作用が働いたりと、会員同士で解決する傾向にある。

 趣味人倶楽部では、会員同士の「ミニメール」を使ってメッセージのやりとりが可能だ。ただし、電話番号、メールアドレス、住所など個人情報のやりとりはできない。イベント開催時など緊急連絡先を公開する必要がある場合のみ、コミュニティの管理人だけが時間限定で公開できる仕組みだ。会員からは「厳しすぎ」と言われることもあるが、安心を優先させている。

 もちろん、イベントなどで会員同士が直接会えば、連絡先を交換することができる。ところが、「趣味人倶楽部経由の方がやりやすい」と、イベント後も会員同士はミニメールで連絡を取る傾向にあるという。

スマホからの利用が増加するも、PC画面がお気に入り

 おとな世代も、趣味人倶楽部の利用は抵抗なくできるらしい。「趣味で交流したいという目的が明確になっているので、ツールに対して敷居を感じていない。やりたいことがあると使いこなせるのでは」と増田氏。

 全体的に会員の朝は早く、午前中は6~8時にアクセスが集中。その後、ランチタイムになると仕事をしている人たちからのアクセスがあり、夜はまた20時前後にピークが訪れる。

 サービス開始直後は会員のうち男性が7割以上を占めていたが、徐々に女性の割合が増えてきた。現在、男女比は6対4。書き込みをする率は女性の方が高いため、書き込みを見ると男女比率は半々くらいの印象となる。

 利用はPCからが中心だが、2014年4月時点で会員の約半数がスマートフォンを所有し、閲覧の約4割がスマートフォンやタブレットといったスマートデバイスから。スマートデバイスからの文章の投稿やコメントの書き込みなども増えているという。「おとな世代も携帯メールなら利用する。PCのキーボードは苦手でも、スマートフォンやタブレットなら携帯メールと同じ入力ができる」ためだろう。

 なお、趣味人倶楽部にはスマートフォン用サイトも用意してあるのだが、あえてPC画面に切り替えて閲覧される傾向にあるという。ボタンなどはPCで見て慣れている場所に欲しいという感覚であることが分かる。

写真は“今すぐシェア”ではなく、PCから

 おとな世代の情報リテラシーはどうなのだろうか。全体的にリアルコミュニケーションがしっかりできており、コミュニケーション力が高い傾向にあるという。人生経験に裏打ちされた教養、知識、経験などがあるため、トラブルも起こりづらい。

 毎朝「おはようございます」とだけあいさつする人や、写真に「拍手」(Facebookでいう「いいね!」)してくれた人全員に「拍手いただきありがとうございました」とメッセージをする人もいる。忙しくなり、利用する時間がなくなった場合は、アカウントを放置するのではなく、「皆さんにコメントできず失礼だから」と退会してしまうことも。ネット上にもリアルのコミュニケーションマナーを持ち込む傾向にあるというわけだ。

 投稿スタイルにも若者世代と大きく違う点がある。若者世代はスマートフォンで撮影してその場ですぐにアップロードするものだが、趣味人倶楽部のおとな世代にはリアルタイムでシェアする文化はないらしい。“今すぐシェア”ではなく、帰宅してから厳選した写真をアップロードする傾向にあるという。リアルで人と会っている時にスマートフォンをいじったりするのは失礼という感覚があるのだろう。

 ネット文化へのギャップもある。例えば「会ったことがないのにお友達申請してもいいものだろうか……」などの気遣いや不安がある会員が多かったという。そこで、趣味というテーマを出し、議題について語り合える場を提供し、その上で友達になってもらえるようにしていった。

退職後のコミュニケーションの場として機能

 趣味人倶楽部の中では、「日記」「写真」「コミュニティ」が人気機能だ。同じ境遇の人同士が情報交換して助け合っていく傾向にあるという。「同じ境遇の人がいるだけで不安緩和に役立つのでは」と増田氏。「お悩みQ」という悩み相談コーナーでは、病気などの悩みの相談に対して「私も同じ経験がある」というリアクションが多く付く。

 一般的におとな世代になると、介護、仕事、体調、引っ越しなどで友達との交流が減ってくるものだ。女性は子供の卒業でママ友と疎遠になり、男性は仕事を離れると誰とも会わなくなるなど、現役時代には交流のあったリアルコミュニティと離れ、人間関係も疎遠になってしまう。そこで、趣味を通して知らない人とも交流できる趣味人倶楽部が重宝されるというわけだ。「退職後の男性は、趣味などのやることを見つけるのに3~5年くらいかかったりする。危機感が強く、現役のうちから探している人も増えている」。

50歳以上の4人に1人が恋愛中

 趣味人倶楽部で昨年4月、「恋する川柳コンテスト」を開催した。入賞作品は60代・70代の男女によるものだ。おとな世代と恋は一見ミスマッチのような気がするが、そうではないらしい。

 趣味人倶楽部の中心層である50代・60代は、恋愛結婚が主流となった最初の世代と言われている。コンテストと同時期に実施した恋愛に関するアンケートでは、50歳以上の4人に1人が恋愛中であることも分かった。

“シニア層”でまとめないで

 増田氏は会員と会う度に、「このサービスがあってよかった」「生き甲斐をもらった」と感謝されるという。「仲間に出会えた」「趣味を見つけられた」「生活が楽しくなった」……。アンケートを実施すると「こんないいものを無料で使わせてもらってるから」と、短期間で多数の回答が集まる。広告は商品の魅力が伝わるタイアップ記事にする方針もあり、CTRも高いという。

 「“シニア”という存在はない。まとめてしまうと受け入れられなくなる」。10~50代くらいまではすべて5歳単位でとらえられるのに60代以上はシニアとひとくくりにされる傾向に、増田氏は異議を唱える。

 例えば、50代・60代は自由恋愛など新しい価値観を取り入れた世代だ。ビートルズやミニスカートブームを巻き起こしたツイッギーのファッションなども積極的に取り入れるなど、個人の感覚や望みを大事にしている世代であり、前の世代と戦ってくれた世代でもある。そこで、「50歳男性、65歳女性など、5歳単位での感覚を正確にとらえていきたい」と増田氏は考えている。

 また、これまでは趣味を軸としてきたが、趣味以外の分野にも広げていくことに積極的にチャレンジしたいという思いもある。「インターネットだけじゃなくリアルで趣味を楽しんでいる人たちにもサービスを利用してもらいたいし、何かをしなきゃと思いながらきっかけを探している人たちの手助けをしたい」。いずれは会員数100万人規模を目指していくという。

 「自分が何かやりたいと思った時には、(趣味人倶楽部には)何でも聞ける人生の先輩がたくさんいるので、30代・40代の人たちにも利用してもらいたい。肩書きや身分を問わずに上の世代に話を聞きたいならおすすめ。趣味を通して年齢を超えて利用できるはず。」(増田氏)

高橋 暁子

小学校教員、ウェブ編集者を経てITジャーナリストに。Facebook、Twitter、mixi などのSNSに詳しく、「Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本」(日本実業出版社)、「Facebook+Twitter販促の教科書」(翔泳社)など著作多数。PCとケータイを含めたウェブサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持ってる。http://akiakatsuki.com/