インタビュー

音楽に沿って動画を作る“今の時代の”動画作成ソフト

「PhotoCinema」を開発したデジタルステージに聞く

 5月28日にデジタルステージが発売した「PhotoCinema」は、“音楽”を軸に映像を組み立てていく、これまでの動画編集ソフトにはなかった新鮮な操作感が特徴のツールとなっている。2009年にリリースされた「LiFE* with PhotoCinema」のエッセンスを継承する形で新たに作り直され、同社が別途開発を進めているウェブ制作ソフト「BiND」シリーズとも通ずるスタイリッシュなインターフェイスも目を引く。

 PCだけでなくモバイルも高速通信が当たり前となり、高画質動画の配信サービスやコンテンツが氾濫する今の時代、動画制作のためのビデオ編集ソフト分野は激戦区とも言える。そんな状況の中で、新たな選択肢としてPhotoCinemaを再登場させることにどんな狙いがあるのだろうか。開発の経緯からユーザーターゲット、使い方のテクニックまで、同社でプロジェクトに携わった小林貫氏、洪泰和氏、四家和彦氏の3人に詳しく伺った。

デジタルステージの洪泰和氏(左)と四家和彦氏(右)

「恋チュン動画」がユニークな機能のきっかけに

開発チームの中心となって動いた小林貫氏。取材当日はビデオ会議での参加となった

――最初に、どういういきさつで「PhotoCinema」を企画・開発することになったのか、教えていただけますか。

小林氏:
 デジタルステージのプロダクトには「LiFE* with PhotoCinema」というソフトが以前からありました。写真を簡単な操作でスライドショー化する、我々はそれを“フォトシネマ”と呼んでいますが、いわゆるフォトムービーを作るのがコンセプトのソフトでした。

 LiFE* with PhotoCinemaを2009年に出したのを最後にそれ以降、アップデートの要望が非常に多かったんです。それから、スマホ、SNSと我々を取り巻く環境も変わり、動画が身近になった今、出すに当たってどういうものが良いか、コンセプトを練り直すところから始めました。動画ソフトとしてLiFE* with PhotoCinemaの良いところは残しつつ、“今の時代”を取り入れる、その2つを融合させるのを一番意識して作り直しました。

――“今の時代”とは?

小林氏:
 以前までは、写真を簡単に動画にしたいというニーズが大きかった。それはLiFE* with PhotoCinemaでカバーできました。しかし最近は写真のみならず動画も自分で撮り、それを自分で1つの作品に仕上げるというように、動画作成自体が手軽になっています。スマートフォンだと、いつどんな場所でも撮れますし、動画が一般化している流れは無視できない。写真だけじゃなかろう、と。

 もちろんLiFE* with PhotoCinemaでも動画は扱えたんですけど、今回はさらに写真と同じ手軽さで動画を扱えないといけない。ではどういう風にするか。着想を得たのは、2014年にヒットしたAKB48の「恋のフォーチュンクッキー」の、いわゆる「恋チュン動画」でした。それとファレル・ウィリアムスの「Happy」のミュージックビデオ。日本だけでなく、全世界的に、みんながそれを楽しみ、それを共有するところがありました。

 そういうのを見ていると、一番重要なのは、レンズの向こうで人がすごく楽しそうに何かをアピールする、ということじゃないかと。昔は風景や家族を撮るのが中心でした。でもスマートフォンやSNSが広まってきた時、ユーザーは“自分”を撮り始めた。自分をコンテンツにし始めたのがものすごく衝撃的だったんです。これを今回のPhotoCinemaにしっかり入れるのが、大きなコンセプトの1つになっています。

――具体的にはどんな形でソフトに反映したのでしょう。

小林氏:
 写真を簡単にムービーにできることと、動画を取り入れるという2つを融合しなければいけません。キーポイントは何になるかというと、“音楽”。音楽を中心に据えるコンセプトとしたわけです。

 よく考えると、多くの投稿動画にはBGMが入っていたりします。みなさんそういう動画を作っているにもかかわらず、意外と音楽が重視されず、最後の段階でBGMとしてちょっと乗っける、みたいな感覚で作っているのが今までの動画作成のフローのようでした。

 けれど、PhotoCinemaはそうではなく、最初から音楽ありきで、音楽中心にしてしまおうと。そこで考えたのが“フレーズ”です。ブロックを置いていく感覚で動画を仕上げていくインターフェースとしました。音楽に合わせてフレーズを埋め、動画を作り上げていく。音楽を聞きながらやるから楽しいし、すごくカッコいいものになる。簡単に仕上がって、しかも友人のスマホで撮った素材とも連携しやすい、というのもキーポイントになっています。

――LiFE* with PhotoCinemaとは全く別物になっている?

小林氏:
 プログラムは完全に書き直しています。機能面でLiFE* with PhotoCinemaはものすごく単純でした。写真の入っているフォルダを選んで、音楽を選んでいくだけで、一定のクオリティの動画ができあがる。それがコンセプトだったんですけども、そこには良い面もあればそうでない面もありました。

 良い面というのは、気軽に素材を入れるだけで、雰囲気よく仕上がるところ。だけれど、ユーザーから多くいただいた感想は、「まあまあいい感じにできあがるのはいいんだけど、細かく調整したい、でもできない」というもの。ソフトを作る時、シンプルに使えることと多機能さ、どちらを取るべきか悩むところではありますが。

 そこで、今回はこだわりをもって作るというニーズもきちんとすくい上げようと。そういう意味で、LiFE* with PhotoCinemaとは違う視点で作っています。

音楽のリズムに合わせてクリック。“拍”で動画を切り替え

――その新しいPhotoCinemaのポイントとなるところを詳しく教えていただけますか。

進行管理やデザインディレクション、さらにはBGMの作曲も手がけたプロジェクトマネージャーの洪泰和氏

洪氏:
 大きなポイントは、今小林が話したように、音楽ありきでムービーを当てはめていくという考え方です。初めに「じぶんでモード」「おまかせモード」「シナリオモード」の3つの作成方法から選ぶことができます。

3つのモードを選んで作成開始

 最初に音楽を選び、流れる楽曲のリズムに合わせてボタンをクリックして、BPM、つまり楽曲の速度を設定します。すると動画全体の“拍数”が決まります。8拍分のひとかたまり(フレーズと呼ぶ)に1つの写真・動画素材を割り当てると、8拍分の長さでその素材が再生される仕組みです。音楽のリズムに合わせて次々と素材が切り替わっていく動画ができあがります。

PhotoCinemaでは最初に音楽を選択。曲を再生しながらリズムに合わせてタップする

 「おまかせモード」は、作りたいムービーのテイスト、音楽、素材を選ぶと、その中の素材をランダムに、または順番通りに自動で割り当てられて完成します。

「おまかせモード」はテンプレートを使って容易にムービー作成ができる

 最後の「シナリオモード」は、あらかじめサンプルとなる映像が作られているテンプレートです。例えば結婚披露宴のオープニングムービーに適したデザインの装飾が施された動画テンプレートでは、中で使われているサンプル映像のイメージに近いものをユーザーが撮影して、素材を差し替えるだけで同じテイストのムービーが作れます。

披露宴やウェディングパーティへの招待状ムービーに適したテンプレート。最初に設定されているサンプル映像を差し替えるだけでオリジナルの凝った映像ができあがる

――他にはどんな機能があるでしょうか。

コンセプトの決定やウェブアプリの開発に関わったプロジェクトリーダーの四家和彦氏

四家氏:
 「コラボ」機能があります。「恋チュン動画」から着想を得たのがこのコラボ機能で、例えば結婚式の「おめでとうメッセージ」を、友人らから映像を集めて1本のムービーにするような時に、その映像集めをサポートしてくれるものです。フレーズごとに誰のメッセージ映像を入れるかを割り当てられるようになっていて、誰にどんな映像を何秒間分アサインするか、といった内容を管理できます。

動画素材を提供してもらいたい相手を設定し、具体的にどんな映像を撮ってほしいか依頼できる
コラボ機能で作ったムービーの例。1画面が小さく分割されたレイアウトに各メンバーが用意した映像素材を割り当てて、多画面の動画を作成可能

 依頼相手にはどういう動画を撮るか、指示するメールを一括で送信して、依頼を受けた側はその内容に沿ってスマートフォンで撮影し、専用のウェブサイトを通じて動画をアップロードします。ウェブベースなので、依頼されたユーザーは利用するのに特別なソフトウェアは必要ありません。依頼した側は素材の集まり具合を確認したり、アップロードされた動画を入手できる仕組みになっています。

 コラボ機能に参加しているメンバー同士でチャットできる機能もありますので、みんなで相談しながら撮影していくこともできます。もちろん全部のフレーズに対してコラボ機能を使わなくてもかまいません。部分的にコラボ機能を使って、というのも可能です。

結婚式用のウェディング版と、ビジネスにも使える通常版

――スタンダードな「PhotoCinema」と、ウェディング用途に向いた「PhotoCinema Wedding」の2つのパッケージに分かれていますが、なぜこのように分けたのでしょうか。

洪氏:
 2つのパッケージの違いは、テンプレートのデザインが全く異なるところです。ウェディング版はこれ1本あれば、「私たち結婚します」という結婚式への招待から当日のオープニングムービー、新郎新婦の自己紹介動画、披露宴での演出、2次会パーティの演出まで、一連の動画をすべて作成できるパッケージになっています。

 個人ユーザーの動画撮影が当たり前になって、動画がそれまでになかったような用途で使われるかもしれないと考えた時、通常版にはさまざまな可能性がありそうに思っています。例えばウェブサイトの背景が動画になっているような表現が注目されてきています。通信速度やマシンの処理性能などの問題でこれまで不可能だったことが、今はできる環境が整ってきたので、動画をウェブの分野で活用して、もっと強いメッセージ性を持たせるなど、ビジネスシーンでも活用できる用途が見えているなと。

ウェブサイトの背景に動画を埋め込んだ例。前面に模様やイラストを重ねてリッチな見せ方に。ビジネス用途にも活用できるだろう

 ただ、ソフトウェアのベースとしてはどちらのパッケージも同じなので、どちらか1本を手にすれば、テンプレートを追加購入で全部使うことができます。

――ウェディング版は業者が利用することも考えていますか?

四家氏:
 そういうマーケットも考えられますね。結婚披露宴の間に出席者のメッセージビデオを撮影してもらって、それをまとめたものを2次会までにDVD化する、といったサービスがあったりしますが、そういう内容に近いものをスマホとコラボ機能を使って自分たちだけで作り上げることもできそうです。

――ちなみにテンプレート数はいくつでしょうか? 今後増やしていく予定はありますか。

洪氏:
 通常版とウェディング版で最初にそれぞれ6テンプレート用意しています。6月には、追加テンプレートとして各バージョンに2つずつリリースします。その後タイミングを見て、新たなテンプレートをリリースしていきたいと思っています。

 また今回、弊社のウェブ制作ソフトである「BiND 7」と「BiND Cloud」に対して、PhotoCinemaで作成した動画を背景用の映像に設定できる機能を加えたバージョンアップ版を無償提供します。動画の上に半透明の枠を敷いて文字情報を見せたり、といったウェブページの制作が可能になります。

――開発において苦労したポイントを教えてください

小林氏:
 動画を扱うソフトなので、やはり動画のプレビューとか、フレーズごとのエンコードのタイミングであるとか、それをユーザーにいかにしてストレスなく見せるかという部分が苦労しましたね。あとは写真の表現と動画の表現を両立するために、どういう仕様にすべきかは頭を悩ませたところです。そのへんの扱いを整理してまとめていくのが困難でした。

――具体的には?

小林氏:
 Android端末の対応に苦労していますね。コラボ機能では動画をやりとりしますので、できるだけファイルを小さくしないとストレスになりますから、処理や動画データの最適化も行っている最中です。早い段階で弊社の全社員がPhotoCinemaを試して、どこが使い勝手の面でストレスに感じるのかなど、全部要望を汲み上げて開発に反映する、という取り組みをやっています。

テンプレートなどを用いて容易にムービーを作成できるのが特徴だが、素材ごとに細かな調整やエフェクトを加えるなど、こだわって作り込むこともできる

長回しをせず、10秒程度の短い動画を撮影して組み合わせる

――どんな使い方がおすすめでしょうか。動画作成のコツなども、もしあったら教えてください。

小林氏:
 動画を撮る時、ついだらだらと長回ししてしまうことがあると思うんですけど、ぜひ写真と同じ感覚で撮ってほしい。10秒くらいの風景をさらっと撮る、みたいな感じでスマホの中に素材をためていってもらって、それをPhotoCinemaに入れてもらう。そうすると、ものすごくきれいに音楽やフレーズに合った動画に仕上がります。

 あとは、これはトリッキーな使い方ですが、コラボ機能を使っておきながら、撮影は全部自分でやるという方法もあります。依頼を全部自分に振って、自分のスマホで全部撮影する。これが意外にものすごく楽しいので、おすすめです。

四家氏:
 それ、いいですね(笑)。自分が今やりたいのは、1人で全部の楽器を演奏しているようなムービー。そういうスタイルの映像も簡単にできてしまうのがPhotoCinemaの魅力です。

洪氏:
 弊社ではミニ四駆の社内部活があるんですけど、そういう趣味の分野をムービーにするのは面白いと思っています。趣味以外にも、スポーツで自分のチームのムービーを作ってみようとか。厳密なディレクションがなくても、実は素材を組み合わせていくだけでそれなりの雰囲気になるんですね。なにげなく撮って、なにげなく組み合わせてみるのも面白いのではないでしょうか。

――最後にPhotoCinemaならではの、ここはというオススメポイントがあれば。

小林氏:
 フリーの動画ソフトやサービスでは、こだわりをもって自分なりのイメージを形にするのが難しく、どうしてもそれぞれのソフトの型にはめられてしまうというのがある。PhotoCinemaは、ユーザーのスキルがそれほど高くなくても、そこをすくい取って、その人のクリエイティビティを十分に活かす感じで納得いくまでこだわりをもって作れる、しかも簡単な操作で、というのを実現しています。1個の映像作品を作ろうという時に、おすすめです。

洪氏:
 音楽を軸に動画を作るということで、音楽が主役になる点が重要だと思っています。なので、テンプレートを作るにあたって、音楽はこだわって作曲しています。よくある素材BGMっぽい感じだとユーザーもクリエイティビティを発揮しにくいでしょうから。7人くらいの作曲家に参加していただいて、テンプレートごとに異なる曲を用意しています。インストだけでなくボーカル曲もありますので、ぜひ活用してほしいですね。

四家氏:
 ポイントは2つあると思っています。普通の編集ソフトだと、音楽に合わせて動画を配置する際に音声の波形の高さなどに合わせて自分で調整しなければならないんですが、PhotoCinemaではそれを“拍”に集約させて、誰でも分かりやすく配置できるようにしたのが1つ。

 もう1つは、1画面に複数の小窓に分割するムービーも、通常の動画編集ソフトで作ろうとすると相当大変だということ。1個1個タイムラインを引いて、1個1個小さくして、かなり手間がかかるのですが、それをテンプレートなどで簡単に実現できるうえに、他の人にお願いして作成できるコラボ機能がある点で、すごく画期的だと思っています。

――本日はありがとうございました。

日沼 諭史