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「ライセンスがクリアになってないと知りませんでした」は通用しない、写真素材利用時の著作権法上の留意点
(2016/3/4 17:44)
「Adobe Stock」などのストックフォトサービスにおいて、写真素材を利用する際の著作権法上の留意点などに関して、アドビシステムズ株式会社が3日、説明会を実施した。
五輪エンブレム問題や法律事務所によるストックフォト無断使用など、昨今、著作権に関するトラブルが多く見受けられるようになった。インターネットの普及で写真などの素材を入手しやすい環境が整ったことにより、ライセンスがクリアされていない写真をデザイナーやコンテンツ制作者がうっかり使ってしまうパターンも多いと思われる。
株式会社テックバイザージェイピー弁理士の栗原潔氏によると、「著作物であるテレビ番組を録画してあとで視聴する」といった行為は、私的使用目的の複製(著作権法第30条)の範囲であり、著作権侵害には当たらない。ただし、インターネットへの公開や、業務上の複製などは「個人で楽しむ範囲」から外れるという。会議用に新聞記事をコピーして配るのも“厳密的に言えば”NGになり、五輪エンブレム事件の社内限定使用の資料も、私的使用目的ではないとする見方が大多数だ。
また、とあるストックフォトサービスが画像を無断で使用した法律事務所を提訴した裁判では、「無料素材としてアップされていたので許諾は不要と思った」という言い分は失当とされ、ある程度の経験を持つウェブ制作者であれば、使用する素材が著作権者の許諾を得たものかどうかの注意義務を負うという判断が示された。
これにより、ウェブ制作者側が「今まで問題なかったから」といって権利処理を行ってない素材写真を使用したり、素性の怪しい「無料素材サイト」を利用するのは高いリスクがともなうようになる。また、ウェブ上で発見した個人の写真であれば撮影者に了解を得る必要があるが、その場合は写真の著作権者が本当にその個人であるかの注意義務を果たす必要があるという。
こうした背景から、写真のライセンスが明確にクリアできるストックフォトサービスの注目度が上がっている。ストックフォトには、「ライツマネージ」が特徴の「マクロストック」タイプと、「ロイヤリティフリー」の「マイクロストック」タイプの2種類が存在する。
前者は、ユーザーが写真の使用をコントロールでき、独占契約も可能なタイプだが、使用料は高額だ。後者は、写真を使用する権利に対価を支払うもので、写真の著作権自体は著作権者が持つことになる。安価だが、同じ写真がほかでも使用される可能性がある。ストックフォトサービスは銀塩写真時代から存在するが、ウェブ時代になると手軽さもあり後者が一般的に広まった。
「Adobe Stock」には2つのライセンス体系、50万部以上の印刷物には拡張ライセンスが必要
アドビが提供するストックフォトサービスの「Adobe Stock」もマイクロストックタイプのサービスで、同社製品を使用するデザイナーやクリエイターだけでなく、社内外でプレゼンする機会の多い広報やマーケティング職のユーザーをターゲットにしている。現在の素材点数は4500万点。ビデオ素材の販売も開始している。
Adobe Stockには、通常ライセンスと拡張ライセンスの2つのライセンス形態が存在する。通常ライセンスでは、ウェブサイトやテレビ、映画、雑誌、書籍、広告での使用をカバーするが、ウェブ以外の媒体では「50万回の複製権」という制限が設けられている。雑誌や書籍であれば50万部以上印刷する場合は、拡張ライセンスの購入が必要となる。また、例えばTシャツなどグッズの再販で派生商品を販売する際にも拡張ライセンスが必要だ。
提供する素材は、デザイン素材として利用できるが、ロゴやトレードマークとしての利用は禁止されている。モデルなどの人物が写っている写真でも、ポルノ用途、政治的支援、反倫理的なコンテンツなどでは利用できず、整形外科の広告用途など、モデルの顔を加工して“Before After”写真などに利用するのもNGだ。こうした条件を守った上であれば、アドビクオリティの高品質な写真が安価で利用できる。トリミングや色味の変更など加工も自由だ。
Adobe Stockの利用料は、単品画像で1180円、月に10点までのサブスクリプションプラン(年間契約)は月額3480円で利用できる。HDクオリティのビデオ素材は1点あたり7980円、4Kクラスでは1点2万4980円で販売する。なお、拡張ライセンスは1点あたり7980円が別途発生する。
なお、「Adobe Creative Cloud」を解約した場合でも、Adobe Stockで購入した画像のライセンスが消えることはなく、引き続き利用できる