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PayPal、eBayを離れてNASDAQに再上場、分社化理由は「eBayとPayPalの戦略の違い」

 米Paypalは20日、米eBayからの分社手続きが完了したと発表した。また、独立した公開会社としてNASDAQに再上場した。

ペイパルプライベートリミテッド東京支店ジャパンカントリーマネージャーのエレナ・ワイズ氏

 PayPalは、1998年設立。2002年にeBayが15億ドルで買収するまで、銘柄コード「PYPL」としてNASDAQに上場していた。今回同じコードを用いて再上場する。分社化にともなう諸条件に伴い、2015年7月8日の取引終了時点におけるeBayの普通株式所有者は、7月17日にeBayの普通株一株につきPayPalの普通株一株が付与される。

 PayPalは21日、都内で記者会見を開催し、ペイパルプライベートリミテッド東京支店ジャパンカントリーマネージャーのエレナ・ワイズ氏が登壇した。ワイズ氏は、PayPalとeBayが分社化する理由について、「eBayとPayPalの戦略が違ってきた」と説明する。

 PayPalは、これまでインターネットオークションを提供するeBay傘下の企業だったため、PayPalが競合など大手プレーヤーとパートナーシップを構築したくても難しい状況だったという。それぞれ独立することで、PayPalがどのマーケットプレイスに進出しようと、どの企業とパートナーシップを締結しようと、自由にビジネスできるようにするのが狙いだという。

 なお、eBayとのパートナー関係については、オペレーティングアグリーメントを5年間締結しており、期間中は緊密な関係が続くとしている。ただし、物理的には別会社であり、両社が保有するデータも別々になるという。

国内インバウンドビジネスの強い味方に

 PayPalは、2014年に2350億ドルの決済を処理。モバイルの決済取引はそのうちの約460億ドルと約2割に上る。さらに、2015年第1四半期の時点では、モバイル決済の割合が3割に到達したという。また、収益は80億ドルを超えており、アクティブユーザーは世界203の市場において1.69億人を上回る。PayPal導入企業は全世界1000万社以上、米国のECサービストップ100社のうち74%が導入しており、オンライン決済のスタンダードになっている。

 ワイズ氏は、「デジタルウォレットの普及により、企業は新たなスキルを身に付ける必要がある」と指摘。日本で政府や企業を対象としたサイバー攻撃が256億回行われたとし、消費やビジネスにとってセキュリティが最大の懸念点になると述べた。PayPalの強みとして、店舗側にカード情報を共有せずに決済するといった、不正利用を防ぐ高いセキュリティのほか、万が一の際の店舗とユーザーを保護するプログラムなどを挙げた。また、17年間決済サービスのみで事業展開してきた実績のほか、低額な決済手数料、全社員の半数に当たるという8000人が従事する手厚いサポートがユーザーの信頼を得ていると繋げた。

 PayPalは今後、オープンデジタル決済プラットフォームとして、消費者やビジネスにワンストップでサービスを提供する。また、モバイル決済の普及により、オンラインのみならず、オムニチャネルなどリアルコマースもPayPalの主戦場になるという。グローバルで約2.5兆ドルの市場であるeコマースと比較して10倍の規模を誇る全コマース約25兆ドル(日本円で約3000兆円)の市場規模がターゲットとなる。

ワイズ氏は、デジタルウォレットの普及により今後3~5年において、これまでの20~30年よりも多くの変化が金融関連で起きるとしている
PayPalの取扱高は、2014年で2350億ドル。成長率は前年比28ポイントに上るという
PayPalでは、各国での法令順守にもぬかりはないという
PayPalは、今後デジタルコマースの「OS」として、オープンデジタル決済プラットフォームを提供する

 日本市場でのPayPalのシェアについては「個別の市場の数字を出せない」(ワイズ氏)として言及を避けたが、すでに国内・国外利用含め100万のアクティブユーザーを抱え、10万単位の店舗でもPayPalによる支払いを受け付けており、「少なくない数字」としている。日本市場では、中小企業などのモバイル化や海外進出などでPayPalが有用だとしており、国や自治体などと提携して地方創世などにも積極的に支援するという。

 また、日本でも、スタートアップが提供するスマートフォンアプリなどにも決済ソリューションを提供。PayPalはベンチャー出身ということもあり、ベンチャーコミュニティへのサポートを手厚くしている。日本でも、決済手数料を免除する「PayPal Startup Blueprint」プログラムを提供するほか、「B Dash Camp」「Ivs」「Startup Asia Tokyo」「TechCrunch Tokyo」などのイベントをスポンサード。6月には、PayPal主催のハッカソン「BattleHack Tokyo」を日本で初開催するなど、スタートアップコミュニティをサポートしているという。

 インバウンドビジネス向けには、訪日観光客向け決済手段として紹介。実際に、日本国外にアニメやゲームなどの情報発信やECサービスを提供するTokyo Otaku Modeでは、海外ユーザーからの要望を受けてPayPalを導入。導入後数カ月で全決済の半数以上をPayPalが占めるようになったという。すでに、バンダイ、アニメコンソーシアムジャパン、まんだらけ、キャラアニなどでも利用されている。また、北海道・留寿都村のリゾート施設「ルスツリゾート」でもPayPal決済を導入。訪日観光客を安心させる決済手段は大きなメリットだとした。

日本ではベンチャーなどの中小企業、モバイル、訪日観光において3つのビジネスチャンスがあるとしている
中小企業向け決済では、低額な決済手数料や不正検知サービスが有用だとしている
日本政府が決済のデジタル化を支援していることもあり、モバイル決済によるリアル店舗での決済も可能になるという。すでに、ヤマダ電機やブルックスコーヒーでもモバイル決済の実験を行うとしている
EC決済でのグローバルスタンダードであるPayPalが、インバウンドビジネスでの決済手段として有用であると強調した

(山川 晶之)