いま、ネットの中で熱いキーワードといえば「Web 2.0」。でも、どこを調べても専門家や業界人向けの難解な話ばかりで「Web 2.0って結局何なんだ?」と、消化不良な気持ちの方も多いと思います。本連載では、ネットの専門家ではない、一般ユーザーの方のために「Web 2.0」をわかりやすく、ていねいに解説していきます。
■進化するWebのワンシーンを捉えたのが「Web 2.0」
Web 2.0とは、何か新しいソフトが出るという話ではありません。ある日突然「今日からWebはWeb 2.0です。ブラウザをバージョンアップしてください」なんてことにはなりません。まずは、このことを知っておいてください。
「Web 2.0」は、米国のIT関連では有名な出版社「O'Reilly Media」社長、O'Reilly氏が提唱しました。進化を続けるWeb業界の、2004~2005年あたりの流行を切り取って、「Webってなんかバージョンアップした感があるよね。もう2.0って感じじゃないか」というノリで名前をつけたもので、特定の技術を指すものではありません。
インパクトの強いネーミングに業界が振り回されすぎている感もありますが、「これがWeb 2.0だ」として発表された論文の、Webの進化を捉えた分析は見事なもので、いわれてみればWebってものすごく進化したなあ、と、しみじみと実感できる内容となっています。
ここでは「Web 2.0」という言葉にこだわらず、皆さんと一緒にWebの進化を振り、これからのWebがどうなっていくのかを見ていきたいと思います。まず今回は、ここ10年ほどのWebを振り返りながら、リアルな感覚として「Webの進化」を実感してみましょう。
■Web 2.0への第一歩は、壁新聞からの脱却
インターネットが普及し始めた1995年ごろ、「ホームページ」は、よく壁新聞やチラシに例えられていました。多くのWebページはただ「読む」だけのメディアで、「Webページ=文字や画像をレイアウトして作る読み物」という認識が一般的でした。自分のWebページという意味で「ホームページ」という言葉が流行り。今でも、こういった意味で「ホームページ作りたい」という人は多くいます。
しかし、今どきのWebページの多くは、単なる壁新聞ではありません。例えば入力フォームにキーワードを入力して「検索」したり、気に入った商品を「注文」したりチケットを「予約」したり、また、事前に会員登録した情報に合わせて、自分の好みに合った情報だけを見せてくれるページもあります。
このような高機能なWebページが増えたことで、私たちはいろいろな「やりたいこと」をWeb上で実現できるようになりました。例えば、私はオンライン辞書を使うようになってから、自分のパソコンに辞書ソフトをインストールしなくなりました。路線検索を利用するので時刻表を見なくなった方や、買い物の多くをオンラインショップで済ませるようになった方も多いと思います。
「見る」だけでなく「使う」こともできるWebページは、「ホームページ」ではなく「Webサービス」と呼ばれることが多くなりました。この記事でも、以降は「Webページ(サイト)/ホームページ」のことは「Webサービス」という呼び方で統一します。
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読むだけの「ホームページ」から、さまざまな機能を持った「Webサービス」へ
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このようにWebが多機能になり、さまざまなサービスを提供してくれるようになったことは専門用語で「Webがプラットフォームとして振舞うようになった」といい、Web 2.0の最も基本的な特徴だとされます。
ここでいう「プラットフォーム」とは「基本ソフト」、つまりWindowsのようなOSのことを指し、Web上で辞書や路線検索やショッピングなど、さまざまな作業ができるアプリケーション(応用ソフト)が使えるようになったね、という意味になります。
■HTMLなど難しい技術を知らない人でも、自由に発言できるようになった
「ホームページ」の時代には、HTMLが自分で入力できる人や、ホームページ作成ソフトを買って使いこなせる人でないと、Web上で発言することはできませんでした。そうでない人が発言できる場は、一部の掲示板や投稿を募集しているサイトなどに限定されていました。
しかし今では、特別なスキルがなくてもWeb上で発言できるツールが充実しています。しかも無料で。代表的なものはブログです。他にも、「教えて!goo」のようなQ&Aサービス、「mixi」のようなソーシャルネットワーキングサービスなど、さまざまなサービスがあり、それを利用して私たちは誰でも自由に発言でき、Webという場に参加できるようになりました。
このように、ユーザーがWeb上に参加(発言)できるようにする仕組みのことを、「参加のアーキテクチャ(ソフトウェアの構成)」といいます。今のWebは「参加のアーキテクチャが進化した」状態であるといえます。
■リアル店舗にはまねできない品揃えのオンラインショップ
オンラインショップは品揃えのよさが自慢です。たとえば楽天市場は2005年12月現在で1,500万点以上の取り扱い商品があると標榜しています。これは、リアル店舗ではとても真似のできない規模です。どんな巨大なドンキホーテに圧縮陳列しても1,500万点も商品は置けないでしょうし、仮に1,500万も商品がある店で買い物をしようとしたら、見て回るだけで疲れ果ててしまうでしょう。
オンラインショップが多数の商品を扱えるのは、商品を置ける棚の制限や、売り場の広さ、倉庫の大きさなどの物理的な制限にしばられないためです。「キーワードを入力して検索すれば、欲しい商品がすぐ目の前に出てくる」という機能は、オンラインショップでないと絶対実現できないことです。そして、この機能を活かした楽天市場やAmazonのようなオンラインショップが、急速に成長してきています。
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リアル店舗(現実のお店)とオンラインショップの違い
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実は、「物理的な制限から開放された大量のデータ」+「検索」システムは、オンラインショップ以外の場所でも利用されています。
Yahoo!やGoogleのような検索エンジンでは、何十億というWebページの情報(紙にしたら、どれくらいの倉庫があれば収まるのか想像もつきません)を蓄積し、そこから検索によって一瞬で情報を取り出せるようにしています。そのほか、求人情報の検索や不動産情報の検索、製品の評判や価格の検索など、さまざまな場所で私たちは似たようなシステムを利用しています。
■プロの記事より、素人が書いた「口コミ」を参考にすることが多くなった
プロのライターや記者が書いた情報より、ブログや掲示板などで見つけた、一般の人による「口コミ情報」を重視することが増えていませんか?
例えば新しい本やデジタルガジェットのレビュー、旅行先の情報など、本やテレビでやっているものには、どこか「宣伝くささ」を感じてしまいがちです。一方、ネットを検索すると、一般ユーザーによるレビューや感想、評価を簡単に見つけることができます。それは、偏った意見である場合もありますが、実際に利用したユーザーとしての発言であるため、とても信憑性があるものが多いです。ひとつひとつの発言は整ったものでなくても、たくさんの発言を呼んで、全体としての傾向を掴むこともできます。
これは、前述した「参加のアーキテクチャが整った」こととも関連した現象です。誰もがWebで自由に発言できるようになり、読む側はたくさんの情報が集めやすくなりました。
一般人による口コミ情報には、もうひとつ特徴があります。プロががんばってWebに記事を書いても、更新できるのはせいぜい1日に5ページぐらいだとしましょう。しかし、100人の素人が集まれば、100ページぐらいは余裕で更新できます。
現在のWebサービスでは各ページにGoogle Adsenseのような広告を表示し、その収入によってビジネスを成り立たせているものが多いですが、このようなビジネスモデルのサービスでは、ページの多さが、そのまま収入力のアップに繋がります。つまり、1人のプロよりも100人の素人をうまく集めて何か書かせたとすると、サービス提供側に取っては、以下のようないいことがあります。
短時間でたくさんのページができる
しかも原稿料を支払う必要もない
読者数、アクセス数も増える(ページが多いから)
安いコストでたくさんのコンテンツが生産され、サイトの価値も上がる。いいことずくめですね。
■友達から「これ使ってみたら」とサービスを紹介されることが増えた
ソーシャルネットワーキングサイト「mixi」が200万ユーザーを超え、話題になりました。一般に、Webサービスは開発者が魅力となる要素(たとえば検索が使いやすいとか、配達が早いとか)を作り、ユーザーを集めます。でもmixiの場合はちょっと違い、mixiの機能そのものより「友達もみんな使っている」ことに魅力を感じている人が多いはずです。200万人の中には、友達にすすめられて、どんなサービスかわからないけど何となく入会した、という人も多いでしょう。
mixiは、周りの人がたくさん利用していれば利用しているほど価値が高まる、という特性を持つサービスです。たとえば、あなたの友達の誰かがmixiを利用していれば、互いに近況を知らせあったり、連絡用に使ったりできます。そして、利用する友達が増えれば増えるほどmixiで取れるコミュニケーションの幅も広がり、mixiの価値が高まり、利用時間が増えていくでしょう。だから、私たちは友達をせっせと招待し、結果、mixiに200万を超えるユーザーが集まったわけです。
ユーザーが増えれば増えるほど、そのツールの利便性が増し、価値の高いサービスになっていく、という特性を「ネットワーク効果」と呼びます。メッセンジャーや携帯電話もネットワーク効果を持つサービスの代表的なもので、「ケータイを持っていないと仲間に入れない」なんていう状態は、「友達から『これ使ってみたら』と紹介される」を裏から(ネガティブ面から)見た状態だといえるでしょう。
今後もこういったサービスが増え、付き合いの広い人は、あちこちから「このサービス使ってみたら」と招待されるようになるかもしれません。
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ユーザーが増えれば増えるほど便利になる「ネットワーク効果」
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■ベータサービスが増えた
最近、話題になっているWebサービスの多くは、正式版になる前のベータ版から公開し、利用できるものが多くなっています。たとえば、前述のmixiや、同じSNSの「GREE」、株式会社はてなが提供する「はてなダイアリー」、「はてなブックマーク」などのサービスも、ベータ版で公開されました。
「ベータ(β)」とは、ソフト業界の言葉で「完成品に近いけれども、まだテスト中のものですよ」といった意味です。従来は、開発スタッフ内や一部のテストユーザーの間だけに出回り、実際で使いながら改良点を挙げたり、ミスを見つけたりするためのものでした。オンラインゲームでは昔から、一部の限られたユーザーに遊んでもらって改良していくための「クローズドベータテスト」が、よく行なわれていました。
ところが最近では、ベータの状態から一般ユーザーにサービスを開放し、多くの人に使ってもらいながら改良していく、ということが普通に行なわれるようになりました。
これは、ひとつには「さっさとサービスを始めて会員数を増やす」ということがビジネス上重要になった、ということがあります。先に書いた「1人のプロより100人の素人」の発想でいえば、会員数が多ければ多いほど、ビジネスとして有利になるからです。
また、ユーザーにとって便利なサービスを提供し、ユーザーの意見を受けて改良を続けていくことが、ユーザーにとってもサービスを提供する企業にとっても、両方の利益になるという「ユーザーと共同開発する」という考えが普及した、ということでもあります。
ちなみに、200万人を超える会員数を持つ「mixi」は、現在でもベータ版としてサービス提供しています。ベータ版として提供している場合、サービスの改変なども行ないやすいため、今後はビジネスモデルが後からついてくるような新しいサービスでは、ベータ版での提供期間を長く取るサービスも多くなっていくのかもしれません。
■今回のまとめ
1995年ごろからインターネットは一般に普及し始めましたが、この10年ほどの間に、Webには次のような変化が起こりました。
- ホームページは単なる壁新聞ではなくなり、さまざまな機能が利用できる「Webサービス」になった。
- ブログなどのツールが普及し、HTMLなど難しい技術を知らない人でも、自由に発言できるようになった。
- 「物理的な制限から開放された大量のデータ」+「検索」によって、例えばリアル店舗にはまねできない品揃えのオンラインショップが生まれた。
- プロの発信する情報より、多数の素人が発信する情報の方を参考にすることが多くなった。またビジネス面でも、1人のプロより、100人の素人の方に価値があると考えられることが増えた。
- 友達から「これ使いなよ」とサービスを紹介されることが増えた。それは「ネットワーク効果」を持ったサービスだ。
- 未完成β版の状態で公開されるWebサービスが増えた。「ユーザーと共同開発する」という考えが普及した。
これらのことは、mixiを実際に利用したり、オンラインショップでよく買い物したりと、Webを活用している方なら、実感として「ああ、そういえば」と思っていただけると思います。こういった変化から何が生まれるのか? ……の前に、次回もちょっと違う角度から、Webの進化を見ていきたいと思います。
(2006/1/30)
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