今回はロングテールを活用するサービスと、ビジネスの仕組みについてです。ロングテールを活用するWebサービスは基本的に、「コスト0円で作ったページが1年間で1円の利益を生み出すとして、それが1億ページ集まれば1億円の利益が得られる」といった発想で成り立っています。そのためには、次の3工程を確立することを考えます。
- 「ロングテール」となるコンテンツを作る
大量に、かつ、できるだけゼロに近いコストでコンテンツを用意します。
- ロングテールにユーザーを誘導する
一般的には「検索」によって、大量のコンテンツの中から、ユーザーが求めるものにマッチしたコンテンツに誘導します。検索エンジンによって「トップページ→下層ページ」という導線でなく「検索→下層ページに直接アクセス」という導線が一般化したため、ロングテールの価値が増しました。第1回でお話したオンラインショップの例――大量の商品が「検索」で効率よく探せる――をイメージしてみてください。
- 収益化する
それぞれのコンテンツから、何らかの形で収益を得るように仕掛けます。オンラインショップなら自社の売り上げがこれに相当しますし、今どきはGoogle AdSenseや何らかのアフィリエイトを利用することで、かなり簡単に収益化が可能になっています。
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ロングテールを活用したビジネスの基本的な仕組み
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■「ロングテール」となるコンテンツを誰が作るのか?
ロングテールを活用したWebサービスを考えるとき、最初の問題は限りなくゼロに近いコストでコンテンツを作ることですが、これには3通りの方法が考えられます。第2回の「リンク集を誰が作るか」と「大量のコンテンツを誰が作るか」とは同質の問題なので、つまり、ロングテールに相当するページを作るときにも、以下に挙げる3つの方法が考えられます。
■誰かが作るロングテール=ブログの過去記事?
「誰かが作る」というのは、たとえば個人でがんばってブログの記事をいっぱい書く、という方法です。このINTERNET Watchなどのニュースサイトも、これに相当する形で過去の記事を蓄積しています。
驚異的な更新量で知られるブログ「ネタフル」には、2003年7月のブログ開設(それまでもメールマガジンを発行していた)以来約1,000日の間に、約8,000本の記事が書かれています。これは全て筆者のコグレマサトさんひとりで書いたものです。1記事に1ずつのアクセスがあるだけで、「ネタフル」は8,000 PVを稼ぐ計算になります。
1日あたり8本の記事を1,000日間も書き続ける、ということは、常人にはなかなかできることではありません。が、誰でも地道にブログの記事を書き続けていけば、それがだんだんロングテールとしての効果を生み、全体のアクセス数やアフィリエイトの収益も、少しずつ向上していくはずです。
■機械が作るロングテールは、APIを利用して自動生成されるサービス
「機械が作る」ロングテールの代表的なものは、なんといっても検索エンジンです。Googleでは世界中のWebページ80億ものインデックスを持ち、入力された無数のキーワードに応じて表示する結果ページの中に、同社が運営するAdWords広告を表示しています。検索エンジンのロボットはもちろん全部自動。AdWordsの管理は広告を出す側がセルフサービスで行なうため、Google側の運営コストはこちらも最低限です。
Googleはきわめて優れた技術力と、大量のサーバーや回線を運用することによってこのサービスを実現しており、並の企業や、ましてや個人が対抗するのはきわめて難しいでしょう。
ですが、最近では第3回でも紹介した「RSS」の出現により、個人レベルでも「機械でロングテールを作る」ことは比較的簡単になってきました。RSSの加工のしやすさを活かして、キーワードやどこかの商品データベースに関連したブログの記事をピックアップし、横にアフィリエイト広告を貼り付ける、とったサービスがあちこちで生まれています。もっとも、中には何の新しい情報も利便性もなく実質的な価値がない、スパムのようなページ群もありますが。
■みんなで作るロングテール=参加型サービス
ブログやSNSなどの参加型サービスが充実し、誰もがWeb上で発言できるようになった、という現在の状況は、サービス提供側から見ると「ユーザーにツールを無料提供し、ロングテールとなるコンテンツを作ってもらおう」ということになります。こうしてユーザーが作ったページに広告を掲載することで、収益を得るわけです。
最近のわかりやすい例としては、ニフティの「ココログフリー」があります。「ココログ(有料版)」は、ISPとしてニフティを利用している会員向けのサービスで、ISPの料金の一部が、ココログの利用料となっています。一方「ココログフリー」は誰でも無料で利用でき、ニフティはユーザーから直接利用料を取ることはしません。そのかわり、ココログフリーで作ったブログに広告を表示し、そこから利益を得ようとしています。
■検索エンジンから、ロングテールにユーザーを誘導する
ロングテールにユーザーを誘導するための、最もポピュラーな手段は検索エンジンからの誘導です。そのために、検索結果の上位に表示されやすくなるようページの作りやサイトの構造などを調整する「SEO(検索エンジン最適化)」が、今や必須の技術となっています。
■ブログなど、オンラインコミュニティから誘導する
「機械のリンク集(=検索エンジン)」のほかに「みんなで作るリンク集」もある、ということを第2回でお話したように、ブログやソーシャルブックマークなどのCGMも、ロングテールにユーザーを誘導するための装置として有力な存在です。
このような方法は、「口コミマーケティング(またはバズマーケティング)」や「バイラル(viral:ウィルスのように感染していく)マーケティング」として、さまざまな試みが行なわれています。アフィリエイトはこのための手段のひとつといえますし、企業がブログを運営し、話題の提供やコメント、トラックバックによる繋がり(すなわちリンク)の中継点になろうとする試みも、その一種です。影響力のあるブログの運営者の元には、企業から試供品や新刊書籍が送られてくる、という話も聞きます。
ちなみに「SEO」に対する言葉として「SMO(社会的マーケティング最適化)」という言葉が登場したこともありましたが、定着しませんでした。また、以前に「SBO(ソーシャルブックマーク最適化)」という言葉を考えたことがあり、「はてなブックマーク」ユーザーを中心に多少話題になりましたが、SEOのように技術として確立するには至っていません。
ブログやソーシャルブックマークを味方につけてロングテールを取り込むやり方としては、「株式会社はてな」が、新しい形を見せてくれています。「はてな」のサービスを利用しているコアユーザーは、「はてな」のサービスや近藤社長ほか個性的なスタッフたちのファンでもあり、彼ら自身の発言や「はてな」に関する言説を「はてなブックマーク」に次々と登録しています。
はてなブックマークを利用しているユーザーは、自然とそれら「はてな」に関する濃い情報を多く目にすることになり、「はてな」情報への接触時間が増え、だんだんファンになり、「はてな」のページビューや収益拡大に貢献します。一方ではさらに「はてな」に関するコンテンツが「はてなダイアリー」などで再生産される、という「はてなファン拡大スパイラル」とでもいうべき現象が起きているように見えます。これが、検索エンジンよりも新しい方法で「リンク集を味方につける」ということの、ひとつの形なのだと思います。
■収益化のために、ロングテールとなるコンテンツの価値は高い方がいい
ロングテールとは「アクセスの少ないページにも少ないなりに価値がある(取り扱いコストはほぼゼロなんだから大事にしよう)」という考えではありますが、1日1アクセスしかないページより、10アクセスあるページの方が10倍の価値があるし、1円しか稼げないよりは10円稼げた方がいい、というの間違いないことで、コンテンツひとつひとつの価値を高めることも大切です。
単に「朝起きた、遊んだ、寝た」という日記を書くよりも、何かしら人の参考になる話、ためになる情報があった方が価値が高まるでしょう。先に紹介した「ネタフル」では、IT関連ニュース、デジタルガジェットの話題、芸能やスポーツの話題など、みんなが興味を持ち、またアフィリエイトでオンラインショップに誘導しやすい話題が多数あります。著名人の名前やデジタルがジェットの機種名などは検索キーワードとしての人気も高いので、検索エンジンからの誘導が多く見込めるのもポイントです。
■今回のまとめ
ロングテールを活用したビジネスは「コスト0円で作ったページが1年間で1円の利益を生み出すとして、それが1億ページ集まれば1億円の利益が得られる」といった理論により成り立つ。
- ロングテールを作るための方法は「誰かが作る」、「機械で作る」、「みんなで作る」の3通り考えられる
- ロングテールにユーザーを誘導するには「検索エンジン」、「ブログやソーシャルブックマークなどのオンラインコミュニティ」からの誘導路を確保するべし
- コンテンツの価値を高めることも重要
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次回は、「Web 2.0」が一般ユーザーにもたらす変化と、それへの対応法、という視点からお話しします。
■コラム:80:20の法則(パレートの法則)
ロングテールについて語られるとき、よく一緒に「80対20の法則(パレートの法則)」という言葉が登場します。これはイタリアの経済学者・パレート氏が発見した法則で、「ある商店の売り上げの80%を、20%の商品が占めている」とか、「会社の収益の80%は20%の有能な社員があげている」とか、「ある国の国土の80%は20%の金持ちが所有している」というように、結果の80%を全体の20%程度の少数の者が独占し、残り80%の者は20%の結果しか得られない、という現象を指したものです。これはWebページとリンク(またはページビューや売り上げ)の関係も同じで、ベキ乗則の特徴を言い表わした言葉です。
商店の商品で言えば、20%の「売れ筋」は定番商品として売り続けられますが、残りの80%は、棚に並べておいても売れない(回転が悪い)ので、じきに他の商品と入れ替えられる運命にある「死に筋」商品となります。ところがWebでは、残り80%を置いておくためのコストが限りなくゼロに近いので、そのまま置いておける、だから、少しずつ売り上げがある(かもしれない)というのがロングテールの発想になります。
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■URL
Tim O'Reilly氏著「What Is Web2.0」(英文)
http://www.oreillynet.com/pub/a/oreilly/tim/news/....
(2006/03/13)
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