本連載ではここまで、近年Webに起きている変化と、その背後にある構造、そしてTim O'Reilly氏の「Web 2.0とは何か」の読み解きをリンクさせながら、Webの進化について見てきました。
身近なブログや検索エンジンから、技術、マーケティング、ネットワーク分析など広い範囲に話が広がりましたので、今回は、第1回から第6回までをおさらいしておきたいと思います。
■「Webはスケールフリー・ネットワーク」という世界観の発見
多くの方が既に実感してらっしゃると思いますが、ネットの特徴は「つながる」ことです。北海道のお店がWebサイトを持てば、東京や沖縄など全国にいるお客さんとも「つながり」やすくなります。部屋でブツブツ独り言をいうのでなくブログに書けば、どこかの誰かと「つながって」仲良くなれるかもしれません。
こうした個々の「つながり」が集まって、Webという大きな「ネットワーク(網状に形成された組織)」が形成されています。このとき、Webページどうしをつなぐ「リンク」は、一見すると単なる「通路」として認識されがちですが、実はページとページをつなぐことで何らかの価値を創造し、また、価値を運ぶ働きを持ちます。
人気ページから紹介されるとアクセスが急増する現象、また、何もない町に新しい鉄道ができて大都市と「リンク」することで、駅前の土地の価格が大幅に上がる、というような現象を考えると、「リンクが価値を創造する」ことをイメージしやすいでしょう。
Webは「スケールフリー・ネットワーク」という、次の2つの法則を持つネットワークであることが発見されました。
- ノード(Webページ)が増え、ネットワークが成長している
- ノードは好きな(有用な/有名な)ノードを選んでリンクする
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多数のリンクを得ているノードほど、多くのアクセス数があり、周囲に対する強い影響力を持つ、価値の高いノード(「ハブ」と呼ばれる)になります。
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Webはスケールフリーネットワーク
Web全体から大量のリンクを得ることが自分のサービルの価値を高めることになり、Webビジネスの成功に繋がる。「Web 2.0」とは現在の技術を使って、これを実現するための戦略について論じたものだといえる
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これをもとにシンプルに考えると、Webでは「たくさんリンクを得れば勝ちになる、一種の陣取りゲームだ」というルールと、そのための手段が見えてきます。その手段とは、大きく分けて次の2つです。
- 自サイト内で大量のノードを作る(=ロングテールの活用)
ロングテールとなるコンテンツを作る方法としては、次の3通りが考えられます。
- 自力でがんばってロングテールを作る
- 機械で情報を収集・加工して提供する
- 参加型サービス(ブログなど)を提供する
- 自サイトの外からリンクを張ってもらう
- 地図データや商品データなど、他者が新しいサービスを作れる「核となるデータ」を保有し、利用しやすいAPIを提供する
- アフィリエイトプログラムによる提携でリンクしてもらう
- 画像や文章などコンテンツの権利を一部開放し、利用(リミックス)してもらう
- ブログパーツ等を提供し、ページにつけてもらうことでリンクを得る
- ファンになってもらう
- 何らかの方法(楽しいイベントから、トラブルによる「炎上」)で注目度を上げる
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Web 2.0に関連してよく語られる「集合知の利用」、「データ(APIの公開)は次世代のインテル・インサイド」、「ネットワーク効果」、「参加のアーキテクチャ」、「ユーザー主導の時代」、「なんでもオープンにしよう」などなど、キーワードの多くが、「リンクを得る」という、ひとつの目的に繋がっていくことがわかります。
外からリンクを張ってもらう方法としては「他者が新しいサービスを作れる『核となるデータ』を保有し、利用しやすいAPIを提供する」が、「Web 2.0企業のコアコンピタンス」のひとつ「ユニークで他者が真似しにくいデータを核として(主にAPIの提供によって)コントロールする」に相当します。
この方法は、APIを利用した他者のサイトのロングテールにまで深く入り込みやすい、支配的位置に立ってビジネスを有利に進められる、そして、APIを利用した思いもかけないような新しいサービスが生まれ、ブランドイメージの向上に繋がる可能性がある、といった非常にすばらしい特徴があり、外からリンクを張ってもらう方法の中でも、もっとも強力で、新しい方法だと言えるでしょう。
■Web関連技術の進歩
スケールフリー・ネットワークという概念は、「Web 2.0」を上から俯瞰するための視点だといえます。一方で、Web 2.0を下から支えるのが進化した数々の技術です。
ブロードバンドの普及やプログラム、データベースなどの進化によってWebの表現力が高まり「プラットフォーム(OSのような存在)として振舞う」ようになったことが、まず基本にあります。その上で動くアプリケーション的サービスを作るための技術として、データを扱う言語「XML」や関連技術があったため、上記で紹介した「APIの公開」が今のポピュラーな手段として実現しました。
また「参加型サービス」としてブログやソーシャルネットワークサービスが盛り上がっている背景には、システムを構築する開発言語やデータベース技術の発達、などがあると考えられます。ソーシャルブックマークがヒットしている背景には「フォークソノミー」という新しい情報整理の概念の登場があります。
今後さらに技術が進化すれば、ロングテールを作る手段、外からリンクを張ってもらう手段として、新しいものが生まれるでしょう。
現在のタイミングで特に重要な技術は、ユーザーインターフェイスを劇的に改善する可能性を持つ「Ajax(Asynchronous JavaScript+XML)」です。
Ajaxを利用することで、Webページ全体をリロードすることなく、ユーザー操作に応じたデータをサーバーから引き出し、快適に利用することが可能となります。Broadband Watchの槻ノ木隆氏の連載「BBっとWORDS」でAjaxの仕組みを紹介していますので、詳しく知りたい方は参照してみてください。
このほか、PC以外のデバイスでのWeb利用が増える(たとえば携帯電話、カーナビ、Nintendo DSなど)ことも、「技術の進歩」の1つとして捉えることができます。
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Ajaxを使ったGoogleのWebメールサービス「Gmail」は、Webメールの最大の弱点であるアクセス待ちがほとんどなく、デスクトップのメールソフト並みの快適な操作性が話題に。Google Mapsとともに「Ajax」の力をアピールした。(ただし、残念ながらβサービスで招待制のため、利用するためには、Gmailユーザーから招待してもらう必要がある)
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■情報流通の高速化
技術の進歩、およびネットワークの成長と関連して、情報の流通速度がどんどん速くなっています。新しい話題や、新しいサービスもあっという間に消費しつくされ、陳腐化してしまいます。
そんな世界で変化に乗り遅れないため、軽量な開発モデル、ビジネスモデルなど、あらゆる面で「速く動ける大勢を持つこと」の必要性も、Web 2.0を考えるときに忘れてはいけないことです。
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「スケート連盟に不正支出」というニュースを新聞で読み、すぐ「スケート連盟」でブログ検索をすると、関連の記事がすでに多数書かれている。この情報の速さも、これからのWebを語る上で重要なポイント
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■今回のまとめ
「Web 2.0」の全体像を把握するために、2つの視点があります。
- 「Webはスケールフリー・ネットワーク」という世界観の発見
―全体を俯瞰する概念
- Web関連技術の進歩
―実際の進化を把握するために必要な知識
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1、2と関連して、情報流通の高速化が起きていることも見逃せないポイントです。なお、本連載は一般ユーザーの方を主な対象と考えているため上記2のWeb関連技術の紹介については、軽く触れる程度に止めています。
次回からは、こうした「Web 2.0」という変化・進化がユーザーに与えるインパクトと、そうした中で私たちはどうWebと接していくのが良いか、といったことを考察していきたいと思います。
■コラム:ここで「ブログとは何か」を再度考えてみよう
「Webはスケールフリー・ネットワーク」という前提を踏まえて、「ブログとは何か」を再定義してみましょう。「たくさんリンクを得れば勝ちになる、一種の陣取りゲーム」という点からブログを考えると、そのための機能がきわめて充実していることがわかります。
(A)トラックバックで勝手に相手からリンクさせられる
(B)パーマリンクになっているので、得たリンクを失うことがない
(C)RSSの配信、アップデートpingの送信によって情報の流通速度が上がり、また、読まれやすくなった(なので絡まれやすい=リンクされやすい)
A、Bはその言葉どおりの意味。Cについては、情報の流通速度が上がることで、速く緊密なリンクを張って、自分の周りのネットワークを強化できるようになりました。何かの事件が発生したのをテレビで見て、その場でブログを書けば、1時間もしないうちにあちこちから言及されてトラックバックが集まる、といったことも珍しくありません。
ブログ以前では「検索エンジンに登録したら、2~3週間後にはインデックスに載りますよ」などと、のんきな話が普通にされていましたが、今や、ブログ検索エンジンなら投稿からたった1分後にインデックス化されます。RSSリーダーを使っている読者なら、投稿した次の瞬間には読まれているかもしれません。
これらのことから「ブログとは、Webの中で自分のノードを強くするために、非常に有利なツールである」ということができます。
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■URL
Tim O'Reilly氏著「What Is Web2.0」(英文)
http://www.oreillynet.com/pub/a/oreilly/tim/news/....
(2006/03/20)
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