■Web 2.0がユーザーに与えたインパクト
以下は、連載の第4回、第5回で見てきたキーワードを、ユーザーの視点から言い換えてみた表です。Web 2.0が、このようなインパクトをユーザーに与えるようだ、ということがわかります。
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これまで見てきたこと |
ユーザー視点からのインパクト |
1 | Webはスケールフリー・ネットワーク | ブログを作る、何かに書き込むなどしてWebに参加するということは、世界規模のスケールフリー・ネットワークに、ひとつのノードとして参加することと考えられる。 |
2 | Webがプラットフォームとして振舞う | Webでできることが増える。 |
3 | 集合知を利用 | ブログに書いたなにげない一言、ショッピングサイトに書いたレビューなどが「集合知」や「ロングテール」としてまとめられ、どこかで利用される。 |
4 | 参加のアーキテクチャ/ユーザーを共同開発者として信頼 | さまざまな形でWebに「参加」する機会が増える。また、参加を促されるようになる。サービス提供者と対話する機会も増える。 |
5 | 核となるデータを持ってAPIを公開。軽量なプログラミング | 大手サービスのAPIや優れた開発環境が発表され、昔よりも簡単に、個人レベルで大規模なWebサービスが開発できる環境が整う。また、プログラム等ができない人でも、地図や商品データベースなどを、ある程度手軽に自分のブログやホームページに組み込んで、利用できるようになる。 |
6 | Ajaxでユーザーインターフェイスを改善 | デスクトップアプリケーションのような、快適な操作性のWebサービスが増える。 |
7 | 単一デバイスのレベルを超えたソフトウェア | 手軽なモバイルデバイス、魅力的なデジタルガジェットが増える。 |
8 | 情報流通の高速化 | 速く大量の情報が手に入るようになる。また、自分の発した情報が、速く他者の手に渡るようになる。 |
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Web 2.0のインパクトは、大きく3つに分類できます。
【ユーザー体験の変化】
表の(6)や(7)です。これについては、一般のユーザーにとっては「登場を待つ」以外のアクションが取れないものなので、本稿ではこれ以上触れません。
【ネットワーク内での関係性の変化】
表の(1)~(5)に関連すること。情報の「発信者」、「受信者」という境があいまいになり、誰もが発信者であり受信者になります。そしてまた、サービスを提供する企業とユーザーとの関係も変化します(企業がユーザーを共同開発者とみなす、など)。
【情報の質・量・流通スピードの変化】
表の(3)、(4)、(8)に密接に関係します。「集合知」なる考えの登場、「参加のアーキテクチャ」によってみんながWebに「参加」して情報を放出することにより、一般ユーザー発の情報の量が飛躍的に増大し、RSSのような仕組みによって高速に流通します。
今回は特に【ネットワーク内での関係性の変化】について考えていきましょう。
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筆者のブログ。AmazonアソシエイトとGoogle AdSense広告を貼り、「はてなブックマーク」に登録するためのアイコンも付けている
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たとえば、私のブログでは、Amazonアソシエイトで書籍を紹介し、Google AdSenseの広告を貼り込み、「はてなブックマーク」に登録するためのアイコンも付けています。私のブログはある意味、この3サービスのロングテールに組み込まれていると言えます。
また、主要な検索エンジンに、私のブログの記事は「集合知」の一種として収集されています。
検索エンジンは、私の作ったコンテンツを利用して収益を上げています。しかし、私はもちろん、「勝手に私のコンテンツで金儲けをするな」などという気は全くありません。
AmazonアソシエイトやAdSenseから私がいくらかの利益を得ているように、はてなブックマークや検索エンジンは、私のブログに読者を連れてきてくれます。いわゆるギブ&テイク。持ちつ持たれつ。Win-Winの関係が、おおむね成立しているからです。
これらのサービスは、私のブログ「だけ」を利用しているわけではないことも重要です。1つのブログ単体では、ビジネスに繋がる価値などほとんどありません。小規模なブログを何十万、何百万と集めることで、初めて価値が生まれ、ビジネスとして成立するのです。
「勝手に私のコンテンツで金儲けをするな」といってあらゆる他のサービスとの関係を切ることも可能ですが、それでは孤立してしまうだけです。ネット上でコンテンツを公開するという行為、イコール他者との関係性を求める行為とも言えるわけで、関係性を否定的にばかり考えてしまうと、ネットで公開する面白さはなくなってしまうでしょう。
■高度にネットワーク化された世界での「ギブ」&「テイク」
Webはスケールフリー・ネットワーク。その中にいるということは、個人のブログやショッピングサイト、検索エンジンなど、さまざまなWebページ(サービス)が緊密に繋がりあい、影響しあうことが避けられない、ということです。
個人のブログはAmazonやGoogle AdSense広告を出した企業にトラフィックを誘導(ギブ)し、報酬を得る(テイク)。また読者に情報を届け(ギブ)、アクセス数を貰う(テイク)。あらゆるものはギブ&テイク。「ギブ」しっぱなしで損しないように、「テイク」ばかりの一人勝ちを狙って反感を買ってしまわないように、「うまくやる」ことが重要です。
■「ギブ」編:あなたの情報を渡すサービスを、賢く選ぼう
「ロングテール」とか「集合知」だとか、商品を売り込むためには「口コミ」が効くというマーケティング理論が支持されている現在、サービス提供者は多くのユーザーが「参加」し、日記や体験談、感想など「集合知」として使える情報を発信してくれることを求めています。
下図は、「集合知」を3レベルの流れに整理し、簡単な図にしてみたものです。
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「Web2.0」がユーザーに与えるインパクト
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世の中には、例えば「うまいラーメン屋」を2、3軒くらい知っている人は多数います。でも、たった2、3軒では「ラーメン情報サイト」を作れるほどの規模にはなりません。
しかし、そんな人たちを1,000人集めて、2,000~3,000件の情報を集約すれば、立派な「ラーメン情報サイト」ができあがります。この規模になった情報を「大きな情報のかたまり」と仮に呼びましょう。これだけ情報があればアクセスも集まり、アフィリエイトなどで収入を得ることも容易になり、アクセスが集まるので新しい情報も集まりやすく、うまくビジネスが成立するようになります。
さらに、複数のラーメン情報サイトから情報を集めた「もっと大きな情報のかたまり」があります。代表的なものは検索エンジンです。検索エンジンは、情報を集めてインデックス化し、キーワード連動広告によって収入を得るかわりに、「大きな情報のかたまり」たちにアクセスを提供するという形で「うまくやる」関係を作っています。
「Web 2.0」というキーワードを意識したビジネスとして、この「大きな情報のかたまり」、または「もっと大きな情報のかたまり」を目指したサービスが今後も多数登場されると思います。これらを利用するにあたって、ユーザーとしては次の3つを考えるようにしたいものです。
【権利(特に著作権)に敏感になろう】
サービスに「参加」して何かしらを書き込むときには、利用規約をよく確認して、あなたの書いたものがどう扱われるのかを確認しましょう。最悪の場合、書き込んだ瞬間にその文章はサービス側のものになり、書き込んだあなたあなた自信が自由に使えなくなってしまう可能性もあります。
【あなたの持つ情報の価値を計ろう】
「買った商品1点の感想」には、たいした価値はないでしょう。でも例えば「出産・育児体験記」とか、「オリジナル料理のレシピ」などには、それなりの価値があります。自力で「大きな情報のかたまり」となるサイトが作れるかもしれません。そうであれば、どこかに「参加」して情報を与えてしまうより、自分で運用した方が何かといいでしょう。
【「ギブ」に対するリターンを考えよう】
情報をサービスに「ギブ」するかわりに、自分は何を得られるのか? ポイントか商品券か名誉か評判か? サービス側はそれに見合うだけのリターンを「テイク」させてくれるのか、考えてみましょう。
これは決して「打算的になろう」ということではありません。雑に投稿を集めて、それで商売して「一人勝ち」を狙うサービスを淘汰しましょう。サービスの価値に貢献してくれる参加者に、何らかの形で価値を還元することを考えている、「うまくやって」くれるサービスを選びましょう、という意味です。
先日、Google Maps APIを利用して地図上に口コミを載せる「マップコミ」というサービスが登場しました。これの利用規約を、ちょっと見てみましょう。
「ご利用上のルールと注意していただきたいこと」の中に、次のような一文があります。
登録記事のタイトルとお名前(ハンドル名)、および本文、写真を利用者ご本人への事前の許可なしに、下記のサイトやメールマガジン等に転載させていただくことがありますのでご了承ください
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小さな情報たちをある程度サービス側で自由にコントロールできないとビジネスにならないため、こういった投稿型サービスでは「サービス側が自由に投稿された情報を利用できる」と規約を定めているのが普通です。
中には「著作権はサービス側にあるものとする」と明記してしまっているものもあります。こう書かれてしまうと、あなたの書いた情報なのに、いちど投稿してしまったらあなたが自由に使えない(例えば自分のブログに同じ文章を載せたりできない)ことになってしまいます。そんな利用規約のサービスは、使わないほうが無難でしょう。投稿型サービスを利用する前には、利用規約にしっかり目を通すことが、あなたの持つ情報、あなたの権利を守ることに繋がります。
「マップコミ」の場合は著作権はあくまで口コミの投稿者にあり、また、転載先など自由に使う用途をあらかじめ限定して、明記しています。かなり誠実なサービスだといえると思います。
ちなみに、Amazonの利用規約では、カスタマーレビューに関して次のようなことが書かれています。
お客様がコンテンツの投稿または素材の送信を行った場合、お客様は、Amazon.co.jp とその提携会社に対して、そのようなコンテンツを使用、複製、変更、翻案、公開、翻訳、二次著作物の作成、配布、世界中のメディアに表示できる、非独占的な、無償の、永続的な、取り消し不可能な、完全なサブライセンスを含む権利を許諾したものとみなします。
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大雑把に解釈して、著作権はユーザーにあるけど、Amazonでも実質的に自由に使うよ、といった形です。たいていの投稿型サービスでは、このようなスタンスの利用規約を定めています。
Amazonの場合、最初のレビューなら抽選で3,000円のギフト券がもらえます。また、自分の気に入った商品がヒットし、その本の著者や出版社が潤うことは、めぐりめぐって自分にも利益があることです(そのおかげで次回作が出せることになるかもしれません)。ほかのユーザーの的確な商品選びを助けること、Amazonという大きなサイトで、レビュアーとしての評価が上がることもプラスと考えられるかもしれません。
サービスに「参加」するときは、自分が納得できるサービスを選びましょう。
なお、自分で「情報のかたまり」を運営しようとして、「ココログ」や「はてなダイアリー」などのブログサービスを利用する場合は、そのサービスがまず「大きな情報のかたまり」になります。サービスの利用規約を、あらかじめ確認しておきましょう。
■「テイク」編:あなたが何かを貰うとき、相応の価値を提供できているか?
あなたが「テイク側」に回ることもあります。普通の人が投稿型サイトを立ち上げるのは技術的なハードルもあり、それほど簡単ではありません。でも、例えばアフィリエイトは簡単に利用できる「テイク」のための手段です。
ブログにアフィリエイトで商品を紹介することは、それを「買ってね」と、読者に一種の「参加」を促すことです。高い報酬に惑わされて怪しげな商品を紹介したり、手当たり次第に知りもしないものを紹介したり、といったことは、読者と「うまくやる」という発想が抜けてしまった行為だといえます。
自分のブログを読んでくれる読者のことを考えて、その人たちのためになる商品を選んでオススメすることが「うまくやる」アフィリエイトに繋がり、毎回紹介者(あなた)を信頼して買ってくれる、いわゆる「息の長い客」を育てることになるはずです。
■今回のまとめ
Web 2.0がユーザーに与えるインパクトとしては、「ユーザー体験の変化」、「ネットワーク内での関係性の変化」、「情報の質・量・流通スピードの変化」が挙げられます。
ネットワーク内での関係性の変化としては、「ギブ」&「テイク」のバランスを考えることが大切。「ギブ」にあたっては次の3点に注意する。また「テイク」にあたっては、この3点をユーザー視点で考え、「うまくやる」ことを考えましょう。
- 権利(特に著作権)に敏感になろう
~自分の情報の権利を守ろう
- あなたの持つ情報の価値を計ろう
~ある程度価値のある情報は、ただ投稿するのでなく、自分でブログを作るなどして発信するのがいい
- 「ギブ」に対するリターンを考えよう
~「ギブ」に見合うリターンを返してくれるサービスなのかを判断しよう
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次回は「情報の質・量・流通スピードの変化」について考察します。
■コラム:Web 2.0的人間像
周囲と「うまくやる」ということは、Web上に限った話ではありません。Webと同様に現実社会もスケールフリー・ネットワークであり、そして、ブログでは自分の人間性がよく出るもの。ブログに限らずSNSでもそうですが。
ちょっと自己啓発めいた話になるかもしれませんが、「Web 2.0的な人間像」というものが考えられそうです。人脈が広くて多くの人の話を聞くことが好きな人や、高い情報感度と情報収集能力を持って、いつも的確に情報を整理する人は「集合知を利用する」人。ユニークな資質(たとえば特殊な職業や経歴、キャラクター)を持っていて、話題を振られやすいブロガーは「核となるデータを持ってAPIを公開している」人といえそうです。
このあたり、「人気ブログの作り方」とか「ブログで人脈を増やす方法」として、考えられそうですね。
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■URL
Tim O'Reilly氏著「What Is Web2.0」(英文)
http://www.oreillynet.com/pub/a/oreilly/tim/news/....
(2006/04/24)
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