これまでの回ではWinnyやShareを使うことによる危険性について触れた。ではユーザーは具体的にどのようにすればこのようなマルウェアから身を守ることができるのだろうか?
■「トロイの木馬を城内に入れない」ために
Winny/Shareの情報漏洩マルウェア(いわゆるキンタマウイルス)の被害を確実に防ぐ方法としては、まずWinnyやShareを使わないことだろう。先日、IPAも同様の注意を発しており、興味本位でWinnyを使うと痛いしっぺ返しを食らうと警告している。以前、官房長官も同様の呼びかけを行なっており、被害を防ぐためには「まず使わない」というのは、方法論としては正しいと言える。
だが、本当に重要なのは危険性の存在を正しく知り、正しい対処を行なうことだろう。情報漏洩の問題はWinny/Shareを使わなくても発生し、マルウェアを実行してしまうのはユーザー自身だ。P2Pを介さない情報漏洩マルウェアもあるので、今回は「トロイの木馬を城内に入れない」ための心がけや使い方について述べたい。
・「拡張子は表示する」、ワンクリック実行をしない
筆者は、なぜマイクロソフトがこのような方策をいまだに続けているのか理解できないのだが、「登録された拡張子を表示しない」という初期状態を改めることを提案したい。無論、拡張子を表示しにくい偽装は施されているとはいえ、拡張子表示を有効にしておけば、例えば実行ファイルを偽装している場合であれば、「exe」という文字が見えるはずだ。
また、一部のメーカー製PCでは「ポイントして選択し、シングルポイントで開く」という設定(マウスでクリックするだけで選択&実行)になっている。処理としては簡単だが、これもうっかりクリックというトラブルが起きる。通常のダブルクリックによる実行に改めたい。
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これは筆者マシンの設定で他の部分も標準設定と異なるが、「拡張子を表示」させている |
クリック方法はこれが標準設定だが、これを変えているメーカー製PCも存在する
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・ツールのバージョン管理を行なう
WindowsやOfficeは半強制的にセキュリティパッチを配布、インストールする手段が用意されているので問題は少ないが、同様にインストールしているアプリケーションやツール、DLL等の更新状態を定期的にチェックして欲しい。
これは、「自分のPCに何をインストールしているか」という把握ができていることも意味する。不要なツールはインストールしないのもよいだろう。特にActiveXなど、実行していることが把握しにくいものも確認しておくことが重要だ。というのもこれらの脆弱性を狙ってダウンロードを行なうマルウェア群が存在するからだ。
・統合セキュリティツールをインストールする
先日行なわれたシマンテックのセキュリティトレンドの発表会の席上、「一般ユーザーが行なう方法」としてセキュリティレスポンスディレクターのケビン・ホーガン氏は「(ツールベンダーだからというわけではないが)統合セキュリティソフトを入れて欲しい」という発言をしている。
総合ツールが必要な理由としては、(純然な)アンチウイルスソフトでは基本的に定義ファイルベースでの個別対応を行なっているため、定義ファイルに登録されていない新種ウイルスなど、ベンダーが把握しきれない「細かな攻撃」に弱点を抱えているためだ。その点、統合セキュリティソフトは、双方向のファイアウォール(Windowsファイアウォールがブロックするのは外部ソースからの接続で、データの送信については無制限という片方向が標準だ)があり、二重三重の防御となる。
・アンチウイルスソフトを「過信しない」
その上で「アンチウイルスソフトが守っているから」という考えを捨て、実行に対して「本当に問題ないのか?」と自問自答して欲しい。もちろん統合セキュリティソフトにはサポート期限がある。サポート期限が切れたツールは無防備だ(第1回で有効期限切れのダイアログが表示されたデスクトップが放流された画面を思い出して欲しい)。
■それでもWinny/Shareを使うなら………
ここまでは通常のWindows操作での心がけになる。それでもWinny/Shareを初めとするP2Pソフトを利用する気があるなら、さらなるアドバイスをするとこのようになるだろう。
・エラーダイアログを信用しない
Winny/Shareでのトロイの木馬は、動作面での偽装を見抜けるケースが少なくない。よくあるタイプがエラーダイアログを出して、異常終了と思わせる手口だ。確かにP2Pで流れるファイルは破損することが多く、このダイアログもよく見かけると思うが、そのシステムダイアログが本当にシステムが出したものなのかを疑うことも必要だ。
・「標準」を使わない
情報流出系マルウェアの場合、無差別にHDDの内容を出すものは極めてまれだ。これはすべて公開すると情報量が増えてしまい、クリティカルなデータの抽出ができないためだ(まったくないわけではない)。このため、標準的なファイルを扱わないという手もある。例えばWinnyでのキンタマウイルスの場合に限って言えば、Outlook系のメールを流出させたが、サードパーティのメーラーを使えばメール内容が漏れることはなかったはずだ。
・アイコンを変える
拡張子偽装マルウェアは実行されやすいようなアイコンに化けている。そこでアイコンを標準と異なるものにすることによって偽装をわかりやすくするという手がある。
・エクスプローラーから実行しない
エクスプローラーを使わないのもよいだろう。筆者は普段ファイル操作にWinFDを使っている。ファイルコピーや画像類の閲覧(これは追加プラグインも使用している)、ファイルの圧縮展開が行なえ、エクスプローラーを使わなければいけないケースはほとんどない。プログラムの実行も行なえるが、普段の操作でEnterキーを押している場合、Enterキー1回では実行されず、ダイアログメニューが出るため、偽装だったとしてもそのまま実行することはない。
・専用マシンを作る
さらに突き詰めると、流出しては困るファイルを一切入れない。つまり、P2P専用マシンを作るのがよいということになる。P2Pで入手できたファイルである以上、誰でも入手可能なものであり、これが多少漏れても影響はない。
■「copy & forget」がデータ漏えいの一因?
最後に、本来のテーマである情報漏洩ウイルスの被害から身を守るために立ち返ってみたい。
本人だけでなく、企業も大ダメージを受ける「仕事のデータを漏らさない」ためには、仮に仕事のデータを家庭のPCで扱う必要性があったとしても、企業内PCよりも明らかにセキュリティレベルの低い自宅私用PCのHDDにはデータを入れないのがよいだろう。自動暗号化機能付きUSBメモリに入れて移動し、データはHDDにコピーしないというのが現実的な対策だ(最近ならこのような製品も出ている)。
Winny/Share等のP2Pソフトを使用していて、情報漏洩事件を起こした場合はP2Pと無関係の事例でも「担当者は自宅でP2Pを使用しており」とあたかもそれが原因であるような報道・発表をされる可能性は否定できないし、結果として路頭に迷うことになるだろう。
会社で自宅の私的なマシンの実行ソフトを制限することは、私権の侵害になるのではないか? という問題もあるが、「内閣官房長官の呼びかけもあるようにWinnyを使用しないこと」というような会社からの通知を無視していれば、何かあった場合スケープゴートにされる可能性もある。「やるなら覚悟しておけ」ということになるだろう。
筆者は「過去の流出事件」記事を見た際に、「仕事で必要なデータを家庭のPCにコピーして作業し、存在を忘れていた頃に流出した」と考えられるケースが多いと強く感じている。これを防ぐのはデータの存在を常に気にかける運用を行なうしかないだろう。
一方、企業におけるコンプライアンス強化の流れからすれば、家庭に仕事を持ち込まなくてもよい環境作りが企業に求められる(「自宅でサービス残業」は労働基準法違反だろう)。その上で仕事データを家庭のPCから一掃するのが企業として正しい対応(策のひとつ)だろう。
「従業員がデータを勝手に持ち出した」という釈明をする企業は多いが、持ち出させる素因を作っていた場合、企業にまったく責任がないとは言いにくい。私用マシンを持ち込まなければ業務が成り立たない状況になっている職場も同様だろう。
Winnyを使わせないという対症療法だけでなく、PCを安全に使う手法をこの機会に学んでほしいと強く感じる。なお、来年よりわかりやすいセキュリティ知識や強化策を解説した連載を行なう予定であり、こちらもぜひ見て欲しい。
(2007/12/26)
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小林哲雄(こばやし てつお) 中学合格で気を許して「マイコン」にのめりこんだのが人生の機転となり早ン十年のパソコン専業ライター。主にハードウェア全般が守備範囲だが、インターネットもWindows 3.1と黎明期から使っており、最近は「身近なセキュリティ」をテーマのひとつとしている。 |
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