■URL
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/denryoku/index.html
総務省は、電力線搬送通信(Power Line Communication:PLC)で使用できる周波数の拡大について検討を開始した。4月30日、「電力線搬送通信設備に関する研究会」の第1回会合を開催した。電力線に高周波を重畳した際に漏洩する電波の測定実験を行なうとともに、電力会社やモデムメーカー、無線通信/放送従事者などへのヒアリング調査も実施。PLC用周波数拡大の可能性と漏洩電波の許容レベルについて、技術的条件を7月中にとりまとめる。
現在、国内でPLCに使用できる周波数として開放されているのは10kHz~450kHz。通信速度は9.6kbps程度に止まっているが、すでに機器制御用などの用途ではモデム製品も発表されている。
これに対して、研究会が検討対象としているのは2MHz~30MHzといったより高い周波数帯についてだ。ブロードバンドのアクセス回線として高速通信にも対応できるよう周波数の規制緩和を求める動きがあり、これをふまえて政府のe-Japan重点計画にも2002年度までに結論を出すことが盛り込まれている。
規制緩和の大きなハードルとなるのが、漏洩電波が既存の無線通信に及ぼす影響である。電話線などと異なり、電力線はもともと高速データ通信に適した構造になっていない。このため、電力線に高周波を重畳した場合、周囲に電波が漏洩してしまうことになり、同じ周波数を使っている短波放送や船舶無線、アマチュア無線など既存の無線通信への干渉が懸念されている。また、コンセントに接続した家電や医療機器などへ影響を及ぼす可能性も指摘されている。
PLCの高速化実現に向けて解決するべき課題が残されている中で、国内では昨年ごろから、規制緩和に先行するかたちでPLC事業に参入する動きがちらほらと見られるようになった。高周波PLCモデムを開発する海外メーカーと共同で、PLC事業の会社を設立した電力会社や電気メーカーも現われている。ブロードバンド普及の流れの中で、ADSLやFTTHと並ぶアクセス回線のいち手段としてPLCに期待が寄せられているわけだ。
ところが、総務省が今回やっと研究会を発足させたことからもわかるように、PLCの周波数拡大については検討が始まったばかりだ。実際のところ、既存の無線通信に対してPLCの漏洩電波がどれほど影響を及ぼすのか、データがほとんど公開されていないのが実状だ。
第1回会合では、電波産業会(ARIB)と日本アマチュア無線連盟(JARL)が今年1月に共同で実施した測定実験の報告書が配布され、それぞれ代表者による説明が行なわれた。データについてはJARLのウェブサイト(http://www.jarl.or.jp/Japanese/2_Joho/akagi0126.htm)でも公開されているが、結果をどう評価するかが難しい。漏洩電波のレベルが自然界のノイズの範囲内だったという実験項目のデータを紹介したARIBと、干渉の大きいデータから到底容認できないレベルだと強調したJARLで、立場によって評価が異なっている。
研究会では今後、実験方法そのものの検討も含めて取り組むことになる。総務省では、既存の無線通信とPLCの周波数が共用可能という結論が示されれば、規制緩和を審議会に答申し、電波法の改正にとりかかる予定だ。
欧米ではすでに数千世帯規模での試験サービスが行なわれている例もあるようだが、ケーブルの構造や敷設形式で日本とは大きな違いがある。漏洩電波がシールドされるということで、電力線の地下埋設エリアに提供を限定しようという動きもあるという。特に空中架線が大部分の日本では、ケーブルの地下埋設が比較的進んでいる欧米に比べ、漏洩電波についてより厳しい基準が求められることも予想される。研究会が示す漏洩電波の許容レベルによっては、ブロードバンド用としては「使いものにならないという結論もあり得る」(研究会の座長を務める杉浦行・東北大学電気通信研究所教授)わけだ。
もちろんモデムメーカーは、厳しい条件が示されたとしても、その範囲内で高速化が可能な技術の開発に取り組むことも考えられる。ただし、新技術開発のためのコストや期間を考えると、今後コスト低下が進むであろう光ファイバーにどこまで対抗できるかという疑問もある。電力線というもっとも普及率の高い既存インフラをデータ通信に活用できるというPLC最大の強みは、ことブロードバンド目的に限って見れば、どこまで通用するか微妙なところだ。
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(2002/4/30)
[Reported by nagasawa@impress.co.jp]