【集中連載】

パーソナルマッチングサービスのトレンドを追う

第三回:ネットコミュニケーションについて考える~ネットに潜む危険性と可能性

●アダルト出会い系サービスの危険性


 一時期社会問題にまで発展した携帯電話への「迷惑メール」や、「ワン切り電話」。その多くが性的な目的を持つ出会いを探すもの、いわゆる「アダルト出会い系サイト」の広告だったことから、「出会い系=アダルト・迷惑なもの」、という認識が一気に強まった。これにより、良質なコミュニティサイト・パーソナルマッチングサイトまで色眼鏡を通して見られてしまう状況になってしまった。ネット上のコミュニケーションについて馴染みの薄い人にとっては、「出会い=怪しい」となってしまうのもいたしかたない。

 株式会社マクロミルの調査によれば、携帯出会い系サイトについて、7割もの人が「使いたいとは思わない」と回答している。この理由として一番に挙げられているのが、「トラブルに巻き込まれそう(69.9%)」というものだ。これはまさに、各種報道で、出会い系サイトを舞台にした事件が大きく扱われたことが影響しているだろう。

 実際のところ、事件の多くはアダルト出会い系サイトを利用したことで起きている。この連載で紹介したパーソナルマッチングサービスは、これらのサービスは似て非なるものなのだが、世間一般ではいっしょくたに「出会い系サイト」として認知されがちなことは非常に残念だ。

 ところで、アダルト出会い系サイトとは、いったいどんなサービスで、どのような危険が潜んでいるものなのだろうか?

 簡単にいうと、アダルト出会い系サイトは「テレクラのネット版」と定義できる。アダルト出会い系サービスとテレクラ、この2つのサービスは、ツールとして電話を使うかネットを使うかの違いだけで、サービスとしては非常に酷似している。アダルト出会い系の多くが、テレクラと同様

 ・割り切ったオトナのお付き合いができる相手を探す
 ・援助交際の相手探しと価格交渉

を目的として利用されている。

 利用に際しては、多くが利用前に入会金を支払うか、「ポイント」を有料で購入する仕組みになっている。ポイント制の場合、気に入った相手にメールを出すために一定のポイントが必要になっている。また、メール交換を申し込んで相手がOKした段階、もしくはメール交換が進み実際に会おうとなった段階で料金が発生する「成功報酬型」を導入している場合もある。

 名目上は利用者全員からお金を徴収するスタイルを取っているが、実際のところ登録比率としては男女比9:1で圧倒的に男性が多く、お金を支払ってメールを出すのは男性という構造になっている。

メールレディ募集案内

 この、ポイント制や成功報酬型にともなって導入されているのが、「テレフォンレディ」ならぬ「メールレディ」という、いわゆるサクラシステムである。女の子から返事が来た!と鼻の下を伸ばして返事を書こうとすると、次のメールを書くためにはポイントの購入や追加料金が必要になる。それでうまく行けばまだしも、相手がお金で雇われているサクラとあっては、本当に男性は浮かばれない。

 もちろんサクラだけではなく、一般の女性にもテレクラを利用する人がいるようにアダルト出会い系サイトを利用するケースも増えている。「女性がアダルト出会い系サイトを利用する場合、一時期の寂しさを癒せればいいという“揮発性”を求めてくるケースが多いのではないでしょうか?そこには性交渉に至るまでのプロセスや事後の継続性は要らないわけです」とは、新潟大学・経済学部で、ネットコミュニケーションを研究テーマにしている澁谷覚助教授だ。

 刹那の寂しさを埋められればいい、というニーズがマッチする男女が出会う場としてアダルト出会い系サービスは機能するわけだ。その利用に関しては個人の自由だ。ただし、危険な目にあう確率はこの種のサービスにおいて大幅に高まるということだけは喚起しておきたい。

 もちろん、友だち作りを目的としたサービスにも、邪な目的を持って参加してくる輩がいないわけではないが、圧倒的にアダルト出会い系では危険性が増大する。そこは、相手が誰であろうと、とにかく「エッチできればいい」男と、「自分の性を売りたい」女の駆け引きが行なわれる場だ。しかも、男性の「あわよくば…」という“スケベ心”を狙って、どんどんお金がかかるような落とし穴が仕掛けられていたり、利用する男性から金品を脅し取ろうと、女性のふりをしてメール交換し、誘いに乗ってのこのこと会いに来た男性を恐喝する、などの事件も起きてしまうのだ。出会い系サイトでのトラブルというと、女性が被害者と考えがちだが、実際には上記の事件のように男性を狙った事件が多発している。

●結婚相談サービスとしての、パーソナルマッチングビジネス


 一方でよりセキュリティを強化し、特定の目的を持った人々に安心して利用できるサービスを提供している有料サービスも目立ってきている。これまでは、主に「友だち作り」を目的としたサービスを紹介したが、「結婚相手探し」に特化しているサービスがそれだ。そこに入会している人たちは、我々が考えている以上に真摯な態度でサービスを利用している。

 結婚相手を探すのであるから、どこのサイトも利用者の真剣なニーズに応えるべく、身元確認やトラブル対策には万全を期している。今回、取材のために登録を申し込んだサイトは、申し込み手続き後、郵送で送られてくるパスワードを入力しないと本サービスが利用できないようになっていた。虚偽の住所による利用を防ぐためだ。当然私書箱サービスなどが郵便物の受け取り場所の場合は申請は却下されるし、登録後免許証や戸籍謄本などの身分証明書を運営事務局に提出することにより、自分のプロフィール欄につく信用度の星印が増えていく仕組みになっている。

 結婚相談サービスとして機能しているサイトのほとんどが、男女ともに有料制になっている。入会金が必要なタイプ、メール交際を申し込んで成立した際に料金が派生するタイプなどがあるが、既存の結婚相談サービスに比べればぐっと格安なのがポイントだ(既存の結婚相談サービスの多くは入会時に30万程度の費用がかかるが、ネットの場合は数千円からせいぜい数万円程度)。

 メール交際成立時に料金を支払うサービスの場合、やはり人数構成上多くは男性が女性に申し込む構造になってしまい、支払うのは男性というケースが圧倒的だ。しかし前出の澁谷助教授は、「例えば男性の職業が弁護士や医者などバリューがある場合、女性の方が高い会費を支払っても知り合いたいということは考えられますから、これはどちらがサービスのメインターゲットになるか、ということに過ぎないのではないでしょうか」と分析する。“お金を出してでも知り合いたい”という付加価値が結婚相談サービスの特徴である。

 では、条件が悪ければダメなのかと思えばそうでもない。例えば、離婚経験者のみを対象にした「バツイチのための出会いサービス」なるものも登場している。離婚経験者の場合、相手が初婚だと相手の肉親から反対を受けるなどの問題が起きてしまいがちだが、こういったサービスならお互いの過去は納得ずくで知り合うことができるのだ。お互いのニーズが一致している相手と、時間や場所の制約なく知り合えるネットの特性をうまく活用しているサービスだ。自分の行動範囲内ではなかなか知り合えない属性を持った相手でも、ネットなら容易に探すことができるだろう。

●ネットコミュニケーションのメリット・デメリットを知っておく


 普段の行動範囲では知り合えない相手と、時間や場所の制約を越えて広く知り合えるのはインターネットの大きなメリットだ。また、人は実際に初対面の人と出会う場合、どうしても容姿からの第一印象に振り回されてしまうが、ネットでは容姿というファクターを抜きにしてまず内面をアピールできるというメリットも大きい。「人類史上初めて、ルックスに左右されずに自分をアピールするツールを手に入れたといえますね。内面にはすごくいいものを持っているのに、見た目で損をしていた、という人もいたわけですからね」(澁谷助教授)。最終的には対面することを目的とするのなら、どこかの段階でルックスによるふるい分けが生じるのだが、少なくとも最初から拒否されてしまわない分、チャンスは広がるのではないだろうか。

 しかし、顔も見ないままお互い文字情報だけでやりとりをしていると、人間というのは得てして相手に対して希望的観測を持ったイメージ像を結んでしまいがちだ。例えば、「タレントのAに似ている」と自己紹介されると、ついそのタレントの容姿そのままを浮かべてしまうものだが、実際には自己申告はあてにならないものだ。

 自分のことはよく見せようと無意識に、もしくは意図的に演出するのはよくあることだ。相手から与えられた情報のみを頼りに、自分の中だけで相手を理想化してしまうと、実際に対面した時に実像とのギャップに驚くはめになる。

 もちろん、デメリットもある。どれだけサイト運営側が心を砕いても、トラブルが起きてしまうことは否めない。ネットという相手の顔も声の調子も表情もわからないコミュニケーションでは、ちょっとした言葉尻から思わぬ口論(ネットバトル)に発展することは珍しくない。

 また、メールという遠く離れた人とも簡単にコミュニケーションが取れて便利なツールによって、ウイルスを受け取ってしまうという危険性もある。同様に、パーソナルマッチングサービスを使うと、たくさんの人と知り合えるチャンスが増大するメリットもあるが、ネットストーカーなど“変な人”と知り合ってしまう危険性もある。しかしながら、ネットだから特別危険性が高まるというわけではない。街を歩いていても上から突然モノが落ちてくることもありうるし、乗っていた電車が脱線して事故に遭う事もあるのと同じことだ。

 筆者は、よく「出会い系ってこわいんでしょ?」と聞かれたときに、こう答えることにしている。「自動車を運転すると、遠いところにもすぐ行けて便利だけど、事故を起こすこともある。でも、運転方法をよく学び、交通ルールを守って、自分の運転技術を磨けば、事故に遭う確率は下げることができる。出会い系も一緒」と。危険だと感じて利用しないのも、メリットを感じて利用するのも結局のところは自分次第。使う以上は、使い方のルールとリスクを考えて責任を持って利用してほしい。

●パーソナルマッチングサービスの展望


 最近のパーソナルマッチングサービスの傾向として、プロフィール欄に顔写真を掲載できるサービスが増えてきた。従来は、似ているタレント名や「ぽっちゃり型」とか「癒し系」などのタイプ、あらかじめ用意されているイラストの似顔絵アイコンを選べるといったサービスがほとんどだったが、前回紹介した「Yahoo!パーソナルズ」のようにオプションとして顔写真を掲載できるサービスのほか、写メールや「FOMA」のテレビ電話機能を活用したサービスも生まれてきている。

 顔写真の掲載に関しては、ユーザー側からの強い要望があり、実際に掲載している人も多いと「Yahoo!パーソナルズ」を担当するヤフー株式会社の後藤雅美氏はコメントしている。技術的には顔写真入りや、もっと進んでCCDカメラを設置してリアルタイムで相手と動画入りで話せるなどのしくみも容易に導入できるであろう。ブロードバンド環境の普及により、一般家庭でもあまり抵抗なくこれらのサービスが利用できる土台はできてきた。また、カメラ付きケータイのヒットにより、見知らぬ第三者に対して自分の顔写真を公開することに抵抗のない層も増えてきた。

 ハード的にもソフト的にも、ルックス公開は時代の趨勢なのかもしれない。ネットの出会いの特性であり、かつメリットでもあった、顔の見えないコミュニケーションという前提条件が変わろうとしている。つまり、オンラインの世界も現実社会に近づき「まずルックスありき」になろうとしている。会う時にはどうせルックスが気になるのだから、最初からわかっているほうが合理的と歓迎する声がある一方、相手に対してメールの行間から「いったいどんな人なんだろう」と想像する“わくわく感”が失われてしまうという声もある。日進月歩の勢いでめまぐるしく変わるパーソナルマッチングサービスは、今後どこにいくのだろうか。

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第一回:有料化で安全性を高める~老舗・エキサイトの場合
第二回:今、あえてコミュニティサイト運営に踏み出す思惑~Yahoo!パーソナルズの場合

(2002/6/12)

[Reported by いちばゆみ]

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