【イベントレポート】

“プロバイダー責任制限法”においては情報開示を行なわないのが基本

情報ネットワーク法学会、第1回研究会を開催
~“プロバイダー責任制限法”の現状は?

■URL
http://www.in-law.jp/


右から、亜細亜大学教授の町村泰貴氏、総務省総合通信基盤局利用環境整備室室長の山田真貴子氏、ニフティ株式会社法務担当部長の丸橋透氏、日本総合研究所法務部長の大谷和子氏、財団法人インターネット協会副理事長の国分明男氏

 27日、インターネットにおける法の整備や政策などを研究する「情報ネットワーク法学会」の設立総会と研究大会が都内で開催された。

 プレ研究会では、「プロバイダー責任制限法と企業の対応」と題したパネルディスカッションが行なわれ、パネリストがそれぞれの立場から同法について討論した。「プロバイダー責任制限法」は、インターネット上で公開されている情報のプライバシーと、著作権の侵害においてプロバイダー(掲示板などの管理者も含む)の責任範囲を定めている法律で、2002年5月27日に施行された。正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」だが、通称「プロバイダー責任法」として知られている。しかし現在は、プロバイダーの責任が重くなるという誤解を招く恐れがあるとして「プロバイダー責任制限法」の呼称が広まりつつある。

 まず、立法に直接携わった総務省総合通信基盤局利用環境整備室室長の山田真貴子氏より説明があった。同法では、Webページや掲示板でプライバシーや著作権の侵害を受けた被害者が、管理者に対して該当する情報の提示を求める「発信者情報の開示請求」について触れている。しかし、「管理者(プロバイダー)は第三者の立場なので事情が分かりにくく判断が難しい。免責事項が定められているので、迷ったら開示しない方がよい。必要なら裁判所を通すのが適切」だとした。さらに、発信者情報の開示請求は、指定法人などの第三者を通して行なう事も検討しているという。

 続いて、ニフティ株式会社法務担当部長の丸橋透氏よりISPの立場からの発言があった。丸橋氏は、同法の対象となる「特定電気通信」の定義として「放送以外の不特定の者による受信を目的とする」「電気通信の送信」を挙げ、「Webページによる情報発信」「掲示板への書き込み」「チャット」「メーリングリストへの投稿とメルマガ」がそれに当たるという。中でも、想定される厄介なケースとして、WinMXなどによる「P2Pによるディレクトリー開放」を用いたプライバシーと著作権の侵害があるという。これらのP2P通信も特定電気通信の定義に当てはまるとしたものの、ISPとしては「該当するユーザーに注意を促すか、接続を切るという両極端の対応しかできない」とした。この上で「プロバイダー責任制限法上では対応できないので、約款の改正が必要」だとした。 さらに、株式会社日本総合研究所法務部長の大谷和子氏は、「被害者からプライバシーの侵害について申し出があった場合、Webや掲示板の内容をすぐに削除すると、内部告発などの機会を奪いかねない。迅速に対応するために制定した法律だが、この辺りのバランスが難しい」とした。なお大谷氏は、社団法人テレコムサービス協会(テレサ協)にて「プロバイダ責任法に関するガイドライン」の制定に中心的人物として携わった。

 次に、財団法人インターネット協会副理事長の国分明男氏が、ISP業界全体としての同法への対応に触れた。同氏によると、国内のISPは6千社程度あるが、ほとんどが小規模であり、これら法律に関するサポート要員が不足しているのが現状だという。今後の課題としては、「ISP同士の連絡網が必要。特に、海外との連携を強くしなければならない」とした。

 また、会場からの「各所で発生するプロバイダー責任制限法における費用負担はどうなるのか」という問に対して、パネルディスカッションの司会を務めた亜細亜大学教授の町村泰貴氏は「例えば、ISPが全てのWebや掲示板を監視して、その情報がプライバシーの侵害に当たるかなどはチェックできないし、これらの責任はない」とした上で、「負担は増加しないだろう」と答えた。

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(2002/7/29)

[Reported by adachi@impress.co.jp]

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