【イベントレポート】

慶大などがPOFによるギガビットネットワークをデモ「ギガアイランド」

■URL
http://www.pof-con.org/conference02/ (POF2002)
http://www.keio.ac.jp/index-jp.html (慶應義塾大学)

ギガハウスタウン~のロゴ(上)と、司会を務めた慶大の小池康博教授(下)
 現在都内で開催中のプラスチック光ファイバー(以下POF)関連の国際会議「International POF Conference 2002」で、18日にスペシャルセッション「ギガアイランド」が行なわれた。POFを用いたギガビットネットワークの可能性を探る「ギガハウスタウン(GigaHouse Town)プロジェクト」のキックオフイベントだ。

 「ギガハウスタウンプロジェクト」は、POFの研究開発のリーダー的な立場である慶應義塾大学(以下慶大)を中心に、旭硝子、富士写真フイルム、松下電工など情報通信関連、および不動産・住宅関連企業など13社が協力して行なうもの。新築マンションやオフィスビルと慶大の間を光ファイバーで結んで、各家庭を含めた1ギガビットのネットワークを構築。リアルタイムの高画質映像送受信による遠隔医療やeラーニングなど、ギガビットネットワークで実現するサービスや機能、コンテンツを検証するプロジェクトとなる。

 このプロジェクト開始を記念したイベント「ギガアイランド」では、慶大各キャンパス(三田、信濃町、日吉、湘南藤沢)と、会場となった都内ホテルを1ギガビットのシングルモードファイバー(石英製)で接続。そのうえで、会場内にPOFによるギガビットネットワーク網を構築し、このネットワークを用いた各種デモを行なった。慶大理工学部の小池康博教授は、「光ファイバーの敷設では、今はファイバーそのものより、敷設コストのほうがはるかに高いと言える。幹線系はやはり石英のシングルモードファイバーが不可欠だが、家庭などに用いる場合、径が太く、研磨が要らないため敷設しやすいというPOFの特性を生かせる」と述べた。POFは距離などの制約はあるものの、ねじりや曲げに強く、石英以上の伝送速度も出せるメリットがあるという。

 イベントは講演と壇上のデモンストレーション、遠隔パネルディスカッション、ブースによる展示の3パートで構成。世界初の試みという1ギガビットの高画質映像の無圧縮配信をはじめ、離れた病院への遠隔手術指導、医療機器の音声による遠隔操作、高速インターネットやIP電話、テレビ会議といったデモを行なっていた。製品展示では、旭硝子と松下電工が、旭硝子のPOF「ルキナ」を用いたギガビットマンション、ギガビットオフィスを紹介。電話のモジュラージャック感覚で利用できる“光コンセント”や“光プラグ”などとの組み合わせで、マンション向けの情報配線システムを来年1月より展開するという。また富士写真フイルムは、先日発表した従来型より大口径なGI型POFを参考出品。来場者にコネクタを抜き差しさせ、接続の容易さを強調していた。ネットワークとは異なるが、北野共生システムプロジェクトが小型ヒューマノイドロボット「morph」にPOFを搭載したモデルを出展、POFを用いた信号伝達によるアクションを披露していた。POFを用いることで、ケーブル数や信号伝達時のノイズを減らし、ロボットの可動性をより高めることができるという。今回はPOFを用いた箇所が分かりやすいようにコネクタ類を外に出して展示していたが、ロボットの機体内への格納は難しくないそうで、今後は信号の多重化などの研究を進め、より少ない分量のPOFを用いることを目指しているという。

 なおパネルディスカッションでは、会場の慶応義塾長・安西祐一郎氏、東京農工大学長・宮田清蔵氏らに加え、慶大理工学部長・稲崎一郎氏が日吉から、慶応義塾幼稚舎長・金子郁容氏が三田から遠隔で参加。パネリスト全員が教育関係者のため、話題は情報通信の進化と教育の関係がメインとなり、「現代は大学という一定期間の中で知識を伝えることが難しくなっていて、また知識の陳腐化も非常に早くなっているため、いずれすべての教育が生涯教育に向かっていくのでは。そのとき、情報通信とリアルタイムコミュニケーションは非常に生きてくる」(稲崎氏)、「子供たちによく“自分のためだけでなく、人のためになる”ことを言っているが、ネットワークでさまざまなつながりが可能になることで、人のためになることが容易になる面もあり、そういう教育も可能になる」(金子氏)などの意見が出ていた。反面、「ギガビットネットワークが普及し、eラーニングが進むと大学の役割はどうなるのか?」という指摘も。これについては、「専門性の高い教育はeラーニング化が進むだろうし、また有効だと考えているが、低学年についてはやはり学校は必要」(宮田氏)、「情報通信の進化は確かに優秀な先生だけが生き残るという面も持ち、慶大はそれを先導もしている(笑)。とはいえ学校はやはり大事で、従来のマテリアルで教えるという部分が変わり、人間の教育そのものが情報通信によってさらに変わるのではないか」(安西氏)と、今後学校や教育がさらに変化することを踏まえた発言が多かった。

ギガハウスタウン~のコンセプト図 展示会場中央に置かれたタワーから、POFによるネットワークが配線されている(写真左)。写真右は会場で使われていたPOF 慶大信濃町キャンパスからの高画質映像配信
旭硝子、松下電工らによる家庭向け光コネクタ 富士フイルムによるGI型POF POF搭載の「morph」(中央)。左は参考出品の「morph3」 パネルディスカッションの模様

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(2002/9/18)

[Reported by aoki-m@impress.co.jp]

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