【ワイヤレス/P2P】
無線ネットワークとP2Pの融合をめざして~ATR主催ワークショップ21日、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)主催のイベント「無線アドホックネットワークとP2Pミニワークショップ」が京都府で開催された。ATRの研究事例のデモンストレーションのほか、株式会社スカイリーネットワークの梅田英和代表取締役CEO/CAや、本誌連載「P2Pとワイヤレスの交差点」の筆者である小出俊夫氏などが講演を行なった。 ●ルーティング不要のメッセージングツール「TrailMail」 ATRのデモでは、ワイヤレスP2Pネットワーク上で情報共有ができるメッセージングツール「TrailMail」などが展示された。TrailMailの非常にユニークな点は、メッセージ送信時に、特定の相手のアドレスを指定せずに、内容に即した「タグ」を設定することだ。各クライアント端末(ノード)は、メッセージを受け取ると自動的に転送する機能を持ち、次々とコンテンツを伝播させる。ただし、それぞれのノードで、受け取りたくない「タグ」、送信したくない「タグ」をフィルタリングすることが可能だ。また、情報転送先の反応を自動的に学習し、2回目以降の無駄なメッセージのやり取りを回避する機能も実装されている。このような構造上、特定の誰かに限定したメールや、第三者に読まれては困るようなメッセージに利用することは難しいが、グループ間の情報回覧や、ホットスポットなどでの情報共有に威力を発揮しそうだ。 ●練馬の防災訓練から得られたワイヤレスP2Pの可能性
スカイリーネットワークの梅田CEOからは、2002年9月1日に東京・石神井高校で実施された防災訓練時での、ワイヤレスP2Pネットワーク実証実験の報告が行なわれた。 まず、成功点については、システムのセットアップにかかった時間がほとんどゼロに近かったことが挙げられた。梅田氏は、「当日は、PCの電源を入れソフトを起動するだけで、無線ネットワークは稼動しはじめた。インターネット網につなぐための衛星を探す30分の時間がつらいくらいだった」と語った。実験では、同社のワイヤレスP2Pソフト「DECENTRA」を利用し、衛星を介して向こう側に設置したデスクトップPCも、同一の無線ネットワーク上に存在しているように見立て、ネットワークを構築した。防災訓練では、デジタルカメラを駆使して人力で情報を収集したのと並行して、カメラ付き端末から直接ネットワークを経由してデスクトップPCへと情報をアップロードする実験も行なった。この結果、「カメラを持った人員が、現地のゲートウェイ機からデータをアップロードする以上に、高い情報収集能力、処理能力を発揮することができた」(梅田氏)という。 さらに、各端末の接続状況をビジュアルで表示できるインスタントメッセージ機能が、予想外の収穫をもたらしたという。1点目は、建物の裏に回るなどさまざまな要因から、図示されていた端末(つまり無線ネットワークがつながっていた端末)が画面上から消えてしまった場合、他の端末を持った人員を中間点に走らせ、ネットワークのバックアップを行なえた点だ。同時にこれは、情報収集している人員が「自分が常に接続されているかどうか」という不安感を解消するのにも役に立ったという。2点目は、IMでやり取りされた「指示」のログから、後日、実験の様子を分析することが可能だった点だ。これは、実際に震災被害地などで活動した場合には、有益な情報を確認することができそうだ。
一方、今後の課題としては、無線ネットワーク側をローカルIPアドレスで、衛星回線側をグローバルIPアドレスで運用したことによる不均衡の解消が挙げられた。通常の設定のままでは、WAN側に設置されたデスクトップPCからの指示が、現地の各端末に届かないのだ。また、今回の実験では撮影した画像を数10KB程度の画質に落としてデータ転送を行なっていたが、災害現場では動画を転送することもありえる。そのための、スループットの確保が可能かという点も残された。今回の実験で得られたデータをもとに、DECENTAの高機能化(Version2の開発)や、災害ロボットへの搭載などを行なう予定だ。 なお、小出氏のプレゼンテーションは、4月11日に開催されたP2P関連技術カンファレンス「P2P Conference in JAPAN 2002」でも講演した、地域情報配信ネットワーク「MID-Net」の紹介だった。 ◎関連記事 (2002/10/21) [Reported by okada-d@impress.co.jp] |
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