【イベントレポート/ユビキタス】
ユビキタス時代のTVはどうなるのか?~フィリップス主催セミナー■URL 日本フィリップス株式会社は22日、「コネクテッド・ホームの実現へ」と題したプレス向けテクノロジーフォーラムを開催した。フォーラムでは、株式会社野村総合研究所の名雲俊忠氏や、早稲田大学教授の亀山渉氏がプレゼンテーションを行なった。 ●コンシェルジュこそが、究極的なユビキタスの姿~名雲俊忠氏
野村総研の名雲俊忠氏は、「ユビキタス・ネットワーク時代の展望と利用者に与えるインパクト」と題する講演を行なった。名雲氏はまず、「PC中心の今日では、1日あたり2時間程度だったIT利用が、非PC機器が加わるユビキタス時代には、就寝中も含んだ24時間になる」と語った。これは、情報家電やセンサーネットワークを想定した発言で、この他にも、遠隔地に住んでいる祖父宅の様子がネットワーク経由でわかるといった「仮想二世帯住宅」的な使われ方なども想定されるという。 続けて名雲氏は、ユビキタス時代はこれまでのコンピュータにより培われた技術が集大成に向かう時代だと定義する。同氏は、ムーアの法則(マイクロプロセッサーの性能は、18ヶ月で2倍になる)、ギルダーの法則(通信の帯域幅は9ヶ月で2倍になる)、およびメトカフェの法則(ネットワーク参加者が増大するとコストはリニアに増えるが、価値は指数関数的に増大する)といった3つの流れが1つの潮流になるというのだ。 さらに、「ユビキタスのアイディアそのものは十数年前からあったもので、技術水準やコスト面で実現が難しかっただけ」と分析する。例えば、今日において「ブロードバンド」とは、映像やTV番組といったリッチコンテンツをネットワーク上に流せるようになるものとして捕らえられている。これは必ずしも間違っていないが、決してイコールではないと名雲氏はいう。ユビキタス時代のブロードバンドとは、大量のデータを機械的に活用できるインフラのことで、これによりCRMやERPなどが本格化するだろうと予測した。また、「ユビキタス時代において、コンテンツはさまざまな機器に配信されるようになり、それにともなって企業のスタイルも変化せざるを得ない。今まで一つの世界で完結していた企業は、今まで以上に生活者の目線に敏感にならなくてはならない」と語った。 それでは、ユビキタス時代の利用者のニーズはどのあたりにあるのだろうか。名雲氏は、野村総研が実施している「一万人アンケート」のデータをから、日本国民が抱える悩みや不安に実需のネタがあると提案した。1997年のデータと2000年のデータを比較したところ、「自分の健康」や「配偶者・子供の健康」「親の健康」などに対する不安は依然として大きいという。一方、「治安の悪化・犯罪の増加」「温暖化・酸性雨などの地球環境問題」「子供の進学問題」「雇用・失業」などに対する不安は増加基調にあるという。名雲氏は「ユビキタス技術が、これら『安心・安全』に対する解決を提供しえる」と分析した。 加えて名雲氏は、ユビキタスサービスの究極的方向性を「かゆいところに手が届くコンシェルジュ」と語った。「ユーザーは不安や悩みの解消以外に、自己実現に対して投資をする」とし、ユビキタス技術の進歩によって「ユーザーの状況(コンテクスト)に応じて、タイミングよく自動的に何らかの働きかけをおこなうサービスが出現するだろう」と予測した。 ●デジタル化しただけのTVでは、視聴者はついてこない~亀山渉氏
亀山渉早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授は、同氏が副議長を務める「TV-Anytime Forum」の取組みを紹介した。1999年に発足したTV-Anytime Forumは、約80の家電メーカー、通信事業者、放送事業者、大学などで構成され、PDR(Private Digital/Disk Recoder)を前提に、新しいAVコンテンツ視聴を実現するキーテクノロジーの国際標準を策定することを目的にした国際団体だ。現在、放送を主体としたアプリケーション開発の標準化を定めたPhase1の技術要素が最終決定されたところで、2003年3月にETSI(Europian Telecommunication Standards Institute)に仕様を提出する予定になっている。Phase1で定められた仕様の中には、ユーザーがコンテンツを検索する場合に必要となるMPEG-7をベースにしたメタデータ、コンテンツを同定するためのID付与、コンテンツの権利処理と保護に関する規定、IPネットワーク上でメタデータを検索・取得するためのWebサービスをベースにしたAPI規定などが含まれている。 亀山氏はまず、デジタル放送によって何が変わったかについて言及した。日本では、2000年12月にBSデジタル放送、2002年3月に110度CS放送が開始され、高画質の映像が楽しめるようになったほか、EPG(電子番組表)により番組検索が簡単になった。しかし、亀山氏は「これだけで、ユーザーは本当に満足しているかというと疑問。2003年に開始される地上波デジタル放送が、TVのデジタル化の本命と言われているが、アナログのTVをデジタルに置き換えるだけでは、私も含めて視聴者はテレビの買い替えをしない」と断言した。同氏は、NHK放送文化研究所が2001年2月に実施した世論調査を例に挙げ、「視聴者が要求しているのは、『好きな時に好きな番組を見られる』『予約した番組を自動的に録画できる』『100以上のチャンネルから簡単に番組が選べる』といったもの。アナログ放送にはない、デジタル放送ならではの機能が求められている」と分析し、「重要なのは、決まった時間に、決まった場所で、決まった方法でしかコンテンツが視聴できないというTVの制約を取り払う必要がある」と語った。 次に亀山氏は、ムーアの法則を取り上げ、メモリーの価格も18ヶ月で半分になり、HDDに至っては12ヶ月で半分になると語った。つまり、100ドルで蓄積できるビデオの時間は、2000年に4時間分でしかなかったものが、2005年には少なく見積もって40時間、多く見積もって256時間、2010年になると少なく見積もって400時間、多く見積もると1万6,384時間になると予測する。そして、これだけのキャッシュが可能になれば、QoSのないインターネット環境でもコンテンツ配信はビジネスとして十分なりたち、高品質なインターネットコンテンツ配信がデジタル放送のライバルとしてたち現れると語った。 また、PDRを利用することで、従来の時間割に沿ったCMによる無料放送は成り立たなくなると予測した。未来のPDRでは、ターゲッティング機能により個人の嗜好にあわせたCMが配信可能になりえる。例えば亀山氏は、「TVCMでダイエーのセール情報を見ることがある。ところが、私の家の近所にはセイユーしかない。もし、ダイエーの代わりにセイユーのCMを配信できれば、企業は無駄なCMコストを支払わずにすむし、視聴者も必要なCMを見ることができる」と語った。 最後に、コンテンツ流通において解決すべき問題点として、メタデータと権利処理の課題を語った。メタデータは、ユーザーが見たいコンテンツがどこにあるのかを知るための情報だ。それゆえ、「B2B、B2Cだけでなく、P2P(C2C)ネットワーク上でも、自由に流通させるべきだ」と亀山氏は述べた。一方、権利処理については、「現状の権利処理の方法は、コンテンツ制作者と配信者の利益が最大化されている。これは、視聴者の利益が最大になるようにしなくては本末転倒だ」と述べた。 (2002/10/22) [Reported by okada-d@impress.co.jp] |
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