【イベントレポート】
スタンフォード大学のLawrence Lessig氏が慶應義塾大学で講演バランスの取れた著作権法が知的所有権の保護につながる■URL 12日、スタンフォード大学ロースクール教授のLawrence Lessig氏が慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で知的財産権について講演を行なった。Lessig教授はサイバー法の権威として有名で、米Microsoft社の反トラスト法訴訟において連邦裁判所に「スペシャルマスター」に任命されたこともあるほか、米国最高裁判所の裁判官書記を務めた経験もある。また「CODE」、「コモンズ」といった著作でも知られている。 まず、Lessig教授はインターネット上の「著作権戦争」として「(インターネットの歴史の中では)古いテクノロジーを用いた新しいアプリケーションであるファイル共有ソフトが著作権に対する新たな脅威となっている」としてNapsterがわずかな期間のうちに多数のインターネット利用者の間に広まった例を挙げた。一方、AIBOのソフトウェアプロテクトをハッキングし、音楽に合わせてAIBOが踊るようにしたプログラムを公開していた利用者がSONYの弁護士から警告を受けた事件を挙げ、コンテンツ産業側のロビー活動によって「デジタルミレニアム著作権法」(DCMA)が成立し、かつての著作権法の元では完全に合法的とされていた「著作権保護を破るツール」が違法とされた結果、「AIBOがジャズダンスを踊れるようにすることは、AIBOの価値を高めるにも関わらず違法行為となってしまった」として現行のDCMAに疑問を示した。 また、知的財産権に関する短期的な見通しとして、「無料コンテンツが売上を破壊する」という見方に疑問を呈した。これまでの産業では、無料は売上げを脅かす存在と考えられている。しかし、Lessig教授は、たとえばCD100枚を無料で提供することはCD100枚の売上げを減少させるためゼロサムゲームとなるが、インターネット上では状況が異なるとしている。 レコード業界は、CDの売上の5倍のファイルが無料でダウンロードされたため、CDの売上げが減少したと主張しているが「5倍もの無料ダウンロードがあるのに、実際の売上げの低下は約5%に留まっており、本当に影響があるならもっと売上げが減っているはずだ。IT業界と比較した場合、IT業界全体の売上げの低下率の方がずっと大きい」と指摘し、CDの売り上げ低下は景気悪化による影響による部分が大きいと分析した。その上で、ファイル共有といった新しい技術やアーキテクチャが、未熟な法律により抑止されることは、技術革新の機会を奪うことになり、結果として大きな機会損失となると懸念した。 長期的な見通しとしては、「“You can't compete with free”という考え方は、無料での競争は無意味だという考え方と違う」として、無料と競争しているビジネスの例として「ミネラルウォーター」と「弁護士事業」を挙げた。「蛇口をひねれば水道の水が出てくるのに、なぜ人々はお金を払ってまでボルビックを買うのか。法律情報は図書館やWebなどから入手できるのに、なぜわざわざ弁護士に頼むのか。その理由は美味しい水を飲みたいという利用者の欲求に応え、ミネラルウォーターを販売する企業の間で競争が発生していることによって水の産業が成立している、また弁護士は利用者の煩雑な法的調査を代替することで対価を得ているからだ」と分析した。 その背景には、現在、安価なディスク領域と細いネットワーク接続しか存在せず、結果としてデータをディスクに保存している点があげられる。しかし、近い将来、より安価なディスク領域とより太いネットワーク接続が、ユビキタスコンピューティング、常時接続、ブロードバンド、ワイヤレスといった技術によってもたらされ、その結果、複合的にどこでもネットワークに繋がり、ストリーミング・コンテンツが増えていくだろうという予想がある。 そして、ストリーミング・コンテンツはコントロールしやすいため、ここから課金するにあたっては「利便性を追求した競争を行なうべき」で、ペイ・パー・ビューや広告、購読モデルなどのビジネスモデルが考えられるとしている。結論としては、「適切な政策がインターネットの硬直化を防ぎつつも、知的財産権を保護できるということで、社会全体の利益最大化を考えたバランスのとれた著作権法が重要である」とした。 なお、この講演は慶応義塾大学ビジネススクールの國領 二郎教授の招きで実現したもので、近日中にWIDE Univeristy, School of Internet ( http://www.soi.wide.ad.jp/ )で公開される予定だ。 (2002/12/13) [Reported by shin@shirahata.name] |
|