【インタビュー】
~映画「猟奇的な彼女」原作者キム・ホシク氏インタビュー
掲示板への「書き込み」がヒット映画に
韓国でインターネット上の掲示板への「ある書き込み」が評判を呼び、本として出版、さらに映画化され大ヒットとなった。作品は「猟奇的な彼女」。まもなく日本国内でもロードショー公開される。その「書き込み」の主であり、原作者であるキム・ホシク氏は、1975年ソウル市生まれで、現在韓国のインターネット関連会社Readers
Internet社に企画担当の取締役として勤務している。今回は、キム氏に掲示板への書き込みから映画化へとつながった経緯、インターネットの可能性などについてお話を聞いた。
●「猟奇的な彼女」とは
物語は、見かけはしとやかな美人なのに「ぶっ殺す」が口癖で、わがままで凶暴というエキセントリックな女子大生と、兵役を終らせて学校に戻ったナイーヴな男子大学生との起伏に飛んだラブストーリー。
原作は、1999年8月に韓国のISP「ナウヌリ」(Nownuri)の掲示板に投稿された、当時大学生だったキム・ホシク氏による投稿だった。エピソードは評判を呼び、キム・ホシク氏自身のホームページ(
http://www.kyunwoo.net/ )にて引き続き掲載され爆発的な人気を集めた。その後単行本化され、10万部を越えるベストセラーとなった。映画化の際にはインターネットで投資公募を行ない、7時間足らずで公募金1億ウォン(約1千万円)を集めたという。映画は2001年に公開され、サマーシーズン6週連続第1位を記録し、500万人を動員する大ヒットとなった。さらにスティーブン・スピルバーグ率いるDreamWorksが75万ドルで米国でのリメイク権を獲得したという。
●「インターネットは、映画、小説、すべてが生まれる土壌」~キム・ホシク氏
○最初は、誰に向けて書いていたのでしょうか。
キム・ホシク氏
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一番最初は、ナウヌリにある「ユーモア欄」という掲示板に乗せました。だから特に誰に向けてということではなかったんです。
○では、最初は“笑い”をテーマに書き始めたのですか。
それまで文章を書いたこともなかったので、小説を書こうという気はまったくなかったんです。当時は通信をやりながら、「ユーモア欄」に人が書いた面白いものを見て笑ってるユーザーにすぎなかったんです。そのうち僕も、自分が創造したものでなくて、聞いた話でもいいから書いて乗せてみたいと思うようになったんです。その「ユーモア欄」は、面白ければユーザーがクリックして投票するシステムになっていて、クリックが100を超えるとさらにレベルアップした欄に掲載されるので、ゲーム感覚で書き始めたんです。
○ブームにもなった「猟奇的」という言葉(*1)を選んだのは?
それまで「猟奇的」という言葉を辞書でひいたこともなかったし、“残酷”という意味も当時は知らずに使っていました。僕が当時この言葉を使ったのは、ちょっと変わった、常識を外れたという意味で、人間が表現しにくいもの、人間の中の奥深くにあるものを、自然に表現するようなつもりでした。“猟奇”という言葉が流行ってからは、“楽しい”とか“特別な”といった様々な意味を持つようになったけれど、僕が最初に使った時はそういうニュアンスでもなかったんです。
この映画によって“猟奇的”と言う言葉が流行ったというよりも、“猟期的”という言葉が似合うカルチャーが生まれ始めた時代と映画のタイミングが合ったのかもしれません。“猟奇的な歌手”などさまざまな使い方が出てきましたが、わざと普通ならやらない言動をする歌手という意味で使われています。僕とは言葉の使い方が根本的に違います。僕の場合は、例えば、とても綺麗な女性を見て、逆に「君、変な顔だね」っていうような感じです。
(*1):韓国では“猟奇=ヨプキ”という言葉が社会現象となり、MBCテレビの流行語大賞にも選ばれている。韓国で人気のキャラクター「マシマロ」も“猟奇ウサギ”と言われている。「他とは変わったおもしろさ」を持つという意味で使われることが多いが、映画では強烈な魅力を持つヒロインの形容詞となっている。
○彼女(*2)はネット小説のことを、どう思っていたのでしょう。
初めのうち、彼女に内緒で載せてたんです。2、3ヶ月後にネットで話題になったことによってバレちゃったんです。その時点で第9編まで書き終えていたんですが、彼女がとってもとっても嫌がって。僕としては、彼女がなんでそんなに嫌がるのかわからなかったんですけどね(笑)。
(*2):物語はキム氏の実体験を基にしている。「彼女」とは“猟奇的な彼女”のモデルとなった女性。
○では、どうやって続きを書いたんですか。
一番最初は、地下鉄での出会いを書いた第3編までしか載せるつもりじゃなかったんです。人気になってから続編を望む声がすごかったので、書かざるを得なくなって。彼女を説得して、まず書いたものを見せて、許可をとってから載せてました。名前はもちろん、本人と特定されるようなものは一切出さないというのが条件でした。彼女の性格とか行動はフィクションで味つけしてあったので、そういうところはさほど問題にはなりませんでした。
○書き始めた当初から凄い反響だったと聞きましたが、印象に残る反応は?
いい反応もあれば、悪い反応もありました。例えばは、ハングルの使い方がよくないといった批判も。インターネットの場合、普通に書くと面白くないので、撥音や表記も含め、くだけた書き方をしました。本にするときも同様でした。するとハングルをなめているんじゃないかと言われました。
また、女性は“これは私に向けて書かかれたものだ。私の物語だ”と捉え、男性は、“僕の彼女が今そうなんです”という反応と“僕もこんな彼女に会いたい”という反応があって。年輩の人には、若かりし頃にデートした地名が出て来て、涙したという人もいたようです。
○現在も、インターネットで小説を発表しているのでしょうか。
「猟期的な彼女」以降はまったく書いていません。一発目がこんなにヒットしてしまったので、二作目となるとプレッシャーが大きくて。最初の作品が少しウケたぐらいだったら、すぐ書いたと思いますが、ここまでになると自分の限界を超えているような気がするんです。だいたい僕は小学校の時に日記もまともに書けない子で、以来文章なんて書いたことない人間だったんです。自分は映画の中に、エキストラとして“通行人1”でもなく、“通行人3”ぐらいで出演したつもりだったのに、人から“大俳優”と言われて居心地が悪いような感じですね。
書いた文章が本になって、それがベストセラーになり、映画になり、また各国で翻訳が出て、海外からジャーナリストがやってきて…。そういうケースは韓国ではあまりないことですから、周りの人から幸運だと言われます。お金を稼ぎたければ本を書くでしょうが、僕はコンピュ-ター関係の仕事が好きだから本業として続けています。数え切れない人から作家になるべきだと言われましたが、僕には持続的に文章を書く自信がまずない。書けるとしたら、笑いをテーマにしたものだけだろうし、それなら仕事の余暇に趣味でやれればいいと思うんです。
○『猟奇的な彼女』は、インターネットから生まれた小説、映画ということで注目されています。あなたから見て、インターネットというのは、まだまだそういうものが生まれる可能性があると思いますか。
インターネットというのは、映画や小説、すべてが生まれる土壌だと思っています。僕が「猟奇的な彼女」を書いた1999年は韓国でインターネットが一般的になったばかりだから、利用者が使い方に戸惑っていた時期でした。例えば、いつも歩いていた人が急に自動車に乗って、どこに行けばいいのかわからないといった感じ。今は“インターネット=情報の海”という表現があるぐらい、あらゆるものがこの中にある。インターネットは、新聞、テレビ、雑誌や映画と同じく、媒体のひとつであり、そのどの媒体より大きな影響力をもっていると思います。以前は映画製作者たちは、常に本やマンガを読んで、ネタを探していましたが、この映画のヒットの後はネットを探すようになったそうです。映画製作者だけではなくて、出版編集者も同様です。
ただ、インターネットの中には沢山の素材があると思いますが、でも本当にいい素材かどうかは別です。当分の間、「猟奇的な彼女」のような大ヒットを生むような素材は出てこないと思いますね。なぜなら僕が書き始めたころは、インターネットの走りの時期で、新しい可能性を秘めたものが沢山ありましたが、今は飽和状態ですからね。
○現在は、インターネット関連会社の企画担当だそうですが。
10年程のインターネット経験を活かして、プロジェクト・マネージャーとして多様な分野のウェブサイトの企画構築をしています。今この分野では、何か新しいものが生まれにくい状況にあります。だから僕が会社で要求されているのも、新しい可能性を探すことです。
今は何かと飽和状態なので、新しいものを生み出すと言うよりは、インターネットよりもモバイルに移行しながら、既存のものを少しでもよくしていくことを考える時期なんじゃないかと考えています。
『猟奇的な彼女』
2003年1月25日、シャンテシネ、シネマスクエアとうきゅう他にてロードショー
配給:アミューズピクチャーズ
http://www.ryoukiteki.com/
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(2003/1/8)
[Reported by 久保玲子]
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