【イベントレポート】
いなあいネットで情報化フェア開催“日本のADSL発祥の地”で次に実用化を狙うサービスとは■URL
伊那市は、1997年9月にいなあいネットの有線放送電話網を使って、国内で最初の公衆ADSL実験が行なわれた“日本のADSL発祥の地”。その後、長野県協同電算(JANIS)と富士通長野システムエンジニアリング(Infovalley)がいなあいネットを通じて商用のADSLサービスを展開している。市内に8カ所の収容局を持つという強みを生かし、距離に限界のあるADSLでも市内を広くカバーしているのが特徴だ。実際、現在ではCATVインターネットやNTT東日本のADSLサービスが提供されるようになったものの、いなあいネットしか選択肢のないエリアも多いという。 今回のイベントでは、そんないなあいネットをはじめとする、信州のブロードバンド整備を支えてきた事業者らが、今後実用化を狙う技術やサービスなどを紹介している。 ●JANISが長野県栄村でADSL放送実験JANISは長野県栄村で9月にも、ADSLを使った民放地上波テレビ放送のマルチキャスト実験を開始する。同村は難視聴地域にあたり、その対策として来年の実用化を目指して行なうものだ。展示会場にはWindows XPベースのセットトップボックス試作機が展示されており、接続されたテレビにWindows Media 9による1Mbpsの映像が映し出されていた。1Mbpsという帯域はリンク速度の遅い世帯でも見られるよう設定されたものだが、来場者からは「テレビならこれで十分」との声も聞かれた。
栄村の有線放送の加入世帯は約1,100世帯で、加入率は100%に達するという。このインフラを利用してJANISがADSLサービスを提供しており、約100世帯がこれを利用している。すでにこのようなブロードバンドインフラがある地域では、巨大な共聴アンテナを建設して同軸ケーブルを敷設するのに比べて、低コストで地上波テレビ放送の再配信環境が構築できるとしている。実用化までには、Windows Media 9 Playerをチップ化した端末が開発される予定となっており、1台3~4万円程度で供給される見込みだという。 ●もはや“有線放送”ではくくれない有線放送インフラ5日の午後には、「ブロードバンドが開く新世代ネットワーク・通信と放送の変革」と題したセミナーを開催。まず、NHK技術研究所研究主幹の田中豊氏よりデジタル放送技術のトレンドについて解説が行なわれたのち、KDDI研究所長の浅見徹氏より、いなあいネットで行なわれたビデオ放送実験の映像品質に関して報告がなされた。
この実験は、ADSL上でマルチキャストによりビデオコンテンツを配信し、パケットの損失率や遅延の測定、人間の目による主観評価を行なうというもの。KDDI研究所が開発したMPEG-4ベースのライブ伝送ソフト「Quality Meeting」を使用して、384kbps/640kbps/1.5Mbps/4Mbpsの4種類の帯域で配信したところ、4Mbpsで鑑賞に耐えうる品質が確認されたという。また、パケットの損失率は明らかに夜間のほうが少なく、昼間は電話からのノイズによる影響が多いと推測している。遅延については100ms程度は見込んでおく必要があるとしており、200msのバッファを設定することで、パケットの遅延による画像の乱れは防げるとしている。 なお、この実験は当初、1997年のADSL実験の際にすでに行なわれていたもの。その時の調査結果が現在に至るまできちんととりまとめられていなかったということで、この5月末にあらためて当時の機器環境を再現して実験を行ない、今回のセミナーで正式報告に漕ぎ着けた。当時はDSLAMがマルチキャストに対応しておらず、あるユーザーが4Mbpsのチャンネルを見ていると、同じDSLAM配下にある他のユーザーにも同じトラフィックが発生。複数チャンネルが用意されている場合では、別のチャンネルが見られなくなるという問題が明らかになったという。しかし、現在ではマルチキャストに対応するDSLAMが製品化されており、実際にKDDI研究所でもVDSLシステムなどの機器評価に入っている模様だ。
セミナーの後半には、総務省信越総合通信局長の重田憲之氏を交えてパネルディスカッションが行なわれた。重田氏は、「(CATVやFTTHによる地域イントラネットなどの情報インフラと異なり)有線放送に対する国からの支援はないのか?」という会場からの質問に対して、個人的な意見としながらも、「今後はインフラの種類で補助対象にするかどうか区別するのではなく、その性能で議論すべき」との考えを示した。実際、いなあいネットなどでは有線放送のインフラ上でブロードバンドサービスが実用化されており、浅見氏も「昔は有線放送(で提供されるサービス)は電話だったが、今では映像も流せる。何をもって“有線放送”とするのか?」と疑問を投げかけた。 ●ADSL発祥の地にも光化の波?
これまでADSL実験を積極的に受け入れ、いなあいネットの情報化を推進してきた中川参事にこれからの展開を訊ねると、即座に「次? 次はやっぱりコレをやりたいね!」として、住友電気工業が出展していた光アクセス回線の分岐ユニットを指さした。JANISが栄村で行なうような地上波放送のマルチキャスト実験については、確かに今回の展示の目玉だとはしながらも、CATVのある伊那市では必要性がないとの判断らしい。同市で映像のマルチキャストをやるとすれば、FTTHクラスの帯域を活用するものにしたいという。 現在、いなあいネットでは8Mbpsと12MbpsのADSLサービスが提供されている一方、同社のサービス導入を前提とした性能評価実験とは限らないものの、通信機器メーカーが実験フィールドとして、いなあいネットに最新のADSL機器を持ち込むこともある模様だ。今後も、この地を足がかりにして新たな通信技術が実用化に向かう可能性もある。 ◎関連記事 (2003/6/6) [Reported by nagasawa@impress.co.jp] |
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