【イベントレポート】
ユビキタスな情報流通がブロードバンド活用の中心に~総務省稲田氏が講演
稲田氏はまず現在のブロードバンド状況について、世界的に比較した場合、「日本と韓国のDSLのスピードが飛びぬけて速い」と指摘。ブロードバンドの定義でも、日本では1Mbps以上が普通だが、米国では200kbps程度も含むなど、格差が大きいとしている。ブロードバンド回線の速度あたりの料金では日本と韓国が最安値を競う状況で、「海外の人と話していて『100Mbpsが数千円で使える』と言うと、嘘だろうと言われる」と苦笑するほど。ただ他国でも、幹線系のみならずアクセス系に光ファイバを増やさなければという意識は高まっており、規制緩和が始まっているという。 次いで企業のIT利活用について言及した。稲田氏は「以前はベンダーが使うCRMやソリューションなどの言葉が踊っている面があったが、現在は真にITの利活用が始まりつつある」と説明。タクシーを例にあげ、「最近タクシーの配車が以前より早くなっているが、それはタクシーにGPSを付けて位置管理し、予約するお客さんの場所も電話番号などから地理情報システムで把握することで、効率的な配車が可能になったから」と述べた。また乗降車データを蓄積、分析することで、新たな活用法が生まれることもあるとし、お年寄りがスーパーの帰りに乗車するケースが多いことから、スーパー付近を配車場所として新たに追加した事例などを紹介した。 さらに自治体や政府機関のWebサイトが充実したり、電子申請が進むことで、これまで書類取得や手続きに1日かかっていたのが、自宅で15分で可能になりつつあると発言。「ITをいかにビジネスに利活用するかが、具体的に見えてくる時代になった」と述べた。
ただ、インフラ面での整備に対して、ブロードバンド環境の利用状況自体はまだ低いともいう。「高速道路が整備されているが車が走っていないのと同じで、ブロードバンドインフラの利用状況もまだまだ。政府のIT戦略でも、ここをどうするかが課題」として、ブロードバンドインフラ活用のための様々な政策を実施することを表明した。今夏に決定される見通しの「e-Japan重点計画2003」では、医療や生活、中小企業金融などを主眼として、これまで重視されていたITインフラ整備に加え、IT利活用を並行して行なっていく方向だ。「“ITを使うと便利そう”というところが見えてきた。その“便利そう”をどうやるかを考えていく」と稲田氏。 またIT推進で重要な点として、よく言われるITによる社会経済の構造改革に加えて、日本型の成長戦略の推進があるという。「米国やシンガポールといったIT先進国に追いつくだけでなく、新しいものを日本だけで作り、他国に広める役割も果たす必要がある」とし、そのために必要なのは、日本の得意な分野でITを進めることという。「日本が一番進んでいる分野にはブロードバンドがあり、ブロードバンドを使ってITを推進するものとして、ユビキタスネットワークがある。ネットの中で閉じていたITの世界を、実社会に結びつけるものがユビキタス」として、電子タグなどと連携した活用を提案した。 ユビキタスネットワークの活用例としては、ホームインテリジェンスシステムを例にあげた。1人暮らしの人が電子タグ付きのバッグを持って帰路に着く。帰宅途中の情報で、家にまっすぐ帰ることをホームインテリジェンスシステムが自動的に判断し、エアコンをつけたり、炊飯器のスイッチを入れたりといったことが実現できるようになる。またスーパーの商品に電子タグを付けることで、レジに並ばず出入り口で自動的に決済ができたり、電子タグ付きの杖を持った障害者が電車に乗ってきたら優先椅子を自動設置するといった活用もできるという。
稲田氏は、「通信と放送が結びつくとブロードバンドが発展すると思われていたが、重要なのはやはり情報のやりとりではないかと考えている。電子タグや最近増えている街頭設置カメラなど、情報のやりとりが増えることで流量自体も増し、ブロードバンドが不可欠になる」と発言。こうした情報は機械で自動処理することになるため、情報を利用したサービスのコスト削減が図れることに加えて、これまで商品を売れば終わりだった業種でも、今後は売った後の付加価値的なサービスを付ける形が増えていくと予測した。講演の最後は、「こうしたユビキタスネットワークを実現するためには、ネットワークと実際のものをつなぐ仕組みを作ることが課題。またパーソナルな情報が飛び交うため、情報が必要なところにだけ届くようにするのが不可欠となる。ユビキタスの実現に向けて、研究開発や実証実験の推進、およびこれらをサポートする政策も行なっていく」と締めくくった。
(2003/6/11) [Reported by aoki-m@impress.co.jp] |
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