【業界動向】
NTT西日本、Yahoo! BBのADSL自前工事へ反論■URL
この問題は、ソフトバンクBBがYahoo! BBのADSL工事の工期短縮と費用削減を目的として、かねてよりNTT局舎内の工事を自ら実施したいとの要望を提出していたが、NTT西日本ではこの要望を拒否したことに端を発している。総務省はソフトバンクBBから協議再開命令の申し立てを受けて、今回の件については電気通事業法第38条で定められている接続拒否事由として認められないと判断、協議再開命令の前にNTT西日本から意見を聞く場を6月18日に設けた。 現在のDSL接続は、DSLを含めたすべての加入者回線が経由しているMDF設備の内側をNTT側が工事し、他社のDSL装置とはMDF装置の外側で接続されている。ソフトバンクBBの要望は、MDF内の配線工事も自ら実施することで工期短縮や費用削減を図ることを目的としており、NTT西日本は「ソフトバンクBBへの接続義務は存在しない」「個別的紛争処理は不当」「ユーザーへの影響」「ソフトバンクBBの主張は不当」という4つの観点から要望を拒否している。 ● すべての電話ユーザーに係わる問題で、NTT東も同意見MDF装置はDSL設備だけでなく、電話回線やISDN、専用線といったすべてのメタル加入者線が経由している。NTT西日本は「MDF内まで入り込むという接続形態は、ネットワーク間を結ぶという“接続の本質”に大きく反する」とした上で、MDF内で円滑な切り替え工事がなされない場合には、電話回線へも影響が発生するとコメント。さらにMDF内で故障が起きた場合、原因となる事業者を特定することが困難なため保守責任が不明確になる点も問題とした。 NTT西日本によれば、もっとも強く主張すべきは「NTT西日本とソフトバンクBBの2社間だけではなく、6,000万の電話ユーザーや他事業者のサービスすべてに係わる問題」だという。今回行なわれた聴聞でも、NTT西日本とソフトバンクだけではなく、NTT東日本や他DSL事業者などが参加。DSL事業者については非公開のため名前は明かせないが、参加の趣旨は自らも工事を行ないたいというものではなく、自身のユーザーへ直接・間接的に迷惑がかかる可能性を心配したためだという。また、NTT東日本は申し出の拒否など積極的な対応こそしていないが、NTT西日本と同じ意見を持っていると付け加えられた。 ユーザーへの影響としては、セキュリティや故障対応などが理由として示された。現在のようにMDFの外側で接続すれば各DSL事業者ごとに回線を分離できるが、MDF内の工事が許可されれば他事業者がすべての回線にアクセスできるため、通信の秘密保持が困難になるという。また、ソフトバンクBBの要望が実現した場合、Yahoo! BBユーザーの電話の故障や移転、サービスの変更の際にはNTT側で対応できなくなり、ソフトバンクBBがMDF内の配線工事を実施することになる。このため故障の迅速な普及やサービスの円滑な提供が困難になるとした。 さらにMDF内側のジャンパ線は径が1.1mm、外皮が0.3mmと非常に細く、施工時に周囲へ影響を与えることが避けられないという。NTT西日本では「恥をしのんでの公表」とした上で、ジャンパ線工事で年間8,000件の故障が発生していると説明。万が一故障が発生した場合、MDF内では故障原因を事業者ごとに特定することが難しいために、保守責任が不明確になるとした。 故障対応についてNTT西日本は「ソフトバンクBBはDSL以外の専用線などについては保守義務を負っていないと理解している」とした上で、「総務省では故障発生時の責任区分の切り分けが可能と思っているが、NTTとしては無理だと考えている」と語った。また、年間8,000件の障害件数については少ないとは言えないものの、「諸外国に比べて2桁は少ない数字」と説明した。
● 工期短縮はすでに実現済み ソフトバンクBBが掲げる「工期短縮」については、ADSL工事に慣れてきたこともあり現在は3営業日工事体制を実現しているとした上で、ユーザーの開通希望日工事実施率も2002年7月で97%を突破、現在は99.9%の実施率だとして、ソフトバンクBBの主張はふさわしくないと主張。また、仮に他事業者がMDF設備内の工事を行なったとしても、現用回線の切断といった工事はNTT側が行なう必要があるという。NTT西日本では「この点に対してはソフトバンクBBも誤解しているのではないか」と前置きした上で、結果として工事が分割されて2社間での調整が必要になるため、必ずしも工期短縮にはつながらない上に、狭いMDF内で複数の事業者が工事を実施した場合には混乱が避けられないと主張した。 NTT西日本 相互接続推進部長の伊東則昭氏は、年間の工事数はDSL以外も含めて約1,200万本、件数ベースで数百万に上るとした上で「ソフトバンクBBから見ればNTTはちんたらしているかもしれないが、工事エリアが沖縄や離島含めた全国区であり、コスト削減から拠点も絞っている関係上、3営業日がギリギリのライン」だと説明。人数を増やせば工期短縮できる可能性もあるが、コストがさらにかかる点で現実的ではないと説明した。 一方の「費用削減」は、実はそれほど協議の対象になっていないという。伊東氏は、工事にかかる工賃は1時間あたり7,000円という数字を明らかにした上で、「アルバイトに工事をまかせれば1時間1,000円で済むかもしれないが、品質の問題からも決してできることではない」と強く訴えた。 また、聴聞ではソフトバンクBBから「NTTと同じ工事会社へ工事を発注、施工条件もNTTと同様にしたい」という話もあったという。NTT西日本の中神勝明氏は「部品などの面でも安くできる余地はないし、この場合は費用削減はできないのではないか」と指摘。同会社を利用することで工事品質は保てるものの、管理側が複数になることで工事側に混乱が生じてしまう点が問題だとした。
● ソフトバンクBBは2営業日、工事費2割削減を目標に 説明会では「総務省から“接続拒否事由にあたらない”として協議再開命令が出る以上、ソフトバンクBBを拒み続けることは無意味であり、その点で総務省が間違っているのであれば行政訴訟でもすべきではないか」との質問も投げかけられた。これに対して伊東氏は、「もっとも答えにくい質問」と前置きした上で、「かたくなに拒否し続けていればいつかわかってもらえるという安易な気持ちがあったことは事実」という心中を明らかにした。また、「紛争処理委員会が設置されたおかげで良質の議論ができている」との考えを示し、「単純に言えば(拒否を続けることで)一縷の望みをかけている」と声を震わせながら訴えていた。 この件に関してソフトバンクBBでは、工期短縮については2営業日を目標とし、ゆくゆくは当日工事を実現していく方向であるため、3営業日よりも工期を短縮できるとしている。工事業者については聴聞にもあったようにNTTと同じ会社へ発注するが、工事モデルを策定、業者と検証するなど効率化を進めていくことで、工事費用も2割削減を目標とした。 工事の発注系統が複数になることで混乱を招くというNTT西日本の意見に対しては、「(工事事業者も)複数の注文を受けるということは普通のビジネスとして当然のことではないか」という意見を示した。なお、ソフトバンクBBでは局内工事が可能になった場合も、ユーザーがNTTとソフトバンクBBどちらの工事かを選択できる形式を採用する予定だという。 ◎関連記事 (2003/6/18) [Reported by 甲斐祐樹] |
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