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■URL
http://internetweek.jp/ (Internet Week 2001)
パシフィコ横浜で開催中の「Internet Week 2001」4日目にあたる12月6日、財団法人インターネット協会(IAjapan)主催の「IAjapanフォーラム2001~考えよう『ブロードバンドでビジネスは広がるのか』」などが行なわれた。同フォーラムでは、韓国ブロードバンドの最新事情や、「そもそもブロードバンドとは何か」といった講演が行なわれた。
また、Internet Week協賛企業によるソリューションセミナー(入場無料)も連日行なわれている。今回は、ネットワンシステムズ株式会社による「無線LAN製品の性格とその限界」についてレポートする。
●IAjapanフォーラム基調講演~韓国ブロードバンドの最新事情
「IAjapanフォーラム2001」の基調講演には、韓国Iworld Holdings社President&CEOのJin Ho Hur氏が登場し、ブロードバンド先進国と呼ばれる韓国のインフラ事情について語った。Jin Ho Hur氏によると、今日の韓国では、ダイヤルアップによるインターネット接続よりも、ADSLやケーブルインターネットなどの月額利用料金の方が安いという。ブロードバンド回線の月額利用料は、月額30ドル以下となっており、韓国のネットユーザーの1月あたりの平均接続時間は18.1時間だという。
韓国の通信事業者は、Korea Telecom(KT)、Hanaro、Thurunetのビッグ3によって寡占状態になっている。しかもKTがブロードバンド市場に参入したのは、3社の中で一番最後の2000年初頭だったが、その後9ヶ月でシェア1位を獲得するに至った。ブロードバンドにおける回線種類は、当初ケーブルインターネットから火がついた状態だったが、今日では60%のユーザーがADSLを選択している。それ以外の技術、例えばLMDS/MMDS、PHSベースのWLL、HomePNAなどは、ほとんど“死んだ”技術となっているという。
会社名 | ブランド名 | サービス種類 | 月額費用 |
---|---|---|---|
KT | Megapass | ADSL Home LAN, BWLL, Satellite |
20~27ドル |
Hanaro | HanaFos | ADSL,Cable Home LAN, BWLL |
20~27ドル |
Thurunet | Multiplus | Cable ADSL(HFC) |
20~27ドル |
ところが、ビッグ3の中で黒字運営を行なっているのはKTだけで、Hanaro、Thurunetは両社あわせると50~60億ドルの負債を抱えている。Thurunetなどは、120万人の会員を持ちながら、今後数年の間、キャッシュフローで赤字になると予測されている。Jin Ho Hur氏によると、HanaroとThurunetの間には、合併などの話し合いも行なわれているらしい。このような“いびつ”な構造に陥っている理由は、韓国政府の政策ミスなどがあった。
韓国政府は1993~94年頃に、およそ20件の通信事業免許を発行したが、1業者に対して1業種の事業免許しか発行しない方針をとった。その結果、ページャー(ポケベル)事業などで大成功を収めた事業者が生まれた一方で、多くの事業者が事業の幅を広げることができずにいた。
その後、韓国政府は垂直型の免許政策の過ちを認め、規制緩和を行なったことで、通信事業者の競争が激化した。政府は、1996~97年にかけて回線系事業の強化を図り新たな免許を発行し、Hanaroは地域通話事業者、Thurunetは専用線事業者として免許を取得する。インターネットブームと1999年頃から始まったハイテク株ブームに乗って、ブロードバンド事業全体でおよそ10億ドルの投資が行なわれ、それぞれ2~3億ドルの投資を受けたHanaroとThurunetは、ケーブルインターネットなどの試験サービスという形でブロードバンド事業へと邁進した。その後、企業の姿勢は「まずマーケットシェアを握り、それから利益構造を考えればよい」と変化した。
韓国の光ファイバー事情もあった。1980年代から'90年代にかけてKTによって設置された光ファイバー網が充実しており、T1回線を申し込みから1週間程度で引ける状態にあった。ところが、KTはダークファイバーの解放を行なわなかったので、Hanaroは潤沢な資金を活用して独自のファイバー網を構築した。この時の過剰なインフラ投資は結果として負債という形で、Hanaroの経営を圧迫しているという。
Jin氏は、韓国のブロードバンドの発展を、政府の規制緩和、通信事業の競争、インターネットや株式のブーム、タイミングよく現れた新技術など複数の要素が複合した結果だと見ている。そして、韓国ブロードバンドインフラの広帯域化と常時接続の2つの側面は、新たなサービスや生活様式の変化をもたらしたという。広帯域になったことで、映像・音楽・ポルノなどのコンテンツを楽しむライフスタイルが生まれ、常時接続になったことでP2Pという市場が開拓された。実際に、主なサービスとして、ビデオチャットやインターネットゲームが流行っている。例えば、Jin Ho Hur氏の60歳になる母親は、最近インターネット対戦のカードゲームにはまってしまい、1日2時間程度接続しているという。
同時に、インターネット接続マーケットにも大きな変化が現れた。まず、ローエンドの専用線サービスやフレームリレーベースのVPN事業者などが淘汰された。韓国インターネット人口の3分の1程度にあたる250万のSOHOユーザーが、次々とADSLやケーブルインターネットに乗り換えているのだという。
最後にJin Ho Hur氏は、韓国の将来像にも言及した。韓国政府は新たに、通信事業者に対して何らかのDSL事業を強制する動きを見せているという。将来的にはFTTHへと移行することが想像されるが、いつ頃までに家庭に入ってくるかという見通しは立っていない。その代わりに、CDNやVoIP市場、メトロイーサネット、公衆無線LANサービスなどが活性化しているようだ。
●「ブロードバンドって一体何だ?」~慶應義塾大学・中村修助教授講演
http://www.internetits.org/ (インターネットITS)
中村修氏 |
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「IAjapanフォーラム2001」において、中村修慶應義塾大学環境情報学部助教授が「ブロードバンド:広帯域?定額制?グローバル・アドレス?」と題した講演を行なった。有線ブロードネットワークス(有線ブロード)や、Yahoo!BBがもたらしたブロードバンド革命から、IPv6による将来のインターネット利用まで、幅の広いセッションだ。
中村氏は、まず有線ブロードがFTTHサービス開始にあたり東京・世田谷区で行なった街中のノード設置実験(赤堤実験)について言及した。赤堤実験とは、それまでのノード設置の常識を覆し、街中の駐車場にプレハブ小屋を建て、その中にラックを設置するという革新的な試みだ。局舎を建築する必要もなく、コスト的に非常に安く設置できるこの手法は、既存の通信事業者の一部には「通信事業に対する冒涜」と思われたほどだという。
また、有線ブロードが100Mbps接続サービスしか提供しないこと、東京や一部の政令指定都市でしかサービスを展開しないことを“面白い試み”として取り上げた。FTTHをサービスとして考えた場合、ラインナップに接続速度10Mbpsと100Mbpsのコースを設定し、料金体系の差別化を図りそうなものだ。ところが、有線ブロードは、光ファイバーの中を100Mbpsで伝送しているにも関わらず、宅内に取り込む時にメディアコンバーターで、わざわざ10Mbpsに減速させることによるコスト高を嫌った。一方、サービス提供地域を限定する背景には、「儲かるところしかやらない」という姿勢が見えるという。ビジネスとしては当たり前の選択だが、NTTのように全国一律に同じサービスを提供することが必要と考えられていた通信事業の常識を打ち破った形だ。中村氏は、「NTTのBフレッツも東京と一部の都市でしか提供されていない」として、ビジネスとしての通信事業が、地域格差が生じさせていると分析する。
さらに、Yahoo!BBによる価格破壊は、「本当の意味で競争を引き起こした」と評価したが、「Yahoo!BBなどADSL事業者は、NTTのビジネスの上に成り立っており、NTTが本気を出せばかなわない」と分析した。この点でも、有線ブロードが自前のインフラを活用していることを評価している。
中村氏の講演は、ブロードバンドネットワークとは何かという命題に入っていく。まず、NTTのフレッツを取り上げ、「果たしてフレッツはブロードバンドなのか」という点に言及する。そして、フレッツISDNにせよ、フレッツADSL、Bフレッツにせよ、その日本語サービス名に必ず「通信料定額」というフレーズが含まれていることを指摘し、フレッツにおけるブロードバンドとは広帯域化よりも、通信料定額=常時接続のほうが重要なのではないかと語った。この背景には、「2000年以前まで日本のユーザーには、『インターネットへはダイヤルアップで接続する』、という“常識”が存在していた」と分析する。
次に、国際海底ケーブルの広帯域化と低価格化に言及する。1998年頃までの日本周辺の国際海底ケーブル網の伝送速度には10Gbpsという壁が存在していた。ところが、最近の日米間海底ケーブル「Japan-US」(640Gbps)、「US-China」(80Gbps)、「PC-1」(80Gbps、160Gbpsまで拡張可)と爆発的に広帯域になっている。これにはWDM(波長分割多重)技術を使っており、コストダウンにもつながっている。例えば、IIJの決算報告書によると、2001年第1四半期に国際バックボーンに費やしたコストは8億円で、前年同期14億円から40%近く減少している。一方で、国内バックボーンのコストは増加傾向にある。
インフラがブロードバンド化すると、その上で動くアプリケーションもブロードバンド化する。広帯域化は、映像配信系アプリケーションを一般的にした。例えば、韓国の地上波TVは、ほとんどストリーム配信されている。常時接続化は、P2Pの情報交換を活発にし、Windows XPからは「Microsoft Messenger」にビデオチャット機能が追加された。
WIDEプロジェクトでは、デジタルビデオ(DV)データをそのままIP上で伝送する実験を行なっている。MPEG2などに比べて、エンコードやデコードによる遅延がなく、リアルタイムでやり取りができる。例えば、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスと米Wisconsin大学で同時に講義を行なったり、インパクの開会宣言に使われたりした。
さらに、無線LANを使った街角インターネットなど、家庭の内外を問わず常時接続化していくと予想する。その中から中村氏は、現在注目されている技術として「IPセンサーネットワーク」を紹介した。例えば、ネットワークにつないだ冷蔵庫に液晶パネル、マイク、スピーカーをつけると、「お母さんが外出先から、子供達に今日のおやつの伝言を残せる」という使い方ができるだけでなく、温度センサーや開閉センサーの情報で、メーカーがメンテナンスの時期を知ることができる。中村氏は、「重要なのは、集まった情報がバリューを持つことだ」と言い、「冷蔵庫の中の内容物がわかる=何が足りないのかというデータ」から近所の商店が仕入れを行なうといった産業構造の変化などを予測した。実際に、2001年2月には「IPCar」の実験を行なったほか、2002年にも「インターネットITS」実証実験を行なう予定だ。
●知っているようで知らない無線LANの概念
松戸孝氏 |
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Internet Weekのソリューションセミナーの一つとして、ネットワンシステムズ株式会社技術第1本部応用技術第3部第1チームの松戸孝氏が「無線LAN製品の性格とその限界~導入前に本当に理解・納得したい大原則」と題した講演を行なった。
簡単手軽に導入できる無線LANは、企業や家庭、屋内や屋外を問わず市場を拡大している。無線LANに関する最近の話題は、街角インターネットであったり、電波の干渉や、暗号化通信、アクセスポイントの成りすましといったセキュリティ面が取り上げられている。だが、松戸氏は、実際に運用する以前、つまり無線LANを導入する前の大前提に対する理解が重要だと語った。
そもそも無線LANとは何だろうか。無線LANとは、従来の10Base-Tのケーブルが電波に、ハブがアクセスポイントに、イーサネットカードが無線LANカードに変わっただけのものだ。無線部分は、2.4GHz帯電波を直接拡散スペクトラム方式で飛ばしている。ここで松戸氏は、「無線LANとは、立派な無線局であり、それゆえ電波法に従わなくてはならない」と強調する。
「無線局」とは、電波法第2条に定められているように、無線機器とそれを運用する人によって構成される。無線局の開局は、電波法第4条に定められており、総務大臣が発行する免許の取得が必要である。ただし、一般的に無線LANと呼ばれているIEEE802.11b準拠の製品は、製造メーカーが技術基準適合証明を受けており、ユーザーが免許を取得する必要はない。
無線LAN製品の 送信出力 |
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免許の必要とする無線局に対して、無線LANはいくつかの不利がある。まず、通信品質保証がない。周波数は、他の無線製品と共用で、割り当て数が少ない。また、送信電力が10mW/MHz以下という弱い出力に抑えられている。多くの製品のカタログスペックでは、出力が30mWや50mWと表記されているものがあるが、松戸氏によると「広く拡散した周波帯帯域で積分された数値」で表記されているのだという。
無線LANで使用可能な2.4GHz帯は、ISM帯(Industrial Scientific Medical Band:産業科学医療バンド)と呼ばれる、誰でも無免許で利用できる周波数帯だ。このISM帯の中に14チャンネルが割り当てられているが、実際には隣接チャンネル同士の混信を回避するために同一エリアでは4チャンネル程度しか使えない。また、無線LANのほかに、Bluetooth、電子レンジ、アマチュア無線、移動体識別システム、一部の衛星携帯電話、VICS(道路交通情報通信システム)などもISM帯を利用しており、通信が不安定になる可能性がある。
無線LAN製品には、小さいながらも必ずアンテナが付いているが、不思議に思った人は少ないのではないか。一般的な空間のインピーダンス(電圧と電流の比率)は、約377Ωだ。これに対し、無線回路のインピーダンスは50Ωとなっており、この差異をつなぐ装置がアンテナだ。松戸氏は、「アンテナは必須の装置なので、邪魔だからと言って取り外さないで欲しい」と説明した。
実際に、無線LANを導入するために確認すべきことがある。アクセスポイントのアンテナとクライアント側のアンテナの間に“見通し”があるかということだ。2.4GHz帯の電波は直進性が強く物陰に回りこむことができない。松戸氏は、「だいたい12センチ以上のものが間にあると、全て障害物になる」と語る。また、無線LAN壁などに跳ね返ってくる反射波による通信も苦手だ。なぜならば、反射波と直接波が受信側のアンテナに到着する場合に生じる時間差が受信波形を歪ませて、正しいデータが伝送されないからだ。
さらに気をつける点として、アンテナの指向性がある。主に屋外型の無線LAN製品の場合、立地や用途に応じたアンテナを選ばないと通信ができないことがあるという。アンテナには、垂直方向、水平方向にそれぞれビーム幅(角度)が設定されている。ここで松戸氏は、簡単に角度を把握する方法を紹介した。腕を前方に伸ばし、握りこぶしの下底を目の高さにあわせる。すると、握りこぶしの上底までがおよそ10度となる。実際に、両手で作った握りこぶしを上に九つ重ねると頭上(約90度)になる。
これらの特徴を理解した上で、松戸氏は「無線LANには、免許不用の無線局ゆえの自由(手軽さ)とリスクがあることを把握して欲しい」と語った。例えば、カタログ上の伝送速度は11Mbpsと表記されているが、スループットは4Mbps程度しかない。しかも、複数人で同時に利用するとスループットはさらに低下する。1アクセスポイントあたりの利用ユーザーを減らすためにアクセスポイントを増設したくても、近いエリアに5つ以上のアクセスポイントを設置すると電波の干渉が発生する。送信電力を意図的に下げる製品も存在しているが、松戸氏は、「無線LANとは、市場が拡大すると使いづらくなるシステム」だとコメントした。同氏は最後に、家庭内の利用ならともかく、これから企業で導入する場合、「会社の中で無線LAN利用に関する統一したルールを作る」「部署単位など小さく始めて、検証しながら拡大する」とアドバイスした。
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(2001/12/7)
[Reported by okada-d@impress.co.jp]