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【連載】

ネットビジネス 日本からの挑戦

第12回:アウトドア用品・釣具の老舗オンラインショップ
――将来はアウトドア関連の総合サイトへ、ナチュラム

http://www.naturum.co.jp/

 米国では、西海岸の「シリコンバレー」、東海岸の「シリコンアレー」などから注目のIT関連のスタートアップ企業が登場しています。そして、今日本でも「ビットバレー」が話題になるなど、さまざまなインターネット関連のベンチャー企業が注目を集めています。この連載では、渋谷周辺のみならず日本全国から、新事業を創造する、まだあまり知られていない企業をピックアップし紹介します。(編集部)


 

 日本でも次々とオンラインショップが開設され、2000年5月時点で27,000店舗(出所:NRIサイバービジネス・ケースバンク:サイバー社会基盤 研究推進センター)に到るまでになっている。

 ECビジネスの先進国である米国のオンラインショップにおいては、店舗販売、カタログ販売、独自ブランド商品などの複数のマーケティングチャネルを利用して成功を収めるケースが出始めている。オンラインショップは、従来の小売店のように実店舗を維持する費用が不要とは言え、Webサイト開発費用やマーケティング費用、広告費用などのコスト負担は無視できない。そこでその負担を解消するために、優良顧客層に焦点を絞ったアプローチに力を入れ始めている。現に、ロイヤリティの高い少数の顧客層が売上全体の高い割合を占めているという報告もあがっており、オンラインショップにおいては、少数ではあるが利益を生み出す顧客層とのリレーションシップの構築・維持が重要と考える傾向が米国では強まっている。

 このような兆候の中、日本のオンラインショップの老舗として評価の高いアウトドア用品・釣具販売の「ナチュラム」(株式会社ナチュラム 大阪市 中島成浩代表取締役社長)が、2000年2月に母体である釣具メーカー/小売の「ナカジマ」(株式会社ナカジマ)から分社化し、更にEC戦略を強化し始めた。

 その達成目標の一つには、顧客ロイヤリティの向上が挙げられているが、今後どのようなビジネスプランを基に実現していくのか、次の飛躍のカギに焦点をあてて取材した。

 

●ナチュラムが設立されるまで

 

中島社長
中島成浩代表取締役社長

ナチュラムは、釣具メーカーであり、店舗での直販も行なっている「ナカジマ」の小売事業部の1プロジェクトとして始まった。実店舗はメーカーと小売り業態を兼ね備えるアンテナショップとして位置づけられていたが、オンラインショップも、まずは中島社長の個人プロジェクトといった感じで、1996年にサイバースペース上のアンテナショップとして実験的に開設された。

 開設当初の売上は少なかったが、1997年3月に月商100万円を達成し、1998年7月には1,000万円を突破する勢いで急拡大を遂げていった。しかし、そこに一つ大きな問題が生じた。

 「もともとシステムは社内で構築していて、当初の月商目標を10万~100万円くらいに想定していたんですよ。ですから、システムが一気に破綻をきたし始め、1999年夏頃からは組織的にも問題が出てきて、どうしようかと考えていたんです」(中島社長)

 この組織的な問題というのは、その時でナチュラムが一事業部としての位置付けだったため、何か物を決めるにあたっても社内稟議を回さなくてはならず、余計な時間を費やすということだった。その頃からナチュラムの分社化への動きが出てきた。

 「ひとつのきっかけとしては、『オンラインショッピング大賞』をとった頃(EC研主催:1999年9月)からベンチャーキャピタルによる接触が増えたことですね」(中島社長)

 その後、急速に分社化に向かい始め、各関係者との調整もスムーズに進み、2000年2月の株式会社ナチュラム設立となった。

 

●実店舗を追い越すオンラインショップでの売上

店舗外観 現在の会員登録数は1万名ほどで、そのうち9割が男性となっている。年齢層は20歳代前半から30歳代後半までが圧倒的に多い。1回の平均購買金額は約12,000円で、2回以上のリピーター購入者も4割以上になる。2000年7月のEC売上高は2,400万円/月であり、前年比で240パーセント増となっている。

 「結構グレードの高い商品がネット上では売れるのです。釣りに関する色々な情報を既に持たれていて、価格の価値を理解しているお客様が多いのでしょう」(中島社長)

 他方、実店舗での売上は1,500万円/月と右肩下がりの傾向にある。その結果、ナチュラム設立時には店舗面積を2/3にしたり、店舗従業員をオンラインショップのスタッフにシフトさせたりと、更にEC事業を強化する戦略に出ている。現在、オンラインショップでの取扱いアイテム数は126,000アイテムほどで、実店舗(店舗の在庫20,000アイテム)よりも多い品揃えとなっている。今年のEC売上高目標は2億5,000万円で、実店舗と合わせて4億円を目指しているという。

 

 

●気軽に立ち寄れるオンラインショップを目指して

店舗内風景
店舗内風景

 今後の取組みとしては、釣り・アウトドアの上級者だけでなく、初心者もオンラインショップに取り込んで行きたいと考えている。

 「そもそも初心者や女性は釣具屋さんに入りにくいとか、アウトドアショップってどんなところなんやろ、という方が多いですよね。これに比べて、オンラインショップはそのような人々にとっても敷居が低く入りやすいようです。『Yahoo! shopping』経由でアクセスしてくる人の多くは初心者です。リアル(店舗)よりも初心者の取り込みは結構できるのではないかと思っています」(中島社長)

 あとは、初心者ユーザーのアクセスを受け止め、顧客リレーションシップを構築・維持できる仕掛けと体制を築けるかがポイントとなってくる。早くからナチュラムは、カスタマーサポートにおいて手厚いサービスを実施してきたが、見込み客に対するサービスも充実させている。

 「店頭での販売では意外とお客様にストレスがある場面があるんです。店員がそれほどいるわけではないので、初心者の方が来て気軽に質問しにくい状況があります。その点、ネットはバリアがないので気軽に入ってこれる。これからネットでやろうとしているのは、色々な人(メーカー、販売店、ユーザー各者)の意見・評価を反映させ、いろんな角度で情報が見られるサービス。これを実現できるシステムを構築し、コミュニティとも連動させています」(中島社長)

 

●コミュニティの価値と扱いにくさ

 ナチュラムサイトでは、「ガイアックス」との提携により、サイト上でコミュニティツールを提供している。従来より「OK WEB」や「ask U.com」など、何か知っているユーザーが知らない(質問している)ユーザーに対して教えてあげるというCtoC型コミュニティ系サイトのサービスモデルは人気を呼んでいる。本連載の第10回で取り上げた「たのみこむ」もユーザー同士が活発に意見を述べあうサイトとして注目を集めている。ナチュラムは、こういったコミュニティ活用のツボを押さえていると言える。

 「上級者がいてて、初心者がいてて、上級者が初心者に教えてあげる。そうすれば、うちのスタッフが楽になる(笑)みたいなことが最初の発想です。メーカーが『こうなんです』と言ったところで、お客様側は『ほんまかいな?』と思うじゃないですか」(中島社長)

 また、コミュニティの長所を活用する一方で、その反面、コミュニティの扱いにくさも認識しているという。コミュニティが主導権を握った場合、運悪くすれば、オンラインショップにとって不利な発言や誹謗中傷などが掲載されることもありうる。また、開設したもののスタッフ対応が十分でなく、一つの些細なミスから全社的な問題に悪化してしまったケースもこれまでに何度か話題にのぼっている。この点について、ナチュラムからは頼もしい答えが返ってきた。

 「クレームが出てきたことはまだないです。ただ、クレームは一種のチャンスだと考えています。当然クレームは出てくると思いますが、それをうまくサポートできれば、逆にロイヤリティの高いお客様になっていただけると思っています。  逆に扱い方を間違えればコミュニティを敵に回してしまうこともあるので、その辺は慎重にしなくてはならない。今はノウハウをためているところです。

 うちは『小売』のプロですから。『コミュニティ』のプロ、ガイアックスにその辺りを学んでいこうと思っています」(中島社長)

 また、コミュニティ活用の一種として、アフィリエイトプログラムも採用しているが、その辺りの効果はこれからのようである。ヤフー経由の売上高は400万円/月であり、個人経由の売上高は、まだ月40万円程度だ。

 「アフィリエイトサービスはアマゾンを参考にしています。ただ、アメリカのモデルそのものを日本に持ち込んでもうまくいかないと思います。『商売商売』してしまってはお客様がついてこないのではないか? そもそも、まだ一般の方はアフィリエイトの仕組みをよく理解していません。ですから『販売代理店』のような形ではなく、自主的に同好会を運営している人たちからの紹介といった形で行ない、そこで得られたアフィリエイトフィーを同好会の運営費に充てる感じでやってもらいたいと思います」(中島社長)

 また、サイトのPRにおいても、コミュニティを活用しているという。趣味に関する情報は人的ネットワークを経由して伝わることが多く、この点がアウトドア友好者とインターネットユーザーがマッチングしたと言える。

 

●現在の悩みはサーバーの保守管理

 「一番困っている点はサーバーの保守管理です。サーバーを社内で保有管理しているので、24時間365日監視していないといけない。現在、NTを使用し社内で監視プログラムを作ってはいるのですが、結構落ちるのですよ(笑)。業務提携をしている日本 ヒューレットパッカード(HP)ともシステムの拡張計画を検討していますが、保守管理をどうするといった点が問題になっています。将来的にはアウトソーシングをしないといけないかなと話してますが」(中島社長)

 最近のWEBサイトのシステム運用については、保守・運用コストやリスクマネージ メントの視点からアウトソーシングする傾向が強まっている。ナチュラムもまたアウトソースの方向へ進むと考えられる。

 なお、ナチュラムは日本HPが展開しているネットベンチャー支援プログラム「HPガ レージ」の支援先企業の先駆けである。

 「大阪にはネットベンチャー関係者が集う『ベタバレー』というのがあって、これ に参加していたらHPの大阪の人がいて偶然知り合ったのです。その人から東京の担当者につないでもらい、東京に出向いて『機械下さい!』と言った訳なのです」(中島社長)

 現在の「HPガレージ」では、リスクシェア/レベニュー(歳入)シェアというビジネスモデルを提唱しているが、ナチュラムとはレベニューシェアをしていない。この背景には、日本HPが今後EC分野において勝ち残るためには「箱売り」だけではなく、EC ビジネスにおける運営ノウハウの蓄積、ECサイトのソリューションとなる新規商品開発への応用が必要だと考え、学び先としてナチュラムを選んだということが伺える。他方、ナチュラム側にとっては事業の立上げ時という最も厳しい時期において、システム投資の負担を軽減し、HPのブランド力・営業力を有効活用できた。このような点において、ナチュラムと日本HPは、お互いに強みを生かして弱みを補完するといった良い提携関係にあると言える。

 

●ナチュラムの強み

トップページ 「今後の競合他社として注目しているところは、アウトドア用品や釣具の大手小売チェーン店などですね。何分、母体が大きいので、その辺りが本気を出してきた時は怖い。ただし、恐らく2年位の猶予があるのではないかと思っています。組織が大きければ動きも遅いはずなので、その猶予期間中に「アウトドア」のブランドを確立してしまおうと考えています。これが現在のナチュラムの至上命題です」(中島社長)

 それでは、大手小売店も自社の「ブランド」を最大限に発揮した場合、ナチュラムはどのように対抗するのであろうか?

 「彼らがリアルのブランドを使って、そのままECで成功するとは思えません。EC上での使い勝手など色々ハードルがあるはずです。ナチュラムはレコメンデーション力、使い勝手という部分でリードしていけると思います」(中島社長)

 また、多くのオンラインショップとの差別化としては次のように考えている。

 「アマゾンは何でもかんでも自前でやろうとして肥大化しています。うちは決済や物流機能はその部分に強いパートナーと組んで、自社のリソースは販売や顧客リレーション部分にすべて投入していこうと思っています」(中島社長)

 その他のキーポイントとしては顧客満足度を挙げている。個々の顧客情報を活用したパーミッションマーケティングを実践し、顧客ロイヤリティを段階的に引き上げていく手法を確立しないと今後の競争に勝ち残れないとナチュラムは考えているという。

 実際に今年7月より「まぐまぐ」を利用したメールマガジン発行から、株式会社インフォキャスト(本社:大阪市 本連載第11回「急成長から企業売却へ、インフォキャスト」参照)の提供するメール発行ASPサービス「POEM」を用いた発行に切り替えた。「POEM」には会員登録時に選択した希望カテゴリーに基づく情報をその場で合成して発行したり、会員属性に応じたコメントを差し込める機能が盛り込まれており、ナチュラムでは今後このシステムを用いて1to1マーケティングを模索していく。

 なお、「POEM」採用第一号となったナチュラムは、利用を通じて得た改善要望点を常にインフォキャストにフィードバックして開発協力している。さらに、会員データベースをシルバーエッグテクノロジー社(本社:大阪府吹田市)が開発中のリコメンデーションエンジンとも連動させる計画もあるという。このように地元のネットビジネスパートナーと積極的に取り組む姿勢もナチュラムの特徴である。

 

●今後狙うビジネスは「アウトドアのポータルサイト」

 また、ナチュラムではハードウエア/ソフトウエア面以外にも、コンテンツ部分の提携について色々と施策を巡らせている。

 「将来的にはアウトドア用品販売の他に、全てのアウトドア情報を網羅できるサイトを目指します。アウトドア業界の特徴は商品を買って終わりではなくて、その商品を持ってフィールドに出かける点です。そこにも事業者(例:釣り場やオートキャンプ場など)は存在します。うちがやりたいのはそういったフィールドの事業者もネットに取り込むこと。ナチュラムを通してアウトドアのアクティビティ全てを実現できるような形にしていきたい。そういう意味でフィールドの事業者との連携は重要だと思っています。

 もし僕が他店舗チェーンのオーナーであれば、ネットとリアルの融合的な戦略をとると思いますが、うちは店舗が一店しかないので違う戦略をとっていきます。店舗という拘束が少ない分、新しい展開がしやすい。フィールド事業者と連携していくというコンセプトについても、しがらみなく実行していけます」(中島社長)

 その他、釣具メーカー「ナカジマ」との連携という点において、プライベートブランド商品の開発やマスカスタマイズド(セミオーダー)商品の開発も行いたいと考えているという。

 

●起業家を目指す人たち、ならびに読者の方々へ

 最後に起業家を目指す人たちや読者に向けたメッセージをお願いした。

 「よく友達に相談されますが、『なんかインターネットでビジネスをやりたいんだけど…』と聞かれた時には、『やめといたら』と言います。僕はあくまでもインターネットは道具だと思うので、コアコンセプトやコアコンピタンスが無くてビジネスを始めようとしたら絶対に失敗しますよ」(中島社長)

 休日は目一杯フィールドで過ごし、平日にインターネットを使ってアウトドア用品を購入して情報収集も行なう。そのようなスタイルがECが普及していった時代のアウトドアのスタンダードになるのだろう。最後に中島社長は次のように語った。  

休日を買い物でつぶすのはもったいないですよ。休日はフィールドへ!買い物はナチュラムで!

(2000/8/31)

[Reported by FrontLine.JP / コンサルティングチーム]


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