統合オフィスソフト「スタースイート 7」のパッケージ版を約30万本販売し、開発元のサン・マイクロシステムズ米国本社よりも先に最新版の「スタースイート 8」を発表したソースネクスト。同社は、2003年2月に「みんなわくわくパソコンソフト」をスローガンとして、主な販売価格帯が1,980円という「コモディティ戦略」を開始。2005年7月には、このイチキュッパの「Qualityシリーズ」の累計販売本数が1,000万本を突破した。松田憲幸代表取締役社長に、スタースイート 8にかける意気込みや、今後の販売戦略について伺った。
● プレゼンソフトも1,980円、家庭で気軽に試してほしい
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松田憲幸代表取締役社長。スタースイート 8や超五感プレゼンの販売に自信を見せた
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――「スタースイート 7」は30万本売れたそうですが、「スタースイート 8」の販売目標は何万本でしょうか。プレゼンソフト部分を切り出した「超五感プレゼン」も販売しますが、家庭でプレゼンテーションを作成するニーズはそれほど多くないのでは?
松田社長:スタースイート 8だけで30万本、超五感プレゼンが20万本、合計で年間50万本を目指しています。デファクトスタンダードであるマイクロソフトのPowerPointとの互換性と低価格がキーになるのではないでしょうか。
確かに、家庭でプレゼンテーションを作成するのかという質問を受けることもありますが、実際にはけっこう作っているようです。レポートをPowerPointで作成する学生もいます。最近の履歴書には「PowerPointができます」と書いてくる求職者も少なくありません。
それに一般の雑誌などでも「プレゼンテーション」という単語が出始めています。家庭でもPowerPointを試したいという人もいるのではないでしょうか。でも、たかが試すだけのために2万円以上も出費できないですよね。
例えばPDF作成ソフトも、家庭でPDFを作成していったい何をするのでしょうか。それでも、価格が安ければ、ただPDFにすることを気軽に試すこともできます。「俺、このファイルをPDFにできるんだ。格好いいでしょ」なんていうことになれば、それだけでも満足度は高いのです。プレゼンテーションもそう。1,980円で気軽に動きのあるプレゼンを作れるようになります。それで新たに「こんな使い方はどうだろう」といったような好奇心も生まれます。価格的にも、読んだことを試したくなるような書籍に近い感覚です。
――日本IBMの統合ビジネスソフト「Lotus SuperOffice」の扱いはどうなるのでしょうか。
松田社長:Lotusの場合は、今後アップグレードしていく方針が出ていません。とはいえLotusファンは多いので、IBMに対しては「もっとLotusをやりましょう」とお願いしています。ソースネクストとしては、長年使い慣れた操作性の問題もありますので、スタースイートとLotusのどちらかを扱うのではなく、お客様に好きなほうを選んでもらえる環境を提供していく方針です。
● 店頭販売のビジネスモデルでは、980円や無料配布は現実的に不可能
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無料配布するなら「広告モデルにビジネスモデルを変更する必要ある」と松田社長
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――Qualityシリーズで低価格路線を先行していますが、ウイルスソフトなど競争が激しい分野では、無料でダウンロード提供する企業や980円で販売する企業も現われつつあります。
松田社長:無料や980円の価格では、店頭販売のビジネスモデルは成り立ちません。現状の売上のうち、店頭販売は7割から8割を占めます。この割合は今後も当分変わらないでしょう。ダウンロード販売に特化するという選択もありますが、それでは多くの人に販売することはできません。
もし、無料配布するなら、街中で配られている「ホットペッパー」のように広告モデルに変更する必要があるでしょうね。もちろんその場合は、ホットペッパーを発行するリクルートのような強力な営業力が必要ですが。980円で販売する場合も、その価格で販売店とメーカーの利益を生み出せるのでしょうか。それこそ1,000万本レベルの売上が必要でしょう。そこまで市場は拡大してませんし、1,000万本を売り上げるには1,000億円の赤字を3年連続で計上するような覚悟が必要になりますね。
店頭販売というビジネスモデルでは1,980円が最低レベル。ソースネクストでは販売量が多いのでパッケージの価格も他社に比べて安くできます。現在では、DVDパッケージサイズの小さいパッケージが主流で、コーンフレークのような旧来の大きいパッケージと比較すると1.5倍程度コストに差があります。
また、小さいパッケージに本のように見開きを付けたことで、大きいパッケージの1.5倍程度の情報を掲載することも可能になりました。体積効率でいうと、1万円のパッケージの占有する面積で5本のパッケージを売っていることになります。
コストを下げる要因では、いかにサポートコストを減らせるかどうかも重要です。誤解しないでいただきたいのですが、サポートコストを削減してお客様の問い合わせを切り捨てるということではなく、製品をシンプルにして、問い合わせする必要がないようにすることが大切なんです。最多の問い合わせはソフトのインストールにかかわる質問ですが、ソースネクストでは自動インストールを採用して、最も多い問い合わせを減らすことができました。
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スタースイート 8の記者発表会では、カプコンの「鬼武者 3 PC」など約30本のPCゲームソフトが発表された
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――スタースイート 8の記者発表会では、今後PCゲームソフトを大量にリリースしていくという方針も明らかにしました。
松田社長:ゲームについては、ユーザーからの要望が多かったんですね。2本買ったら1本おまけしますというキャンペーンを行なった時期もありましたが、おまけとして選ぶソフトがないと言われてしまいました。販売するにあたり、「信長の野望」や「三國志」といった有名タイトルは販売すれば売れるだろうと確信していました。実際に提供元であるコーエーの販売量の8倍から10倍の売上になりましたね。
これまでPCゲームは、ゲーム売り場にしか置いていなかったのでマニアの目にしか触れませんでした。そうしたゲームをユーティリティソフトやビジネスソフトの売り場に置くことで、おまけのように“ついで買い”するユーザーにアプローチできたのではないでしょうか。「懐かしいな、これも買っていくか」という市場が従来のゲーム市場の10倍あったということです。
ゲームに限らず開発者にとって何がうれしいのかというと、開発したソフトがより多くの人に使ってもらえることでしょう。「1,980円で売るな」というより、10万人よりも100万人に使ってもらいたい――これは開発者共通の願いだと思います。売れる環境作りが大切でしょうね。
なお、Qualityシリーズは1,980円、2,970円、3,970円の価格帯で主に販売していますが、コンビニでも売れる価格の1,980円のソフトが圧倒的に市場に浸透します。割合的には6割が1,980円で販売されています。
1,980円に設定できない理由は「コンフリクト」。ゲームの場合では、PlayStation向けに5,800円で販売しているのに、PC向けに1,980円では販売できないケースです。こうしたコンフリクトを解消するには年月が過ぎ去るのを待つか、1,980円以上のプライシングを行なうほかありません。1,980円と3,970円だと売上は倍ぐらい違いますが、ソースネクストからソフトベンダーには「価格を下げたほうが売れますよ」と言うしかないですね。
● ユーザーニーズに合致したシンプルさが日本製ソフトの“生きる道”
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松田社長は「日本の技術者は優秀だ」という
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――ソースネクストの今後の方針をお聞かせください。
松田社長:これからも1,980円ソフトのラインナップを増やしていくとともに、どこでも気軽に購入できるようにしていきます。今後、5年ぐらいでコモディティ化を浸透させ、その後、世界に向けての販売を考えています。ソースネクストでは、5年くらい時間をかけて海外のマーケティング戦略を真剣に考えます。ソフトが売れる環境を作り、そこに製品を流していき、ドラスティックな製品を販売していきたいですね。そのためにも日本国内の局地戦に勝っていく必要があり、その後にワールドワイドの展開があります。
今は、WindowsやAdobeがあたり前で“日本車が走っていない”状況です。日本の技術者は優秀なのですが、マーケットが形成できないために事業化できないケースも少なくありません。そのためにWindowsやAdobeといったいわば“外車”に負けてしまっているのでしょう。
日本の技術者は、まじめにきっちり製品を作る能力が高いと思います。クオリティアシュアランスや組織だって動くのが得意なのです。日本製ソフトの生きる道は、シンプルにユーザーニーズに合致したソフトを提供すること。例えば「いきなりPDF」です。PDF作れればよいという企画の割り切りです。海外製品はPDFを作れること以外の機能をプラスして、動作を重くしているような傾向がありますが、日本製品はむしろシンプルで軽快にするべきでしょう。
そういう製品を開発してもらうために、営業やマーケティングはソースネクストに任せてもらいます。具体的は5万本の買取契約などを行なって、ソースネクストが経済的リスクをとり、安心して開発してもらう環境を構築します。また、技術者にありがちな、技術を前面に出す製品開発やマーケティングも行ないません。「驚速」というソフトでも、すごいコーディングなんだと自慢したいところですが、そんなことより一太郎が起動するスピードを半分にしてくれたほうがお客様には喜ばれます。技術力は大事ですが、それがお客様に還元されている技術かどうかが問題だと考えています。
――本日は、ありがとうございました。
関連情報
■URL
ソースネクスト
http://www.sourcenext.com/
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( 鷹木 創 )
2005/09/14 18:18
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