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Web 2.0とYahoo!検索APIの関係~井上俊一・検索企画室長が語る

「APIでYahoo! JAPANをどんどんハッキングして」

 12月2日に公開した日本語版Yahoo!検索のAPI。1週間後の9日にはダウンロードに必要なアプリケーションIDの登録数が1,000件に達したという。Yahoo! JAPANがAPI公開で目指すものは何なのか。今後の展開を同社リスティング事業部検索企画室の井上俊一室長、堀江大輔氏に伺った。


Yahoo!デベロッパーネットワーク リスティング事業部検索企画室の井上俊一室長(左)と堀江大輔氏(右)

Yahoo!検索APIの公開でAPIビジネス環境を加速

 Yahoo!検索のAPIは、米Yahoo!がすでに2005年3月に公開していた。この時点で日本語アプリケーションの開発も可能だったが、日本語版の公開は9カ月遅れの12月になった。

 「公開時期を意図したと言えば意図した」と井上氏は言う。米国ではYahoo!のほかにGoogleやAmazonなどでもAPI公開しているが、全面的にビジネスに繋がっているわけではない。しかし、国内ではYahoo! JAPANがAPIを提供していないことで「(日本語APIのビジネスに関する)加速が遅くなっていた面もあった。社内でも公開に関する是非を検討してきて『今なんじゃないか』となった」という。

 「米国のAPIがモデルだが、日本版の開発では米国のモデルを1回忘れて、完全に日本の開発者向けにした」と堀江氏。そもそも検索エンジンである「Yahoo! Search Technology(YST)」自体も、日本版と米国版で異なるという。「日本で提供しているYSTは、インデクシングの部分からサーチの部分まで我々の手がものすごく入っている。米国のAPIと日本のAPIで日本語の検索をしてみると、結果がぜんぜん違う。当たり前のようだが日本語版のほうが精度が高い」(井上氏)。

 また、Yahoo!検索のAPIに関するドキュメントは日本語で書かれていることも利便性を向上させた。「GoogleにしてもAmazonにしてもドキュメントは全部英語。Yahoo!は日本語。『日本語でよかった』『読みやすい』というフィードバックも寄せられている」(堀江氏)という。

 井上氏も「米国のAPI公開と、Yahoo! JAPANのAPI公開ではインパクトがぜんぜん違う」と指摘。「マーケットシェアも違うし、ユーザーの認知の仕方も異なる。日本で出すことによって生まれる価値はやはり大きい」。


Yahoo! JAPAN版Sitemapsの可能性も

「検索エンジンはインターネット社会のインフラ」だと井上氏
 実際、Yahoo!検索API公開後、多くのアプリケーションが公開されている。「公開して1週間で、検索結果をRSSに変換し、My Yahoo!に登録できるサービスや、携帯電話のメールで検索できるサービスなどがどんどん出てきた。当初は、Perl版とPHP版のSDKしか用意していないかったが、Ruby版SDKを自作してくれた開発者もいた」と堀江氏も驚く。

 公開と同時に使えるようになったサービスでは「はてな検索」があるが、これ以外に「あなたのサイトはYahoo! JAPANで何位」や「Yahoo!APIを使って、Yahoo!検索結果からRSSを生成します。」などYahoo!検索APIを活用したサービスがインターネット上で多数公開されている。

 なお、Yahoo!検索APIは、比較的扱いやすいと言われる「REpresentational State Transfer(REST)」形式で提供している。井上氏は「検索というサービス自体は、基本的にリクエストを投げたらレスポンスが返ってくるというすごくシンプルなもの」だとして、あえてヘビーなAPIにしなかったという。ただし、「どうしてもSOAP(Simple Object Access Protocol)がほしいというユーザーがいたら、SOAPの提供も検討するかもしれない。RESTだろうがSOAPだろうがどちらでも問題ない」と述べた。

 ヤフーでは、Yahoo! JAPANのコンテンツすべてをユーザーに利用しやすい何らかの形で提供する方針だ。「地図や電話帳、それこそショッピングなど、あらゆるものが公開対象になる。日本国内でサーファーが集めているカテゴリの公開も考えている」。また、場合によっては、「Google Sitemaps」のようなYSTのインデックスに対するAPIの公開も検討する。「API公開が進めば、他の企業が公開したAPIをYahoo! JAPANが取り込んで新しいサービスとして公開するという展開もあり得る」と他社APIを利用したサービス提供も示唆した。

 「検索エンジンはインターネット社会のインフラ。検索エンジンのクローラやインデックスについてのAPIは本当に作りたい」と井上氏。ただし、APIだけにこだわるのではなく、状況に応じてRSS配信までで留めるケースもあるという。


URL
  はてな検索
  http://search.hatena.ne.jp/
  あなたのサイトはYahoo! JAPANで何位?
  http://www.zuzara.com/pub/yseo/
  Yahoo!APIを使って、Yahoo!検索結果からRSSを生成します。
  http://rss.rdy.jp/y2rss.cgi

Yahoo! JAPANに「ヘッドもテールも」

 井上氏は、今後ヤフーが進むべき方向を「ソーシャルメディア」だと位置付ける。このソーシャルメディアこそが「Web 2.0に対するヤフーの回答だ」というのだ。「インターネットの変遷、成功、失敗をまとめたがっている意思が、なんとなく総和として見えているのがあの動きなのではないか」とWeb 2.0を分析する井上氏は、コンテンツ、トラフィック、マネタイゼーションの3つの視点でソーシャルメディアを解説する。

 従来コンテンツは、大手コンテンツプロバイダー(CP)が提供するマス向けのものが主流だったが、最近では2ちゃんねる発の「電車男」などに代表されるようにCGM(Consumer Generated Media:消費者発信型メディア)から生まれ、注目を集めるコンテンツも少なくない。CPが提供するコンテンツを「ロングテール」で言うところのヘッドコンテンツとすると、無数に存在するCGM発のコンテンツはテールコンテンツだといえる。

 そうした観点では、Yahoo! JAPANはヘッドコンテンツの“お化け”みたいなサイトだ。「大きなCPからヘッドコンテンツをバーンと買ってドーンと見せる会社だから、テールという発想が今まではなかった」と井上氏。ただし、ロングテールな検索の世界ではヘッドばかりというわけにもいかない。小さなコンテンツであっても必要なコンテンツにヒットするのが検索エンジンの理想だ。「ユーザーが作成したテールコンテンツに主流が移っていく。これは自然な流れだ。テールコンテンツにリンクをどんどん張ったり、見せてあげるようにしたい」。

 また、Ajaxの普及も変化の要因になる。JavaScriptを多用し、クライアント側でトランザクションを処理するようになると、アクションが発生しても新しいURLにアクセスする必要がなくなる。これまで重要視されていたページビューやユニークユーザーといった指標が通用しなくなる可能性も少なくない。「URLが切り替わることによって新しい在庫が生まれるという従来の広告ビジネスの考え方は変わると思う。滞在時間や顧客満足度といった指標も同時に使うようになるのではないか」。

 こうしたトラフィックの変化は、利益を生み出す手法(マネタイゼーション)へも影響を及ぼす。「当然、大きな代理店だけでなく、スモールパブリッシャーも取り込んでいく」と述べた。


新サービスはソーシャルネットワークが真ん中に

 検索エンジンがテールコンテンツを無数に拾い上げるようになると、コンテンツの選別が重要になる。だが、井上氏は「選別しない」と主張する。「当初は選別しない。最初は無数のものが検索に引っかかっていい。勝手になるようになるのではないか」。その上で、「何らかのフィルタリングをするという段階で、ソーシャルネットワークを使う」という。

 例えば、はてな検索でもソーシャルブックマークサービスである「はてなブックマーク」のブックマーク数を同時に表示する仕組みだ。井上氏のイメージは、米Yahoo!の提供しているパーソナライズド検索サービス「My Web」だという。ただし、あくまでもイメージであって前例のないもの。「これから作っていくことになるが、どのサービスであってもソーシャルネットワークが真ん中にあるということになると思う」。


APIを活用してYahoo! JAPANをどんどんハッキングしてほしい

「開発者とWin-Winの関係になりたい」という
 インターネットの黎明期は、元々あったメディアの考え方を踏襲して、インターネットビジネスが勃興した。マスメディア的なやり方で集客し、囲い込み、広告を販売する――。Yahoo! JAPAN自身もそんなやり方で大成功したケースだ。井上氏は「それはそれで非常に伸びており、これからも伸びていくだろう。ただし、それはインターネットの本質的なやり方じゃない」とコメント。「それだけでは、まずい」とさえ思っているという。

 インターネットの本質的な方法を探っていくと、Web 2.0的な方法論に行き当たる。API公開もその一環だ。「APIは誰でも公開できるものじゃない。公開できる資産が必要だ。Yahoo! JAPANには9年間培った資産や、ユーザーや社員が作ったコンテンツがあるからこそ、初めて公開できる」とYahoo! JAPANならではの強みを強調する。

 「今後は、多くのユーザーに使ってもらってトラフィックを流し合い、広告の売上もシェアし合う。これこそがまさにインターネット的なやり方なのではないか」と井上氏。「APIを通じて、開発者が簡単にYahoo! JAPANの機能を利用できるようになる。開発者は自分たちの利益のためにいろいろ加工し、最終的にはYahoo! JAPANも利益を得るようなWin-Winの関係になりたい。APIを活用してYahoo! JAPANをどんどんハッキングしてほしい」と語った。


関連情報

URL
  Yahoo!デベロッパーネットワーク
  http://developer.yahoo.co.jp/

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( 鷹木 創 )
2005/12/27 14:11

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