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RMTからリンデンドルへ、“仮想経済”をめぐる議論で見えてくるもの

早稲田大学・境真良准教授に聞く

 ブロードバンド推進協議会が21日、「仮想世界の法と経済」と題したシンポジウムを東京大学本郷キャンパスで開催する。「Second Life」などインターネット上の仮想世界で出現しつつある仮想経済の可能性やその秩序形成の問題、未来像について解き明かすことが狙いだ。同シンポジウムで講演する早稲田大学大学院・国際情報通信研究科客員准教授の境真良氏に、仮想経済の現状などについて話をうかがった。

 境氏は、仮想経済の出現は現時点では社会に対してそれほど大きな影響は与えていないものの、「今後起きるかもしれない問題の入口が見えてきている」という。そこでは、MMORPGのリアルマネートレード(RMT)からSecond Lifeにおける仮想通貨「Linden Dollar(リンデンドル)」へと続く1本の流れがあると指摘する。


Second Life経済を特色づける“モノ性”

早稲田大学大学院・国際情報通信研究科客員准教授の境真良氏
──周知のように、すでにインターネット上では経済的な取引がなされている。Second Lifeは本質的に違うものなのか?

境氏:Second Lifeの本質は、一連のプロトコルを備えたサーバーとブラウザに過ぎない。「Second Lifeは次世代のインターネットだ」という言い方をする人もいるが、当たっている部分もある。もともとtelnetでログインして云々といったCUIベースで使っていたインターネットがあり、次にMosaicに始まるWebブラウザが現われ、インターネット上のさまざまなサービスはブラウザ上に乗せ変えられていった。今や、まさにWebブラウザを使うこと=インターネットとも言える状態になっている。Second Lifeがサーバーとブラウザだとするならば、ひょっとしたら、今のWebブラウザを代替する第3のブラウザになる可能性があるかもしれない。そうなった時、そこに出現するSecond Life空間=インターネットになる。

──そうであれば、Second Lifeの中で経済活動が起こっているといっても、現在のWeb上で取引がなされていることと変わりはないのか?

境氏:そういう面もある。ただ、Second Lifeの中では、オブジェクトの“モノ性”が重要だ。2DのWeb上では、画面上に移った「モノ」に対して、モノ性を認めて、それを買うという行為は起きなかった。アバターの服などもあったがそれは例外。だから、これまでのインターネット上の経済というのは、純粋にインターネット上のモノを取り引きするわけではなく、リアル経済の取引のある部分を媒介するものだった。しかしSecond Lifeは我々が生きている3D空間をシミュレートすることで、モノ性が進化してフェティッシュな「モノ」を生み出し、これによって初めてインターネット上のインターネット的なるオブジェクトの売買が起きる可能性はある。


仮想経済とリアル経済のリンケージ問題、リンデンドル登場で議論が進展か

──インターネット上の純粋なモノの取引といえば、MMORPGにおけるアイテムがある。そこからRMTという行為が発生し、是非をめぐる議論にも発展した。

境氏:仮想経済の議論の入口がRMTになってしまったのは必然。仮想空間上で閉じているはずの経済行為と、リアルな経済行為が結び付くことによって起こるさまざまな問題を提示してくれた教科書だった。ただ、ゲーム上で主催者が望まない行為が行なわれることの問題性という文脈上、仮想経済とリアル経済のリンケージの問題という視点に純化した議論を真正面からすることはできなかった。それが今回、Linden LabがSecond Lifeに仮想通貨を導入したことによって、リアル経済にもたらす影響についても、議論の対象として話が発展する可能性が見えてきた。

──RMTが抱える問題に対してはどういう議論がこれまでなされ、どういう結論を得たのか?

境氏:3つの視点がある。1点目は、通貨のような役割をするものが勝手に生み出されてしまうことによる通貨システム上の影響。しかし、現状ではきわめて限定的であり、結論としては様子見。2点目は、RMTの対象にされたゲームのプロバイダーが、ゲームのクオリティを守るためにRMTを禁止したいというニーズ。これは切実な問題だが、国としてRMTの是非はサービス事業者が決めればよいとすればよい問題だ。ただ、そもそも、実効性のある防止法が見えないのだが。3点目は、RMTに絡んだ詐欺行為などの不法行為だが、これはRMTに限ったことではない。インターネット上の取引に関する一般的なルールに従って裁けばいいというだけの話だ。

──RMTでの問題をSecond Lifeに置き換えて考えてみると、MMORPGとは規模が異なることを考慮しなければならない。みずほコーポレート銀行が発表したレポートによると、リンデンドルの取引額は2008年末に1兆2,500万円規模に達するとの試算だ。1点目の問題などは、国が何らかの規制を検討をせざるを得ないのではないか?

境氏:その数字には疑問もあるが、まさにその問題が、国がSecond Lifeを見る際に最も大きな部分。現状では流通量は大きくないためにほうっておいてもいいと思うが、これが一定量を超えるのであれば、金融規制の可能性はなくはないし、さらに通貨発行主体として捉える可能性もなくはない。ただ、そこまで成長するかどうか。SFチックな話だが、その時にLinden Labに対して誰が義務を課すのか? これまで通貨の発行権を持つのは国家あるいは国家類似の政治体だと思われていたが、Linden Labは一企業に過ぎない。


リンデンドルだけがSecond Life経済ではない

──RMTにおける問題の3点目に関して、例えばSecond Life上の仮想経済で詐欺に遭った時、運営会社は補償してくれるのかといった点は、ユーザーからすれば気になるところだが。

境氏:Second Life上のあらゆるやりとりについて、最終的にLinden Labに責任を負わすこともできるし、そういう議論もありうる。あるいは国として、場合に応じてLinden Labに対してトランザクションのログの開示要求をするようになるのかもしれない。しかし私は、ある空間を全面的に規制することは取引の仕組みを維持するためのコストにも大きく響くため、あまりするべきではないと考えている。逆に、例えば「楽天市場Second Life支店」のように、信頼ある取引空間をSecond Life空間上にさらに設定するといった手法の方が望ましいのではないか。決済はリンデンドルを使わず、クレジットカードを使ってもらってもよい。Second Life内だからといって、リンデンドルを使わなければいけないわけではないだろう。Linden Scriptの命令セットを見る限り、技術的にはリアルマネーを使った取引もできるというのは重要なポイントだ。

──Second Lifeという世界において、リンデンドルによる仮想経済圏が形成されているというのは、我々の思い込みや幻想なのか?

境氏:リンデンドルは1つのかたちでしかなく、それ以外のかたちもありえる。つまり、リアルマネーとリンデンドルの混合経済であることの方が自然かもしれない。議論はいろいろあると思うが、Second Life上の経済圏の中で、リンデンドルによるピュアなSecond Life経済の割合は、それほど大きい割合には達しないと個人的には思っている。

──ありがとうございました。

 境氏は、国家とは何か、法律とは何かという“そもそも論”とインターネットの仮想経済が大きくリンクしており、その最も目に見えやすい例として、3D仮想空間の問題があるのだと指摘する。シンポジウムの講演では、米政府がSecond Life上の財産に税を課すことを検討していると報じられた一件などを取り上げながら、仮想空間の経済や法に対する国の関わりについて可能性と限界を論ずるとともに、こうしたそもそも論を議論する必要性を訴える予定だ。


関連情報

URL
  シンポジウム「仮想世界の法と経済」
  http://www.bba.or.jp/virtualworld/

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( 聞き手:永沢 茂 )
2007/07/18 21:14

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