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meet-meのイメージ
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米Linden Labの「Second Life」により、日本国内でも認知度が高まりつつある“メタバース”。現実を想起させる3D空間の中に自分の分身となるアバターを作成し、自由に散策を楽しんだり、他者とコミュニケーションを図れるサービスである。米国での熱狂が伝えられる一方、アクティブユーザー率は低いとするレポートも発表されるなど、日本において、その可能性は未知数なのが現状だ。
そんな中、トランスコスモスや産経新聞社らが設立したココアが、日本発のメタバース「meet-me」を6月に発表。12月のα版サービス開始に向けて開発を進めている。先行者であるSecond Lifeとは異なり、より日本展開を意識しているというmeet-meについて、トランスコスモスBtoC事業戦略本部・企画部部長である濱岡邦雅氏に話を伺った。
● 発想の原点は「mixi」、そして「どうぶつの森」
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トランスコスモスBtoC事業戦略本部・企画部部長の濱岡邦雅氏
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Second Lifeと同じく、メタバースとしての開発が進むmeet-me。しかし企画スタートの時点では、Second Lifeを参考にしていたわけではなかったという。「meet-meの企画は2006年夏頃から始まったが、当初からメタバースを志向してはいなかった。むしろ当時大きな話題になっていた『mixi』などのSNS、ニンテンドーDSの『おいでよ どうぶつの森』を意識していた」。
mixiは国内における最大手SNSとして圧倒的な知名度を誇る。一方、どうぶつの森はゲーム内の仮想空間である村の中で釣りや昆虫採集、散歩などを自由に楽しめるゲームだ。ニンテンドーDSとソフトを複数持ち寄って、それぞれの村に遊びに行けるといったコミュニケーション機能も充実しているが、「悪の大魔王を倒す」「ストーリーを最後まで見る」といった最終的な目標をもともと用意していないことでも知られる。
この2つの新種コンテンツの登場に濱岡氏は、ユーザーの求めるコミュニティ像が質的に変化しているのを実感したという。「この2つの人気の理由を検討していく中で、最終的にゲームであったり、コミュニティの要素を盛り込んだ3D仮想空間が求められる時代なのではという結論に至ったのが2006年末頃。ちょうどSecond Lifeが急速にユーザー数を伸ばし始めた頃と重なるため、どうしても比較されがちだが、Second Lifeをベンチマークとしているわけではない」と濱岡氏は振り返る。
● 完全自由のSecond Life、テーマパーク的なmeet-me
この比較されがちな状況の中で、meet-meはどのような方向での差別化を目指しているのだろうか。
濱岡氏はSecond Lifeについて、メタバースの世界標準となりつつある状況を認識しつつ「米国的な文化や設計思想が根底にあって、“完全な自由”を保証する世界だろう」と分析する。Second Lifeビューア(クライアント向けのSecond Life用ソフト。一般ユーザーなどが利用する)のオープンソース化なども“完全な自由”の一端。「仮想世界を作って、その中で好きに楽しんでください(というのうがSecond Life)。秩序の維持、人間の善悪も含めて自由にさせている」。
この概念に共鳴した人も多く、米国でのSecond Life人気につながっているのは間違いない。ただ、濱岡氏は、このきわめて米国的な概念をそのまま日本へ取り込もうとした場合に相応の文化的コンフリクト(衝突)が出てくるのではと懸念する。
「その点においてmeet-meは、(システムやゲームとしての枠組みが明確に規定された)mixiやどうぶつの森のような世界が、どのように進化するのか見せたいという設計思想がある。言うなれば、ディズニーランドような世界を提示したいと言えるだろう。」
ディズニーランドはお弁当が持ち込めない、園内でのアルコール販売に関する制限があるといった独自のルールを運営会社が設けている。しかしながら日本国内におけるレジャー産業の中で確固たる地位を確保している。運営側が徹底的に利用者をもてなし、最大公約数の人々が楽しめる“テーマパーク”のような世界作りがmeet-meの目標と濱岡氏は言う。
テーマパーク的な仮想世界の維持に向けて、meet-meでは運用状況を見ながら何らかの規制や制限をかける方向性という。濱岡氏は「『自由を保証していないのではないか』という声は甘んじて受けるつもり。数あるメタバースの中で、受け身でも楽しめるものを求める方にアピールしていきたい」と独自の路線を強調する。
● 東京のランドマーク再現に注力
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カーナビと同等の地図データを活用して東京を再現する。こちらはJR新宿駅南口周辺のようだ
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1日の時間変化なども表現されるmeet-me
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受け身でも楽しめるメタバースを目指し、meet-meでは「時間」と「地理」を大きなキーワードに掲げる。まず時間の面では、1日の時間のを実装。日の出や夕方、夜が再現される。また、クリスマス、正月など季節に応じたイベントを設け、ゲーム的な要素を打ち出す。例えば、12月に恒例の「忠臣蔵」を再現するといったことも考えられるという。
そしてmeet-meの大きな目玉が“東京の再現”だ。カーナビと同等の地図データを活用し、東京23区の道路網を仮想世界上に構築する。東京タワーなどの主要なランドマークも3Dモデルで再現し、「よく見たことのある場所、自分の住んでいた場所や勤めている会社の周りを見たいという、1つの動機付けになる」ことを狙う。
Second Lifeでも現実世界の再現は有志によって試みられているが、単に現実の地名を付記しているだけの場合も多く、この点においてもmeet-meはアドバンテージを発揮できるという。また、よりリアルな東京の再現は、現実世界でのイベント連動にも効果を発揮できると濱岡氏は期待。さらに現実世界の地権者にmeet-me内での同一箇所を優先的に割り当てる方針も示している。
ランドマークの再現は特に力を入れている分野だ。「meet-meにおけるキラーコンテンツ」(濱岡氏)とも言える著名建築物の権利者に対して、再現の許可を求める交渉も行なっている。許可はなくとも、看板などの商標を省略する形で建築物の外見を再現することに法律的問題はないが、濱岡氏は「地主との間で無用な摩擦を生み出すつもりはない。面白いことの実現に向けて協力していくのみ」と信頼関係の重視を強調した。
● 土地やアイテムの購入でリアル通貨を利用、換金は現状で未対応
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駅に入ると表示される路線図
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meet-meは会員登録無料、仮想世界の中で利用するアイテムやアトラクション、ポイントの購入などに課金する形式で運営される予定だ。ユーザーは好きな場所に土地や家を買ったり借りるなどして、生活を楽しむのが当初のプレイスタイルになるという。ただし、ユーザーが土地の転売で儲けるといった利益志向のサービスではなく、あくまでもユーザーが対価を支払って遊ぶエンターテインメント志向のサービスであることも付け加えている。
気になるのが仮想世界上の通貨だ。Second Lifeでは「Linden Dollar(リンデンドル)」と呼ばれる仮想通貨が規定されており、これをリアル通貨に換金できるのがサービスの大きな特徴となっている。しかしmeet-meでは、現状では換金に対応しないという。
その理由について濱岡氏は「Linden Dollarのような換金化手法は、日本国内の法制度を鑑みるとコンセンサスを得るのがきわめて難しい。できる限りのことはやりたいと思うが、あくまでも法律を踏まえて対処する」としている。
なお、meet-meの中で楽しめるアトラクションとしては、リリースの時期や具体的な提携先は発表できる段階にないとし、明言は避けた。ただし、ショッピングモールもアトラクションの1つになりえるとし、meet-me内でのショッピングサービスも検討中だ。また、美術館や映画館を開設し、そこで映像配信を行なうこと考えられるほか、釣りや都内の道路を使ったレーシングゲームも楽しめるようになるかもしれないという。
● 開発はゲーム会社が担当、数百人が滞在可能なエリア構築を実現
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デモ中の様子。ゲームパッドでの操作も可能という
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meet-meの開発には、家庭用ゲーム機ソフトの分野で知られるフロム・ソフトウェアが参画している。ランドマークのモデリング作業はもちろんのこと、システム開発のあらゆる分野でゲーム会社としてのノウハウが発揮されているという。特にユーザーインターフェイスの設計などは、ゲームを意識した使いやすいものにまとめれれていると自信を見せる。
また、海外製メタバースでは、自分の分身となるアバターのデザインが日本人の好みと異なることがたびたび指摘されるが、その点にも配慮。日本人にとって親しみやすいよう工夫した。
操作面ではキーボードやマウスと並んでゲームパッド、ボイスチャットに対応。より簡単な操作の実現に向けてアイディアを盛り込んでいく。OSやグラフィックボードへの最適化作業など技術面でも積極的なサポートを図る。
また、街の賑わいを表現するには、1つのエリアに多くの人々が集まれることが欠かせない。Second Lifeでは1つのエリアに同時滞在できる人数が極端に少ない場合があり、1つの弱点として認識されている。meet-meではライブハウスなども再現可能なように「数百人が滞在可能なエリア設計」を当初から念頭に置いているという。
一方、meet-meを家庭用ゲーム機でプレイできる可能性はあるのだろうか。濱岡氏は「PCと同等のアーキテクチャを備えるXbox 360などには移植も容易だろう。ただし各ゲーム機がそれぞれ構築しているオンラインサービス用の独自ネットワークを、既存のmeet-me向けに解放するかどうかは各社のポリシー次第」とし、各社との交渉が必要になる見通しを示した。
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アバターの設定など、インターフェイスはゲームライクなデザインを意識した
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アバターじたいのデザインも、国産ゲームのキャラクターに近いものに
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● iモードのような「段階的オープン化」をメタバースでも
meet-meのα版サービス開始は12月の予定。2008年4月には正式サービスの開始を予定しており、サービスイン後1年でユーザー100万人の獲得を目指す。濱岡氏も「日本のインターネットユーザーにあまねく参加していただきたい」と、幅広いユーザー層の参加に期待する。
しかしながら日本では、まだまだなじみの薄いメタバース。この状況を打開する方策について、濱岡氏は個人的な考えとしながらも、meet-meをiモードの世界になぞらえ「段階的オープン化」の必要性を指摘した。
「当初のiモードはできることに制限があり、技術仕様も完全には公開されていなかった。しかしユーザー、企業とも携帯電話でネットを活用するという習慣がない時代に完全にオープンなものが公開されても、誰も何もできないで終わってしまったのではないか。」
未成熟な分野では運営側によるリードがある程度必要、というのが濱岡氏の考えだ。現にmeet-meでもサービス開始当初は、一般ユーザー向けの3Dオブジェクト作成機能などは提供しないという。一方、企業に対してはCG制作会社などのパートナーに仕様を公開し、段階的なオープン化を模索していく方向だ。ただしこの状況も10年かからないうちに打開されるのではないかとの期待を濱岡氏は寄せている。
オンラインゲームともSecond Lifeとも違う道を進むmeet-me。どのような発展を遂げるか見守りたい。
関連情報
■URL
ココア
http://www.co-core.com/
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( 森田秀一 )
2007/10/31 10:56
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