音楽や映像などの権利者団体で構成される「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」(以下、権利者会議)が11月9日、コピーワンスと補償金制度に関する問題について、家電メーカーの業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)に公開質問状を送った。
権利者側は、地上デジタル放送のコピー制御方式を従来の「コピーワンス」から「ダビング10」に緩和するにあたっては、「私的録画補償金制度」が前提であると主張。これを否定するJEITAに対して真意を問いただす考えだったが、JEITAでは回答期限とされていた12月7日までに回答しなかった。その理由について、JEITAの著作権専門委員会で委員長を務める亀井正博氏に伺った。
● 「コピーワンス緩和合意の破棄」はありえない
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JEITAの著作権専門委員会で委員長を務める亀井正博氏
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――権利者会議の公開質問状の回答期限は本日(12月7日)ですが、JEITAとして何らかの対応をとったのでしょうか。
亀井氏:これはJEITAとしてではなく個人の意見ですが、公開質問状は、審議会で議論していることを“場外”で答えろと言っているようなものです。きちんと議場に持ち込んでいただければ回答します。質問状には目を通しましたが、それに回答する気がないというところが正直なところです。
権利者会議は「コピーワンス緩和合意を破棄するのか」と主張していますが、JEITAの立場としては、地上デジタル放送を推進することが第一です。今さら白紙に戻せば、2011年までの地デジ推進は危うくなります。コピーワンス緩和合意を破棄することは考えられません。JEITAとしては現在、消費者にダビング10を周知し、理解を深めてもらう努力をしているところです。
――権利者側はダビング10の前提条件として私的録画補償金制度を挙げ、これを否定することは「コピーワンス緩和の議論を振り出しに戻すのか」と批判しています。
亀井氏:ダビング10合意の前提は、「クリエイターに対する適正な対価の還元」だったはずです。権利者側は、対価を還元するには補償金制度しかないとしていますが、「対価の還元=契約」という考え方もあると思います。例えば、音楽配信サービスでは、利用者の複製を前提として料金が決められ、クリエイターにも対価が還元されています。このように、ダビング10においても契約モデルを適用すればいい。
具体的には、広告収入を得ている放送事業者が、収益の一部をクリエイターに還元するといったモデルが考えられます。私的録画補償金のような丼勘定で還元するよりも、特定の番組に対して、複製の対価を支払う契約モデルを作った方が著作者も幸せなのではないでしょうか。
権利者側は、我々が「補償金は不要」と言うと、クリエイターをリスペクトしていないと批判しますが、JEITAはコンテンツ産業がどうしたら大きくなるかという視点で考えて、その中でクリエイターにも還元がされていくべきと考えています。補償金に依存するヨーロッパ型ではなく、ビジネスで利益を最大に上げてイノベーションの期待できるアメリカ型がよいと思っているわけです。
● 「コピーワンス緩和の前提は補償金制度」は総務省で議論することではない
――2007年8月に総務省の情報通信審議会が第4次中間答申を発表し、コピーワンス緩和の方針が示されました。中間答申策定時点で「対価の還元」に関するJEITAの考えを主張してもよかったのではないですか。
亀井氏:コピーワンス緩和が議論された情報通信審議会の「デジタル・コンテンツの流通等に関する検討委員会」では、東芝、ソニー、日立、松下のメーカー4社は構成メンバーとなっていますが、JEITAは含まれていません。2006年10月6日に開催された検討委員会では、JEITAから河野(智子氏)がオブザーバーとして出席しましたが、それは文化庁の川瀬真さんが来られて、コピーワンス緩和の前提として補償金制度の検討状況を説明するということだったからです。
その際には、実演家著作隣接権センターの椎名和夫さんが河野に対して、「補償金制度がない状況下においてEPN運用(※)をした場合に、権利者にいろいろな被害が及ぶことはないのか」と質問をされました。これに対して河野は、従来のJEITAの主張通り「技術的保護手段がかかっていれば、補償金は不要」と答えています。
そもそも、補償金制度が必要かどうかについては、あくまで文化審議会の私的録音録画小委員会で決めることです。それを総務省の検討委員会で扱うというのは、私的録音録画小委員会でダビング回数を議論するようなもの。とても奇妙に見えます。総務省の検討委員会では、椎名さんが補償金の話題を出しましたが、主査を務める慶應義塾大学教授の村井純さんが、軌道修正されています。
※EPN(Encryption Plus Non-assertion)は、デジタルデータの著作権保護のための方式の1つ。ネットワークを通じたコンテンツの再配布を防ぐ一方、対応機器であればDVDなどへのダビングは自由で、コピー回数やコピー世代制限も無制限となっている。
● 「経済的不利益」について権利者側とJEITAで認識の差
――JEITAは、私的録音録画小委員会を通じて「技術的にコピー制限されているデジタルコンテンツの複製は、著作権者等に重大な経済的損失を与えるとは言えず、補償の必要はない」として、私的録音録画制度が不要であると主張しています。一方、権利者会議の言い分としては、「どのような複製が行なわれるか権利者が予見可能である」ということと、「権利者の経済的不利益が発生しない」ということが結び付かず、単にそこで生じる経済的不利益が予見できるだけと指摘しています。
亀井氏:この部分は、権利者側とJETIAで認識に開きがあります。権利者側は、一度の複製で即、経済的不利益が生じるという立場をとられている。一方、JEITAが考える経済的不利益というのは、複製されたことによってモノが売れなかったり、市場が縮小するということ。これが証明されなければ、補償の余地はないというスタンスです。
さらに言えば、タイムシフト視聴によって、DVD市場が荒らされることになるのでしょうか? また、iPodに音楽がコピーされなければ、その分CDが売れるのでしょうか? JEITAと権利者の間では、経済的不利益のとらえ方が異なっていて、議論は平行線をたどっているのが現状です。
● 正式な審議の場での議論には回答する
――これまでおっしゃったことを権利者会議側に伝えてもよいのではないでしょうか。
亀井氏:繰り返しになりますが、ダビング10をどうするかというのは総務省の検討委員会での話。補償金問題については、私的録音録画小委員会での話。ダビング10と補償金の関係性については、私的録音録画小委員会の場でそのような議論をしていただければ、我々には答える義務があります。
このように、正式な審議の場があるのに、場外(公開質問状)でやりあうというのはどうでしょうか。プロレスで、リングから降りてハンマーを振り上げている人に「来い」と言われ、こちらもリングサイドに降りていけば観客は喜ぶかもしれませんが、降りたところで何をするんだというのがある。これはあくまで私個人の意見ですが、JEITA全体でも同じ感覚を持っていると思います。
補償金に関する議論に関する議論では、JEITAの法務部門が暴走しているとも言われていますが、トップから担当者まで意思疎通はできています。もし暴走すればクビになってしまいます(笑)。また、私的録音録画小委員会では、消費者を代表する主婦連合会の河村真紀子さんが、iPodに対して100円から300円程度の補償金をかけるべきという意見に対して、とても強い論調で反対されていました。こうした中で、正式な議論の場とは異なる場所で言い合うことは、消費者を置き去りにするようなものです。そんなことができるはずがありません。
関連情報
■URL
JEITA
http://www.jeita.or.jp/
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( 増田 覚 )
2007/12/07 23:32
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