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CGMの次は“CGRM”~「ストーリーツリー」でシグナルトークが目指すもの


 2007年12月に日本テレビで放映したドラマ「オキナワ■男■逃げた」の続きを、視聴者らがインターネット上で作り上げていく試みが行なわれた。これは、オンライン麻雀ゲームの開発などを手がけるシグナルトークの「ストーリーツリー」というシステムを採用したもの。視聴者が短いストーリーを投稿し、それに対してさらに投稿を受け付けていくことで物語を作り出していく仕組みだ。個々のストーリーに対して複数の投稿を受け付けるため、物語がまるで木のように枝分かれして広がっていく。

 ストーリーツリー開発の意図やCGMの今後について、シグナルトーク代表取締役CEOの栢孝文氏に聞いた。栢氏は、3月14日に行なわれるカンファレンス「OGC 2008」において、「CGMのその先へ~テレビドラマ連動型・ストーリーツリーの試み~」と題して講演も行なう。


CGMに、評価するための仕組みを追加

「ストーリーツリー×オキナワ■男■逃げた」のサイト
 栢氏は、現在のWeb 2.0の問題点として、CGM(Consumer Generated Media)やUGC(User Generated Content)がひとり歩きした結果、「YouTubeやmixi、ブログの海の中にあって、正しい情報や役立つ情報、面白い情報、楽しい情報がどこにあるのか見つけるのが難しくなっている」と指摘。その点で、「残念ながら、テレビドラマなどの方が面白かったりすることはよくある。やはり、プロが作ったということで“洗練”されるからだ」と言う。もちろん、インターネット上に面白いものがないということではなく、どこかに存在しているはずだ。そこで栢氏は、今後Web 3.0というものが出てくるとして、それをあえて定義するとすれば“CGRM(Consumer Generated and Refined Media)”になると語る。

 「Refined=洗練された」とは、単にコンテンツを作り出すだけでなく、重み付けや価値の順位付けもなされるということ。コンテンツを作り出すユーザーのほかに、これを閲覧したり評価するユーザーの存在も重要になるため、その評価を反映するシステムが必要になる。CGRMとは、これら3者の活動によって生み出されるものと言うことができ、このプロセスをシステム化したものとしてはWikipediaや価格.comのクチコミ情報、Amazonのカスタマーレビューの評価などがすでにあるという。

 ストーリーツリーでは、最大30文字×20行のストーリーをいくつもつなげていくことで物語を構築する。自分が書いたストーリーに対して、考えていたものとは異なる思いも寄らない続編が書かれたり、逆に別の人が書いたストーリーに対して別の展開を思い付いたら、それを投稿することが可能だ。

 こうして投稿されたストーリーは、1話が1枚の「葉」としてWebページ上に表示され、葉をクリックすることでそのストーリーを読むことができる。さらに「面白い」「ふつう「つまらない」の3段階で評価可能だ。

 評価が高いストーリーは、葉に「花」が表示されて目立つようになるため、読者は、花が付いているストーリーだけを追って呼んでいけば“洗練された”ストーリーを読み進んでいくことができる。


ユーザー投稿型マルチストーリーは10年来のアイディア

ストーリーの投稿画面
 ストーリーツリーを開発するに至った背景には、10年以上も前、栢氏が大学生時代に利用していたというニュースグループの存在がまずあるという。栢氏は当時、対戦ゲームの「バーチャファイター」にハマっていたが、技などに関する情報は主に雑誌でしか流通しておらず、ユーザー同士の投稿による情報交換が行なえるニュースグループが役立ったという。

 また、栢氏は脚本家を目指していた時期もあったが、「1人で原稿用紙100枚も1,000枚も書くのはたいへんだった」。さらに、マルチストーリーで分岐していくテキストベースのゲームブックの影響もあり、「みんなでストーリーを書いて投稿していく、ユーザー投稿型のマルチストーリーゲームを作ることを学生の時に思い付いた」。

 その後、栢氏はゲームメーカーに就職し、家庭用ゲーム機用ソフトの企画などを手がける。一方でこのアイディアも練っていたが、インターネットと連携するゲームをリリースするにはインフラ面でまだ時期尚早だった。また、ユーザー投稿型というと、「いったい誰が投稿してくるのか?」「素人が書いたものは面白くないだろう」と反論されるのが常だったという。

 それが今ではブログやmixiが普及し、ユーザーがコンテンツを書くということが普通になった。また、賛否両論あるが、“ケータイ小説”が若者には面白いと言われる時代になった。人々が指摘した疑問点は解消され、「素人でも可能性はある」と確信するに至った。

 そんな中、栢氏は、「オキナワ■男■逃げた」の仕掛け人でもある日本テレビのプロデューサー“T部長”こと土屋敏男氏に別の仕事で知り合い、2006年秋頃にこのアイディアを話していた。それが2007年10月になって突然返事があり、12月に放映するテレビドラマで取り入れたいということで、急遽、ストーリーツリーの開発がなされた。


CGRMで出版社の仕事も変わる?

シグナルトーク代表取締役CEOの栢孝文氏。ゲームメーカー時代には、セガ「ドリームキャスト」用のオンラインゲームの開発を手がけたこともある。「ドリームキャストってインターネット接続機能があったんですよ。ちょっと早すぎたのかな……」
 アイディアを長年温めてきたとはいえ、開発期間はわずか2カ月だったため、じつは「オキナワ■男■逃げた」で提供しているシステムは必要最小限の機能だった。また、今回は安全策として、投稿はすべてチェックした上で公開する流れにしたため、「投稿者にとって敷居は高かったのではないか」という。それでも、栢氏によれば「深夜枠のドラマにもかかわらず、書き込みは多かった」。また、インターネットだけのCGMではできなかったこととして、「テレビドラマを見て、ユーザー全員が世界観を共有していた」ことも、参加する一体感を生み出すのを後押ししたと分析する。

 現時点で、ストーリーツリーの最終話にあたる20話目までの「枝」がいくつか出来上がっており、そのうちの1本が、花の付いた“選ばれた”ストーリーとなっている。「評価によって選ばれることで、エンターテイメントとして面白いものが残る」。

 ストーリーツリーで生まれたストーリーがテレビドラマとして実際に制作されるかは未定だが、栢氏は、こうした仕組みにより、プロのクリエイターは物語や登場人物の設定だけを行ない、あとはユーザーがストーリーを作っていくというように、出版社などの仕事も変わる可能性があると指摘する。仮にそうなれば、プロの仕事が減っていく面もあるが、「クリエイターが面白いと思っている、あれこれ企画する段階の楽しみを、ユーザーにも味わってもらえる」とも述べた。

 シグナルトークでは、ストーリーツリーを使ってメーカーやスポンサー企業が自社製品をモチーフにした物語を作ることを通じて、イメージアップなどにつなげていく活用方法があると見ている。まずは同社が運営するオンライン麻雀ゲーム「Maru-Jan」をモチーフに物語を作るプロジェクトを実施する。さらにフィクション以外にも、ストーリーツリーを活用できる分野として、ビジネスのノウハウや闘病体験、恋愛相談など「正解があるようでないようなもの」を扱うのに有効ではないかとした。


関連情報

URL
  ストーリーツリー
  http://www.story-tree.net/
  OGC 2008
  http://www.bba.or.jp/ogc/2008/

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( 永沢 茂 )
2008/03/12 13:51

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