ニワンゴは、ニコニコ動画の最新版「ニコニコ動画(ββ)」を12月12日に公開した。「ββ」では、「ニコニコ生放送」の強化・拡充が目玉の1つ。同時視聴2万人に対応する「大ニコ城ホール」を12月4日に開設したほか、ユーザーも生放送を行える機能を12月12日に追加した。
ニコニコ生放送の番組制作や今後の展開、ユーザー生放送開始直後の動向などについて、ドワンゴの設楽泰智氏、奥井晶久氏、作宮千歳氏(ともにニコニコ事業本部第一事業推進部第一セクション)、および生放送の企画・制作を行うCELLの横澤大輔代表取締役会長に話を伺った。
● テレビ生放送さながらの規模
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ニコニコ生放送の副調整室
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前方の机に映像関連、後方の机に音声関連の機材が並ぶ
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インタビューの前に「第8回 国際ニコニコ映画祭」の生放送現場を見学した。スタジオ(会議室)にカメラ5台、運営者コメントの入力などを行うPCが5台設置してあったほか、副調整室にモニターやミキサー類、映像出しをする機器などが所狭しと並んでいた。
──生放送スタッフは20人近くいたように思います。
横澤氏:ニコニコ動画で企画からやっている生放送だと人数は多いです。生放送を見る限りでは簡単そうに見えますが、裏では結構複雑な作業をしています。テレビと同じような規模感ですね。ただ、いつも大人数なわけではありません。
──運営者側のPCでは何をしていたのですか。
横澤氏:運営者コメントとコメント監視、生放送のオペレーティングなどをしていました。
──応募作品を生放送で流すために、フォーマットを変えているのですか。
横澤氏:応募いただいた動画はFLV形式なので、それを何度か変換してスタジオのモニターに出しています。再変換を重ねるためノイズが入ることもあり、今後、対策を検討しようと思います。
──今回から生放送画面でユーザー投票も実施されましたね。
設楽氏:ユーザー投票は運営チームが行う生放送だけの独自機能で、投票を瞬間的に集計し、結果を発表できるのが特徴です。選択肢もテキスト入力のみで設定できます。
──今後も使われるのですか。
設楽氏:そうですね。今後の生放送を変える大きなツールになります。視聴者が増えていく中で、コメント以外に視聴者の意見を集約する方法がなかったので、ユーザー投票の機能を付けました。
──次回の映画祭ではニコニコモンズを使った作品を募集するようですが、ニコニコモンズの利用状況を教えてください。
奥井氏:作品登録数は約8200件ですが、ダウンロード数は13万件を超えました。
──市販の素材集にあるような作品も登録されていますね。
奥井氏:素材に特化して作品を作りたいユーザーもいますし、ストックフォトに出しているようなユーザーも参加してくれていると思います。
● リアルなライブ会場の雰囲気を再現するための技術
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CELLの横澤大輔代表取締役会長
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ドワンゴ ニコニコ事業本部第一事業推進部第一セクションの設楽泰智氏
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──ニコニコ生放送のコンセプトについて教えてください。
横澤氏:ニコニコ動画では、ユーザーが投稿した動画へコメントすることによってコミュニティが形成されました。生放送では、即時性や双方向性を生かし、今いるユーザーと絡めるコミュニケーションの場所を作ることがコンセプトになっています。加えて、今は「一般化」が大きなテーマになっています。そのために、アーティストを呼んだり、実験番組を作ったりしています。
──運営チームが生放送を行う頻度はどれくらいですか。
横澤氏:アニメの先行配信なども含めると、月に14回は生放送を行っています。
──他の動画配信サイトでも生放送とチャット機能を持つサービスがあります。ニコニコ生放送の違いは。
奥井氏:やはり、生放送画面へのコメントですね。画面上にコメントが流れることで、対話している感じが出ると思います。ただ見るだけではなく、生放送に参加している感覚が違います。
横澤氏:さらに言えば、実際のライブ会場やコンサートホールを模しているところです。ニコニコ生放送の視聴者には○階席○列○番のように座席番号が表示されています。例えば、出演者がアリーナ席に呼びかければ、その場所のユーザーコメントを盛り上げることもできます。
──バックエンドのシステムでそのようになっているのですか。
横澤氏:同時視聴数1万人の場合、ユーザーを500人ごとの20組に分け、それぞれを別のサーバースペース(区画)に収容しています。ユーザーの画面では同じ区画のコメントだけが流れ、別の区画のコメントは表示されません。1万人全員が同じ画面を見ているわけではないのです。ただし、出演者(運営者)は、全体のコメントを確認できます。
──ニコニコ生放送が拡充されると会場名が変わるのは、単に収容人数だけではないのですね。
横澤氏:出演者やユーザーが規模感をイメージしやすいからというのもありますが、我々は、実際にあるライブ会場やコンサートホールのオマージュを作っていると考えています。
──運営者コメントについて教えてください。
設楽氏:視聴者は区画ごとに分けられており、全体の状況がわかりません。バラバラになっている区画をつなぐのが、動画再生画面の上に表示される運営者コメントです。運営者コメントは全視聴者に同じ情報を配信できるので、どこの区画のコメントが盛り上がっているのかを全視聴者に知らせることで、一体感が生まれます。
──運営者コメントを導入した意図は。
横澤氏:出演者とは別にユーザーと話せる場所を作るために運営者コメントを導入しました。芝居や演芸といった既存のエンターテインメントに双方向性を入れるには、いろいろな部分を変えていく必要がありますが、運営者コメントは今あるものを変えることなく、運営者とユーザーの間に双方向性や一体感が生まれるという意味で画期的なシステムだと思います。
──そのほか、ニコニコ生放送ならではの特徴はありますか。
横澤氏:従来の放送メディアでは、パーソナリティは他の出演者を引き立てて面白い番組を作ることに集中すればよかったのですが、ニコニコ生放送はそれだけでなく、出演者と視聴者をどうつなげていくのかを考えなければいけません。ニコニコ生放送では、そのような意味からパーソナリティを「コネクター」と呼んでいます。
──今後も同時視聴数は増やす方向ですか。
横澤氏:インフラの予算が付き次第、増強したいと思います。最終的なイメージは10~20万人が参加できる生放送を目指します。
──今後の生放送で何か企画中の番組はありますか。
横澤氏:生放送の即時性と双方向性を生かした番組は無限に考えられます。数万人の集客が可能で、インタラクティブなシステムが使えるメディアは他にないと思っています。まずは、ニコニコ生放送を知ってもらい、活用してもらえるようなパートナーを作っていきたいです。
● ユーザーにもちゃんと番組を作ってほしい
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ドワンゴ ニコニコ事業本部第一事業推進部第一セクションの作宮千歳氏
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ドワンゴ ニコニコ事業本部第一事業推進部第一セクションの奥井晶久氏
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──ユーザー生放送を開始した経緯について教えてください。
作宮氏:ユーザーから「生放送をやってみたい」という要望があったのも1つのきっかけですね。また、ニコニコ動画で生放送のインフラは持っていますが、番組を制作できる本数は人員的に限られています。放送をしていない時間帯でも、生放送のシステムを有効活用しようと思って、ユーザー生放送を追加しました。
──サービス開始直後のユーザー生放送の動向を教えてください。
作宮氏:現在は、DJをしているユーザーが多いです。ニコニコ動画にある他の動画を生放送画面上に小窓で表示できるので、ユーザーからリクエストをもらって、その動画を流しつつ、皆で見てコメントするといった利用をされています。あとは、ゲーム実況も多いです。
──BGMでCDの楽曲をそのまま流すユーザーもいるのでは。
作宮氏:それは目視で監視しています。JASRAC管理楽曲であれば、ユーザー自らの演奏や、アカペラによる歌唱ができます。その場合、生放送を開始する前に使用楽曲を報告してもらいます。JASRAC以外の著作権管理会社とは相談している段階です。
──ユーザー生放送を30分間に制限した理由を教えてください。
作宮氏:時間制限については何分にするのか運営側で議論しました。気軽に利用できる分数ということで、まずは30分から始めることにしました。他社のライブ配信サイトを見ると、無人の部屋を延々と流しているようなユーザーも多く、そういった番組を減らして全体のクオリティを上げたいという理由もあります。
奥井氏:ユーザーにも「ちゃんとした番組を作る」という意識を持ってほしかったのです。30分であれば、ある程度構成も決めやすいと思います。ちなみに、ニコニコ生放送でやった最初のテスト放送も30分でした。あと、ニコニコ生放送全体で同時に配信できる番組数は50番組までという制限もありますが、それはサーバーの問題です。
──ニコニコチャンネルでも生放送をしているところはありますか。
作宮氏:増えてきていますね。吉本興業さん、スターゲイトさん、スリートゥリーさんが行っていたり、小沢一郎チャンネルでは民主党の定例会見が生放送されるようになりました。
──ニコニコチャンネルの生放送もユーザー生放送と同じ時間制限ですか。
作宮氏:ニコニコチャンネルもユーザーも、ベースは同じニコニコミュニティのシステムを使っているので、生放送の仕様も同じです。
──ニコニコチャンネルのビジネス面について教えてください。
作宮氏:現在は有料番組を配信することでコンテンツホルダーが収益を得ることもできます。今後は、例えば、広告売上の何パーセントかをコンテンツホルダーに分配するといったようなスキームも考えられます。
──最後に、生放送と関連の深い新機能「ニコニコ広場」について教えてください。
設楽氏:動画視聴ページの再生画面上に別のレイヤーを設けて、そこにニコニコ広場のコメントが表示されます。生放送の視聴数が増えるにあたり、コメントをどう整理するのかを考えていました。そこで、大チャットを作る話が出たのですが、今回は動画と切り分けたかたちで、大規模なチャットルームを開始しました。
横澤氏:例えば地震速報や政界再編など、世の中で何か起こったときに、ネットユーザーが集まって話せる場所を提供するのがコンセプトです。システム的には、数十万人のコメントが流れるのではなく、生放送のバックエンドでユーザーを分散させているのと同じで、いくつもの小さな区画が集まって、1つの広場になっています。
──チャットだけのコミュニケーションは当初から考えていたのですか。
横澤氏:生放送で同期的なコミュニティを作ったあとに、動画を使わないチャットオンリーの広場を提供することは昔から運営チームで話していました。もともと、ニコニコ動画はネット上で皆が集まる場所になることが大きなコンセプトなので、広場もその1つです。ニコニコ動画が人を集めるインフラになり、ユーザーの動向を見てさらにサービスを強化していく……。今後もできることは無限にあると思います。
──ありがとうございました。
関連情報
■URL
ニコニコ動画(ββ)
http://www.nicovideo.jp/
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( 野津 誠 )
2008/12/25 12:34
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