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自分で気付かせることが大事、中学校教員に聞くケータイ問題
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文科省に聞く、小中学校での携帯電話「原則禁止」通知の理由
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小学6年生が「前略プロフィール」の授業、安全な使い方学ぶ
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子どもの携帯電話、禁止するよりも適切な対応を
「ネット安全安心全国推進フォーラム」<後編>
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現役高校生・大学生がケータイについて語る
「ネット安全安心全国推進フォーラム」<前編>
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学校・教員用のネットいじめに関する対応マニュアルが必要な理由
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【 2008/12/26 】
NTTドコモが保護者に訴える、フィルタリングの必要性
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【 2008/12/25 】
NTTドコモが中学生に教える、携帯電話のトラブルと対処法
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【 2008/12/11 】
トラブル事例から学ぶ、小学生のネット利用で大切なこと
[11:11]
【 2008/10/30 】
MIAUが中学生に教える、携帯メールとの付き合い方
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【 2008/10/24 】
ケータイ小説は新時代の“源氏物語”
~「魔法のiらんど」に聞く<後編>
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【 2008/10/23 】
子どもはわからないから問題を起こしているだけ
~「魔法のiらんど」に聞く<前編>
[16:19]
10代のネット利用を追う

第4回 10代はメールの止めどきが悩み~NTTドコモモバイル社会研究所


 10代はケータイ世代? パソコン世代から見たケータイ世代との感覚的なギャップがよく話題に上る。両者の感覚は埋められないのだろうか。10代の少年・少女たちは、携帯電話をどのように利用しているのだろうか。今回は、NTTドコモモバイル社会研究所副所長の荒木浩一氏と主任研究員の遊橋裕泰氏に、10代の携帯電話利用と感覚について話を聞いた。


社会の中での携帯電話の役割と影響を研究する組織

NTTドコモモバイル社会研究所のWebサイト。子どもの携帯電話の利用状況の調査・研究レポートや教材なども公開している
 NTTドコモモバイル社会研究所は2004年4月に出来た。携帯電話が急速に普及するに連れて社会的な問題が出てきたことを懸念して、NTTドコモとして携帯電話に関する調査・研究を行なう組織を作ったのが同研究所だ。迷惑通信や青少年に対する影響、災害時にどれくらい使えるか、ネット社会の根本的な問題など、研究テーマは多岐に渡る。「携帯電話が与える影響や役割、どのような役に立つかなどについて幅広く研究しています」(荒木氏)。

 子どもの携帯電話利用については設立当初から力を入れて取り組んでいる問題の1つだ。全国の子どもたちの携帯電話保有率や利用しているサービスなどについてデータを集めている。ここでの研究成果がNTTドコモのサービスにフィードバックされたこともある。

 例えば、同研究所が子どもに携帯電話の利用時間についてアンケートをとったところ、深夜という回答が多かったが、同時に親は子どもが深夜に利用していることを知らないことがわかった。NTTドコモは、親が知らないのに子どもが深夜に利用しているのは問題があると判断し、従来のコンテンツ制限に加えて深夜帯には使えなくする時間制限フィルタリングサービスを開始した。


出会い系より「いつメールを止めればいいか」が悩み

NTTドコモモバイル社会研究所が作成・配布している子ども向けの教材「みんなのケータイ2」。PDF版が同研究所のサイトからダウンロード可能
 同研究所は、実際にあったトラブルをもとに「みんなのケータイ」という教材を作り各学校に配布している。トラブルに関する情報は、情報教育に携わっている現役教員グループから得たリアルなものだ。学校で実際にあったことや要望を寄せてもらい、それをもとに作り上げていった。

 実際に声を集めると、驚くような結果が集まった。「私たちが思っていたような、出会い系や不当請求などのトラブルを教えることも必要なのですが、『夜中に友達とメールを送り合っている時に返事を終えるタイミングがわからないが、どうしたらいいか』という悩みの方が子どもたちにとって切実で身近な問題なのです」(遊橋氏)。

 子どもたちの間には、“30分ルール”という暗黙のルールがあるという。返信に30分かかると、85%の子どもが遅いと感じ、65%は15分でも遅いと感じるというものだ。「相手が返してこないのはあまり気にしておらず、自分が返さないことは気にしている傾向にあります。『30分以内に返事を出さないと相手を嫌っていること』だから、嫌っていない証拠のために一生懸命返しているのです」。時間の感覚やメールに対する感覚に、大人と大きな違いが見られるというのだ。

 もう1つ多いトラブルが、着メロ・着うたサービスなどの課金問題だ。「子どもたちは1曲だけ買ったつもりなのに、じつは年間契約の月額課金サービスで、かなり経ってから毎月お金が引き落とされていたことに気付いて慌てるというものです。子どもはモノにはお金を払った経験がありますが、サービスに払った経験はありません。法律上はトラブルではないのですが、契約条件や解約方法がわからず、困ってしまうのです」(遊橋氏)。これは消費者教育の分野に入るだろうが、携帯電話があれば子どもでも有料サービスに登録できてしまうという問題があるだろう。

 これらを教材で取り上げた結果、これまで相談に来なかった子どもたちが先生のもとに相談に訪れるようになったそうだ。「高校の7~8割は学校への携帯電話持ち込みが許可されていますが、まだ多くの中学校では禁止されています。中学生は学校では禁止だから、ケータイのことは話題にしてもダメと思っているのです。昔は先生が知る頃は既にかなりトラブルが進行してからでしたが、教材をきっかけに、そうなる前に先生に相談するようになったと聞いています。『禁止イコール話題にしてはダメ、授業で取り上げてもダメ』という考えが、子どもたちのコミュニケーションの妨げとなり、学校裏サイトなどの土壌につながっていく面もあるのではないでしょうか。子どもたちにとっての一番の情報通信機器はケータイなので、それを手掛かりに情報社会の歩き方を教えていくべきだと思います」(遊橋氏)。実際、フィンランドではメールが例として載っている教科書もあり、実態に柔軟に合わせている国もあるそうだ。

 携帯電話で一番怖いと考えられている出会い系や不当請求などについては、「ケータイに慣れている子どもは既に危険なところがわかっていてあまり引っかかりません。一番被害が多いのは使い始めて半年くらいの子どもです。だから持ち始めに注意して大人からサポートしていく必要があります」(遊橋氏)。


“ネットワークの外部性”の起こる境界線は中学生以上

 携帯電話保有率は「モバイル社会白書2007」によると、小学生は概ね4人に1人、中学生は半分、高校生は94%という割合だ。都市部の方がやや割合が高く、東京や大阪では中学生は6、7割が持っているという。

 携帯電話などの情報通信機器は普及の割合が重要だ。相手が持っていることが意味を持つため、小学生くらいの普及率では親とのやりとりに終始し、友達同士でのやりとりはあまりない。中高生くらいの普及率になって初めて、友達同士でやりとりするメディアになるのだ。ネットワーク的に使う商品はある普及率を超えると利便性が高まり、そこから普及が加速するという、いわゆる“ネットワークの外部性”だ。3~4割を超えたところで利便性や普及のスピードが高まるため、小学校ではネットワーク効果はないが、中学校以降でネットワーク効果が出てくると言える。

 また、一般的に、始終利用することでそのメディアに対する重みが増すものだが、子どもたちの場合もいつも使っている携帯電話は重要という感覚が出てくるようだという。重要な話は電話かメールのどちらを使うかというアンケートでは、小学生は電話を選ぶが、高校生はメールという回答が多くなる。ちなみに電話をどのくらいかけるかというボリュームゾーンは1日5分以内程度で小学校から高校まで変わらないが、これはパケット定額制などの料金プランが通話には適用されないことが一番の理由となっているらしい。


携帯電話マナーの良い子どもたち

 子どもたちは携帯電話のマナーがすごく良いという。子どもは年上の人がいるところでは携帯電話を使ったら失礼だと感じており、携帯電話に対して年長者がマイナスイメージを持っていると思っているそうだ。実際、電車の中でマナーモードにするかをアンケートしたところ、マナーモードにする率が最も高かったのが10代という結果だったそうだ(2005年モバイル社会研究所調べ)。全体的に子どもたちは「空気を読む」ということをやっており、マナーについても気を付けていると言えるかもしれない

 また、携帯電話でのやりとりは短くて速いコミュニケーションとなるため、受け取り側で解釈される要素が大きい。解釈する際に悲観的に解釈して喧嘩になることも多いそうだ。

 子どもが携帯電話を利用する目的は、主にコミュニケーション、ゲーム、音楽などだ。ただ、「携帯電話を持っていないと不安になるかどうかは人による。よく『依存症』という言葉が使われるが、依存症は本来病気のこと。それがないと暮らせない本物の依存症と、ただ依存的というものは違うので、子どもに対するケアの仕方も病気への対処とは違うと考えています」(遊橋氏)。


子どもが陥る「ケータイ疲れ」

NTTドコモモバイル社会研究所・主任研究員の遊橋裕泰氏
 返信に30分以上かかってはいけないという“30分ルール”は絶対のものではない。遊橋氏によれば、例えば、小学生は30分ルールを知らなかったり、中学生は学校単位で知っているところと知らないところの差があり、高校生は知っている率が高いという傾向がある。また、学校によって全員が知っていたり、知らない学校ではほとんど誰も知らないなど、学校単位でルールがあるようだという。ただし、どれくらいで返事を出さないと遅いと思うかという感覚は、小学校から高校までは全部共通して「30分以内」であり、子どもの時間感覚はほぼ同じなのだそうだ。「“30分ルール”という意味を付加しているかいないかだけで、時間感覚はほぼ一緒なのではないでしょうか」(遊橋氏)。

 “30分ルール”は一番テーマとして取り上げられることが多いものだ。遊橋氏が中学校などでワークショップを行なう際にこのテーマを取り上げると、全員が「困っている」と答える。しかし話し合いをするうち、「このクラスでは夜10時以降は急用じゃない場合はメールを送らないようにしよう」という決着がついたりするのだという。高校生のうち55%ほどは「ケータイでのやりとりは面倒」と思っているというデータもある(「子どもの携帯電話利用に関する親子調査」)。そこには、好きだけれど面倒くさいという「ケータイ疲れ」的な傾向が現われていると言えるかもしれない。

 「1人だけ『夜10時以降は返事しない』と言えないのがネットワーク型の商品の特徴です。自分だけ止めることはできないのです。『そもそもメールは都合のいい時に受信して、いつ返信してもいいものだったんだよ』という話を学校ですると、子どもたちはびっくりします。彼らにとっては、メールが私たち大人における電話のようなもので、すぐに返事をしなければならないと考えています。独自にルールを作っていってしまい、そこに自分で縛られている状態なのです。ただ、本当にそれがいいのか議論させると方向性が変わったりします。『違っていたのか。みんなが困っているなら変えようか』ということになります。子どもたち自身で身近な話で議論させると、考えさせる良いきっかけとなると思いますよ。」(遊橋氏)


ケータイに合わせた表現方法ができている10代

 「昔の子どもは、考えがあっても表現する場がありませんでした。しかし、今の子どもにはあります。例えば彼らが書くケータイ小説です。サスペンスものだと、どきどきするシーンに改行をいくつも挟んでスクロールさせて結末を書いたりと、メディアに合わせた感覚的な表現が見られます。従来の小説では、そこで別の場面を挟み込むことで緊張感を保たせたりするなどの手法があったように、ケータイならではの見せ方が生まれてきているのでは」と遊橋氏は指摘する。また、ケータイ小説は基本的に独白で進んでいく。従来の小説では登場人物がたくさん出てきてそれぞれの視点で語ることがあるが、ケータイ小説の場合は主人公が中心で進むものが多いという。「ケータイというメディアに合わせた表現という意味で新境地なのではないでしょうか」。

 映像でも同様だ。携帯電話は上半身か顔がアップとなる。子どもたちが撮ると、最初から画面構成がそうなるのだという。大人が撮るのとは全く違い、一番ふさわしい距離まで寄って撮るので迫力がある撮り方になるのだそうだ。

 遊橋氏はまた、「子どもは他の人からきたメールを読み返します。自分を肯定してくれたり心地良いメールは保存しておき、暇があると見返す傾向にあるようです。ケータイは、子どもにとって大切なコミュニケーションの道具で、思春期の自分を肯定してくれるものなのです。その記憶がメモリに残されているのです。子どもとネットの関係はトラブルの面ばかり取り上げられがちですが、実際はプラスの面も大きいのでは」とも語った。


著作権、発信などについて保護者が教えていってほしい

 「保護者の方から『子どもに対しては、いろいろな機能を子どもの方が良く知っているので口を出すことができません』と言われることが多いです。でも、じつはそうではなくて、やりようがあると思うのです。親が胸を張って言えることはいっぱいあります。例えば著作権の話は、小学生はわからないし中学生でもあまりわかっていません。『宣伝してあげているのだから、(コピーして)使ってもいいじゃないか』という感覚なのです。新しく提唱されてきている著作権の考え方に非常に近いですが、まだ世の中は制度的にも倫理的にもそれでは回っていません。子どもの感じる物事の善し悪しなどは、親の価値観によるところが大きいのです。彼らがわかっていないことに関しては、もっと親が主張するべきでしょう。」(遊橋氏)

 遊橋氏はまた、テクノロジーが進んだ中で情報リテラシーをどうやって身につけていくかが大切であり、情報発信する大切さを教えていくことの大切さも力説する。「情報発信することで誰かを傷つけるなどの重みを実感してほしい。発信することの重みは、もっと親も一緒に考えてほしい」。

 「NTTドコモには、サービスを提供している責任があります。今後も、子どもたちが情報社会できちんと育っていけるように対応していかなければなりません。データから判断する限りは、出会い系サイトにアクセスする子どもは多くありませんが、子どもが集っているサイトに悪い大人が子どもになりすますなどしてたくさん来ています。次の世代を食い物にするような振る舞いをしていいのか、という大人としての責任感・倫理観の問題が子どもの携帯電話利用の根底にはあると思います。」(遊橋氏)

 携帯電話は今後も子どもたちの間に浸透していくだろう。トラブルが起きてからでは遅い。これらの言葉を肝に銘じて、早期の対応が必要だろう。


関連情報

URL
  NTTドコモモバイル社会研究所
  http://www.moba-ken.jp/
  子どもとモバイルメディア研究
  http://www.moba-ken.jp/activity/report/index.html


2008/01/24 13:49
高橋暁子(たかはし あきこ)
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。

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