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小学6年生が「前略プロフィール」の授業、安全な使い方学ぶ

元日本IBM社員の先生と楽天が情報リテラシー教育で協力

 東京都葛飾区立中之台小学校で2月中旬、「前略プロフィール」を題材に、楽天の社員による“プロフ”のメリットと危険性に関する授業が行われた。

 「前略プロフィール」とは、65項目の質問に答えるだけでプロフィールページが作れるサービスのことで、通称“プロフ”として知られる。楽天が運営する「前略プロフィール」はプロフ最大手とされ、ユーザー数は550万人に上る。そのうち8割から9割が女子中高生。パソコンと携帯電話の両方から使えるが、全体の75%が携帯電話からの利用者となる。

 楽天が“プロフ”を使って小学生向けに授業を行うのは、今回が初めて。授業の様子をレポートするとともに、担任の先生と楽天の担当者に授業の意図などを聞く。


プロフィール帳とプロフの違いは“個人情報”の有無

東京都葛飾区立中之台小学校で6年1組を担任する桝田佳江氏
 中之台小学校での授業は6年生を対象に行われた。まず、担任の桝田佳江氏が携帯電話所持率を聞くと、6年1組の22人中、持っている児童は16人、持っていない児童は6人で、持っている児童が7割を超えた。次に「携帯電話は必要か?」という質問をしたところ、「必要」が20人、「要らない」が2人という結果になった。

 そこで、楽天の竹下知代美氏(楽天市場事業楽天大学グループ)にバトンタッチ。竹下氏がまず取り出したのは「プロフィール帳」だ。名前や住所、電話番号などを書いて交換するシートのことで、昔は「サイン帳」と言われた。卒業が近づき、子どもたちはちょうど交換している最中だという。

 携帯電話でも、このプロフィール帳と似たものがある。それが「前略プロフィール」、通称“プロフ”だ。プロフを知っている児童は10人ほどいたが、自分で使っている児童はいなかった。竹下氏によると、主な使い方は、クラス替えをした時、友だちになりたい人に自己紹介代わりに「私のプロフを見て」と言うのだという。

 プロフィール帳とプロフの違いは何だろうか? プロフィール帳にはあって、プロフにはないものを子どもたちに考えてもらったところ、実名、携帯番号、メールアドレス、FAX番号、住所などが挙がった。つまり、“個人情報”だ。「なぜ、プロフには個人情報を書く欄がないのか、携帯電話に触りながら勉強しましょう」。


世界中のネットユーザー15億人から見られてしまう“プロフ”

実際に携帯電話から「前略プロフィール」を触りながら勉強した
 続いてチームごとに携帯電話が配られ、あらかじめ作成していたプロフのマイページにアクセス。子どもたちにチーム名を入れるなどの編集をしてもらうと、うさぎチームにはうさぎ、とらチームには虎のイラストが表示された。竹下氏は、パソコンで「前略プロフィール」を表示すると、さるチームにID番号を聞いて入力。パソコンの画面に作ったばかりのさるチームのプロフが映し出されると、子どもたちからは自然と声が上がる。「この通り、プロフはパソコンからも見ることができるのです」。

 「プロフィール帳は、持って帰れば他人には見られません。しかし、プロフは誰でも見ることができます。パソコンからも携帯電話からも、世界中の人が見ることができます」。現在のインターネット人口は15億人。つまり、15億人が見ることができるというのだ。

 ところで、なぜプロフには個人情報を書き込めないようにしているのだろうか。子どもたちからは、「個人情報が悪用されてしまうから」「詐欺につながるかも」「チェーンメールなどの迷惑メールが来るから」などの意見が挙がった。

 竹下氏は、「プロフを作れば、15億人もの人とやりとりができるし、世界が広がって楽しい。しかし、そのような危険があるので、個人情報は載せずに使わなければいけない」とした。


安全性を判断して使えば、携帯電話やプロフも便利に使える

プロフィール帳

プロフィール帳とプロフの違いとは?
 担任の桝田氏は、ここで子どもたちに質問を投げかけた。「どのメディアにも必ずいい面と悪い面がある。プロフィール帳やプロフのいい面と悪い面は何だろう?」。

 プロフィール帳のいいところとしては、「自己紹介ができる」「自分を知ってもらえる」「自分と友達しかわからない」などが挙がった。逆に不便な点としては、「落としたら危ない」「渡したきり、その後のやりとりはできない」などが出た。

 一方プロフの便利な面としては、「メッセージに返事が返せる」「世界中の15億人に知らせることができる」「広い人とコミュニケーションできる」「友達を作れる」といった意見。逆に悪い面としては、「個人情報を書くと危険」「変なサイトに悪用されるかも」「ひどい書き込みが返ってくる」などが挙がった。最後の意見に対して桝田氏は、「ひどい書き込みをされるというのは社会問題。書かれたことで悩んで自殺することもある」と解説した。

 「最近は、『危険だから携帯電話は使わない』という子どもが増えている」と桝田氏は言う。そこで、「プロフは危険だから使いたくなくなったという人はいる?」と質問したが、手は上がらなかった。「交通事故に遭うから道路を歩かない人はいないのと同じ。ネットも、何が危険かを覚えて、安全かどうか判断して使えば便利に使える。プロフィール帳では狭い範囲しか友達ができないが、プロフなら世界に友達を広げることができる」。そして、「自分ならプロフをどう使うか、どんなことなら便利に楽しく安全に使えるか考えてみよう」と子どもたちに投げかけた。


授業の感想は「危ないけれど面白そう」「怖い感覚の方が強い」など

 授業の終了後、子どもたちに感想を聞いてみた。姉が使っていたためにプロフの存在を知っていたという女子は、「危ないけれど面白そうなのでちょっとやってみたくなった」と目を輝かせる。携帯電話は普段、メールや通話に利用しているという。

 別の女子は、「正直、あまり使ってみたくない」との回答。「プロフの存在は知らなかったけれど、今日知って、どちらかというと怖いという感覚の方が強かったかな」と述べた。

 ある男子は、プロフの存在は知らなかったという。「プロフにも、危険な面も楽しい面も両方あるんだなと感じた。気を付けて使えば安全に使えると思う」。


規制ではなく、子ども自身の判断力を育てたい

楽天渉外室の森川麻衣子氏
 なぜ、プロフを題材にこのような授業を行ったのだろうか。

 担任の桝田氏は「卒業した教え子たちは、中学に行くとほぼ100%プロフを使っている」と語る。部活の先輩などに見せられ、使うようになるという。「実名を書くなど、出会い系などにつながりかねない危険な使い方をしてしまっている。危険を知っていて使うなら自己責任だが、知らない子どもには正しい使い方を教えたかった」。中学に入って使い始めてからでは遅いと、卒業を控えた6年生の2月という時期に取り上げた。桝田氏は、以前は日本IBMの教育担当者で、学校に情報リテラシー教育を提案する側だったという経歴を持つ。

 今回の授業を提案したのも桝田氏の側からだ。勉強会で楽天渉外室の森川麻衣子氏と知り合い、話が進んだ。授業に楽天を呼んだのは、先生が教えられないなら外の人を呼べばいいという考えから。また、「企業にも取り組んでいただいた方が効果が出る」という目論みもある。

 桝田氏が日本IBMにいたころは今と全く同じで、「危ないからネットは使わせないでくれ」と保護者や先生などに言われたという。「危ないから隠していたのに、(授業のおかげで)子どもがゲームサイトなどの存在を知ってしまった」と言われたこともあった。しかし、規制にはがんばっても限度がある。それならば、「逆に自由に使わせて、『これは危ない』と子ども自身に判断させるための取り組みが大事であり、判断力を養うべき」というのが桝田氏の考え方だ。

 「先生たちは、電話やメールぐらいしかしないという人が多い。ネットでクレジットカードを使うこともなく、どんな危険があるのかもわからない」と、桝田氏は危惧する。一方、保護者も意識が低く、ただ携帯電話を買い与えるだけの人が多いという。例えば、ケータイ小説が子どもに人気だが、親は子どもに「本を買って」と言われたら喜んで与えてしまう。「それはケータイ小説が本になったもので、卑猥な表現があるのですよ」と教えると驚いているという。ケータイ小説の存在自体を知らない保護者もいるのだ。

 桝田氏は普段から、総合的な学習の時間や道徳のほか、国語や理科などの授業の中で子どもたちに情報リテラシー教育をしている。例えば、調べ学習でPowerPointを使って資料を作る時も、「この写真にはお友だちが写っているけれど、平気?」と聞くと、子どもは「あ、肖像権!」と反応するという。

 昨年の6月には、「メールが来たらすぐに返信しなければ友だちではない」とみなされる、いわゆる“5分ルール”を題材に授業を行った。「米国の人とメールをすると時差がある。時差があったら返事が戻って来るのには時間がかかるね。都合が悪かったらすぐに返ってこないのは当たり前だね」という話をしたそうだ。


「危ないから使わせない」ではなく、「どうすれば安全に使えるか」

楽天の竹下知代美氏(楽天市場事業楽天大学グループ)
 授業を担当した楽天の竹下氏は、「子どもたちの反応は思った以上」と語る。「子どもたちは思った以上にネットを身近に感じ、情報を持っていた」。楽天は、2008年から先生と保護者向けに情報リテラシー教育をやってきたが、小学生向けとしてはこれが初めてとなる。

 「プロフはいい面でも悪い面でもメディアなどによく取り上げられているので、授業できちんと教えたかった」と竹下氏は言う。プロフで問題となるのは、実名を書いている子どもが多いということだ。「自己紹介もしたいし、コミュニケーションもとりたいという欲求がある。『連絡が欲しい』と積極的に個人情報を出す子どももいる」。

 プロフでは、もともとゲストブックでやりとりができるが、それではオープンな空間でのやりとりになってしまう。閉じられた空間でやりとりしたいと考え、メールアドレスを載せるものと考えられる。ただ、メールアドレスはサイトパトロールで削除しているため、最近はそれほど記載は増えてはいないという。

 ちなみに、今回の授業は6年1組と2組で行った。1組の携帯電話所持率は7割以上だったが、2組の所持率は半数以下。「個人情報」という言葉は子どもたちに浸透しているようで、どちらのクラスでも出てきたという。異なっていたのは、2組では「(携帯電話は)危ないから持たない」という子どもが多かったが、1組は「危険はわかるけれど、こういう理由で持ちたいから持つ」という子どもが多かったということだ。

 1組はそのほかにも、プロフでどんな問題が起きるかという意見もたくさん出てきた。携帯電話を操作するスピードも速かったという。普段から「危ないから使わないのではなく、どうすれば安全に使えるか考えて使おう」という担任の桝田氏の教育が浸透した結果と言えるかもしれない。


保護者には「安全に使えば楽しく使える」と伝えたい

「前略プロフィール」パソコン版トップページ
 では、楽天が保護者や先生向けに行った情報リテラシーの講義とはどんなものだったのか。対象としたのは「ネットから子どもを引き離したい」と考える保護者や先生たちだったが、「子どもの可能性を封じ込めるのではなく、子どもの世界やハマっている理由を知ってもらいたい」という考えのもと、あえて携帯電話を渡してプロフを触ってもらった。

 講義の後、「子どもときちんと話してみようと思った」「子どもの方が詳しいのでこれまで携帯電話は話題として避けていたが、今後は話せそうです」「子どもには使ってはいけないと言っていたが、正しい使い方を教えればいいんだとわかりました」といった感想が寄せられたという。

 「講義に来る保護者の8割は、携帯電話でネットを使ったことがない」と竹下氏は言う。携帯電話を渡しても「どこを押したらいいのですか」と聞かれることが多く、まず操作の説明で時間を食ってしまう。今回の6年生の授業でもその時間を想定していたが、子どもはあっという間に使えてしまい、驚いたという。保護者はトラブルや事件の報道ばかり見ており、それだけで考えが凝り固まってしまっている状態だ。「そうではなく、(安全に使えば楽しく使えるという)正しい基準を持って帰ってもらいたい」というのが、楽天の一貫した願いだ。

 楽天で「前略プロフィール」のメンテナンスや運営を担当しているインフォシーク事業メンバーサービスグループの木下浩二氏にも状況を聞いてみた。

 現在は、メールアドレスは書き込めないようにシステム側で対処している。しかし、「エラーが出て書けないと、ユーザーはすぐに抜け道を考え出し、いたちごっことなってしまう」。例えば、メールアドレスを平仮名で書くなど、隠語にして載せている子どもがいるという。

 個人情報のほか、誹謗中傷、公序良俗に反する言葉などもNGワードだ。楽天は、システムで対応できるところは積極的に対応し、サイトパトロールでの削除も行っている。「ただ、事件報道で危険と思われがちなのが残念」という。

 今回の授業では、担任の先生の意識の高さが特に印象的だった。危ないからと遠ざけるより、いつか触れるものならば、正しく使える判断力を身に付けさせる――その考えこそが、いちばん有効な解決策かもしれない。


関連情報

URL
  前略プロフィール
  http://pr.cgiboy.com/
  東京都葛飾区立中之台小学校
  http://www.kyouiku.katsushika.tokyo.jp/enakanod/
  10代のネット利用を追う 第3回
 インターネットってオープンだったの?〜前略プロフィール
  http://internet.watch.impress.co.jp/cda/teens/2008/01/23/18203.html
  10代のネット利用を追う 連載バックナンバー一覧
  http://internet.watch.impress.co.jp/cda/teens_backnumber/


2009/03/05 11:14
高橋暁子(たかはし あきこ)
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。

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