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自分で気付かせることが大事、中学校教員に聞くケータイ問題
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小学6年生が「前略プロフィール」の授業、安全な使い方学ぶ
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NTTドコモが中学生に教える、携帯電話のトラブルと対処法
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トラブル事例から学ぶ、小学生のネット利用で大切なこと
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MIAUが中学生に教える、携帯メールとの付き合い方
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〜「魔法のiらんど」に聞く<後編>
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【 2008/10/23 】
子どもはわからないから問題を起こしているだけ
〜「魔法のiらんど」に聞く<前編>
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10代のネット利用を追う

MIAUが中学生に教える、携帯メールとの付き合い方


 東京都北区にある東京成徳大学中学校で、インターネット先進ユーザーの会(MIAU)によるネットリテラシーの授業が行われた。講師は、MIAUの代表を務めるコラムニストの小寺信良氏と多摩大学情報社会学研究所リサーチアソシエートの中川譲氏。MIAUが作成・公開したネットリテラシーの教科書「“ネット”と上手く付き合うために」を用いて、中学1年生を対象に行われた授業の模様とともに、その意図や受け入れた学校側の話も聞いていく。


授業のテーマは「メールつらくなってない?」

MIAUの授業はコンピュータ教室で行われた
 「残念なことに、世の中は携帯電話を小・中学生には持たせない方向に進んでいます」と小寺氏は子どもたちに話しかける。「僕にも中学生の娘がおり、塾に行かせるために小学生のころから携帯電話を持たせています。もちろん当初は、ネットいじめやメール中毒といった問題が起きるとは思いませんでした。しかし、悪いことが起きたから取り上げてしまうのはよくない。正しい使い方を教えればいい」。

 授業のテーマは「メールつらくなってない?」だ。まず、携帯電話の便利な点として、「いつでも連絡できること。時間や場所を綿密に決めておかなくても、待ち合わせできること。メールで友だちとお喋りする時も、文字だから言えることがあること。音楽やゲームなどの遊びや友だちとのやりとりなど、楽しみが1つの器機で完結していること」を挙げた。

 次に、子どもたちに実際に自分の携帯電話を出してもらった。デコレーションされたり、ストラップのたくさん付いた携帯電話が次々と机の上に並ぶ。「出して」と言われただけなのに携帯電話を開いた生徒がいたのを見た小寺氏は、「出してと言っただけなのに、メールチェックした人いない?」と問いかけた。「携帯電話があると、メールが来ていないかどうか気になる。なぜ気になる?」。それに対する回答は、「自分が世の中から取り残されている気になるのではないか。返事がないとイライラするのはメール特有のこと」。


携帯メールやり過ぎ度チェック!

 続いて子どもたちにチェックシートが配られ、「携帯メールやり過ぎ度チェック」が始まった。ちなみに、授業に出席していたのは男子・女子ともに19名ずつ。女子は携帯電話の所持率は100%で、男子は持っていない子が3人いる。チェック項目は、「遅刻しそうでも、携帯を忘れたのに気付いたら取りに帰る」「急ぎの要件や大事な話でもメールで連絡する」「メールの返信が10分以内に来ないと何か問題があったのかと思う」「他人と話をしている時にメールを打つことがある」「お風呂でもメールをしている」など24項目。このチェックシートは、MIAUの教科書に掲載されているものだ。

 結果は、当てはまる項目が0個だったのは1人。1〜6個で「普通」だったのが20人ほどだった。7〜13個は「やや注意レベル」、14〜19個は「警告レベル」、それ以上は「重症」だという。38名中、約半数がヘビーに携帯電話を使っており、メール依存症や依存症一歩手前ということがわかった。

 小寺氏は子どもたちに「携帯メールはどうしてやりすぎてはいけないのか」と問いかけた。子どもから返ってきた意見は「お金かかるから」「勉強ができなくなるから」など。小寺氏はこれを「宿題や、日常で当たり前のこと、お風呂や睡眠などのやらなければいけないことがほったらかしになるから」とまとめた。


携帯メールやり過ぎ度チェックシート MIAUの代表を務めるコラムニストの小寺信良氏

TPOによって連絡手段を使い分けよ

 小寺氏はメールの使い方について、「本来は、用件を伝える人も返事をする人も、自分が都合のいい、時間がある時にすればいいもの」と説明する。同時に「忙しいけれどメールを受け取ったことを伝えなければならない時は、『後で連絡します』とだけ送る。メールで伝えにくいことや込み入ったことを伝える場合は、電話の方が早いので電話を使うべき」と具体例を挙げた。

 「連絡手段にはそれぞれ特徴があり、確実に相手に伝えたい時や今すぐ相手の考えを確認したい時は電話、都合のいい時に返事をもらえればいいのであればメール、時間があってお喋りしたい時はチャットと使い分ければいい。みんなの使い方は、メールだけれど、チャットのような使い方をしていると思う。」


メールは届かないこともある〜“ベストエフォート”とは

 ここで講師を中川氏にバトンタッチ。中川氏が取り上げたのは“ベストエフォート”ということ。もともとは「最善の努力」という意味の英語であり、サービス品質の保証がない通信ネットワークや通信サービスで用いられるようになった。

 「携帯電話の使い方には大きく分けて、通話と、Webやメールという2つがあるが、それぞれ全然違う仕組み。通話は“インターネット”ではない通信であり、Webやメールは“インターネット”を使った通信」と説明した。「通話の場合、間に電話会社が入り、どこからかけても電話会社を通る。一方、インターネットの場合は通信する相手まで何通りかの行き方があり、いろいろなところを通って相手に届く仕組み。電話会社が真ん中にいたら絶対に届くが、インターネットは途中で切れたら届かない」。

 これを説明するために中川氏は、授業中に子どもたちの間に紙を回させるゲームを行った。「小寺先生に見つかると止まってしまうけれど、みんなは最後の人に届けようとがんばる。それがベストエフォート」。

 続けて小寺氏が「インターネットはベストエフォートだからうまくいく。最大限努力するということであり、完璧じゃなくていいし、時々休んでもいい。メールも同じ」と述べ、本題のメールの話に戻った。「メールもベストエフォートなので、絶対に相手に届くという保証はない。相手が電源を切っていたらメールは届かないし、地下鉄に乗っていたら圏外になってしまう。『メールを10分以内に返してほしい』と言うけれど、地下鉄に乗っていたら本当に10分で届くだろうか? 届かないのだから、10分以内に返事しないといけないというのはそもそもおかしい」。


多摩大学情報社会学研究所リサーチアソシエートの中川譲氏 “ベストエフォート”を説明するために、授業中に子どもたちの間に紙を回させるゲームを行った

メールをやめる時の約束事を

 一方、メールのやりとりをなかなかやめられない時はどうすればいいのか。「なぜ終わらないのかと言えば、みんな自分が『じゃあね』と言って終わりたいから。最後になる2分の1の確率を争っている」。ここで話題は、パソコン通信の時代にさかのぼった。「インターネットの前のパソコン通信の時代も、やりとりの終わらせ方はみんな困っていた」という。

 そこで小寺氏はアドバイスとして、「もうこれで終わり」という約束事ができていたら終わらせられると語る。「例えばMIAUは、直接会って話すことは少なくて、たいていネット上でやりとりをしている。雑談になってしまって終わらないことは大人でもある。そういう時は誰かが『おっと、もうこんな時間か』と書く。そうするとみんなが時計を見て、解散となる。ルールを決めれば切り上げることができる」。

 最後に、「メールは10分以内に返さなきゃいけないというルールはない。どうすれば苦しくなくメールをやりとりできるのか、そのルールはみんなが自分で決めればいい。それが皆さんの宿題」とまとめた。


「夜中にはメールを終わらせたい」と子どもたち

 授業後、子どもたちに感想を聞いてみたところ、ある女子生徒は「夜遅くまでメールをやっちゃいけないなと思った。遅いときは夜12時くらいまでメールをしている。1日に80〜100件くらい送っている。今度は『また明日ね』と言って終わらせたい」と語った。別の女子生徒は「今はあまりメールをやっていないからいいけど、やり過ぎないようにしようと思った。今は1日10件くらいで、夜9時くらいまでしかしていない」。

 一方、ある男子生徒は「メールをいっぱいしていたけれど、これまでは悪いと思ってなかった。1日50件くらい自分から送っていた。小学校の友だちとかに何か聞きたい時にメールをしている。5分以内に返事が返ってこないと、携帯電話を見るのが面倒くさくなる」と語った。携帯電話を持っていないという男子生徒は「欲しいけれど持っていない。今日の話を聞いて、メールはしない方がいいなと思った」と感想を述べた。


中学生には「メール依存」、高校生には「匿名性」の授業

 今回授業を行った東京成徳大学中学校は私立校のため、携帯電話の所持率は高い。受験して入学してくることから、小学生のころから塾通いで携帯電話を持っていることが多いのだ。実際、中学入学時点で、女子で9割以上、男子で7割台の所持率だという。

 また、私立校では学校と自宅が離れている生徒が多いため、近所にクラスメイトがおらず、入学してまず友達と仲良くなるための手段として携帯メールに頼ることにもなる。そのような背景もあり、同校では携帯電話に関するルールができたのが早く、4年前にすでに「学校に持ってきてもいいが、登校した時に預ける」と決まっていたという。

 MIAUは、同校の高等部でもネットリテラシーの授業を担当する。中学生には、MIAUの教科書の中のセクション2「メールから少し離れてみよう」、高校生にはセクション1「ネットは匿名ではありません」をテーマとして選んだ。ネットは匿名ではないということを理解してもらうためには、メールヘッダのことなども教えなければならず、中学1年生では難しいと考えた。


MIAUの教科書が果たして使えるのか、実証のための授業

「“ネット”と上手く付き合うために」はMIAUのサイトからPDFでダウンロード可能(10月30日現在、バージョンは1.1)
 MIAUが今回授業をすることになったきっかけは、MIAUが作成した教科書が本当に使えるのかどうか、東京成徳大学中学校にヒアリングに来た時のこと。同校の情報科主任であり、中学の技術・家庭担当教諭の増澤文徳氏に「それなら、実際に授業をやってみたら?」と誘われたのだ。小寺氏は「他の学校でも要望があればやる」と言うが、「都会の私立校だから携帯電話の所持率が高いが、地方に行けば利用率も違う。同じテーマで全国展開は難しいだろう」とも言う。

 そもそもMIAUが教科書作りに取り組んだきっかけは、“青少年ネット規制法案”に反対の意を表明したことからだ。小寺氏は「規制より前に教育があるべきというのが僕らの意見。ネットに詳しくて、実際にひどい目に遭っててきた僕たちが教育しようと、中学の技術の先生や高校の情報科の先生にヒアリングして作ったのがこの教科書」と説明する。

 ターゲットは中学生で、フリガナもその年齢に準拠している。教える順番にセクションがきっちりと決まっている出版物と異なり、PDFで公開しているため、セクションの順番はあまり関係がなく、緊急性が高いものや問題として大きなものから取り組んでいる。そこで、まず最初に作成・公開したのが「ネットは匿名ではありません」「メールから少し離れてみよう」という2つのセクションだ。今後、セクションを増やしていくのにともない、入れ替えもあるという。

 「最初は保護者に使ってもらおうと思っていたが、学校で教材がなくて教えられない状態だと聞き、授業で利用しやすいよう各セクションが1時間で収まるように変えた。大手プロバイダーなどもテキストの作成や授業を始めているので、今後、横でつながって協力してやっていきたい。」

 なお、平成24年度には学習指導要領が変更になり、情報リテラシーに関する内容が従来は高校だったのが、中学に降りてくる。「実施までに4年間あり、これは長い。高校の情報科も改訂されるが、そもそも3年で1冊を使うため中身が古くなってしまう。教科書の中には検定が4年前のものもあり、7年前の内容を教えるというのは古すぎて問題に対応できない。MIAUの教科書は、随時アップデートできるPDFで対応していきたい」。


子どもには、繰り返し教えることが大切

 増澤氏にも話を聞いた。「当校の生徒たちは小学校から塾に通っており、帰宅が遅くなれば危険も伴う。『携帯電話は学校に持ってきてはいけない』では通用しない。持ってくるなら、学校側が子どもと保護者に対して教育する必要があると考えた。ケータイ依存症になってしまってからでは対処が難しいため、早い段階で早めに手を打たなければならない」。

 そこで3年前には、NTTドコモによるケータイ安全教室を開催。子どもたちは1回では理解できないため、浸透するように何度も言っていく必要があるが、同じ人が教えても効果が薄れるため、今回のように新しい講師も招くことにしているという。

 ただし、今回のように授業で取り上げるにはカリキュラムの間を縫って行う必要がある。1時間の授業を丸々使って情報リテラシーを教えることはまれだという。また、子どもは集中力がないため、1時間すべてこういう話をするのも難しい。そこで増澤氏は、ネットがらみの事件がニュースになった時など、技術の授業の50分間のうち15分ほどを使って取り上げるのだという。「例えば、韓国の女優が自殺した事件と誹謗・中傷の話を組み合わせて話をした」。

 なお、増澤氏はMIAUの教科書について、現場の立場からは「すべてをカラーで印刷して配布するのは、コスト的に厳しい」と指摘する。「1クラス40人分だけ刷って使い回したり、コンピュータ教室のパソコンで表示して見せたり、マンガ部分のみ取り出して見せて、あとは子どもたちに考えさせるという使い方も考えられる」と、実際的な利用法を教えてくれた。

 MIAUの教科書やこうした活動は、今こそ必要とされている。携帯電話を子どもから完全に取り上げさせないためには、まず一歩一歩できるところから教育していくしかないのだ。


関連情報

URL
  インターネット先進ユーザーの会(MIAU)
  http://miau.jp/
  “ネット”と上手く付き合うために
  http://miau.jp/1224039000.phtml
  東京成徳大学中学校・高等学校
  http://www.tokyoseitoku.jp/js/

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2008/10/30 19:11
高橋暁子(たかはし あきこ)
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。

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