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10代のネット利用を追う |
問題はネットではなく現実の側にある~「学校裏サイト」著者に聞く
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学校裏サイトやネットいじめの問題が注目を集めている。これらを含むネット上の有害情報を問題視した総務省の要請により、今年から未成年者の携帯電話利用はフィルタリング原則加入となったが、果たしてフィルタリングで解決できるのか? それ以外に防ぐ方法はあるのか? 「学校裏サイト~進化するネットいじめ~」(晋遊舎ブラック新書)などの著作があり、青少年のネット利用に詳しい渋井哲也氏に話を聞いた。
● 自殺の原因はリアルにある
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渋井哲也氏
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2003年頃から、ネットで自殺の仲間を募る事件が報じられている。渋井氏は、ある取材の最中に埼玉県で起きた集団自殺を知った。「人が練炭と同じくらいの“手段”としての意味しかなく、空虚な関係でした。ひとりが嫌というより、ひとりでも死んだだろうという印象を受けました。2002年10月に発生し、12月に報じられた、自殺系サイトで知り合って心中した事件をヒントにして、自殺サイトで人を募って心中を図ったのです」。
発見は女子高生の通報によるものだった。女子高生も自殺サイトのオフ会に行っており、心中にも参加するはずだったが、前日になって怖くなり難を逃れたのだ。当日、予定の場所に行くと鍵が閉まっており、第一発見者となった。「しかし、発見者の彼女は数カ月後に自宅で練炭自殺をしました。もともと心中に参加する予定だったのに、精神科につけるなどしてフォローしてあげられなかったからです。ネットが自殺を呼び込んだわけではなく、回りがフォローできていないのが原因ということになります」。
警察庁の発表によると、2008年は硫化水素で自殺した人が5月までに517人に上ったが、1日に約80人がそれ以外の方法で自殺していることは全く報じられていない。3分の2は首つりで、あとは飛び込みや飛び降りなどで亡くなっている。「マスコミは自殺手段だけを取り上げますが、そこに焦点が当たると、なぜその人が自殺したがるのかに焦点が当たらない。本当はなぜ自殺したがるかの方が問題なのでは」。
テレビのコメンテーターは「自殺に回りを巻き込むな」と言い、mixiやモバゲータウンの日記などでも同じ論調のものが目立つ。「それでは、みんなに迷惑かけなければ死んでいいのか?」と渋井氏は問題を提起する。「自殺を考える人は視野狭窄になり、自分の都合のいい情報だけが入ってくるような状態。目立ったことに反応して過剰反応を起こすので、そういう論調が増えると余計死にたくなります」。
また、「ユーザーは固定的にいるので、自殺系サイトは残る」と渋井氏は考える。「彼らは死にたいという気持ちを日常の人間関係で受け止めてもらえないので、受け止めてもらえる自殺系サイトに行くのです。『こんな状況だから死にたい』と言いたいのです。今の状況は、『死ぬな。原因は解決しなくても我慢し続けろ』と言っているのと同じこと」。
ちなみに、自殺系サイトを使う主な層である10~30代の、自殺者全体の中での構成比は、ネットができる前とそれほど変化していないという。ネットのせいで自殺が増えたとは言えないわけだ。
● 裏サイトは文脈を見て理解せよ
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4月5日に発売された「学校裏サイト~進化するネットいじめ~」(晋遊舎ブラック新書、756円)
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学校裏サイトについて、渋井氏はまず、文部科学省の調査で言われている3万8000サイトという数字には問題があると指摘する。SNSや会員制パスワードが必要な有料サイトなどを入れていない上、そもそも学校裏サイトの定義が不明だからだ。「噂話をするところならもっとあるはず。ホームページで語られているものとか、裏サイトの形をしていないものもあります。学校というテーマの場だけが意図的にコミュニケーションに使われるわけではないので、本当は至るところにあるのです」。
また、同じく文科省の調査では、学校裏サイトの50%に『キモイ』『うざい』などの誹謗中傷表現が見られ、『死ね』『消えろ』『殺す』などの暴力表現も27%のサイトに見られたというが、「『死ね』『うざい』『キモイ』は中傷の言葉なのか? 言葉だけ取り上げて文脈を無視しているところに問題がある」。
昔は悪口や噂話を紙で書いて回したりしていたが、それぞれ勝手に書いていたので情報は集まらなかった。ところがネットでは簡単に集まるようになったため、自分の見せ方を意識するようになり、各々アクセスを増やすのに苦心しているという。毎日更新していればアクセスは増えるが、一番楽なのが他人が勝手に書いてくれる掲示板形式だ。噂話が書かれることで、自分の評価が気になったり、自分が書いた言葉へのみんなの反応が気になるため、何度も読みに来てしまうというわけだ。
子どもたちは「何かに所属している感」「誰かと一緒」というのが欲しいために、ネットにハマるのだという。だから、学校裏サイトは嫌われている人が作っても集まらず、人気のある人が作ることが多いそうだ。ネットはリアルの反映なので、リアルに人が集まるような人が管理人をしないと盛り上がらないのだ。ちなみに、多い話題は「授業つまんない」「誰と誰ができている」などの類だ。中でも、続くのは「学校つまんない」スレッドだという。一番の共通の話題だからということだろう。
● リアルないじめありきの「裏サイトいじめ」
渋井氏によると、学校裏サイトでいじめが起きるパターンは2つあるという。1つはリアルでいじめられている子が学校裏サイトを使っていじめられるケース、もう1つはネットコミュニケーションの誤解や衝突などによっていじめに発展するケースだ。「多いのは前者。つまり、学校裏サイトの問題ではなく、いじめの問題です。後者は、学校裏サイトでなくても起きるメディアリテラシーの問題です。こちらは学校教育で取り組める話」。
「裏サイトは匿名だからいじめにつながるのではないか」という論調がある。「しかし、兵庫県教育委員会の『インターネット社会におけるいじめ問題研究会』によると、3割が自分の名前で、3割がハンドルネームなどでやっており、名乗らなかったのは3割という結果が出ています。つまり、匿名だからいじめるわけではないということ。匿名は過激になる要素ではありますが、実名でもいじめはあるのです」。
ネットいじめは、小学校はメールが多く、中学校になると掲示板が増え、高校になるとSNSやプロフなどのコミュニティサイトに場が移っていく。“ネットイナゴ”が参入しやすい荒らし依頼サイトなどに、ホームページをさらすこともあるという。
一方、ネットでは、人間関係の形成でも情報のやりとりでも、コミュニケーションが成り立つまでの速度が速い。恋愛もいじめも、始まるのも終わるのも速い。ただ、ネットでいじめは加速はするが、そもそも前述の通り、リアルでのいじめが元にあり、リアルでも加速していくものだという。
そしてネットのいじめは24時間続く。リアルないじめだけなら学校に行かないという対策が取れるが、ネットでは学校に行かなくてもいじめられる。黒板に書かれた言葉は消せばいいが、ネットに書かれた言葉は記憶にも記録にも残ってしまう。ひとつひとつの言葉が重みを持つというわけだ。
そして、ネットいじめは当人を知らなくても参入できる。リアルないじめも噂話などで参加できるが、ネットいじめは相手を見ないでも参加できるのだ。ただ、いじめる側は当人を知らないと面白くないので、基本的には知っている人が対象となることが多いそうだ。
さらに、いじめは当人の反応が欲しくてするものなので、反応があると余計にひどくなる傾向にある。そのためターゲットは学校に来ている人になり、学校にもネットにもいないとターゲットが変わり、いじめられなくなるという。逆に反応すると「本人降臨」として喜ばれてしまうそうだ。いじめへの対策としては、「まず、本人がその場に出て行かないこと。基本的には無視がいい。それから、いじめられる理由はきちんと探すべき」とした。
● コミュニティを“ROMれ”
学校の先生からのネットトラブルについての相談は、生活の乱れに関することが多いという。例えば子どもがベッドに入ってからもメールをしているせいで睡眠時間が足りず、朝起きられないなどだ。昔で言う深夜放送のラジオや、ゲームなどに当たるだろうか。
「ネットには道具の新しさはありますが、じつはコミュニケーションの新しさはありません。知らない人とやりとりするのも、10年前にすでに雑誌『じゃマール』があり、友達募集などができました。今はそれが24時間ネットでできるようになったというだけです」。
「大人はわかっていないので騒ぎすぎる」と渋井氏は言う。「学校裏サイトも『死ね』『キモイ』『うざい』もコミュニケーションのひとつかもしれないのに、文脈を取らずに騒ぎすぎです。しかし、子ども同士にもギャップはあります。所属するコミュニティ同士で言葉の使い方が違うため、ある言葉をある子は普通に使うのに、別の子は全く使わないといった事態が起こります」。
普段自分では使わない言葉は特に重く感じるものだ。うまく処理できる能力があればいいが、感情的に反応してしまうことも多い。「そのコミュニティの言葉使いを感じたければ半年間ROMるべき」と渋井氏はアドバイスする。
大人は永遠に子どもの世代がわからないものだ。親自身も、子ども時代にファミコンに夢中になって親に怒られた世代であり、祖父母の世代はテレビが入ってきた世代だ。いつの時代も、自分たちはニューメディアを使いこなしておきながら、いざ子どもが別のニューメディアを使いこなすと怖くなるものなのだ。「『親の指導の元で使うように』と言われますが、まず無理。子どもよりわかっていないと指導などできないからです。感情的にも能力的にもわからないのです」。
● 魅力も危険性も知った上で教育を
「教えるのは、親よりは先生のほうが効率的。市区町村の単位で1人いればいいので、ぜひネットの危険性と遊び方の両方を教えてほしい。外部講師も積極的に呼ぶべき」と渋井氏は考える。「ネットに関する教育は、魅力と危険の両方がわかる必要があるので、そういう人が適任。ただ危険なだけなら子どもは携帯電話で遊んでいません。漫画嫌いな先生に『漫画を読むな』と言われても『読まないからわからないだけだろ』と言われますが、漫画好きな先生が話せば聞きます」。
危険なものに近寄るなというのは性教育と同じだ。10代にもなって、行くなと言えばだまって言うことを聞くと思うのがおかしい。「ネットいじめも『ネットがあったからこそ、いじめに気付けた』と考え、現実世界でのいじめに対処すべき。それから、本当に子どもに関心があるなら子どもの遊びを学んでほしい。学んだ上で、先生が心配していることは伝えるべき」。
また、「『ネットで知らない人に出会ったら教えて』と子どもに言っておくといい」と渋井氏はアドバイスする。リアルの子どもの交友関係も、子どもの話から人間関係がわかっていくものだ。ネットの世界も同様に、『どんなサイトを見ているのか教えて』と言うことで、子どもたちの関心がどこにあるのかがわかるようになり、危険を前もって防ぐことにつながるというわけだ。
渋井氏が取材した大学生のオフ会に中学生が来たときのエピソードだが、親は「知らない人と会う」という言葉に「ダメ」と言い渡していたそうだ。しかし、大学生が中学生の家まで行って説得したそうだ。「そのように、人間関係や興味を広げる意味で、子どもがネットで知らない人と会うことは必ずしも悪いことではない。心配だったら親もついて行けばいいのです」。
● ネットは使いようで良くなる
フィルタリングについては、「今の機能なら入らない方がいいかもしれない」と渋井氏は言う。パソコンならともかく、携帯電話では実用性に乏しいからだ。「自殺問題などを取材している私のサイトも、自殺を止めるのが目的なのに遮断されて見られなくなっています。現状では、フィルタリングをかけるかかけないか=ネットをするかどうかになっています。少なくとも携帯電話はそうです」。
「ネットは危険だと言われがちですが、実際はネットがあることで助かっている人は多い。悩みを抱えている人は、リアルで言える人がいないため、ネットを利用しています。そんなに悩まなくていいことも、話せないと余計に傷を広げてしまいかねません。10年言えないことが、『10年言えない重いこと』になってしまうのです。そうでなくても、性的な話題、死に関する話題は言いづらいもの。そもそも子どもは回りにわかってくれる人がいないことが多いので、そういう人たちにはネットはいいツールなのです。」
ネットには両面性があり、メディアでは悪い面ばかり取り上げられるが、良い面もある。ネットをうまく利用することで現実の問題が解決できることもあるのだ。問題は、ネットではなく現実の側にあることを忘れてはならない。
関連情報
■URL
「学校裏サイト~進化するネットいじめ~」概要
http://www.shinyusha.co.jp/~top/03book/bs-schoolweb.htm
渋井哲也氏の公式サイト「お元気でクリニック」
http://homepage3.nifty.com/sbtetuya/
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・ 文部科学省が“学校裏サイト”の実態調査、半数に誹謗・中傷表現(2008/04/16)
2008/07/10 11:16
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高橋暁子(たかはし あきこ) 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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